米国国家安全保障会議
米国国家安全保障会議とは、米国における国家安全保障と外交政策に関する最高意思決定機関の一つである。
参加者は大統領、副大統領、国務長官、国防長官、エネルギー長官などの正規メンバーに、統合参謀本部議長と国家情報長官をアドバイザーに、大統領首席補佐官以下そうそうたる顔ぶれ。その会議に某国九段下の某所の盗聴会話が持ち込まれていた。
「BANG!
狙うチャンスはいくらでもありますよ。
何しろ舞台が大きくなりすぎて、お嬢様が出ていかねばならない場所が多すぎる」
「あー。そういう事か。
今までの話すら全部陽動で、本命は私の暗殺から始まる日本市場崩落の投げ売りか。
私一人始末するのにここまでするかー」
当人なのにまるで明日の天気のような他人事の会話に違和感を覚えなかった人間はこの中に居なかった。
それがまた奇妙な説得力を持たせている。
「俺がお嬢様ならば、ここですね」
「あら奇遇ね。私もよ」
日本語なので、メンバーにはこの会話の英訳が事前に渡されていた。
録音が終わり、大統領が口を開く。
「関わらせた私が言うのも何なのだが、あの子は少し自分の身を大事にすべきだと思うんだ」
「映画のように成田空港のテロを自ら制圧してみせたら、ああなるでしょうな」
副大統領の突っ込みから議題はこの次のテロの話に移る。
「で、かの国は二人が予想したテロについて何か対処をしているのかね?」
「警察関連だけでなく自衛隊の特殊部隊すら待機させて式典の成功をと言っています。
ですが、問題点がいくつかあり、それを彼らは解決できていません」
副大統領の質問に国家情報長官はよくない顔色でその問題点を指摘する。
なお、その問題点を別の言葉にすると『お役所仕事』となる。
「まずは、管轄の違いです。
何処もそうでしょうが、役所は管轄に他所が介入することを極端に嫌います。
既に警察と自衛隊で警備について軋轢が発生しており、警察内部でも首都を守る警視庁とその下に入る警備会社や賞金稼ぎの衝突が起こっており、これは解決のめどが見えていません」
たとえテロ予告が来ようともテロに屈することは国家の敗北であり、現在行われているテロとの戦いで国家の敗北が21世紀秩序の崩壊に繋がることはここの面子は理解していた。
それはそれとして、テロとの戦いは戦時ではなく平時の戦いであると日本では定義づけられ、警察がその矢面に立つことになったのだが、成田空港テロ未遂事件では自衛隊の治安出動が発生しており、警察側はこれ以上の自衛隊の介入を極度に警戒していた。
それは、警察の下に置かれた警備会社・賞金稼ぎ・探偵などの新戦力を活用できない事に繋がっていた。
警察は基本的に事件が発生しないと動けない。
「警察の仕事はいつも負け戦」
とは警察内部の自虐的なジョークだが、予防攻撃が可能なこれらの新戦力がテロ攻撃の情報を得ても、最後の最後で事件が発生しないと動けない事が何度も発生していた。
ストーカー被害や個人警備などは一定の効果を上げていたのだが、社会全般に対するテロ攻撃となると、その強権的姿勢が社会の反発を招きかねず、反体制派と一部野党が繋がっている現状では失敗すると国会で警察が叩かれるので、有益な情報を得ても取り逃がしていたというケースが成田空港テロ未遂事件の後の調査で発覚する始末。
ここが戦時体制に移行している米国と違って壮絶に足を引っ張っていた。
「そして、この問題に外国勢力が介入した結果、警察内部では我々の動きを快く思っていないらしく……」
外国勢力の介入と言葉を濁しているが、これは米国諜報機関が密かに行っていた桂華院瑠奈の京都護衛作戦の事で、その足の引っ張り合いからの大失敗に現地の京都府警はカンカン。
突き上げられた警察筋から政府が米国大使館に非公式の抗議を行った事で、ワシントンのお偉方の経歴に始末書の泥をたっぷりと塗りたくったのは記憶にまだ新しかった。
