やきうの時間外だぁ!!!!!!
帝西鉄道の帝亜グループ入りによって、プロ野球売却問題はパリーグ2球団に絞られた。
その一つであるスーパー太永の球団については、ネット財閥を目指そうとしている大手通信企業に売却が決定する。
しかも、プロ野球団を福岡から動かさない上に福岡ドームも買収するという大規模買収は、業界紙だけでなくスポーツ紙も賑わせたのである。
「総額で九百億円という巨額買収かぁ……ITバブルが崩壊したのに、よくそんなお金あったわね?」
スーパー太永の球団買収額が書かれたスポーツ紙を手にした私の呟きに岡崎が突っ込む。
「何を言っているんですか?
彼らが巨額な資金を用意できたのは、お嬢様のおかげですよ?」
「え?
私、何もしていないわよ?」
「お嬢様の大暴れのおこぼれを美味しく食べたんですよ。彼らは」
私が米国で始めたネットバンク事業は日本にも広がっており、桂華金融ホールディングス以外にもネット財閥の何社かが手を出していた。
そんな中、この会社の金融事業はITバブルのあぶく銭を利用して経営不安が囁かれていた第二地銀を買収し、諸々の規制をクリアしてネットバンク事業に乗り出す。
圧倒的シェアを誇るブラウザと連動したこのネットバンクは、国内だけならば桂華金融ホールディングスを抜く巨大シェアを確保していた。
ITバブルが崩壊して他のIT企業が破綻する中でも、この金融部門の安定性が信頼を生み出して安定した資金繰りを可能にし、現在莫大な投資を続けているブロードバンド事業を可能にしたのである。
そこに、私がハゲタカを焼き払った日銀砲の神風が吹く。
傘下銀行が米国戦時国債の引き受けというあぶく銭を得た事で投資していた資金の回収が早まり、更なる投資を可能にしたのだ。
だからこそ、九百億円という一括買収を行えたのだ。
「今、ネット金融に手を出している所はお嬢様の日銀砲に乗ったんで、莫大な利益を得ているんですよ。
彼らは元から抱えている負債が少ない事もあって金があまっているんですよ」
そんな彼らが今、一斉に手を出しているのが実業である。
虚業と陰口を叩かれていた彼らは、まるでその実業側を見返すような買収で実業への参加を進めていた。
「まぁ、そんな彼らの頂点にいるのがお嬢様なんですけどね」
余計な一言をわざと岡崎が言って私が頬を膨らませる。
彼らの視点だと私は彼らの仲間であり、彼らの先頭に居る成功者なのである。
私自身にはまったくその気はないのだけど。
「雑談はそれぐらいにして本題に入ってちょうだい。
町下ファンドに出資するの?」
「はい。
前にお嬢様と会いに行った時の話なのですが、富嶽放送を取りに行くのではなく、町下ファンドに出資してみようかと。
俺個人の権限で五十億円。
条件はあの時の話と同じ三年間で複利5%」
「結局、あの話受けるのね?」
私の確認に、岡崎は煙草を取り出して火はつけずに弄ぶ。
私の手前、吸わないようしているらしい。
「町下ファンドが第三者なのは確認できているのですが、変に動かれるぐらいならば中から動きを制御しようかなと」
現在、私の敵であるスカベンジャーたちは大手私鉄が抱える不良債権の土地を狙っている。
ここでの戦いを邪魔されないようにという監視代と考えればまぁ五十億円は安い買い物である。
「いいわよ。
帝西鉄道は帝亜グループに入り、スーパー太栄も大手ブロードバンド企業に決まった。
後は関西電鉄ね。
アイアン・パートナーズとネット企業どっちが取るの?」
「正しくは、ネット企業二社とアイアン・パートナーズですね。
投資ファンドは門前払いしているんですが、まだ絡んでいるあたり、どちらかのネット企業に高く売るつもりなのかもしれません」
関西電鉄の球団は、ネット企業と投資ファンドのアイアン・パートナーズが札束で殴り合っていた。
このアイアン・パートナーズは、古川通信の仕手戦で敵に回り最後は株を手放して撤退したのだが、再度体勢を立て直して攻め込んできたらしい。
球団問題はオーナー会議の承認が必要になる。
帝西鉄道の場合は、帝西鉄道がそのまま球団を保持しているケースで、オーナー企業の変更はない。
バックの帝亜グループの事もあって、スムーズな承認の方向に進んでいた。
もう一つのスーパー太栄はオーナー企業の変更という事で、オーナー会議の承認が必要になり、こちらは先に上げた地元への配慮や球団及び球場の一括売却などの配慮で承認されるだろうというのが今のところの見通しである。
「ややこしいわよね。
球団の売買は所有企業と購入企業の取引なのに、リーグ参加はオーナー会議の承認が必要になるなんて」
関西電鉄のケースは、承認前に関西電鉄が誰に売るかという段階で外資のファンドが参加し、オーナー会議が『ファンドには売らない』という宣言をして牽制をしていた。
これに対してファンドのアイアン・パートナーズ方は『差別だ!』とメディアで騒いでおり、関西電鉄の赤字も絡んで話がどんどんややこしくなっていた。
「……失礼。
もしもし……っ!?」
岡崎の携帯が鳴り、話していた岡崎の顔色が変わった。
携帯を切ると、部屋の電話からかけ直す。
スピーカーに繋がれた電話の内容は、私の顔も真っ青にさせるのに十二分な内容だった。
「……ですから、TOBを宣言したんです!
アイアン・パートナーズが、富嶽放送に対して!!
『20%の保有を目指す』と言っており、TOBが成功したら放送法の外国株規制に引っかかって、富嶽放送の放送免許が取り消しになりかねません!!!」
IT企業の錬金術
金融事業、特に国債引き受け資格を持っている地銀を押さえにかかる事で、米国戦時国債に絡んだ連中が大勝利となる。
多分、某企業は分離した金融事業を完全に取り込んだ形になって、一気に富を膨らませたのだろうなと思ったり。
外国人保有株
放送法で20%以上持たれると免許取り消しになるので、マスコミ各社はあの手この手で比率を下げる羽目に……




