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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
ピカピカの中等部編

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桂華金融ホールディングス桂華グループ財務把握プロジェクト室の日常

別名 財務のデスマーチ

「お先ー」

「おつかれー」

「おつかれさまでーす」

「交代おねがい」


 桂華金融ホールディングス、桂華グループ財務把握プロジェクト室は24時間明かりが消える事はない。

 あまりに急激に膨れ上がったグループの財務把握は、常に崩壊し続けていたのである。

 主にお嬢様のお買い物のせいで。

 しかも桁がでかいから、そのたびに財務担当が発狂しているという事をお嬢様は未だ知らない。


「しっかし、終わらないよなー」

「赤松商事・帝商石井・帝綿商事・鐘ヶ鳴紡績……、帝商石井と帝綿商事は百歩譲るとしてなんで鐘ヶ鳴紡績を買ったんだよ、粉飾がひどくて未だ全貌が見えん……」


 モニターを見ながら亡霊のように呟く行員たち。

 彼らは桂華金融ホールディングス内部で使える行員だからこういう部署に配属されているが、できが悪い行員たちを財務把握を名目に、これらの会社に出向させてリストラしているのも事実だったりする。

 肩たたきの首切りよりはましだろうが、急膨張中の桂華グループの影の面。


「金については困りはしないのがたち悪いよなー」

「桂華グループ、やっている事が鐘ヶ鳴紡績と変わらないのがまた……」


 鐘ヶ鳴紡績は化粧品部門の圧倒的利益を他部門に移すことで体裁を繕っていた。

 それが積み重なり、他部門存続の為に化粧品部門は粉飾に手を付ける羽目に陥った。

 事業再編に伴い、全貌を把握しないとそれぞれの部門を再編成できない。

 そのためにも財務諸表をきちんとする必要に迫られたのである。

 桂華グループが鐘ヶ鳴紡績と違うのは、圧倒的利益で粉飾にまで手を出さなくていいという所だろうか。


「赤松商事も赤松商事で厄介なんだよなぁ……」

「資源管理部が完全にパンドラの箱なんだよ。

 しかも、桂華グループが生み出す利益の大半があの資源管理部が絡んでいるから文句も言えん」

「桂華グループを支えるムーンライトファンドの中枢があそこだからな」


 会計が時価会計に移行すると同時に連結決算の導入が決められ、連結決算重視の流れが始まろうとしていた。

 その激変に対応しようと日本の各企業が必死になる中、桂華グループではお嬢様のお買い物による急膨張が続いており、グループ各社の財務担当を発狂させているのである。


「そろそろあのお嬢様に連結決算について説明したほうがいいんじゃないか?」

「わかってやってるに決まっているだろう。

分かんなくてうちの不良債権処理をやったのなら、かえってそっちの方が怖いぞ!」


 ここに居る連中は、桂華グループが桂華院瑠奈の個人商店であるという事を知っている。

 会社を救済してくれた恩もあるし、いずれ出世街道に乗ることが約束されている顔ぶれでもある。

 それに感謝の念を忘れたことは無いが、修羅場の最中にある今を罵る彼らの心中はきっとこの一言に集約される。


『それはそれ。これはこれ』


「けど、政府がうちを上場させようとすると、ムーンライトファンドは絶対に問題になるぞ」

「だよなー。

 あれ、意図的に組織を作っていないから、絶対につっこまれるよな」

「多分上は赤松商事に移して時間を稼ぐつもりだろうが、連結会計だとそれもバレるからなぁ」


 桂華商会、桂華鉄道、桂華電機連合という巨大企業のメインバンクになる事で、上場後の桂華金融ホールディングスの収益源となる予定である。

 後は北米の成功から日本でも実行するネットバンク事業と、カード事業、金融機関として抱えている日本、米国、ロシア等の国債である。

 それでも予想される収益は他のメガバンクより低い。

 ゆっくりとしたリストラで人件費が高止まりし、財布を圧迫しているからだ。

 その上で、桂華グループの資金源であり、桂華金融ホールディングスの生みの親であるムーンライトファンドを手放す事になる。

 株式上場によって桂華金融ホールディングスは普通の会社になる事を求められ、本当の力が露呈する事を意味していた。


「一応メガバンクではあるが、生き残れるかというと微妙だよな。うち」

「破綻しかかった下位都市銀行と地銀の集合体だからなぁ」

「財閥系と安定感が違うよな」


 時価会計に連結決算の導入と同時に始まったのがペイオフである。

 銀行破綻時、一千万円とその利子分しか保護されないというもので、大口預金者は右往左往している最中であった。

 昭和金融恐慌時、相次ぐ銀行破綻の結果財閥系の安心感から財閥系銀行に預金が集まり、財閥の力が強まったという歴史がこの国にはある。

 そういう記憶を忘れていない連中が、己の預金を財閥系銀行に移しだしていた。


「やっぱり、くっ付けられるか?」

「だったら、桂華ルール適用で問題ないだろうに。

 上場させる上でくっ付けるって意味分からんぞ?」

「やっぱり、穂波と五和尾三?」

「だよなー」


 バンと扉が開いて、血走った行員が書類を投げ捨てて叫ぶ。


「あのお嬢様やりやがった!

 ズガガガ・エンターテイメント社を買うって!!」


 机に突っ伏し、書類が宙を舞い、悲鳴と怒号が響く桂華金融ホールディングス桂華グループ財務把握プロジェクト室。

 もちろん、交代人員も同じ奇行をやったのは言うまでもない。

 そして、そんな奇行をお嬢様は知るはずもなかった。

 今の企業会計は、『金が消える』だけでなく『どこからか金がやってくる』事についてもちゃんと説明が求められる。

 多分、財務と会計監査法人はお嬢様を叱っていいと思う。


連結決算

 連結から外す事で損失を隠せる、連結から外す事で利益を隠す(税金逃れ)というのが理由。

 なお、この連結決算を十二分に駆使したのが総合商社だったりする。


あっこ

 方言だったのか……

 だとしたら西なのは分かるのだが、関西・四国・九州のどこだろう?

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