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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
虚塔の宴

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神戸教授のおとなの社会学 『趣味論』

人生RTAに古文も漢文も必要ないのは認める。

だが、人生RTAにはリセットもタイマーストップも無いのだ。

「今日は趣味について少し語ろうかと思っています」


 神戸教授は私達の前で楽しそうな笑顔を見せる。

 なお、こういう顔の時、この人は大体ろくでもない事を考えていると私は学んだ。


「語る前に、私の趣味を先に言いましょうか。

 私はドライブが趣味ですね。

 特に深夜の高速をただ走るのがいい。

 まぁ、お巡りさんのお世話にならないように気をつけつつ、車の少ない高速をお気に入りの音楽と共に走る。

 そうする事で、世間から離れて己を癒やしているんです」


 あ。これは本当の趣味だ。

 話す顔が楽しそうだからだ。


「趣味とは何かと言われた時に、こうやって堂々と言える趣味を持っておくと、その人の人となりというのが分かってきます。

 それが、人間関係の立ち位置と自分を含めた人となりの把握に大事なんですよ。

 だからこそ、趣味は持っておいて損はないですよ」


 そんな事を言いながら、神戸教授は少し付け足す。


「とはいえ、このドライブや、お酒や煙草なんてのを趣味にするには大人にならないといけません。

 そういうのを趣味としたいのならば、もう少し待ってもらうと同時に、その素養を養わねばなりません」


 素養?

 首をかしげる私達に神戸教授は黒板にこんな文字を書く。

 『教養』と。


「先程の言葉は『素養』。今ここに書いたのは『教養』。

 そして、今日話しているのは『趣味』です。

 これらの言葉は微妙に意味が違います。

 『趣味』については少しわかりにくいので、似たような言葉を使いましょう」


 そう言って神戸教授は『趣味』の言葉を消して『道楽』と書き換える。

 改めて三つの言葉を神戸教授は説明する。


「『素養』は練習や学習によって身につけた技能や知識の事を指します。

 『教養』は社会生活を営む上で必要な文化に関する広い知識と定義しましょう。

 『道楽』は本業以外のことに熱中して楽しむことですね。

 さて、これらの言葉の共通点から探りましょうか。

 誰か、分かる人は居ますか?」


 神戸教授は一旦言葉を切って皆を眺める。

 何人かが手を上げたので神戸教授は一人を指名した。


「では、帝亜くん。答えてみてください」


「はい。

 これら三つは、強制的にもしくは自主的に学ばなければいけないという事です」


「正解。

 ここで、前の授業で話した国語の話に繋がっています。

 結局、人と言うのは学ばねばならない生物なんでしょうね。

 効率よく学ぶためにも、国語の勉強はしっかりしておきましょうという訳です」


 そんな事を神戸教授は言って、少し視線を遠くに向ける。

 紡がれる言葉には実感がこもっていた。


「高度情報化社会の到来と共に、楽な生き方や楽な人生というものの方程式がわかりつつあります。

 受験ブームもある意味親が子供に少しでも良い人生をというプレゼントな訳ですが、子供からすれば大きな迷惑な訳で。

 まぁ、そのプレゼントが本当にモノを言うのが十年先、二十年先だから、またそこはわからないでしょうね」


 十年先。二十年先。

 この桂華院瑠奈の人生は18までしかゲームでは表現されていない。

 破滅して死んだのだろうか、生きていたとしてもあまり良い人生ではないのだろう。

 前世の私みたいに。


「『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり』。

 織田信長で有名になった言葉ですが、これは織田信長が言ったのではなく『敦盛』という幸若舞の一節なんです。

 なお、この『敦盛』とは源平合戦時の平家側の将である平敦盛の事を指し、彼が源氏の将である熊谷直実に討ち取られた一の谷の合戦の場面を演じるんですよ。

 ちなみに、この解説は教養・素養・道楽のどれに入りますか?」


 私達はここで完全に神戸教授の罠にかかった。

 互いに顔を見合わせて首をかしげる私達に神戸教授は楽しそうに、私達の思いを代弁する。


「歴史の授業ならば、『素養』でしょう。

 私があえて話題からそれた形で出したから、『教養』と捉えてもいいでしょう。

 歴史好きやこの幸若舞をやっている人からすれば『道楽』とも言えますし、それを学ぶ過程を考えると『素養』でもあったりします。

 こうやって、立ち位置によって違いますが、本質はなんとなく理解したでしょう」


 納得。

 講義中でなければ手をぽんと叩きたい所だ。


「今は平均寿命が伸びて人生80年なんて言われるようになりました。

 よく学んで良いところに就職するとしましょう。

 それでも大卒ならば22歳です。

 そこから働いて、退職すると65歳。

 まだ15年は生きねばなりません。

 その時に、私の趣味である深夜の高速ドライブは、少しきついでしょうね」


 ああ。ここに繋がるのか。

 納得した私達に神戸教授はこんな言葉で今日の講義を〆た。


「長い人生です。

 打ち込むならば、時間はありますから、色々なものに軽く手を出してみるといいでしょう。

 それが、10年後、20年後に実を結ぶと私は信じています」




「瑠奈ちゃんはいいわよねー。

 歌があるし、映画にも出たし、色々できるじゃない」

「ちなみに明日香ちゃんは何かあるの?趣味?」

「んー。泳ぐ事かな。

 瀬戸内海の夕暮れの海は綺麗よ」

「なるほど。

 蛍ちゃんは?」

(?……ごにょごにょ……)

「かくれんぼですって」

「あー。蛍ちゃんらしいわ」

古文漢文不要論で私が言いたいことは冒頭の二行だったりするのだが、二話もかけてしまった。

『素養』『教養』『道楽』それぞれの言葉はGoo辞書で確認している。


深夜の高速ドライブ

 『湾岸ミッドナイト』にはまった時に法定速度を守ってやってみたが、気持ちが良いものである。

 あの漫画にあった『東京ニュル』でのレースとかさせたいんだよなぁ。


敦盛

 よく使われる意味では『人間の人生は50年で儚い』という感じだが、実際の意味は『人の世の50年間は天界の時間と比すれば夢幻のように儚いものだ』。

 これを書くために確認して目から鱗というか、知らずになろうで歴史ものを書いていた作者が私である。


瀬戸内海の海

 愛媛県の有名なスポットで下灘駅がある。

 この駅の前の道が本当にドライブコースとして素敵で、国道56号で大洲市まで南下してそこから長浜の方に出て国道378号で帰るのが私のお気に入りだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >古文漢文不要論 これを提起した人物は、「古文漢文が不要だ」とは主張していない いろいろある教科の棚卸(優先度の見直し)を提起したに過ぎない 「主観」=「好き・嫌い」を根拠に「古文漢文不要論…
[良い点] 今話もありがとうございます! >人生RTAに古文も漢文も必要ないのは認める。 >だが、人生RTAにはリセットもタイマーストップも無いのだ。 そもそも、何を以て「人生」という名のゲームを…
[一言] 編集ついててこれは… 変な燃え方して続刊もアニメ化も消えた作品あるのによくやるなぁ
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