ペイバックタイム その3
調べれば調べるほど見える、IFと闇の深さよ……
うちの仕掛けではないのだが、うちが絡んでしまう事が確定している事業がある。
湾岸開発である。
「で、結局どこまで絡むんだ?」
ゴールデンウイーク空けの『アヴァンティー』はいつも通りの賑わいだった。
四人で集まっての栄一くんの振りに私は少し間をおいて一言。
「どれ?」
「栄一くん聞き方が悪いよ」
「今のは帝亜が悪い」
裕次郎くんと光也くんに突っ込まれる栄一くんが素直に失敗を顔に出しつつ改めて問い直す。
「悪かった。
湾岸開発の件だ。
帝西鉄道はこの件に社運を賭けているみたいなんでな」
日本全国に不動産を持つ帝西鉄道グループは、その不動産の含み益で肥大化したが、バブル崩壊からはそれが不良債権に変わって、穂波銀行経由で栄一くんの帝亜グループに駆け込んだ経緯がある。
それもあって、帝西鉄道については栄一くんが帝亜グループのスタッフの補佐の下で指揮をとっているらしい。
私の個人商店である桂華とは大違いである。
「金融機関の不良債権処理が一息ついて、本格的に不良債権の本体である土地の整理に国が乗り出しているからね。
『都市再生特別措置法』で土地整理はしやすくなったけど、代替地がないと網の目のように絡まった都内の不良債権は動かないんだ。
湾岸開発はその代替地としてうってつけなんだよ」
裕次郎くんの説明は私が泉川副総理から聞いた説明と同じである。
裕次郎くんにも情報を流しているあたり、向こうの本気度が透けて見える。
「汐留の大規模開発や新宿ジオフロントは、企業移転による整理という側面もない訳ではない。
ただ、汐留の件は国鉄の清算事業の側面が強く、お前が主導した新宿ジオフロントは新宿新幹線を通したいお前と都のタッグだから国がそれほど絡んでいない。
湾岸開発は不良債権処理を視野に入れた、国の本格的なプロジェクトになろうしているんだよ」
光也くんの補足を聞きつつ私はケーキをパクリ。
味を堪能しつつ、核心を口にする。
「この手の土地開発は、最初に起爆剤がないと初期が赤字なのよね。
関西の私鉄が始めた沿線開発はこれにも当てはまるわ。
その起爆剤を何にするかって話でもあるのよ」
この時期、壮絶に批判された黄金方程式を私は口にした。
「五輪か万博経由でカジノ行。ここまでしないとこれは成功しない。
どうする?乗る?」
そして黙り込む私たち四人。
中学生には重すぎる話である。
湾岸開発は都市博前提だったのに、前知事の中止によって計画が白紙化の上にバブル崩壊がやってくるという救いの無さ。
五輪は大阪が2008年夏季五輪に立候補して一回選敗退していた。
という訳でその起爆剤がないのにカジノである。
何よりも、その最後のゴールであるカジノに私たちが入れないのが質の悪いジョークにしか見えない。
「カジノって儲かるのか?」
「中核ではあるけど、それだけで儲けを出している訳ではないよ。
要するに、ラスベガスを湾岸に作ろうという訳でしょう?」
「既存産業が散々妨害しているのにできるのか?それ?」
栄一くんが首を傾げ、裕次郎くんが突っ込み、光也くんが嘆息する。
ある意味公共事業よりも大炎上しかねないこの件については、岩沢都知事が乗り気でカジノ構想を披露していた。
「ただ、乗ってもいいかとは思っているのよ」
私があまり乗り気の無い声でぽつりと言う。
この件、基本的にうちが受けに回っているから、相手が降りているにも関わらず受け手から脱却しきれていなかった。
「瑠奈。理由は?」
「華族対策。
恋住政権は本気で華族特権の解体に舵を切ったわ。
彼らの食い扶持を用意しないと暴発しかねない」
「あー。
旗本屋敷の賭場か」
「桂華院よ。
その特権解体で法の抜け道みたいな旗本屋敷の賭場なんて許されるのか?」
なんとも言えない私の返事に男子三人の顔もなんとも言えない顔になっている。