「介入するなと?」
首席補佐官の質問に国家情報長官は、日本側の日本的婉曲的な拒否を披露した。
「『東京観光をしたいのでしたらどうぞ』と」
「HAHAHAHA……」
ジャパニーズジョークに面白そうに笑う大統領だが、その大統領から国家情報長官と統合参謀本部議長と国土安全保障長官は視線をそらさずにはいられなかった。
つまり、彼らの下が京都でやらかした訳である。
「現在のイラク情勢はイラク三分割案を国連安全保障理事会に提案し、理事国間での調整にめどをつけている所です。
欧州がごねましたがロシアがこちらについた事で理事会決議は通るめどが立ち、夏までにはイラクは三分割されるでしょう」
米国国連大使の報告は、上の議題の側面をついていた。
完全に制御不能に陥った北部イラク、ベトナム化が進みつつある中部イラクの戦局悪化と足並みを揃えるように大統領の支持率が下落しつつあった。
日英軍が駐留しイランの影響下にある南部イラクの独立を功績に、日英軍を中部イラクに転出させないと選挙どころかこの戦争そのものすら敗北しかないとここの面々は強い危機感を抱いていた。
そして、日本でテロが発生して自衛隊が引き揚げたら、この話がご破算になるという事を理解できない人間はこの会議室には居なかった。
「よくロシアがこっちについたものだ」
「あの国は今もチェチェンゲリラと激しく戦っていますから。
ウォール街のマネーロンダリング事件の黒幕の一つがチェチェンと繋がった時点で、あの国はお嬢様に全賭けするしかできなくなったんですよ。
もっとも、国外で何かする駒がないというのもあるのでしょうがね」
財務長官の感想に国務長官がつっこむ。
泥沼のチェチェン紛争に囚われているロシアは、樺太銀行マネーロンダリング事件の送金先の一つがチェチェンマフィアである事を徹底的に利用した。
テロとの戦いに米国と組んで、内部のテロ勢力を強権的に弾圧したのである。
その報復テロも発生していたが、資金源を止められたことからその勢いは弱まりつつあった。
「ロシアも彼女にオールインした訳だ。
あの国よりチップを持っている我が国も賭けなくてどうする?
ついでに言うと、少女のオールインを払えないぐらいに我が国は貧乏だったかな?」
おどけた口調で大統領が結論を言う。
この会議ですら事前に根回しがされて決定事項を決める場でしかない。
それでも、参加者は大統領の口から出た語気を、賭けるといった言葉の強さを目の当たりにしていた。
「幸い、あの国の総理とは話が合うんだ。
君たちの面倒事は私が話すことでなんとかしよう。
だからこそ、表向きは東京観光で終わるようにしたまえ」
大統領は米国の最高意思決定者として断を下す。
彼もまた、彼女に賭けたのだ。
「アメリカ合衆国大統領として君たちに命じる。
ありとあらゆる手段を用いて、このテロを未然に防ぎたまえ。以上だ」
「警察の仕事はいつも負け戦」
『機動警察パトレイバー』の後藤隊長。
コミックス(ゆうきまさみ サンデーコミックス)では「警察ってのはカゼ薬みたいなもんでな」となっている。
瑞穂「このままでは私の出番が来ないので、エタらないようにブックマークや評価をお願いします」
瑠奈「久しぶりにするわね。これ」
瑞穂「祝!二巻発売!!祝!コミカライズ化!!!」
瑠奈「まさかこの物語が本になって二巻が出るわコミカライズ化されるわとは思っていなかった……」
瑞穂「これで私もコミカライズされるかも」
瑠奈「冒頭一話のみの出演……」
瑞穂「それを言っちゃだめーーーーーー!!!」
絵梨「なお、悪役令嬢ものにあるまじきおっさん率の挿絵になっております」
瑞穂「そんな『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変2』はオーバーラップノベルズより3/25発売です!」
二人「「よろしくおねがいしまーす!」」




