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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
虚塔の宴

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神戸教授のおとなの社会学 『側近論』

『閃光のハサウェイ』はいつになったら見れるのやら……

「少し前だったかな?

 夕方何気なしにTVをつけていたら、こんなセリフが聞こえてきたんです。

 たしか『殺されたから殺して、殺したから殺されて、それでほんとに最後は平和になるのか?』だったかな?

 女の子が叫んでいましたよ。

 何を言っているんだと思いましたね」


 神戸教授はとってもいい笑顔で我々をドン引かせる。


「なるに決まっているじゃないですか。

 こんな言葉が残っています。

 『ローマは廃墟を作り、それを平和と呼ぶ』と」


 なお、今日の講義のテーマは側近論である。

 この話がどう側近に繋がるのか分からないが、絶好調な神戸教授はホワイトボードに当時のローマ帝国の版図を映す。


「これを言ったのは、ローマの政治家であり歴史家であったコルネリウス・タキトゥス。

 『アグリコラ』の有名な1節ですが、このアグリコラが書かれたのは98年。

 時代はローマ帝国の最盛期である五賢帝時代に入ろうとしていました。

 今、黒板に映している地図は五賢帝時代のローマ帝国の版図です。

 現在の国境と重ねてみましょうか。

 これだけの多くの国々が一つになった、今の欧州の土台の一つがこのローマ帝国なのは言うまでもありません。

 現代社会は欧米の文化・歴史がスタンダードの一つになっています。

 特に外交などはこの影響は計り知れません」


 この返しは知っていると強烈に効くなぁ。

 つまり、『殺されたから殺して、殺したから殺されて、それでほんとに最後は平和になるのか?』と詰め寄っても『はい。勝って、殺して、滅ぼしてください。平和はその先にあります』と言っているようなものだからだ。

 なお、パクスロマーナを翻訳すると『ローマの平和』となる。

 そして、五賢帝時代はまさにその『ローマの平和』が達成された時代だった。

 神戸教授はここで全体を見渡す。

 まだ話の筋が分からない私たちに神戸教授はとてもいい笑顔で言い放つ。


「この最初の言葉を言った女の子は未来の地球の国のお姫様だそうです。

 そんな彼女がこんな返しが想像できる事を叫ぶことで、純粋な怒りを演出したかったのでしょうが、言った瞬間に彼女は今の現代社会の外交を行う上流階級において『無教養の田舎娘』と罵倒・嘲笑されるでしょうね。

 なお、これは明治維新前後に同じ罵倒と嘲笑を受けて百年近い改善を行ったこの国で起きた事でもあります。

 鹿鳴館。聞いたことがあるでしょう?」


 ああ。ここに繋がるのか。

 歴史の授業でダンスばかりしてなんて否定的な事を言っていたようなのを思い出す。


「さて、そろそろこの話の本題に入りましょうか。

 女の子がタキトゥスの言葉を知らなかった事は仕方ありません。

 おそらく教えてもらえなかったのでしょうから。

 では、それを教えるべき大人たちが知らないという事は何を意味するのでしょうね?」


 神戸教授はこう言いながらわざとダンスを踊るふりをする。

 当時の欧米列強に追いつけ。追い越せ。滅ぼされないようにと死力を尽くしていたこの国ですら、維新後は鹿鳴館を造る程度には理解していたというのに。


「側近。つまりあなた達は基本一人ではありません。

 多くの人間が補佐につき、多くの人間の人生を左右する立場になります。

 この女の子の悲劇は、そういう人間を周りに置かなかった事です。

 貴方がたの発言や行動が、多くの人たちの人生を左右する事を自覚してください。

 そして、それを支える人たちは、主に恥をかかせないように諫言を含めた主への教育を忘れたらいけません」


 気づけば私も学内で側近団やご学友を従えるようになり、今や桂華グループは多くの大企業を従える巨大企業グループに成りあがった。

 そんな多くの人に支えられ、多くの人の人生を左右するという事を神戸教授は言いたかったのだろう。


「外交は本当に恐ろしいですよ。

 その失敗が戦争になるなんて事もありえるのです。

 だからこそ、彼女みたいな失敗をしないように」


 そう言って、授業は終わったのだった。




「うーん……」

「どうしたの?」


 授業終了後、野月美咲が実に微妙な顔でうなっていたので尋ねる。

 彼女は視線を合わせようとせずに、額に汗が噴き出ていた。


「いや。多分、このアニメ私見ていたんですよ」


「そうなの?

