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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
ピカピカの中等部編

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父と息子男の会話

 後藤光也の家は都内の高級住宅地にある。

 祖父の代からの官僚一家な彼の家は、桂華院瑠奈や帝亜栄一や泉川裕次郎に比べたらまだ一般人に近いという所だが、その一般人から見れば彼もまた上流階級の人間である事は否定できない。


「傘を持っていってあげて頂戴」


 光也の母からそう頼まれて、後藤光也は駅前へ父を迎えに向かう。

 大蔵省改め財務省主計畑のエースとして順調な出世を続ける父がタクシーを使えない訳もなく、つまり傘を持ってこさせるという理由で光也と話がしたいのだろう。

 そんな事をぼんやりと考えながら雨の夜の街を歩く。

 几帳面な性格な父は既に待っていて、光也を見付けると手を振る。


「すまなかったな。

 傘を持ってこさせて」


「いいよ」


「折角だ。

 何か食べていこう。

 あいつには既に電話で言っているから大丈夫だ」


 そんなやり取りのあと駅前のファミレスに男二人して入る。

 二人が頼んだのはサーロインステーキセット。

 店内は夕食の時間帯な事もあって家族連れや、カップルで賑わっていた。


「結構食べるんだ?」

「ああ。

 体力勝負な所があるから、食わないとやってられん。

 泊まる時は大体肉料理だからあいつも最近うるさくてな」


 官僚が、特に高級官僚が定時で帰れることはまずない。

 色々な陳情が、色々な折衝が、常に彼らを待ち受けているのだ。

 煙草は手放せず、吸おうと取り出して禁煙席である事に気付いて父はポケットに戻す。

 そんな当たり前の仕草がなんとなく面白くて、光也は笑った。


「よかったら喫煙席に移動しようか?」

「いや、いい。

 お前がもう少し大人なら、酒の味を覚えさせる所なんだがなぁ」

「煙草は?」

「健康に悪いと分かっているが、無いとやってられん。

 仕事というのはそんなものさ。

 どうせ嫌でも味わう時が来るのだから、それまでとっておくといい」


 ウェイトレスがサーロインステーキセット二つを持ってくる。

 サラダとコーンスープとライス付き。

 二人は当然のようにナイフとフォークを用いて食事を始める。


「なぁ。光也。

 お前、将来は何になるつもりなんだ?」

「一応父さんと同じ官僚をと考えているけど?」

「そうか。

 嬉しくないと言えば嘘になるが、お前はお前の人生を自分で決めていいんだぞ」

「何か言われたの?」


 食事は進みそんな会話を食べながら父と息子は話す。

 和気藹々とは程遠いが、それでもほんのりと温かいそんな空気の中、父はナイフとフォークを置いて窓の外に視線を反らせた。


「まぁな。

 省益を考えるようにと上からそれとなく諭されたよ。

 お前を男と見込んで、大人としてこれを話す。

 この言葉は男と男の、父と息子の会話だ。

 それだけは忘れないでくれ」


 それで察しないほど光也も子供ではなかった。

 省庁再編で大ダメージを負った財務省はその勢力回復と組織防衛に必死になっていた。

 改正日銀法で旧大蔵省の影響力は劇的に低下し、金融庁に金融行政を持っていかれ、大蔵省の名前すら維持できなかった財務官僚たちはなんとしても復権を、汚名返上を考えていた。

 そんな中新星のように登場した恋住総理は大蔵族議員であり、泉川副総理がまとめていた財務官僚や財務族の力を奪いに掛かっていた。

 泉川副総理の息子である泉川裕次郎と友人関係にあるだけでなく、その泉川副総理のスポンサーである桂華院瑠奈とも友人関係にある光也は、それ故に父が泉川派財務官僚という目で見られているのだという事を悟る。

