桂華商会喫煙室での雑談 2022/7/18加筆
2022/7/18煙草周りの説明補足を加筆
「あれ?藤堂社長。
今日は喫煙室ですか?」
「ああ。吸わなくなったが、ここでの雑談は馬鹿にできないからな。
それに、吸わなくなったとはいえ、煙草の匂いを嗅ぎたくなる事もある」
「わからんではないですな。
うちも大所帯になりました。
どこがあれだのここがこれだのと椅子取りゲームの真っ最中ですから」
「それを傍目で見ていられる岡崎君を取り込もうという動きがあるが気づいていたかい?」
「俺はお嬢様全賭けですので。
椅子取りゲームは偉い人にお任せしますよ」
「そう言えるのも今のうちだ。
俺もそうだったからな」
「ははは」
「ははは」
「そうだ。岡崎君。
南イラクの件どうなっている?」
「楽しい楽しい魔女の宴の最中ですよ。
あんなのに付き合う外務省と経産省は馬鹿か馬鹿の振りをしているのか……どっちだと思います?
藤堂社長」
「馬鹿でも馬鹿の振りでも、傍目から見れば馬鹿にしか見えないのが難点ではあるな。
まぁ、政府マターだ。お付き合いはするが火傷はほどほどに」
「専門家としてお聞きしますけど、藤堂社長。
アザデガン油田。割に合うんですか?」
「合う訳ないだろうが。
あれは絶対米国が許すわけがない案件だ。
中東はともかく、北米の原油価格は上がり続けているんだからなおさらだ」
「北米の原油価格はベネズエラであいつらが遊んだツケじゃないですか。
巡り巡って欧州や中東にまでそのツケがやってくるんですからたまらないですよ」
「だからこそ、イラクなんだよ。
君の言った魔女の宴、それで金儲けができるのならば俺はそいつに社長の椅子を渡すよ」
「おや?
という事は天満橋副社長も逃げ出した?」
「彼はあの地に友人が多い。
魔女の宴なんて始まる前に逃げ出しているよ」
「ああ。だから、お馬で遊んでいたのか。あの狸」
「おや?私の事を呼びましたかな?」
「うわ出た」
「人を化け物みたいに言いなさんな。
それに、総合商社っちゅうのはその割に合わん仕事を割に合うようにするのが商売でんがな。
社長。アザデガン油田の仕掛けの素案です。
目を通していただけると」
「……独立する南イラク政府国営石油企業との合弁か」
「正確には、イラン国営企業と独立後新設される南イラク国営石油企業の合弁です。
南イラク石油合弁企業の子会社にうちが出資して、アザデガン油田の原油を南イラク産の原油としてクウェートに輸出。
旧湾岸石油開発の施設を用いて、クウェートから日本に輸出すると」
「重要なのはこの国に原油が届く事で、原油にはロシアやイランやイラクの国旗は書かれてまへん。
米国の都合で独立させる南イラクの主要財源やからこそ、米国は文句が言いにくい」
「天満橋副社長。これ米国から横槍が入りませんか?」
「入るに決まっとるがな。
で、奴らに渡す飴として、七姉妹の誰かを引きずり込もうと」
「うわぁ……」
「なんやなんや。岡崎。嬢ちゃんみたいな顔して。
こないな博打打ちたかったんやろ?」
「いやこれ、博打じゃなくて詐欺じゃないですか」
「甘いな。岡崎。
こういう博打は丁半で綺麗に終わるもんちゃうんや。
賽の目が決まっとらへんからこそ、最高の商売ができるんや」
「アンジェラさんみたいな事言い出したよ。この人」
「あの姉ちゃんはまだ数字でしか博打を楽しんでへんのが若さや。
現地で泥と銃弾を味おうて博打打ち出したら、この商売辞められへんで」
「まぁ、否定はしませんけどね」
「という訳で、最後の詰めは岡崎。お前がせえ。
湾岸に飛んで魔女の宴を堪能してきぃ」
「わかりましたよ。
しっかし、天満橋副社長。これ、よく通しましたね。
ロー・ヘイブンなんてゲテモノ」
「法律回避地。裏返せばここに来る連中は楽園っちゅう監獄に自ら繋がれるようなもんや。
少なくとも、ここに来たテロリストは生きて外に出られへん。
死んだ事になって、別の人間として出てゆくんやさかい。
隣の中央イラクでテロリストになった連中が人生やり直すにはこういうのが必要なんや」
「あと、岡崎君。南イラクの特殊事情もある。
シーア派が多いとはいえスンニ派住民がいない訳ではないんだ。
互いの文化、法習慣の対立を避ける為にも、こういう場所は絶対に必要なんだ」