 じゃあ、折角だから私も見てみようかしら?」


 私の気軽な声にも関わらず野月美咲の表情はよろしくない。

 ついでにいうと視線を私と合わせようとしないので、久春内七海あたりの視線がきつくなる。


「いや。音楽は良いんですよ。キャラもまぁ今風ですよ。ええ。

 ただ、その、何と言いますか……」


「何よ。はっきり言いなさいよ」


 久春内七海が促して、野月美咲が口を割った。


「神戸教授が言った女の子の国。

 国を滅茶苦茶にされながら、最後勝っちゃうんですよ。漁夫の利というか共倒れというかそれで」


「へ?」


 という訳で、そのアニメを見る前に元になっただろう作品映画三部作を見て、そのアニメを見ることにした。

 数日かけた鑑賞会の後、私達は野月美咲に感想を言おうとする。


「ねぇ。これ最初の映画……」

「言わないでください。おねがいですから」

『殺されたから殺して、殺したから殺されて、それでほんとに最後は平和になるのか?』

 カガリ・ユラ・アスハ。『機動戦士ガンダムSEED』。

 『機動戦士ガンダムSEED』2002年秋からおよそ一年間放映。

 まだこの後に『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』が待っているんだよなぁ……


コルネリウス・タキトゥス

 当時のローマで属州出身なのに、元老院議員になった上に執政官(ローマ共和国時代の平時の最高責任者兼軍団司令官)になったというトップエリートの一人。

 同時にローマ『帝国』において皇帝権力の強化過程の時代に居た事から、ローマ共和国回顧主義的な主張も理解できる訳で。


パクス・ロマーナ

 私が歴史を学んだ時は、この言葉を『覇権国家の黄金時代』という意味合いで使われる事が多かった。

 つまり、今現在は『パクス・アメリカーナ』の途中である。そんな定義ができるのだが『パクス・シニカ』に切り替わるのかというご時世、もし米中開戦が発生したら、『パクス・アメリカーナ』ではなくアメリカVS東アジア(日本>>中国)のポエニ戦争期じゃねなんて話をした覚えが。

 つまり、『合衆国』が『米帝』にいつ成るのかという話をこの頃あたりから話題になっていたという訳で。

 本当に2020年のあの大統領選挙は世界線変更の瞬間だったのだなぁと思ったり。


鹿鳴館

 明治維新後、政府の課題は欧米列強と幕府が結んだ不平等条約の改定だった。

 その為に欧米列強を理解する社交場として建設され、この時代を『鹿鳴館時代』とも呼ぶ。

 外国からは嘲笑され、国内からは「外国に媚を売って!」と罵倒される失敗政策として記録されるが、その方向性は多分間違っていなかった。

 そのツケは1941年12月8日に最悪の形で噴出する。

 本当に歴史って容赦ねーなー……


瑠奈たちのアニメ鑑賞会。

 『劇場版機動戦士ガンダム』三部作。

 野月美咲はかなりガチオタク設定。

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― 新着の感想 ―
ふははは、流石のお嬢様もまさか令和の時代に元ネタになった三部作のジオン勝利ifがアニメ化されて先行放送の劇場公開が30億を越えるとは思うまい(なお閃光のハサウェイは…)
あの国のお姫様は頭お花畑だけど現実味ながら頑張ってるほうで 国自体も表向きは平和と中立うたってるお花畑国家だけど 裏では隠ぺい工作や条約違反は当たり前の超武力国家っていうあたりが草
2025/03/30 06:13 お好み焼きに困惑する婚約者
[一言] まあ、あのアニメはパヨの妄想の具現化ですからね、局プロデューサーとか製作スタッフ上層部の顔ぶれからして。 アニメ雑誌インタビューで北朝鮮に招かれた自慢とか始めるスタッフ上層部が作ったアニメな…
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