 官僚の出世は減点主義である。

 そして、政治家に近ければ近いほど敵対政治家を生み、その敵対政治家によって減点を食らうのが官僚である。

 父の出世に暗雲をもたらしているのが自分であるという事を言った上で、好きにしろと父は言った。

 それは、父が息子の為に出世を諦めるとも言っているに等しい。


「いいの?」


「いい訳あるかっ!」


 思ったより大きな声だったらしく、ファミレスの客が二人の方を向き、そしてまたそれぞれの会話に戻る。

 さすがに恥ずかしかったのか、しばらく経った後で、父は本音を淡々と告げる。


「父みたいに事務次官になるんだと志し、それに全てを注いだ。

 あの不祥事も省庁再編も乗り越え、今も先頭を走っている俺の失点になり兼ねないのが出来すぎた息子と来たもんだ。

 最初は怒り、次に悩んださ。

 『俺の人生は何だったんだろう?』ってな」


 つまり、ここに来るまで相当の葛藤があったという事。

 そして、ここで明かすという事は、旗幟を鮮明にしなければならない所まで父が追い詰められているという事。

 光也はあの成田空港での桂華院瑠奈の大立ち回りだろうなとうっすらと当たりを付けた。

 あれの治安出動で国会は荒れ模様になっており、立憲政友党内部の反恋住総理勢力が泉川副総理を焚き付けて恋住総理を倒そうという動きを見せていたのである。

 解散風が吹く中、光也の父も選択を迫られていた。

 そして、父は息子を選んだ。


「それでも、俺はお前を息子に持てたことを誇りに思う。

 俺には出来すぎた息子だからな。

 知っているか?

 お前が稼いだ金は俺よりも多いんだぞ」


「何で知っているの!?」


「財務省の主計のエースを舐めるな。

 それぐらい探れるコネがないと上に行けるものか」


 財務省の力の源泉は税金徴収と予算作成。

 税は企業からも取り立てるので、当然そっちの方にも詳しくなる。

 そっちの連中は財務官僚でいう所の主税畑という。


「ここで出世レースから外れても、審議官ぐらいまでは行ける。

 そこから適当に天下って終わっても、お前の友人であるお嬢様が何処か椅子を用意するみたいだしな。

 お前が関わっている会社は、経済産業省の連中が学生ベンチャーのモデルとして目を付けている。

 お前の未来をふいにしてまで俺は出世したくはない」


 そして、食後のコーヒーを父は口にする。

 晴れ晴れとした顔は食事に満足した顔ではない。


「ああ。

 やっと言えて楽になった。

 だから、光也。

 がんばれ」


「……うん」


 食事を終えると、雨は小ぶりになっていた。

 その言葉は、なんとなく彼女が見ていたアニメの言葉で、彼も気に入っていた。


「……『雨の中、傘をささずに踊る人がいてもいい。自由とはそういうものだ』か」

「誰の言葉だ?」

「さあ?

 けど、いい言葉でしょう?」

「そうだな。

 どうだ?

 その言葉に従って傘をささずに歩いて帰るか?」

「いいね。

 父さん。

 じゃあ、踊るように走ろうか?」


 もちろん、このあと雨が土砂降りになって二人共びしょ濡れで帰る羽目になり、母から呆れられたのは言うまでもない。

 おまけに風邪を引き、学校を休んだ翌日にカルテットの面子に呆れられたのも言うまでもない。




「桂華院。

 父に対する天下りの斡旋は遠慮してくれ」


「ちょっと待って。

 なにそれ聞いていない!?」




 まさかこの風邪で日本の暗部で蠢いていた何かが露見するなんて思ってなかったので、馬鹿になって風邪を引くのも悪くないなと光也は思った。

 もちろんそんな事を口に出すつもりは毛頭ないのだが。

ファミレス社会学

 あれ不思議なもので、そのファミレスを見るとその地域の社会が見えてくる。

 学生街だと夜でも騒がしく、高級住宅街だと昼にセレブの奥様がたむろしていたり。

 昔、ネットカフェの無い貧乏旅行をやった時、24時間のファミレスに逃げ込んで夜を明かした事が。

 その時の教訓として、ガストに逃げるより、ロイヤルホストの方が安全であるという事。

 ガストはTVとか据え付けられて、暇つぶしには最適だったんだかなぁ……


財務省のダメージ

 『円の支配者』(リチャード・A・ヴェルナー 草思社2001年)

 日本銀行と大蔵省の関係について書かれた一冊。

 ただ、この時期の日銀は速水総裁から福井総裁への移行……あー。そうなるのか。うん。

 小泉政権、本当に要所で選択をしてやがる。



アニメ

 『THE ビッグオー』。

 OPが好きで適当に見ていたのだが、最後は力技だよなこいつ。

 なお、セカンドシーズンが出ているのをこれを書くために調べて知った。

 ついでにいうと、このアニメで覚えた言葉の元がゲーテというのも今知った。


10/25

 感想から、ゲーテじゃないと指摘をうけて修正。


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― 新着の感想 ―
[一言] その内タバコなんて吸えなくなる。 自分らで作った法を守れない人間も多いみたいだがw
[一言] 作者はスカイ・ラークの世代で無くガスト世代なんですねぇ
感想一覧
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