新宿ジオフロント完成式典 その1
さりげなくお嬢様に情報誘導が行われているのがポイント
『おはようございます。
4月27日。火曜日の朝のニュースです。
まずは、木更津方舟での警察の強制捜査についての続報です。
警視庁は早朝六時に会見を開いて「ここで偽札の取引が行われていた」と発表。
この取引に関わったとみられる暴力団事務所にも強制捜査を行うなど捜査は拡大しております。
現場からのレポートをご覧ください』
『はい。
こちらは木更津方舟と繋がっている海ほたるパーキングエリアです。
周辺は警視庁及び千葉県警の警官隊に加え、その指揮下に入ってる警備会社の警備員が物々しく立っています。
現在木更津方舟及び東京湾アクアラインは封鎖中で、この木更津方舟の住人は偽札事件の捜査に伴って一時的な退去を余儀なくされており、都内及び千葉県内のホテルに宿泊しているという事です。
そもそも、この事件は先ごろ摘発された武器密輸事件と絡んでおり、武器密輸の代金として偽札が使われていた事から発覚。
その取引場所に船で移動できる木更津方舟が選ばれたという内部告発によって今回の捜査に踏み切ったと関係者は語っています。
木更津方舟は樺太からの移住者、いわゆる二級市民問題の解決の切り札として導入されたのですが、内部コミュニティーや住民の多くが樺太出身者という事から治外法権化していた所を犯罪組織に狙われた形になり、政府は釈明に追われそうです。
現場からは以上です』
ぱくぱく……ん?
朝食中につけていたテレビの朝のニュースをなんとなく見ていたのだが、ある人物を見つけてしまい私は食事の手を止める。
首をかしげてグレープジュースを飲み終えた後、私はその疑問を口にした。
「ねぇ。
何で小野副署長がいるのかしら?」
控えていたアニーシャがあっさりと答えを言う。
「それですか。
ほら、うちの北樺警備保障が警備についているじゃないですか。
大規模な部隊を貸してくれとかで、上を用意しないといけなかったそうですよ」
言われてみると、たしかに小野副署長の隣にうちの隊員が居たな。
たしか改正された警備業法では警部以上の警官が指揮を執る事になっていたのだが、木更津方舟を封鎖するような人員ともなると、小野副署長クラスを持ってこないと格が合わないのだろう。
……ん?
「なんで、警察じゃなくてうちの警備会社使っているの?」
私の疑問にアニーシャは『それ本気で言っているの?』と顔で語ってテレビを指さした。
そのテレビは次のニュースに映っていた。
「今日、新宿ジオフロントの街開きが行われます。
正午からの記念式典には恋住総理、岩沢都知事の他、桂華院瑠奈公爵令嬢を始めとした各界の著名人が招かれており、既に商業エリア前では正午開店の店舗前に行列が……」
「あー。そりゃ、警察はこっちよね」
「駆り出されて、新宿ジオフロントの警備を警察にお任せする羽目になりましたが。
こっちはいい迷惑です」
アニーシャの目がマジだった。
そこでアニーシャの隣でいつも控えているエヴァの姿が見えないことに気づく。
「もしかして、エヴァの姿が見えないのって……?」
いつもだったら『ざまぁ』の一言ぐらい言うアニーシャは真顔で哀れみすら浮かべていた。
その時点で大体察した。
「今はお近づきにならない方がいいと思われます。
罵倒と怒声と呪詛を振りまいて電話向こうとお話していましたので」
「うわぁ……」
きっとCIAあたりに色々言っているのか色々言われているのか、その両方か。
まぁ、テロが起こると確信しての当日にこの偽札騒動である。
陽動であると疑わない方がおかしい。
「やっぱり起きる?」
何がとは言わない。アニーシャもそっち系の人間である。
さっきまでの顔と違い、そっち系の怜悧な顔で彼女は断言した。
「起こしません」
「そっか。じゃあ、信じるわ」
「私の祖国はともかく、この国とその同盟国は馬鹿ではないし、馬鹿が覇権国家を維持できるのならば冷戦は私の祖国が勝利しております」
なお、9.11と成田空港でのやらかしの後もアニーシャがそれを言うのは、空元気なのか祖国の敗北という現実を踏まえたうえでの羨望なのか。
「それは良いのですが、よろしいのですか?」
「何が?」
私の疑問にバンと開いた扉からやってきたのは一条絵梨花と時任亜紀さんの二人。
なお、アニーシャ以上に顔がガチだった。
「お嬢様。お食事が終わりましたら、式典の準備を」
「え?
ギリギリに入ればいいじゃない?
せっかくお休みとった……」
私の言葉は最後まで言えなかった。
というか、既に二人の顔が怒っていた。
「よろしいですか?お嬢様。
政府首脳や都知事がいらっしゃっての式典。
お嬢様も中学生になられたのですから、おしゃれに気を使って……」
「お召し物もこの日の為にたくさんご用意させていただきました。
また写真家の石川先生にもお手伝いいただいて晴れ舞台にふさわしいお姿にしてもらう予定です。
移動を考えたら、もうお時間はあまり残っていないのですよ」
あ。やばい。
これ衣装やメイクで全部潰れるやつだと察して私はアニーシャに助けを求めようとしたが、いつの間にかアニーシャは姿を消していた。
この恨み晴らさずにおくべきかと心のメモ帳にメモしながら、およそ三時間ばかりメイドたちと写真家の先生にお人形とされる羽目になった。




