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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
小さな女王様

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一巻発売おまけSS 光也くん コミュSS『選べる未来選べない未来』 2023/11/14 投稿

 喫茶店アヴァンティ。

 光也くんはこの店でよく本を読むか、自習をしている。

 周りの喧騒も音楽も気にせず一人集中して勉学に励むあたり、秀才だなとつくづく思う。

 隣に座り、彼の後ろ姿をなんとなく眺める。

 店員を呼んで、指で紅茶を選択。

 光也くんが気づいたのは私が紅茶を飲み終わってからだった。


「ん?

 桂華院。居たのか?」


「居たのよ。

 光也くんの勉強の邪魔をしたくなくってね。

 お邪魔していい?」


「どうぞ」


 私は席を移して光也くんの前に座る。

 自習が終わると、こうやって声をかけて一緒におやつを食べる。

 栄一くんや裕次郎くんと一緒の事も多いが、今日は私一人だけである。

 そういう時もあるだろうと流して、紅茶シフォンケーキとグレープジュースを頼む。

 光也くんもアップルパイとコーヒーを追加注文する。


「そういえば、光也くんて官僚目指しているんだっけ?」


 設定では知っているが、こうしてその姿を見ると直に聞いてみたくなるのが人情だ。

 光也くんがその道をどうして選んだのか?

 私は少しの興味と話題のネタ振りとしてそれを尋ねる。

 注文の品が来るまでの雑談と悟った光也くんが私の問いに答えてくれた。


「たいした理由じゃない。

 爺様が事務次官まで行き、父も大蔵省に籍を置いているからな、自然と俺も官僚という道を意識したという訳だ」


 職業選択は基本この国では自由である。

 とはいえ、その職業に就けるかどうかはまた別問題だ。

 仕事にはそれにまつわるコネやノウハウというのがつきもので、そういったものが積み重なって仕事が家業になるという事がこの世の中は結構ある。

 さしあたって、光也くんの職業選択は、そんな職業が家業になる過程と言えなくもない。


「うちの爺様は、田舎の貧農出身でな。

 食えなくなって東京に出てきたらしい。

 死んじまったから詳しくはしらんが、色々可愛がってくれたのに怖かったのを覚えているよ」


 そう言って肩をすくめる光也くん。

 大蔵省の事務次官だった光也くんのお爺さまは、そのまま政界に出ることもなく静かに世を去ったらしいが、その葬儀に政財界を中心として大物が顔を出したことで彼の偉大さを光也くんは知ったらしい。

 そんな話を聞きながら、孫という言葉でふと私は気づく。


「もしかして、光也くんのお爺さまって、私のお爺さまと顔を合わせてたのかもしれないわね」


「会っているだろうよ。

 戦後のフィクサーとして名を轟かせていた桂華院公爵だ。

 当時の大蔵省事務次官だった爺様とは色々やりあっただろうな」


 日本の官僚は戦前は内務省が、戦後は大蔵省が力を持つようになる。

 内務省出身だった私のお爺さまと大蔵省事務次官だった光也くんのお爺さまの仲は決して良くなかったのだろうな。

 そんな事を話していたら注文の茶菓子が来たので、少し休憩。

 糖分と飲み物が適度に減った後、光也くんは思い出したようにこんな事を言った。


「華族連中は生まれた血でスタートが違う。

 商人も二代目以降ならば、先代の金でスタート位置をずらせる。

 政治家なんてのは、当落があるが代を重ねれば現代の殿様と変わらん。

 だが、官僚だけは、生まれはともかく、頭さえよければなれるもんだ。

 死ぬ前にも、俺に力説していたな……」


 そのお爺さまはお爺さまで、いろいろ苦労なさったのだろう。

 そして、その苦労に下駄をはかせることができた華族、財閥、政治家連中に色々あったのだろう。

 事実、官僚だけは、特に霞が関に巣食う国家を動かすエリート官僚にだけは、下駄の優遇があれども確実に成れるというものではない。

 帝大法学部を卒業し、国家公務員試験に合格し、血筋の良い魑魅魍魎達と遊びながら同僚を蹴落とす椅子取りゲームの果てに座れるのが事務次官という椅子だ。


「とはいえ、霞が関の官ともなると見えない所で下駄があったりするでしょう?」


「否定はしないな。

 普通の小学生はこういう場所で勉強なんてできないよ」


 喫茶店での勉強は当然何かを頼むという事で。

 それには当然ながら金銭が発生するのだ。

 普通の小学生にとって、一日のケーキセットで千円札が消えるという事は中々耐えられるものではない。


「それでも爺様はそれを実践して見せた。

 だから俺はここに居る。

 それを知って、俺も爺様の座った椅子に座りたくなってな」


 その言葉に強い意志を感じる。

 それを私は何も言わずに残ったケーキを口にする事で賛同して見せた。


「お前はどうなんだ?

 桂華院。

 爺様の言葉を借りるならば、血でスタートが違う筆頭だ。

 そのアドバンテージで何を成すつもりなんだ?」


「さぁ?

 生まれながらの下駄ですから、高みに行くかもしれないし……」


 私は髪を触り金髪を散らしながらグレープジュースを飲むことで、続きを喉の奥に流し込んだ。


(……その下駄で高転びするかもしれませんわね)


 悪役令嬢、桂華院瑠奈は、その設定では高転びする。

 それを許容する覚悟と共に、この思い出は忘れないでおこうと心に誓ったのだった。

内務省

 今の日本でいう所の総務省+国家公安委員会(警察)を足した巨大官庁。

 その巨大さゆえに現実では戦後解体された。


大蔵省

 今の日本の最強官庁。

 予算編成・金融行政・日本銀行という巨大権限を誇っていたのだか、98年の汚職事件で打撃を受けて財務省・金融庁・日本銀行へと分割された。

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― 新着の感想 ―
[一言] jammerするぜ。 霞が関の官僚は公務員試験は完全ガチ。面接は学閥的なものが無くもない(逆に、バラけるように同じ大学から複数名採用するのは避ける傾向)……だったけど、あまりのブラック職場…
[一言] 分割しても汚職まみれな省庁…
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