「中部イラクのベトナム化は絶対に避けなあかんし、アフガニスタンみたいなジェノサイドは湾岸ではもうでけへん。
野に下った六十万とも言われるバアス党の人間をゲリラやテロリストのままにしとったら、中部イラクの安定は夢のまた夢やし、その悪影響が南イラクだけやのうて湾岸諸国に広がりかねへん。
彼らを民間人に戻してやる仕掛けが必要なんや」
「ベトナム化で思い出しましたが、アンジェラさんからの秘密電です。
FRBがFF金利を上げる準備をしているとか」
「対テロ戦争にITバブル崩壊の下支えにイラク戦争にと、あれだけ派手に金をばら撒いとったらインフレにならん方がおかしいわな。
悪さしとったハゲタカ連中が日銀に軒並み焼かれたから、新しいハゲタカが空を飛ぶまでにっちゅう意図でっしゃろ」
「関係各所に秘密裏にプロジェクトチームを作っておいてくれ。
ばら撒かれた金を考えるとドル高になるから、原油価格を始めとした輸出入に更なる為替差益が出かねん」
「ムーンライトファンドの俺統括で数人を確保しています。
それと、追加で出る金で面白い使い道がありまして」
「ここで私や天満橋副社長に面白いと言えるものなのかね?」
「お嬢様が食いついた案件なんですよ。
こっそり進めてくれと言われたんですが、折角専門家がいらっしゃるのでお話を聞いておこうかと」
「嬢ちゃんの託宣なら素通しやけど、そうやって雑談名目で上に裁可を仰ぐんはサラリーマンとしては満点やな。
で、あの嬢ちゃん何に張るつもりなんや?」
「はぁ。当人も曖昧なんでこっそりなんて言っていたのですが、『シェールガス採掘技術』に投資をしておいてくれと……どうしました?」
「……わかった。それは社長として許可する。
そしてその事は絶対に口外するな」
「はい」
「何や。吸うていかへんのか?」
「臭いがつくまえに退散しますよ。
あとはお二人でごゆっくり」
「……私たち二人で密談する事を察したのは聡いんだが、まだ若いな。岡崎君」
「堂々とここに居座れるようになったら一人前ですな。
あれに嫁さんが着いた時に上に座らせるべきでしょうな。
どうせ見合いは大量に舞い込んできとりまっしゃろ」
「何故か香港系華僑の大物が彼をお気に入りでね。
孫娘とくっつけたいと私に頭を下げてきたよ。
本人たちはまだその気はないだろうが」
「岩崎系列から大量に見合いが届いとりますわ。
血族関係から桂華院家と岩崎家は親類みたいなもんやさかい、その融合は岩崎にとって急がんでもええと踏んどるんでしょう」
「正確には、お嬢様が国家元首になる前にだ。
南イラクでは首長候補者にくっつけてという案を米国務省が真剣に検討していたからな。
国防総省が激怒して闇に葬ったらしいが、来るんだろう?
その王族の候補者」
「ほんなら恋愛で惚れさせたろって……まぁご勝手にどうぞ。
それに刺激されて欧州も青い血をこっちに送り込んできよるし。
競馬場での顔合わせが楽しみでんな」
「なるほど。そっちの意味でもお馬と遊んでいた訳だ」
「ええとこ見せに馬持ってくるっちゅうとりますが、はたして勝てるのやら」
「いい性格しているよ。天満橋副社長」
「そらどうも。
さて、岡崎は気づいとるんやろか?
今の原油価格やとシェールガスは赤字や。
それに手ぇ出せっちゅう事は、原油価格がまだ上がるっちゅう事や」
「それは分かっているが、その先は見えていないな。
天満橋副社長が詐欺同然でイランとイラクの原油を市場に流そうとしているのに、お嬢様は原油価格が上がる方に賭けているという事を。
つまり、イラクはまだ荒れるって判断しているという事を彼は気づいていないよ」
アザデガン油田
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%B3%E6%B2%B9%E7%94%B0
この時のベネズエラ
ボリバル革命の真っ只中。
チャベス政権がベネズエラ国営石油会社を完全に掌握したのがこのあたりであり、北米の原油価格高騰の一因を担う事になる。
FF金利
https://www.smbcnikko.co.jp/terms/eng/f/E0030.html
七姉妹
ここでは国際原油資本のセブン・シスターズの事。
既に合併を経て4社にまとまっている。




