やきうの時間外だぁ!!!!!
プロ野球は既にキャンプが始まっているというのに、親会社の球団売却問題に揺れてスポーツニュースのネタは必ずこれが出て来る現状で、オーナー会議が動く。
今季リーグ開催を明言し、来年までかけて球団引受先を募集する旨を発表したのだ。
同時に桂華グループがプロ野球オフィシャルスポンサーについた事で、スポーツ紙面は一斉に『桂華グループ球団買収に動く!』『桂華グループ球団買収か!?』と騒ぎたてたのだった。
「そんな訳ないじゃない。
オフィシャルスポンサーについたのは、『買いません』って宣言したのに等しいのよ。
この立場で球団買収に動いたら、恨まれるじゃない」
「なーんだ」
スポーツ新聞を手に持ってがっくりする明日香ちゃんの隣で首をかしげる蛍ちゃん。
なお、このチャンスに『四国に球団を!』と官民で動いていたのが愛媛県であり、官側の旗振り役が明日香ちゃんのお父さんである春日乃文部科学省政務官だったりする。
私が買うのならば四国に誘致をという事で探りに来たのだろう。
「球団経営はかなりお金がかかるのよ。
もちろん、毎日スポーツニュースに流れるのを考えれば広告費として悪くはないけど、それでも費用は年で数十億は最低見ておかないといけないわ。
そして、ここからリーグ優勝や日本一を狙うとなると、桁が一つ上がるのよ」
「けど、瑠奈ちゃんこのオフィシャルスポンサーでこのぐらい払ったんでしょう?」
「うん。
オーナー会議が揉めていて開幕できないなんて最悪の事態は避けたかったのよ。
まぁ、オフィシャルスポンサーとして桂華グループ全社で色々するから元は取る予定」
ゲーム会社でゲーム作るし、オールスターや日本シリーズで『桂華』の名前が冠される事は確定。
野球中継のCM枠も優先配分が約束され、帝西百貨店グループは優勝セールで一儲けと。
あくまで、非常事態においての緊急措置であるとこちら側から明言しているので、次に乗っかる馬鹿は出ないだろう。
きっとたぶんめいびー。
(???)
何で買わないのと蛍ちゃんが首を傾げたままなので、私は言葉を選びながら答える事にする。
そもそも、このプロ野球問題は本命でなく、本命の余波という位置づけだから無理して絡むつもりは毛頭ないのだが、それをこの二人に言っても仕方ない訳で。
「明日香ちゃん。
たとえだけど、うちが球団を買ったとしましょう」
「うん。だったらぜひ松山に移転してほしいな♪」
「その言葉を多分北海道の人たちも言うと思うんだ」
「あ!?」
(……!)
二人仲良くぽんと手を叩く。
いや本当にこれが一番の理由なのだ。
「お嬢様が球団買ったって!?
だったら、北海道に来てくれるんでしょうね!ね!!」
「黙ってろ!
お嬢様だったら山形に球団を持ってくるに決まっているだろう!」
「引っ込んでろ!
東北に球団だったら仙台だろう!
常識的に考えて!!!」
「日本人は黙ってろ!
お嬢様の国になる予定の樺太こそ球団はふさわしい!!!」
「てめーら引っ込んでろ!
この球団は絶対にこの地から動かないからな!!!」
こんな陳情が山ほど来ていた。
買わないって再三再四言っているのにこれである。
何かを悟った蛍ちゃんがぽんと私の肩に触れる。
その優しさが温かい。
「じゃあ、誰が買うの?」
「誰が、何処の球団を買うの?ね」
不良債権処理で売却をささやかれる球団がパリーグ内で3つ出ており、最初オーナー会議は1リーグ化に向けて球団合併を模索していた。
ところが、これに新興ネット企業が金にものを言わせて買収を提案すると同時に、球団の地元でも球団存続運動が勃発。
更に、投資家グループがこの買収を狙っているというゴシップまで流れて、オーナー会議は完全に主導権を失ったのである。
『金が無くて球団が維持できない』が球団合併の理由で、その結果として球団数が少なくなるから一リーグ化というロジックはこれら想定外のマネーの洪水で破綻。
今や、球団買収問題はオールドメディアVSネット企業及びファンドという新興勢力の戦いの場になり果てたのである。
なお、その両方から誘われていたのが桂華グループだった訳で。
「オーナー会議は色々と注文をつけているみたいだけど、それらはつまりお金で解決できるのよ。
そして、その手のお金を用意するのは、買収提案をしているネット企業や投資家グループの方がうまいのよね。
このまま行けば、押し切られるでしょうね」
そんな話をしていたら栄一くんがやってきた。
めずらしく真剣な顔だなと思ったら、こんな事を言ってきたのである。
「瑠奈。
丁度良かった。
ちょっと話が有ってな」
「話?」
真顔な栄一くんは要件を言う。
それは、ビジネスマンの、決断をした男の顔だった。
「帝西鉄道の経営再建に第三者割当増資を行うが、その要請が穂波銀行から俺の家に来た。
俺はそれを個人で受けようと思う。
額は一千億円で、資金調達はTIGバックアップシステムの株を担保に桂華金融ホールディングスから融資をお願いするつもりだ。
足りない分は俺が全部背負う。
裕次郎と光也の了承は取り付けたし、カリンCEOにも許可はもらった。
瑠奈。俺の決断を認めてくれ」
ああ。
栄一君はついにここまで踏み込んだか。
私と同じ舞台についに立とうとする彼に、私はどんな顔をしていたのだろうか。
ただ、その時に出た言葉はきっと忘れない。
「おめでとう。
そしてようこそ。こちらの世界へ」
帝西鉄道は第三者割当増資を行う事で経営危機からの脱却を目指すことになる。
そして、帝西鉄道が帝亜グループ入りした事をメディアは面白おかしく伝え、若き後継者である帝亜栄一の名前は一気に世間に広がる事になる。
四国のやきう事情
全国規模の巨人と海路経由で阪神の影響力が強かったりする。
で、広島に応援にといかないのは微妙な郷土愛があってと複雑なのである。
四国アイランドリーグがちょうどこのあたりから盛り上がるのは、この話にある球団売却とそれに伴う移転構想が地方に球団をという動きと交わったという一面もある。
やきうの費用
2003年年俸ランキングを載せておく。
懐かしい名前に時代を感じる。
https://nipponbaseball.web.fc2.com/nenpo_rank/nenporank_2003.html
なお、ここから10年以上現役をするなんて人が出て、とあるゲームのキャラクターについてネット界隈で彼の名前を見る事になろうとは……
帝西鉄道の救済
この時に金を出したのが米国サーベラス・キャピタル・マネジメント。
メディアからはハゲタカとして派手に叩かれた。




