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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
ピカピカの中等部編

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狸親父のギャンブル心理学 その1

ここには関西系の人も多いので怪しげな関西弁は直してくれると信じている。

「ぶぶ漬けですがどうぞ」

「おおきに。

 ほな、おかわりも貰うてよろしいですかな?」


 私の控室での一コマ。

 分かってやっているジョークである。

 集められたのは、橘、一条、藤堂、岡崎に監視役であるメイドのエヴァ。

 つまり、今の桂華グループの中枢がそろっているのに、このおっさん堂々と茶漬けを食べている。


「うまいですな。

 あとは漬物とお茶があったらなおよろしいかと」


「エヴァ。

 調理室に漬物とお茶を頼んで頂戴。

 で、そっちのお話、ぶぶ漬けの代金ぐらいにはなるのでしょうね?」


 ジト目の私だが、お子様が背伸びしている感じにしか聞こえないのが難点。

 こういう時のハッタリがこの手のタイプに効きにくいのが辛い。


「桂華商会だけやのうて、桂華金融ホールディングス、桂華電機連合、桂華鉄道。

 つまり、桂華グループ全体を巻き込んだクーデターが起こりそうなんですわ」


 想定していたより規模がでかい。

 その理由を天満橋満は茶碗と箸を置いて諭す。


「桂華の嬢ちゃん。

 あんたはまだ若い。

 せやから、博徒として総理にやられるんや」


 きょとんとする私。

 というか、なんでここで恋住総理の名前が出てくるのだろう?

 首をひねる私に、このおっさんはポケットからサイコロを2つ取り出す。

 用意していたのだろう。


「さぁ。張りなはれ。

 丁か半か?

 嬢ちゃんの掛札はまだたんまりあるさかいな。

 今なら、帰っても寿司で凱旋や」


「っ!?……そういう事か……」


 こういう時に勘付くのはやっぱり岡崎だった。

 なんとなく悟る。

 岡崎が色々経験を積むと、たぶんこのおっさんのようになるという事に。


「お嬢様。

 お嬢様は恋住総理に負けました。

 それは理解していますね?」


「ええ。

 見事に完膚なきまでに負けたわ。

 それがどうしたの?」


 岡崎は煙草を咥える。

 火はつけないが、口に咥えることで落ち着きたかったのだろう。

 ライターを持とうとして慌てて自制する岡崎。


「負けたことで頭を冷やす機会が与えられたという事ですよ。

 しかも、負けたとは言え、それまでの勝ち分は膨大だ。

 お嬢様。

 お嬢様はそれでも全額博打に打ち込むでしょうが、外ウマの連中はそれをどう捉えるでしょうね?」


 それで全員がはっきりと認識する。

 負けたから、クーデターではないのだ。

 勝っているからこそ、手を引かせたいという形でのクーデター。


「嬢ちゃんに助けられた恩はある。

 せやから言うて、その嬢ちゃんの博打に己の人生賭けるほど酔狂な連中は、桂華グループ全体でも一握り。

 今、起こっているのはそういう事や」


 少人数運営の弊害がここに来て露呈しようとしていた。

 まだ全勝しているならばその熱狂で引っ張って行けただろう。

 だが、恋住総理に頭を押さえられた結果、その熱狂が解けてしまったのだ。


「ギャンブルは勝ち逃げが難しい。

 一条も言っていたわねぇ」


 一条の方を見ると一条も苦々しそうな顔になる。

 私に勝ち逃げを勧めたけど、一条は私と一蓮托生を選んだからそれ以上は言わなかった。

 けど、桂華グループは一条みたいに覚悟を決めた連中ばかりではない。


「ここで帰れば、わいらは勝ち逃げや。

 お土産に寿司買うてタクシー乗って、おもろかったなぁでしまいの話やね。

 せやのに、賭け主の嬢ちゃんが居残ってしもたら、賭札全部握られとるわいらも帰られへん。

 ほな、なんとかして嬢ちゃんを止めんと、と動くのは当たり前でっしゃろ?」



(中が寄せ集めの上、危機を脱しただけでなく、しばらくは遊んで暮らせるだけの銭もあります。

 何を無理をする必要があるのです?

