将来の夢 2019/4/29 投稿
『将来の夢 桂華院瑠奈
私は両親を見たことがありません。
母は私を生んで亡くなって、父は国を裏切り、売国奴として社会的に抹殺されました。
それでも私がこうしてこの場所にいるのは、兆を超える莫大なお金のおかげです。
お金は偉大です。
札束でビンタをすれば大体の人は子供なのに頭をペコペコ下げます。
それを学んだ私はこれからも有り余るお金で大人たちを札束でぶん殴って……』
「はい。ボツ」
「あああああああああああああ!!!!!
なんてことをするのよ!
明日香ちゃん!!」
私の家で宿題を一緒にしようという事で明日香ちゃんと蛍ちゃんと一緒に宿題をしている最中。
途中まで書いていた作文を明日香ちゃんに取り上げられて、ゴミ箱に捨てられる。
抗議する私に明日香ちゃんはパンパンと机を叩く。
「瑠奈ちゃん分かっている?
これ、授業参観日に読む作文なんだからね!
みんなをドン引きさせてどうするのよ!!」
帝都学習館学園は華族や財閥子弟の通うエリート校だ。
という事は、私の親のやらかしは大体みんな知っている訳で。
それもあって、腫れ物に触る感じで大人も子供も接してくるのを誰が責めることができようか。
それでも態度を変えなかった明日香ちゃんと蛍ちゃんと友達になれて本当に良かったと心から思う。
とはいえ、明日香ちゃんはちょっとおせっかいが強いと思ったり思わなかったり。
「いや、みんな知っているならば公言して堂々としていた方が楽だなぁと」
「瑠奈ちゃんお人形さんみたいにおとなしそうで、基本大人げないよね……」
がーん!
私の心にちょっとダメージが入った。
やられたらやり返せが信条なので、私は明日香ちゃんに反撃を試みた。
「だったら、明日香ちゃんが何を書いたのか、見せてよ!」
「いいわよ!
これが、模範的な将来の夢ってやつよ!!」
私は明日香ちゃんから作文を受け取って読み出す。
明日香ちゃんの字は私より綺麗である。
ペン習字を通信教育で習っているそうな。
『将来の夢 春日乃明日香
私の将来の夢はお嫁さんになることです。
私のパパは議員なので、旦那様は必然的にパパの地盤を継いでもらう事になります。
パパはあと二十年はがんばると言っているので、その間はパパの秘書として勉強してもらい、市議か県議になってパパの後を継いでもらいます。
その間、私は奥様として地方後援会をまとめ、子供を三人は作って、次の次の育成に……』
「はい。ボツ」
「あああああああああああああああ!!!
なんてことをするのよ!
瑠奈ちゃん!!」
涙目で抗議する明日香ちゃんだが、さっきの仕返しなのでその声は本気ではない。
まぁ、ゴミ箱に捨てたけど、私の作文と同じく取り出せばまた書けるし。
「さっきの言葉をそのまま言ってあげるわ!明日香ちゃん!!
これ、授業参観日に読む作文なんだからね!
みんなをドン引きさせてどうするのよ!!」
「いや、最近地味に選挙が厳しいから、早く後継者を見付けないとってパパが……」
「明日香ちゃんってあちこちに気を回しすぎ。
もっと小学生らしい作文を書こうよ!」
「……札束で大人をぶん殴るのが小学生の書く作文なのですかー?」
「明日香ちゃん!
それを言ったら戦争でしょうが!!」
背景にゴゴゴゴと不気味な音を立てて対峙する私と明日香ちゃん。
互いに目は結構本気である。
「ふっ。
明日香ちゃんとは一度勝負をしなければと思っていたのよ!」
「奇遇ね。
私もよ。
友を超えて私は立派なレディになるのよ!」
「笑止!
私を超えてゆくなんて100年早いわっ!!!」
「な に を し て い る の で す か ?
お じ ょ う さ ま が た ?」
私と明日香ちゃんがその声を聞いて凍りつく。
振り向くなと全神経が警告しているのだが、その声の方を振り向くと、おやつのケーキを持ってきたメイドの佳子さんが笑顔で怒気を出していた。
笑顔とは本来攻撃的なものである。
そして、佳子さんの手には私達を黙らせる切り札のおやつのケーキがあった。
「宿題をせずにふざけているお嬢様にはおやつのケーキは無しです!」
「「ごめんなさい。私達が悪うございましたからどうかそのおやつのケーキをくださいませ」」
所詮お子様。
ケーキの攻撃力に私達二人は白旗を掲げて大人顔負けの土下座をしてみせたのであった。
「そういえばさー」
「どうしたの?」
「蛍ちゃんの作文見てなかったわよね」
「たしかに」
まともな作文を慌てて書き上げて、佳子さんからおやつのケーキを食べながら私が呟き、明日香ちゃんが紅茶を堪能しながら返事を適当に返す。
その蛍ちゃんは叱られること無くケーキと紅茶を味わっていたのだが、話さなくても流れは読める娘である。
ニコニコしながら私達に書いた作文を差し出してくれた。
『将来の夢 開法院蛍
私は本来消えるはずの子供でした。
正確には、神への贄として捧げられて、座敷童子に成るものだとばかり思っていました。
それが、お狸大師様のありがたいみかんによってこの世に生きて良いと救われました。
ですが、救われた為に私には将来なるものが無くなってしまいました。
私は何に成るのか?
何に成り果てるのか?
……』
「「はい。ボツ」」
「!?」
天丼はお約束。
なお、参観日に読んだ私達の将来の夢は以下の通り。
『桂華院瑠奈 資格を取って社会人になってOL』
『春日野明日香 お嫁さんで子供は三人』
『開法院蛍 分からないからこれから考える』
えらく私の作文は具体的で生々しいと言われたが、そりゃ前世の就職過程知っていればねー。
地味に厳しい選挙
一区現象。
小選挙区では一人しか当選できない。
そして都市部では無党派層の動向が動向を左右するので、無党派層が野党に流れて都市部、特に県庁所在地がある各県の一区で野党が勝つケースがこの頃あたりから続出する。




