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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
虚塔の宴

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六本木の宴の景色

 六本木の名物ビルの最上階。

 ここのパーティールームから明かりが消える事はない。

 多くの人たちが不景気から立ち直ろうとしていた中、いち早く立ち直った勝ち組たちの住処がここなのである。

 そんな住人達の乾杯の掛け声は最近はこうなっている。


「九段下のお嬢様に乾杯!」


 政府と組んで巨大な仕手戦を完勝に導いた九段下のお嬢様こと桂華院瑠奈に乾杯を捧げるのだ。

 彼らの多くはその仕手戦の外馬に乗った人たちであり、桂華院瑠奈というお嬢様がTVとは違う一面を持っている事を知っていた人たちである。

 だからこそ、乾杯を捧げる彼らの内心は一致していた。


(俺もあわよくば彼女みたいな大勝利を!)


 その野心があるからこそ、彼らはお嬢様のその後の行動を馬鹿にする。

 自分ならばという考えが最近の宴の話題であり、次のビジネスの伏線となる。


「しっかし、もったいないよな。

 二兆だぞ。二兆円。

 税金なりなんなり二兆円も支払ってさー。

 あれ、うまくやれば、払わずに持ってこれただろうに」


「だね。

 あげくに、持ち込んだ四兆円を何に使ったかといえば、地方の救済や公共事業とか米国企業の買収とかだろう?

 もっと実入りのいいビジネスはあっただろうになぁ」


「そこがお嬢様もお子様って所よ」


「そう」


「「「俺たちならば、もっと上手く稼げる!!!」」」


 全てを知っていても彼女は子供であり、少女であり、華族だった。

 それゆえに、この勝ち組の宴に彼女は顔を出す必要がない。

 この宴には日本人も外国人もいた。

 そんな彼らに共通するのはギラギラとした野心と金の臭いに鋭い嗅覚。


「あのお嬢様に助けられて外馬に乗った日系金融機関は、その利益を不良債権処理に突っ込むらしい」


「まだ終わっていなかったのか?

 とろいなぁ……」


「終わるものか。

 終わっていた会社に延命装置をつけて生かしていただけなんだからな。

 だが、お嬢様によってもたらされた米国戦時国債と日銀砲で慈雨を得た彼らは、今度こそその延命装置を外そうとしている」


「選挙も大勝利とはいえ党内抵抗勢力に足を引っ張られたから、恋住政権も功績として不良債権処理は大々的にPRしないといけない訳だ」


「せめて派遣法改正が通っていればなぁ……」


「そこは来年の国会に期待するという事で」


 政府は公的資金の投入まで行って経営介入という脅しを使いながら、不良債権処理の最終的解決を急かしていた。

 借り入れが巨額過ぎて元本が払えなくとも利子だけ支払っているならば不良債権とみなさない。

 そんな企業への退場を迫り、不良債権処理と日本の業界再編を狙っていたのは金融庁と経済産業省であり、構造改革を旗印に掲げていた恋住政権であった。

 公的資金を投入し、米国戦時国債と日銀砲という飴まで与えたのだ。

 だからこそ、今度こそ不良債権処理を終わらせると恋住政権は意気込んでいた。

 これは、選挙後に開かれた秋の臨時国会で樺太疑獄と党内抵抗勢力の必死の抵抗で、派遣法改正が見送られたのも大きい。

 樺太特区法を通す過程でどうしても樺太疑獄がクローズアップされて審議時間が足りなくなった事と、その派遣法改正で莫大な利益を得るはずだった桂華グループが乗り気でない事から見送られたという背景がある。

 そのあたりの判断を下した桂華院瑠奈の『優しさ』をこの場の彼らは『甘さ』として嘲笑する。


「まぁ、いいさ。

 あのお嬢様は勝ち続ける事の大事さを理解しないのだから」


「金は金を生むために使わないと。

 どうせ、彼女は最後は誰かに嫁ぐ人間だ。

 ここで終わっても構わんのだろうよ」


「そこから先は、我々がお嬢様に教える番さ。

 一人の勝ち組と百人の負け組に分かれる時代へようこそ!

 技術と知識と世界が因習と経験と国家を駆逐する世界へようこそ!

 金がすべてを支配する21世紀へようこそ!」


「派遣法改正を通して、人切りを加速しよう。

 不採算事業を手放して、もっと収益を出させよう。

 そして、利益は株主に還元させよう!」


 鼻息が荒いのには理由がある。

 彼らの手元には、この国のディスカウントを察した連中から巨額の資金が出資名目で入り込んでいるからだ。

 その金額は莫大なものになっていた。


「まずは航空業界だな。

 大規模再編が起こりそうだが、米国の破綻劇を見たらこの国でも食いつくネタはいくらでもあるぞ」


「不良債権処理は詰まるところ、土地だ。

 時価会計の導入で土地を持っている所が耐え切れずにつぶれるだろうな。

 つまり、大手私鉄も餌だ」


「通信と電機も面白いぞ。

 株式交換による合併が認められるようになったから、業界の整理に動くだろうよ」


「それをコントロールするのがメディアな訳で。

 まずはそこを押さえたいな」


 既にシナリオはできている。

 そのシナリオの主役は彼らで、この国を食い尽くす宴はきっと来年も再来年も行われる。

 彼らはそう信じていた。


「「「お嬢様に乾杯!」」」


 ただ一つだけの間違い。彼らは、盃を捧げたお嬢様こと桂華院瑠奈の前世が、その食われ捨てられた敗者だったという事を知らなかった。

 かくして、喜劇と悲劇に彩られた宴の幕が上がる。

作業BGM

 マドンナ『ラ・イスラ・ボニータ』


 二度と見たくないけど忘れられないドラマの一つに『沙粧妙子 - 最後の事件 -』ってのがあって、そこで流れたこの曲が退廃的で享楽的で聞くたびに思いだす。

 あのドラマに出た柳葉敏郎を知っていたから『踊る大捜査線』で見た時に役が違うのに「出世したなぁ……」と感慨深く。

 このドラマのスペシャルだったかな『沙粧妙子 - 帰還の挨拶 -』の幻の宴は本当に素敵で華やかで虚ろで、この章の作業曲にした理由である。

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― 新着の感想 ―
なるほどヒルズ族……。 いや、全然知らんす。コメント欄で名前が挙がって「そんなのいたなあ」ってなってるだけだけど、それがこんな感じの連中だったか。 デウス・エクス・マキナが自分達には味方してくれる …
[一言] 軍鶏も鳴かずば焼かれまいのになあああ 彼らは未来視を気取るが故に未来を侮り、未来で裁定を下される さて、彼らの最期に観る景色は摩天楼からの飛行か、見知らぬ山中で見上げる車の天井か……
[一言] うわ、完全にディストピア雰囲気。それはそれとした今回の悪役の悪役ぶりは今までの作品の雰囲気と違って、ちょっと露骨すぎる気がします。まあ、現実の六本木族と会ったことがないから判断できませんけど…
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