 帰りましょうよ。お嬢様)



 ああ。

 パンピーの人たちの思考が手に取るように分かる。

 これが、一万二万なら好きにさせて仲良く夜の帰り道を罵声を上げながら歩くというのもありだろう。

 だが、彼らの手には百万、二百万の大金が握られている。

 クーデターを煽っている連中の取り分は、あの幹部連中だから一千万、二千万という所。

 そんな彼らがハラハラして見ている私は兆を博打にぶっ込んでいる訳で。

 あまりに急膨張した組織の歪みが反応する。


「桂華金融ホールディングスと桂華電機連合なんか分かりやすい動きしとりますな。

 嬢ちゃんが外人さん連れてきた事で、国内の連中が排除に団結しようとしてますわ。

 桂華鉄道は西と東でいがみ合うとりますが、あれはそのまま新幹線に繋がっとります。

 まぁ、新幹線は国策事業やから、最後は国に尻尾振らなあきませんが。

 で、わいの居る桂華商会は未だ椅子取りゲームの真っ最中でんな。

 強権を発動して粛清せぇへんかったツケが、ここに来て足を引っ張ってますねん」


「まるで今粛清しても遅いというような口ぶりですな。

 天満橋さん」


 彼の上司である藤堂が厳しい声を出すが、おっさんはどこ吹く風とその笑みで周囲の敵意を下げる。

 これは傑物だ。


「クーデターが同時多発で起こってしもたら、おたくらだけで抑えきるんは無理でっしゃろ。

 桂華グループの事業再編でも要の桂華金融ホールディングスで勃発したら、嬢ちゃんも桂華グループもおしまいですわ。

 一条さんが他所から持ってこざるを得なんだのは知っとりますが、中の人間にもう少し胸襟を開いて話すべきでしたな」


「地銀出身の若造の話を、誰も聞かなかったのですよ。

 悲しいことに」


 株式会社である以上取締役会が意思決定を行うのだが、そこでの一条は基本的に地銀出身の少数派であった。

 それでも運営を滞りなく続けられたのは、私の代弁者という後ろ盾と大黒柱のムーンライトファンドにアクセスできる数少ない人間だったからである。

 そのムーンライトファンドが桂華商会に移動し、私を引きずり下ろすとなれば、もはや取締役会は一条の顔色を窺う必要はなくなる。


「けど、どうして今なのよ?

 一条を引きずり下ろしても、私は株主総会でこっち側の人間を送り込むだけなのに」


「お嬢様。お忘れですか?

 今、国会で何が審議されているのかを」


 黙っていた橘の一言に、完全に茫然自失になる私。

 そうだった。

 綺麗にそれを忘れていた。


「公的資金注入……」


「五和尾三銀行の取り潰しが目前に迫っている今、不良債権処理が終わっている桂華の内紛は鴨がネギを背負って来るようなものでしょうね」


 呆然と呟く私に、一条が補足という追い打ちを掛ける。

 公的資金注入は不良債権処理を進めるための資本増強という形で、全メガバンクに一斉に注がれる。

 そして、不良債権処理が終わっている所は、『これいらないからお返しします』という形で返還するのだ。



 だが、その返還を決める取締役会が使い物にならなかったとしたらどうなる? 



「それでも、ムーンライトファンドがあれば、まだ……」


 文字通り、私の心臓であるムーンライトファンドはこれでもまだ無事である。

 だからこそ、それを使って逆転をという私のあがきを、天満橋満は容赦なく一撃で仕留める。

 間抜けな顔をしているが、狸は獰猛な肉食獣なのを忘れていた。


「せやから、クーデターやろうとしとる連中は、お父君の桂華院公爵を担ぎだそうとしてまっせ。

 嬢ちゃん。

 あんたを押し込めるために」

 彼らに天下国家なんてものはない。

 ただ、今握っている大金を家に持って帰りたいだけなのだという話。



総理の仕掛け

 断言するが、総理はそこまで考えている訳ではない。

 ただ、あの時の小泉政権時、敵対者の自滅パターンってのはこれがものすごく多いのだ。

 まるで、時代が総理に代わって敵対者を潰すみたいに。


公的資金注入

 この公的資金は優先株や劣後債になるのだが、こいつらは株式として株主総会で物が言えるようになる事もあるのだ。

 つまり、瑠奈の持つ株式以上の公的資金をぶちこんて株式化してしまえば、合法的に乗っ取れるという訳。


押込

 主君押込。

 武家社会におけるクーデターの一種で、重臣たちが大名を監禁してしまう事。

 江戸時代だと、大名の素行不良はそのまま改易の危険があるので、監禁してその間に後継者を探してという事が結構あった。

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公爵簒奪イベントの強制発動かな? そして小泉にガチモンの敵対する可能性が出てきたと?
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