お嬢様が馬主になるそうです ケイカプレビュー ヒヤシンスステークス 修正済
レース展開も実はサイコロだったりする
これで、親が決められるかな?
21:00 修正済
冬真っ盛りの東京競馬場。
その場所から競馬ファンに『府中』と呼ばれるこの地に、私は岡崎祐一と天満橋満を連れてやってくる。
目的はもちろん馬主観戦である。
「まさか府中の馬主席に座るとはなぁ……」
「俺なんてこの年で馬主ですよ。いいんですかね?」
そんな事を言っているが、後ろの二人はノリノリである。
当り前だが、馬主になる為にも資格という奴がある訳で、未成年の私がなるには色々と問題があった為に、後ろの二人がやった手は、北海道の零細牧場救済のついでに彼らの馬主名義を利用した法人馬主という形になっている。
という訳で、厳密には私の馬ではないのだが、私が馬主であるというのは後ろの二人経由でちゃんと競馬場の人に伝わっているらしい。
まぁ、有名人になったし。私も。
「で、私の馬はどのレース……こんなにレースやっているの!?
というか、人多い!?」
競馬を知らないとメインレースしかやっていない感じを持つが、競馬場では朝からちゃんとレースが組まれている訳で。
メインレースに出る馬の影で、そういう馬達が必死にレースを戦っているというのを私はここでやっと知ったのである。
「朝からやって帰りはタクシーで凱旋はギャンブラーの夢でんがな」
「大体負けて、電車で寂しく帰るんですけどね。普通は」
ギャンブラートークが盛り上がる二人だが、ある場所を通る時にちょっと寂しそうな顔をしたのを見逃さなかった。
さすがにおかしくて私は笑ってしまう。
「買ってもいいけど?馬券」
「お嬢様が買えないのに」
「我々が買うのはまずいでしょう。色々と」
そんな風に二人をからかいながら馬主席へ。
来ている馬主たちにご挨拶した上で、つらつらと他のレースを眺める。
「しっかし、人多いわねー」
「春のGI最初のレースであるフェブラリーステークスが行われますからね。
今日のメインレースですよ」
私の感想に岡崎が解説をしてくれる。
そのメインレースであるフェブラリーステークスは第11レースであり、私の馬であるケイカプレビューが出るヒヤシンスステークスは第9レースである。
「ちなみに、お嬢様の馬が大成したらこのメインレースに出る事になるでしょうな」
天満橋のおっさんが思い出し笑いを隠そうとしないので、私は憮然とする。
まぁ、牧場で乗馬ぱかぱかしか頭になかった私がやらかした失敗だから何も文句が言える訳もなく。
「まぁ、うちが丸抱えしたので忖度してくれたのでしょうけど、それで負けたら世話はないというか」
「明らかに負け戦前提でしたよね。こいつのスケジュール」
この二人チクチクといたぶりやがって。
何をやらかしたかというと、私のぼんやりした目標である『有馬記念優勝』を目指したスケジュールに組み込んだのだ。
で、血統から『こいつダートじゃね?』と思いながらも走らせて、初戦は2着だが、二戦目は4着敗北。
そこでダート転向をという提案に私が言った一言がこれである。
「ごめん。ダートって何?」
かくして、岡崎と天満橋の二人の大爆笑の中、真っ赤になった私の了解の元三戦目で勝利を飾ったこのケイカプレビュー。
こうして東京競馬場にてお目見えという訳だ。
黒歴史として封印したい……
なお、調教師曰く、
「お嬢様みたいなお馬ですよ」
は誉め言葉なのか?誉め言葉なのか?と小一時間うなったが、まぁレースを見て判断するとしよう。
なお、ダートとは『土』の事なのだが、日本では雨が多いので砂主体のコースの事を指す。
気づいてみたら出走時間である。
なお、人気は五番らしく中々のものである。
ファンファーレが鳴って、ゲートが開き、歓声と共に馬たちがダートを駆けてゆく。
「ねぇ。私の馬何処?」
「あれですよ。今、一番前を走っているやつ」
テレビで見るのと違って、現場で見る場合は自分で追いかけないと分からないのがつらい。
とはいえ、岡崎の指先に私のケイカプレビューが気持ちよさそうに走っていた。
天満橋のおっさんの悲鳴が耳に届く。
「あかん!
あの馬、大逃げかましおった!!!」
教えてもらったのだが、大逃げとはスタートからトップを走ってゴールまでそのまま逃げ切る事らしい。
もちろん、後半に行けば行くほどバテるので、最後に抜かされる事が多々ある。
そんな大逃げをかましたケイカプレビューだが、走る。走る。走……る?
「追い付かれないわよ。あれ」
「嘘だろおい。このまま逃げるのかよ!?」
ざわめきと歓声が最終コーナーを演出する。
そこをトップで駆け抜けたケイカプレビューに各馬が猛追をしかけるのだが、まだ追い付かれない。
ついにケイカプレビューは他馬の後塵を拝す事なくゴールに飛び込んだ。
どよめきと歓声と舞う紙吹雪がこのレースの評価を示しているのだろう。
「やりおった!
あいつやりおったで!!」
私以上に興奮している天満橋のおっさんは放置するとして、気づいたら私も手をぎゅっと握りしめていたらしい。
これがギャンブルか。
この興奮は味わうとたしかに忘れられない……
ぽんと肩を叩かれると、近くにいた馬主が笑顔で祝福してくれた。
「おめでとう。
そして、行きなさい。
ウイナーズサークルでの記念写真は、馬と馬主の晴れ舞台なのだから」
かくして、私とケイカプレビューは、競馬新聞の隅に写真が載る事になる。
なお、その日の競馬新聞の一面はメインレースの王者が堂々と映っていた。
いずれはという事で残って見ていたのだが、フェブラリーステークスの勝者の走り。あれ凄いわ……
映像が残っていたので紹介。
2004年。フェブラリーステークス
https://www.nicovideo.jp/watch/sm14165734