政権は特に華族対策にするつもりではなかったものが、ここで強烈に効いてきていた。
「『構造改革特別区域法』。
規制緩和政策の目玉の一つだけど、これでカジノ特区を作ろうって動きがあるのよ。
多分、華族特権とリンクするわよ。
という訳で問題。
華族特権がこの構造改革特区に変わると何が変わると思う?」
「たしか特区認定は大臣と自治体が絡むから……あ!?」
一番政治に詳しい裕次郎くんが仕掛けに気づく。
華族は家の者に対しては法律より家範が優先される。
これを特区に組み込む事で、政府と自治体は華族に法の網をかける事ができ、華族側は合法的な抜け道を提供しつつ食い扶持を確保できる訳だ。
「あまり変わらない気がするが?」
光也くんの指摘はもっともだ。
せいぜい、好き勝手すると特区取り消しという経済的な紐が着いたぐらいのものである。
だが、この『せいぜい』が馬鹿にならないのが政治である。
「まあね。
けど、夏の参議院選挙に恋住政権は目玉を用意しないといけなくなった。
これならば、折り合える華族と妥協が成立でき、政権側も得点をアピールできるわ」
「というか、その方向で乗るんだろう?瑠奈が」
栄一くんの突っ込みに私は笑顔で肯定した。
華族と言うものが時代遅れなのは自覚しているが、そのまま静かに消え去るにも時間が必要だった。
恋住政権は退路を提示して敵を分断しつつ各個撃破するのが本当に上手い。
私が提示するこれに全力で乗って来るだろう。
「という事は、湾岸開発の中核たる富嶽放送を買う気だな?」
栄一くんの断言に私はにっこり微笑んで、意地悪っぽく尋ねた。
「どうする?
組む?それとも敵対する?」
「まさか。
瑠奈の勝ちを遠くから見て勉強させていただきますとも」
かくして、富嶽放送競売に向けて舞台が整い、莫大なマネーが舞う札束の宴の幕が上がる。
汐留開発
汐留貨物駅再開発。
95年から始まり、2004年完成。
あと五年早かったら国鉄の借金が全部完済できたと言われ、その分不良債権が金融機関に移ったのは間違いがない色々考えさせられる開発。
なお、令和3年時点で残っている国鉄の借金は十六兆二千六百億円である。
カジノ
マカオのカジノ開発が本格化するのが2002年。2006年にラスベガスを抜く。
ここで仕掛けていれば、マカオの座を奪えるチャンスはあった。
石原都知事のお台場カジノ構想から法律はなんとか通したが、コロナもあって未だ国内で話は進んでいない。
旗本屋敷の賭場
江戸幕府は賭場禁止なのだけど、取り締まるのが町奉行。
つまり、大名や旗本屋敷への取り締まり権がない事に目をつけて、それらの屋敷で賭場が行われた。これが、旗本にとってとてもいい収入になっていた。
なお、賭場の運営はヤクザが運営し、大名は旗本は付け届けを頂く形になっていて、幕府から突っ込まれてもいいようになっていた。
……この仕組み、今もまんまじゃねーかなんて言ったらいけない……
瑞穂「このままでは私の出番が来ないので、エタらないように……」
瑠奈「あー。今日はいつものせりふはなしでお願いします」
瑞穂「久しぶりの見せ場……」
瑠奈「なぜかと言いますと、このたび、次に来るライトノベル大賞に『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』がノミネートされているからです!」
瑞穂「わーわーパチパチ♪」
瑠奈「12月15日23:59まで、毎日1作品の投票が出来ますのでどうか応援よろしくお願いします」
瑞穂「なお、三巻まで出しているのに一巻冒頭しか出て来ない人がいるんですけどー」
瑠奈「安心してください!四巻にも出てきません!!」
瑞穂「本当に私の出番ここだけ……」
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