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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
虚塔の宴

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銀翼の残光 その4

「そうですね。

 こちらに流れてきている話だと、あくまで『やばい』という所でしょうか」


 帝都学習館学園に講義に来てくれた神戸教授を捕まえて、感想を聞く。

 彼の『こちら』とはマスコミ業界の事である。


「マスコミは帝興エアラインを新しいネタの一つにしか思っていませんよ。

 国民にニュースのネタとして提供してそのまま忘れるいつもの光景の一つです」


「神戸教授がそういうのならばそうなのだろうけど、何か引っかかるのよねー」


 私がもやもやしながら首を傾げるのを見て、神戸教授も面白そうな表情を浮かべる。

 私のもやもやに興味が湧いたらしい。


「具体的にどんなもやもやなんです?」


「それがわからないからもやもやなんですよ」


「では、そのもやもやを分類してみましょうか。

 そのもやもやは良いもやもやですか?悪いもやもやですか?」


「多分悪いもやもやね」


 私の答えに神戸教授がしてやったりの顔を見せる。

 彼の言葉の前に、その質問の意味に気づいて私もはっとしたのだが。


「ほら。これで二つに分けられました。

 さらに質問。

 そのもやもやは、貴方に直接的な害意をもたらすようなもやもやだと思いますか?」


「……それはないんじゃないかな。うん」


 現在でも日銀砲は撃たれており、日米露のマネーロンダリング事件はまだまだニュースとして取り上げられている。

 つまり、何か私に害をなそうとするという事は、そういう報復を覚悟しないといけない訳で。

 狂信者の捨て身のテロあたりはありそうではあるが、それとは違うんだよな。このもやもやは。


「じゃあ、貴方はこのもやもやを放置してもいいと思っていますか?」


「……多分、ノー。

 放置するとろくでもないことになると思っている」


 帝興エアラインの件は放置するとろくでもない結末になりかねず、表なり裏なりで私が関与する事になるだろうなとは覚悟していた。

 神戸教授は三つの質問の後パンと手を叩く。

 質問は終わったらしい。


「三つだけでいいのですか?」


「こういうのは、かえって質問を続けると外れていくんですよ。

 当たらずとも遠からずでアドバイスをし続けるのがコメンテーターとしてのコツです」


 なるほど。

 すごく納得する私に神戸教授は少し考えてそのアドバイスを口にした。


「人間の直感というのは中々馬鹿にできないものですよ。

 で、今の質問で『バッドニュース』『直接的な被害なし』『放置できない』という答えが出てきたわけです。

 貴方がもやもやする訳です。

 表に出るには貴方が出る理由が無いし、裏で動くには貴方は若すぎる」


 すとんと納得する言葉が私の耳を通り過ぎた。

 あのもやもやが実にすっきりしている。

 さすがTVの一線で活躍するコメンテーターである。


「ついでに言うと、既に貴方の周りの人が動いているのでしょう?

 だから自分が動かなくていいのかともやもやしている」


 神戸教授の言葉に素直に首を縦に振る私。

 本当にこの人と出会えてよかった。


「そうなんです。

 凄いです。教授!」


「これは、社長病の一つですよ。

 部下に任せる事ができるか?任せられる部下が居るか?

 その二つがあるならば、貴方はかえって動いてはいけません」


「むぅ……」


 まったくその通りなので何も言い返せない私。

 はたから見るとおもちゃが買えなくて駄々をこねているように見えなくもない。

 なお、その場合駄々をこねて買いたいと言っているのは帝興エアラインになる訳なのだが。


「貴方の特異的な点の一つに、基本表に立てないから裏で動く人を最初から用意して動いてきた。

 発展の際にはリスクもあっただろうが、貴方も裏で動く人もそれを許容した。

 問題は、十二分に大きくなった際に裏の人間がリスクを許容できなくなってきたという所です。

 それぐらい、桂華グループは大きくなった」


 たしか、似たようなことを狸親父……じゃなかった天満橋満桂華商会副社長に言われた覚えがあるぞ。

 あれも、最後は出陣する羽目になったような……


「創業者は出てなんぼです。

 外から見るだけの私は貴方に『出るな』とは言えませんよ。

 だから、こういいましょう」


 神戸教授は己の立ち位置を分った上で、私にアドバイスをくれる。

 生徒として、観察対象として、そのアドバイスは私の耳に届いた。


「出るならば最後にしなさい。

 貴方は華であり主役です。

 出るならば最後の大取がふさわしい」


「まるで、まだ序盤と言わんばかりですね」


「ええ。

 分かっているだけで一兆の負債があり、マスコミがネタとして食らいつくしているこの一件、簡単に終わらせるのは『もったいない』ですよ。

 二幕目、三幕目のどんでん返しがあるだろうし、あるように『繋げる』でしょうね。

 『当事者』じゃないので」


 ああ。

 この人は、ちゃんとアドバイスをくれる人だ。

 そして、私が知りたかった事を理解してくれている人だ。

 私は深々と頭を下げた。


「ありがとうございました。教授。

 このお礼はいつか必ず」


「気にしないでください。

 大取で華々しく出て来る貴方をカメラの向こうで待っていますよ」


 その数日後。

 各紙が一面で報じた帝興エアラインのスクープが、この劇の新しい幕が上がったことを告げていた。

 帝興エアラインの株価はストップ安を記録し、不良債権処理問題から政治問題へと。



『経営再建中の帝興エアラインについて、更なる隠れ債務が発覚したと、内部文書を調べていた国土交通省の調査チームが明らかにした。

 この内部文書は極秘裏に作成されたもので、これまでは旧樺太航空の債務が問題となっていたのだが、旧帝興エアライン側にも隠れ債務がある事が確認できたという。

 これは、B747の減価償却をしておらずに購入時の価格でバランスシートにのっており……』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 落ち着かせてくれた教授にホッコリしてたら爆弾がw
[一言] 大取が大敗に見えて5回くらい見直してしまった(汗
[良い点] 再び経済モノらしくなってまいりました。 [一言]  単純に航空機を減価償却しないというは粉飾スキームで弱すぎるのではと。  メーカーなんかだと、開発費用として計上するのが一手。確か開発費用…
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