お嬢様のいやがらせ その1 2020/1/13 投稿
多分これで記事のネタは全部使ったはず
『この秋に発足する桂華商会ホールディングスは、副社長人事および専務取締役、常務取締役、執行役員の人事を発表した。
赤松商事・帝商石井・帝綿商事・鐘ヶ鳴紡績の四社経営統合によって誕生した桂華商会は、この四社の上に純粋持株会社を作り、その後各社の事業部を統合する方式を採用している。
今回の人事は、既に桂華商会ホールディングス社長に決定している藤堂長吉社長と天満橋満副社長以外の人事の公表であり、天満橋副社長を入れた四人の副社長は各社から一人ずつというバランス人事だが、専務及び常務の役員は半分が赤松商事から出るという現在のパワーバランスを如実に反映した内容となった。
そんな中、注目を集めたのが岡崎祐一元赤松商事執行役員だ。彼は赤松商事の利益の大半を生み出していた資源管理部の現場指揮官として業界では名が通っており、今回の人事で常務取締役に昇進した上で、子会社の湾岸石油開発社長に就任する事が決まった。
執行役員人事は……』
何をするにしても、体制内部を固めないと話にならない。
そして、体制内部を固めるという事は、人事をどうするかという話につながる訳だ。
このあたりをうまくやれる人間が上に立つ組織は強い。
具体的に言うと、あのおっさんこと天満橋満副社長主導の桂華商会ホールディングスの役員人事とか。
「よくもまぁ、これだけまとめきったわねぇ……」
半ば苦笑しながら私は人事案を眺める。
当然の顔をしているおっさんのドヤ顔が地味にうざいが、それは藤堂の次の社長はこのおっさんであるというのを私も認めざるを得なかったという事である。
「桂華は急膨張して人が居ませんからな。
椅子取りゲームについては楽でしたわ」
なんて私の前で嘯くのだからツワモノである。
そんなおっさんの人事説明は続く。
「基本は赤松商事の線ですな。
副社長人事で横並びを意識させて、その下の役員連中は露骨に赤松側に寄せています。
藤堂はんが社長なのを利用して、いずれ会長に。
その下で社長をやらせてもらいますよって、よろしゅうに」
ここのからくりは代表権を藤堂が握ったままで、社長がお飾りというのがポイント。
もちろん、このおっさんにそのままお飾りで終わるつもりはないが、藤堂の長期政権下でいずれ社長に就いてもらう岡崎の道を整備したあたりポイントが高い。
「資源管理部を独立させて、湾岸石油開発とくっ付けます。
岡崎はんは、執行役員から常務取締役に上げて、この子会社の社長になってもらいましょ」
組織のないムーンライトファンドの問題だが、湾岸石油開発にくっ付けることで形を用意した。
その上で、問題になっている日樺石油開発の救済についても検討するというサインを出して経済産業省に恩を売った。
なお、検討すると言っただけで、救済するかどうかは別問題。
日樺石油開発に隠れている不良債権を表に出さないとこっちの丸損だからだ。
岡崎が社長になるまで、常務取締役から専務取締役を経ておそらく数年から10年。
藤堂の長期政権下で組織が緩むから、後半藤堂を会長に上げてワンポイントとしてこのおっさんが社長に就いた後で岡崎へというバトンの流れになる。
「けど、赤松側がよく承知したわね?」
「そこはそれ。
いろいろと手はありましてな」
このおっさんの社長就任予定すら本来ならば赤松商事側はいやだろうに。
けど、組織の急拡大で藤堂の下がまだ若い岡崎しかいないという事で椅子に座れるタイミングができてしまい、それをこのおっさんは逃さなかったという事だ。
「桂華金融ホールディングスは未だ一条が抑えている。
桂華電機連合はカリンが掌握したみたい。
桂華鉄道も無事に引き継げた訳で、一応中については固めた形になるかしら?」
「会社の方はしばらくは大丈夫でっしゃろ。
問題は会社外の方でしょうな」
「だから私はこんな場所に来ているのじゃない」
エレベーターで会場に下りてゆく。
今日のパーティーは、桂華グループの社長会である鳥風会の財団法人化を祝う宴席である。
発覚した華族への資金提供やメセナ事業の一元化を名目に、金の流れを抑えるのが目的である。
同時に、義父様である桂華院清麻呂公爵に理事長を務めてもらう事で、桂華院家側の人たちを黙らせる事も狙っている。
「そういえば聞いとりませんでしたな。
嬢ちゃん。
こない急いで体制固めて、あんた何をするつもりなんや?」
ここで一旦別れて、このおっさんは先に会場に入る。
私は主役という事で、後から見せ付けるように入るので、このおっさんに私の意図を簡単に伝えることにした。
「そうね。
強いて言うならば、いやがらせかしら?」
『桂華院清麻呂公爵が理事長を務める財団法人鳥風会の設立パーティーが都内九段下の桂華ホテルにて行われた。
この鳥風会は元々桂華グループの社長会であったが、桂華グループのメセナ事業を統括担当するために財団法人化されたものである。
これに伴って、桂華グループ諸企業が個々に行っていたメセナ事業は全てこの財団法人を通じて行われるようになる。
また、この鳥風会はその設立資金として桂華金融ホールディングスの株式10%、桂華岩崎畑辺製薬の株式20%が使われるなど、桂華院公爵家の資産管理団体としての側面もある。
このパーティーでは、桂華院瑠奈公爵令嬢が「大地讃頌」を歌い……』
社長と会長
社長が社内を仕切り、会長が財界の仕事をするなんてのが日本企業の慣例としてあった。
社長で実権を握ったまま会長にスライドして、長期政権というのも日本企業あるあるである。
なお、社長と会長で具体的な仕事の差というのは明記している訳ではない。
代表権
代表取締役で法的にはこれを持っている人が会社のトップである。
よって、社長と会長がある会社でどっちが代表取締役なのかを見れば……両方持ってることがあるから厄介なんだよ……




