やきうの時間外だぁ!
どこかのお嬢様が頑張ったので、負債額が半減している設定。
オープン戦がそろそろ始まっているプロ野球。
多くのファンはスポーツ紙を片手に優勝チームを予想したりしているが、今年はまったく違う話題で盛り上がっていた。
球団の経営危機である。
「関西電鉄所有球団の経営危機かぁ。
本体の借金があれだから、よくここまで持ったというべきかしら」
関西の大手私鉄である関西電鉄はバブル期の投資が裏目に出て七千五百億円もの有利子負債を抱えていた。
これだけの金額になると、低金利の現状でも利子だけで本体の儲けが吹き飛びかねない。
結果、必死のリストラを推進し、KDK帝都歌劇団を引き取ったりもした訳だ。
そしてついに球団を手放すまで追い詰められた。
「スポーツ新聞の記者もうるさくなっていますからね。
何人かこちらに張り込んでいますよ」
報告してくれた橘が苦笑する。
桂華グループは買収というか経営危機の企業を救済して大きくなったグループである。
この国の国民への認知度では抜群のPRであるプロ野球球団の買収をしかねないという訳で、橘の近くにスポーツ記者が張り付いたのだという。
「そういえば、鉄道会社って結構球団を持っていたのね?」
「広告としての側面があるのと、球場まで客に自社の鉄道を使ってもらうという意図があったのですよ」
「なるほど」
このあたりのロジックも実は関西が発祥である。
都市郊外の住宅地の造成とそれに伴う鉄道の敷設によって通勤客という需要を押さえ、球団や遊園地というイベント施設を抱える事でレジャー客を鉄道で確保する。
だからこそ、私は顔をしかめて呻いた。
「で、バブル崩壊で莫大な負債を抱え込んだわけだ」
バブルによるレジャーブームでは大手私鉄もメインプレイヤーの一人として土地を買いあさり、それがものの見事に崩壊したことで莫大な負債に苦しむ事になる。
とはいえ、現在阿鼻叫喚のゼネコン業界や死屍累々の物流業界と比べて危機感がなんというか薄い。
それに違和感を感じて財務諸表を見てそのからくりに気づく。
「あー。
本業が黒だからか」
昭和初期から戦争後の私鉄業界は再編や新規などの歴史を経て現在に続いている。
そして、これらの鉄道は減価償却が終わった現在でも都市化によって膨大な黒字を生み出すドル箱路線として鉄道会社を潤していた。
バブル期の大赤字も痛手ではあるが、彼らの時間感覚は文字通り年が違う。
バブルが崩壊してまだ十年しか経っていないのだ。
二十年後には回収できるだろう。それでも無理なら三十年後。本体が黒字ならどうとでもなる。
そんな成功体験がぬるま湯の正体なのだろう。
「ん?
そんな関西鉄道はどうして球団を手放す決断をしたの?
持ち続けてもこれまで通りなら問題ないじゃない?」
「近年の会計の変更に伴い、米国ウォール街の論理がこの国に入ってきたのも大きいのでしょう。
短期保有の株主にとっては四半期の株価が大事であって、十年先など見る事はできません」
橘が達観したように首を横に振る。
うちの桂華鉄道を非上場にした理由がこれである。
桂華鉄道はムーンライトファンドで膨れ上がった利益の利用先という形で先に建設費用を出しているが、巨額の建設費用がかかる鉄道は大体その建設に際しては借金をすることになる。
大手私鉄の各社の有利子負債が大きいのはそんな理由もある。
「実際、帝興エアラインの破綻に伴い、親会社の一つとして株を保有していた東横鉄道では評価損を計上したのですが、株主の一部が株主代表訴訟を起こすと騒ぎ立てました。結局、騒ぎを鎮静化させるために東横鉄道グループの創業者一族が経営の一線から退く羽目に陥っています」
もし、桂華鉄道で東横鉄道と同じような騒動になったら会長である橘の首が飛ぶという事であり、下手したら後任である三木原和昭社長まで引責辞任に追い込まれかねないという訳で。
非公開を決断した橘の先見の明に感心……ん?
「橘。
岡崎に頼んでちょっと調べてくれないかしら?」
「何をでしょうか?お嬢様」
橘の確認に、私は疑念の目を隠そうともせずにそれを口にした。
勘だが、多分いる確信があった。
「関西鉄道の株主に月光帝都興産が居るかと、関西鉄道株主代表訴訟の動きがあるかを」
「ありましたよ。
黒です!真っ黒!!
関西鉄道株を手放した大手株主に探りを入れた所、月光帝都興産およびそのダミー会社の名前が出てきました!」
数日後、私の所にやってきた岡崎は楽しそうに報告する。
もっとも、岡崎の楽しい顔はここまでで、そこから先は疑念を隠そうともしない。
「ただ、妙な事にこれも5%手前でピタッと買いを止めています。
今、大手私鉄各社まで調査を拡大させていますが、出てきた場合こいつらの狙いが何なのか分からないんですよね」
「グリーンメーラーではないのですか?」
橘が岡崎に聞くと岡崎は首を横に振る。
グリーンメーラーとは高値で保有株を買わせる相場師の呼び名で、ドル紙幣の色の緑と脅迫状を意味するブラックメールから来ているという。
後で橘に聞いたがネタ元は案の定アンジェラだった。
「だったら、非効率過ぎます。
大手私鉄各社の株価を考えれば、株式代表訴訟を起こして5%手前の株を高値で買い取らせるよりも、5%を超えて買い進める乗っ取り屋の方がスマートです」
良い例が今は桂華電機連合になっている旧古川通信の殴り合いである。
あれはプレイヤーが入れ代わり立ち代わりしながらもTOBで急騰した株を最後その手の連中が手放したので、彼らはその売却益で莫大な儲けを出すことなった。
そんなルール無用の殴り合いにコバンザメよろしく外馬に乗って荒稼ぎした連中に栄一くん・裕次郎くん・光也くんの三人が居たりするのだが、あの三人あの外馬をあまり誇ろうとしないんだよなぁ。何でだろう?
「つまり、何かを仕掛けているけど、その何かがまだ分からないという訳ね?
わかったわ。
何かあったら、すぐ私に報告して頂戴。
どうせすぐに動きが出るわよ」
私の予感は的中した。
プロ野球は、この一件から売却と再編問題が紙面をにぎわせる事になる。
そして、関西鉄道に次いで球団売却をと手をあげる所が出た。
福岡県に本拠を移した、不良債権処理でグループ企業が絶賛解体途中のスーパー太永である。
やきう
これ、なんJが元らしい。
という訳でリンク。
https://moto-neta.com/net/yakiunojikan/
不良債権処理のラスボスがゼネコンなら、総合商社は隠しボスで、私鉄はDLCボス。
よく処理できたものだと思っていたが、近鉄の財務諸表を見てまだ一兆円近く残っているんだよなぁ……コロナの赤字でどこまで膨れるのやら……
福岡の球団
今の名前に変わるのが2005年。
本当にこの年はパリーグにとって存続の危機だった。
なお、ドームの建設費用がおよそ七百億円。
周辺施設を含めて約千八百億円という超巨大プロジェクトだった。
今でも福岡県民で「あの人(創業者)に足を向けて寝れん」という人が多くいる。
東横鉄道創業者一族追放
グループ内部の建設会社の社長についたのが運が無かったというかなんというか……バブル崩壊直撃で経営危機になり、引責辞任に追い込まれた。
瑠奈「何で自慢しないの?」
栄一(その中央で大暴れして勝ったお前に誇る?俺たちはそこまで恥知らずじゃないよ……)




