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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
小さな女王様

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一巻発売おまけSS 栄一くんコミュSS 展覧会の絵 2023/11/1 投稿

「あ。栄一くんじゃない」

「瑠奈か。

 来るかもなとは思っていたが」


 帝亜フィルハーモニー公演『展覧会の絵』。

 協賛桂華グループの東京公演初日。

 要するに、私が聞きたかったからというお願いである。

 こういう時にお金持ちのお嬢様になるものだ。

 生の音楽が気軽に聴ける。


「栄一くん何でいるのよ?

 クラシック苦手なんでしょう?」


「呼び出されたんだよ。

 この手ので一族や重役が出ていなのは問題だろう?」


 それは上流階級の務めみたいなものである。

 初日はこういうコンサートに政治家や華族や財閥関係者を呼んで箔付けするものだからだ。

 興味がないと苦痛なコレも私は好きなので困らないが、苦手な栄一くんにはちょっときついだろう。


「今回はうちの協賛での公演だから、そのあたり私で十分だったのに」


「で、はいそうですかといかないのがこの手の席だ。

 瑠奈も知っているだろう?」


「たしかに」


 そんな事を言いながら会場内に。

 ドレスコードは確認済みで互いに礼装を身に着けての入場である。

 待っている間の雑談とばかりに、栄一くんが私に声をかけてきた。


「これは瑠奈のリクエストと聞いたが、どんな曲なんだ?」


「ロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーの曲をフランスの作曲家モーリス・ラヴェルが管弦楽に編曲したのよ。

 元々、ムソルグスキーの友人の遺作展から見た十枚の絵を音楽にしたもので、その友人の絵も会場内に展示しているの」


 クラシック音楽を楽しむならば、背景を知ると更に面白くなる。

 そういう思いが分かりやすいのがこの『展覧会の絵』である。

 音楽と絵画の両方が楽しめるという訳で、私と栄一君は『展覧会の絵』の展示室に入る。


「へー。

 この画家の絵は散逸しているのか。

 よく集められたな」


「似たような企画が以前あったらしいのよ。

 だからそれをまねたという訳。

 91年。

 まだバブルのころの話らしいわ」


 文化や芸術はそれを担保する経済力が無いと花開かない。

 そういう意味でも、金にあかせて芸術を集めようとしたあの時の日本はたしかに文化の花が咲いたのだ。

 私はそんな事を思っているとき、ふと栄一君がまっすぐに私を見て言った。


「なぁ。

 この手のロシア系の音楽が好きなのは、瑠奈がロシアの血を引いているからなのか?」


 その言葉に私は少しだけ考える。

 血は間違いなくロシア人の方が強い。

 とはいえ、この中に入っている魂は、まちがいなく日本人なのだ。

 だから私はこう答える。


「一応これでも日本人よ。

 こんな姿でこんな髪だけどね」


 たまたま好きだったものが、己の過去と結び付けられる。

 人というのは理由と納得を追求する生き物だとは誰の言葉だったのか。


「ロシアという国もなかなか面白くてね。

 欧州の辺境に位置して、第一次世界大戦の後革命でソビエト連邦に、そのソ連もベルリンの壁崩壊から歴史の中に消え、今も混乱の中にある。

 あの国は国を変えても、ついに皇帝の呪縛からは逃げられなかったのよ」


 悪役令嬢である私の体にはロマノフ家の血が流れている。

 そのロマノフ家は一時は世界の富の十分の一を有していたと言われる皇帝家でもあった。

 この極東の経済国家において花開いた私という金の花は、すでに混乱と低迷に苦しむロシアに伝説と希望として伝えられているらしい。

 実際、世界中に散った『展覧会の絵』の貸し出しに私の名前は恐ろしいぐらいに各国に届き、その背後にはそんな血の伝説がある。


「それに、ロシアの音楽というよりも、私はラヴェルの音楽が好きなのよ。

 ボレロは最初に聞いてその発想と仕掛けに一撃でやられたわよ」


「ボレロ?」


 首をかしげる栄一くん。

 多分知らないのだろう。

 有名な曲だが、その曲が『ボレロ』だと知らないのもクラシックあるあるである。


「今度一緒に聞きましょう?

 15分ぐらいの曲だからすぐ終わるし、何より知らない栄一くんに聞かせてどんな感想を言うか楽しみだわ」


「じゃあ、今度帝亜フィルにそのリクエストを伝えておくか」


 そんな話をしていたら開演時間になる。

 という訳で、ホールに向かおうとしてふとなんとなくこんな言葉が口からこぼれた。


「ねぇ。栄一くん。

 もし、私がロシアの皇女だったとして、栄一くんは私と友達でいてくれる?」


 冗談のはずなのに、その言葉は重たく。

 栄一くんの顔が少し真面目にゆがんだのを私は見逃さなかった。


「馬鹿だなぁ。

 ロシア皇女でも瑠奈はきっと瑠奈なんだろう?」


 そう言って笑った栄一くんの顔がまぶしい。

 私も笑顔を作って、その質問を冗談として流した。


「そういう所、栄一くんらしいなぁ」

「なんだそれは?」

「ほらほら。

 始まっちゃうから急ぎましょう」

「瑠奈!

 手を引っ張るな!!」


 後日。

 『ボレロ』に見事やられた栄一くんは、立ち上がってスタンディングオベーションで感動していた。

 やったね。

展覧会の絵

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%95%E8%A6%A7%E4%BC%9A%E3%81%AE%E7%B5%B5


『ボレロ』

 ラヴェルの傑作の一つ。

 説明するより検索して聞いてほしい。

 15分で凄さが分かる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 愛と哀しみのボレロしか思い浮かばないのは年齢のせいか?、銀英伝もLDで見てたのに。
[一言] 展覧会の絵と聞くと初代プレステの某ゲームを思いだします。OPが展覧会の絵冒頭部のアレンジで、その他のBGMもクラシックのアレンジですよ
[一言]  エマーソン・レイク&パーマの『展覧会の絵』もあるぜよ、と言ってみる^^;  レコードの外周部は音が良く、中心の方はさほどでもない。  そう知ったのが、この辺りだったか。  ただし、そう言…
感想一覧
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