プレゼントデイ・プレゼントタイム

「サイトシーイング？」

「NO。Business」

　目が覚めると西海岸。

　ビジネスジェットのこの快感を知るとそりゃみんなこれを使うわな。

　手続き後、そのままヘリに乗り込んでシリコンバレーへ。

　東海岸のウォール街の大混乱なんて尻目に、この西海岸のシリコンバレーは我が世の春を謳歌していた。

「ようこそ！

　我らの女王陛下！」

　シリコンバレー。

　ムーンライトファンド。本拠ビル。

　そこで行われた技術者向けパーティーの席である。

　最初は投資家向けパーティーに招待されていたのだが、この手のビジネスは金があるならばコネを作るのは技術者達だ。

　パーティーと言っても、集まったのはギークばかりで、テーブルにはポテトチップスにフライドチキンにピザにコーラ。

　お前らそれは太るぞというか、もう太っているぞ。

　ついてきた橘が露骨に顔をしかめているのですが。が。

「おいおい。

　お嬢様の執事が困惑しているじゃないか。

　お嬢様の健康に配慮しなかったのかよ？」

「したさ。

　だからこんなにヘルシーなものを用意したんだぜ」

「「HAHAHA！」」

　これが本当に配慮なのだから困る。

　ポテトチップスは野菜らしい。

　やばい。

　なんとか笑顔を作るけど、苦笑しか出てこない。

　けどこいつらの技術は一流である。

　という訳で、お土産披露タイム。

「お招き頂いてありがとう♪

　約束のものを持ってきたわよ」

　技術者達の大歓声を尻目に私は大画面のテレビに備えられたビデオにビデオテープを差し込む。

　そこで始まったアニメに大興奮を覚える技術者達を尻目に、私は壁の花になっていた女性に声を掛ける事にした。

「何でここにいるんですか？

　アンジェラ情報分析官さん？」

「それは、あなたが西海岸に来たからでしょう？

　おかげで、私はエコノミークラスで10時間」

　明らかに場違いなイブニンクドレスなんて着て壁の花になっていたら、そりゃ誰も声を掛けてこないわな。

　きっと投資家向けのパーティーに行くと踏んで来たら、こっちの集まりに顔を出していたあたりだろう。

　実にご愁傷さまである。

　あと地味に世知辛い報告ありがとう。

「なんなら、帰りはビジネスクラスにしましょうか？」

「便宜供与で首になりますわ」

　二人してテレビに映るアニメを眺める。

　ＳＦというか、サスペンスというか、そんな感じのアニメにギーク達が大興奮していた。

　私はコーラの紙コップを持つ。

　なお、サイズは一リットル。

　間違いなく飲みきれないな。

「ついこの間日本で放映されたばかりで、なぜかこっちの人たちにバカ受け。

　夜中遅くにビデオを予約する羽目になりましたわ。

　『あの世界を俺たちが作るんだ！』だそうで」

「肉体を捨てた先があれなんておぞましいと思いますわ。

　ですが、彼らが作り出す物は合衆国の利益になります」

　ワイングラスを片手にアニメをチラチラ見るアンジェラ。

　録画したので飛行機の中で見た私はともかく、アンジェラもあのアニメを見ているらしい。

　CIAもご苦労なことである。

「警告はしましたよ」

「不戦勝で目を付けられるなんてひどくないですか？」

　そのままさらりと本題に入る。

　何もこんな所でするなんてご苦労なことだ。

「何処かの誰かさんが出てこなかったおかげで、ファンドはいくつかの株を売却する羽目になりましたわ」

　発売されたOSがデファクトスタンダードになった事で、本格的なネット社会の到来が始まろうとしていた。

　それに伴って、ムーンライトファンドが抱えているハイテク株は笑いが止まらないほど急騰していたのである。

　桂華銀行買収資金の調達にかこつけて、ここで一時利確をしていた。

「こっちはウォール街のファンドの処理に大わらわというのに羨ましいですわ。

　それで今度は資源を？」

「安い時に買って、高い時に売る。

　ビジネスの鉄則でしょう？」

　桂華銀行買収資金の調達と同時にこの秋合併した赤松商事を使って石油を始めとした資源ビジネスに本格的に乗り出していた。

　世界の金融市場は未だロシア発のウォール街の混乱に巻き込まれているが、その混乱を尻目にムーンライトファンドは資源を格安で買い漁っていた。

「否定はしませんけどね。

　貴方が監視対象である事はお忘れないように」

「それについては、日本の政府与党から懸念の声が上がっている事もお忘れなく」

　渕上内閣成立後、お礼なのだろうか政権中枢に返り咲いた泉川副総裁が非公式だけど米国大使館に対して懸念を伝えたらしい。

　あくまで非公式。

　けど、表沙汰になるとダメージを受けるのは米国であるのはCIA自身が一番良く分かっていた。

「そろそろお暇させてもらいますわ。

　これから６時間ぶっ通しでアレを見るのはきついので」

「ええ。

　これからもよろしく」

　私がにっこりとお顔を作って手を差し出すと、アンジェラは手を握り返す。

　その握った手は少し力が込められていた。

　翌日

「女王陛下！

　あれを作りたいんだ！

　マネーを出してくれ！！」

　はいはい。

　支払いはまかせろー

　こいつらが、アニメを超えるものを生み出すのに10年ほどの時間が必要になる。