やきうの時間外だぁ!!
プロ野球再編問題は出火したと思った瞬間から大火事となって炎上し続けた。
これは、球団本拠地がある地域の問題というだけでなく、球団を保有している親会社のPR効果というマスコミ問題にも関わる上に、出火の根本的原因が維持費用の捻出不能という親会社の不良債権処理問題まで絡んでしまっているからだ。
「お嬢様。
お嬢様の所が球団を買うのではと噂されていますが?」
「それはグループ広報に聞いてくださいな。
では失礼」
こんなやり取りが当たり前になりつつある今日この頃。
なお、買うつもりはないが調査は続けている。
理由は裏で動いているらしきスカベンジャーたちの為だ。
「今のスポーツビジネスにおいてこれを最も金に換える事ができる業界ってどこだと思います?」
「メディア業界よね」
岡崎の言葉に私は即答する。
プロ野球を例にすると、開発の目玉として球場を設け、そこへの移動のため列車に乗ってもらうというリターンを得る目的で鉄道会社は球団を保有していたが、バブル崩壊による不良債権と拡大し続ける年俸に耐え切れずに手放す事になったというのが、大まかな流れである。
で、鉄道会社が手放した球団を誰が取得したかというと、新聞社でありTV局である。
なお、日本では新聞社が親会社となってTV局を持っているので、球団所有は二重に美味しいのだ。
試合はナイターで番組となり、その日の夜及び朝のスポーツニュースを賑わせる。
そして、朝には新聞のスポーツ紙面を飾るという訳で、球団維持費用の元を取れるだけのリターンを生むことができるのだ。
少なくとも、この頃のメディアはそうやってスポーツのコンテンツ化を推し進めて流行をコントロールしようとしていたのである。
「で、降って湧いたように見えるこの騒動です。
球団維持に耐え切れない企業は結構あって、これ幸いと手をあげる所がいくつかあります。
それが……」
「ネットを中心とした新興企業という訳でしょ?
うちもその部類に入るのかしら?」
「どうでしょうね。
扱いかねているみたいですよ。
向こうもあっちも」
ITバブルから花開いたIT企業は、途中のバブル崩壊とかも乗り越えて、本格的に始まりつつあるIT社会という時代の波に乗って、莫大な資金をかき集めていた。
そんな彼らも、去年の日銀砲に便乗して莫大な金を荒稼ぎしており、一躍時代の寵児としてもてはやされていた。
岡崎がぼやく。
「まぁ、一番の時代の寵児である桂華がIT企業らしからぬ動きをしていますからねぇ。
俺が言うのもなんですけど、うちの本体どれにするんです?」
「決めなくていいと思うんだけどなぁ……」
「『一家に五人あらば三人は二人に、二人は三人に分かれ争わん。父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に……』ですよ。
まだお嬢様が居て、その初代が踏ん張っていますが、世代交代で家族は他人になってゆくんです。
事実、桂華グループ内部でも、元々の親会社だった桂華製薬を追い出す形になったじゃないですか。
桂華商会、桂華鉄道、桂華金融ホールディングス、桂華電機連合。
どれもこれも、トップを張れる企業です。
仲良しで進むと思えるほどお嬢様もうぶ……いたっ!お嬢様蹴らないで!!」
足に蹴りを入れて岡崎を黙らせる。
中々の足技だが、エレベーターの中だから誰も見ていないはずである。多分。
「まったく。
私、一応大株主なんだからもう少し敬いなさいよね!
とはいえ、そういう言葉を出してくるならば、このビルはバベルの塔かしら?」
「でしょうな。
お嬢様も気を付けてくださいよ。
貴方もバベルの塔の保有者だ。
塔ごと砕かれるのを見るのは御免ですからね」
「そしたら、私と岡崎の言葉が違って話せなくなるかもね」
なんでこんなバベルの塔……じゃなかった、六本木の高層ビルのエレベーターに乗っているかというと、御呼ばれされているのである。岡崎が、ここに本拠を構える町下ファンドから。
という訳で、ここのTV局の深夜TV撮影の見物にかこつけて、岡崎についてゆく事にした。
もちろん、私についてはアポなしである。
「アポイントメントをとっている、桂華資源開発の岡崎だけど?」
「はい。承っておりま……」
入口の受付嬢が私を見て固まる。
少なくとも、天下の町下ファンドともなれば、受付嬢とてできる人間であり、私の事も頭に入っているらしい。
岡崎がフォローに入る。
「うちの大株主が見学したいそうだ。
そう伝えてくれ」
「かしこまりました」
受付嬢が頭を下げて受話器をとる。
その間に入口の監視カメラで私たちの照会は済ませているのだろう。
警備員は入り口に一人とエレベーター前に一人……
「お嬢様。視線がテロリストのそれですよ」
「あら。失礼。
ついつい映画でやってたもので。おほほ」
さっきの仕返しとばかりの岡崎のぼやきに警備員と受付嬢が笑っていいのか困っていいのか分からない顔をする。
受付嬢が受話器を置いてドアを開けた。
「どうぞこちらへ。
代表が、応接室にてお会いしたいそうです」
「ようこそいらっしゃいました。お嬢様。
会ったのはパーティーの時以来だと思うのですが」
「お久しぶりね。町下代表。
たしか桂華電機連合のパーティーの時でしたわね。
たまたま時間ができたので、社会見学に来ました。
岡崎の邪魔はしないつもりですので」
「という事です。
この人後で口を出すかもしれませんが、今回のお相手は俺という事で」
当り前のように岡崎より最初に私に挨拶する町下代表。
豪華な応接室のテーブルには高級ブドウジュースがグラスに注がれていた。
一通りの挨拶と雑談の後、町下代表からビジネスの話を切り出した。
その言葉を予想していなかったと言えば嘘になる。
「率直に言いましょう。
我々と手を組みませんか?」
面白いデータがあったのでのせておく。
巨人戦テレビ視聴率
https://www.my-favorite-giants.net/giants_data/audience-rating.htm
この騒動の時期である2004年、セリーグの力の源泉だった巨人戦の視聴率が完全に崩壊する。
巨人戦があったからこそセリーグ球団はTV露出と金が入っていた時期から脱却して、地域密着型経営をしなければならなかったのだが、結局それに舵をきったのはパリーグ側の方が早かった。
一家に五人あらば三人は二人に、二人は三人に分かれ争わん。父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に……
元ネタは『聖書』ルカによる福音書、第十二章五十一節
知ったのは『機動警察パトレイバー2 the Movie』。
という訳で、『機動警察パトレイバー 劇場版』のバベルのネタも入れてみた。
あの映画の年代は2002年なんだよなぁとしみじみと思う。まさかあの映像を超えるリアルが2001年に起こるとは思っていなかった……




