私の髪が金髪な訳 因果応報編 その4
目が覚めると、私は縛られて暗い場所に閉じ込められていた。
結構大きな箱という感じだろうか?
今更だが、恐怖で体が震え………ない。
薬か何かで体が動かなくなっていた。
目隠しをされ猿轡をされているから声も出せない。
私に付いていた護衛の人が見当たらない。
恐怖に怯えるのを我慢して、私は考え続ける。
一つ分かっている事は、内通者が居るという事。
そうでないとここまで綺麗に私を攫う事なんてできない。
次に私の身柄が必要だという事。
ムーンライトファンドだけを狙うならば、私の身柄はむしろ邪魔になる。
保有者である私が死んだ場合、桂華院一族に配分ということになるだろうからだ。
それをせずにこうして捕らえている理由は一つ。
ロマノフ家の財宝だろう。
使った事もない財宝伝説が私の生存を担保していた。
更に気付いたことがある。
エンジン音と振動。
おそらくはまだ『アクトレス』号の中に居る。
そうなると、まだ救出のチャンスは有る。
同時に、私の捜索は秘密裏に行われているはずだ。
事が露見した場合、桂華院グループにも、パーティーの主催者である泉川大蔵大臣にも政治的ダメージが行く。
クルーズ船という密室がこの状況を作り出していた。
「すいません。
気分が悪くなって酔い止めが欲しいんですけど」
!?
その声は栄一くんの声だった。
「僕も」
「同じく」
裕次郎くんと光也くんの声も聞こえ、三人が囚われていない事に安堵した私が居た。
という事は私が囚われているのは医務室か?
なんとか連絡をしないと。
私は体を動かそうとするが、きつく縛られていてなかなか音を出すことすら難しい。
「できるだけお静かに。
ここには、ベッドで寝ている人が居るんですからね」
医務室の医師だろうか。
彼の注意に黙る三人と思ったら、裕次郎くんの声が聞こえた。
「ところで、桂華院さんを知りませんか?
お手洗いから戻ってきていないんです」
「女性には色々あるんです。
会場で待っていれば、きっと戻ってきますよ」
「そうなんだ。
しかしお医者さんも大変だな。
急に出た病人のために医務室に篭りっぱなしなんだから」
栄一くんの声に医師は苦笑する。
「それが仕事ですからね。
はい。酔い止めです」
ことんと何かが落ちる音。
ゴミでも捨てたのだろうか?
「ありがとう。
ここは元倉庫みたいだな。
ネームプレートがそのまま貼ってあったし。
慌ててベッドや医薬品棚を置いているし」
「このパーティーの為に急遽呼ばれましたからね。
私は桂華グループのお抱え医師なんですよ」
なるほどな。
閉じ込められているのは倉庫か。
問題なのは倉庫のどこかという事なんだが。
「薬ありがとうございます。
コップはここに置いておきますよ。
ちなみに、ぼくたちはどれぐらい船に乗っていないといけないんですか?」
光也くんの質問に医師は何か紙を取る音の後で告げる。
「パーティーが終わるのが後一時間だからもう少しの我慢だね」
「あ。
それ違いますよ。
父がクルーズをもう少し楽しみたいからって、二・三時間ばかり延長するそうです。
父が船長にそれを話していて、僕たちは酔いが我慢できなくなる前に酔い止めの薬をと」
医師の言葉に主催者の裕次郎くんがあっさりと訂正する。
何かを飲む音の後、遠くからドアが開く音がする。
「ありがとうございました。
先生もお仕事がんばってください」
栄一くんの声を最後にドアが閉まる。
しばらくして聞こえて聞た会話は驚くべきものだった。
「どうするのよ!
あと二・三時間も探されたら、隠しきれないわよ!?」
護衛の女性の声。
なるほどな。
内通者は彼女と医師だったか。
「落ち着け。
万一に備えて、小型船が待機する手筈になっている。
いざとなったらそっちに彼女を渡してしまえばいい」
それまでに助けて貰えるのだろうか?
それとも、その小舟に乗った後私は何をされるのだろうか?
恐怖がどんどん膨らんでゆく。
ジュッとした音がしたのはそんな時だった。
「煙がっ!?」
「動くな!警察だ!
誘拐の現行犯及びその他の容疑で逮捕する!!」
その声は前藤正一警部。
ドタドタと騒がしい音がしたので彼の部下の公安が数人で鎮圧したのかもしれない。
「ありました!
ベッドの下に床下収納!!」
開けられた音と共に目隠し越しに光が届く。
「発見しました!
お嬢様は無事です!!」
拘束を外され、視界が開けた時に見えた三人の姿を見た瞬間安堵と共に目から涙が止まらなかった。
「申し訳ございません。
お嬢様をこのような危険な目に遭わせてしまい……」
謝罪をする前藤正一警部だが、私が捕らえられた時点で容疑者として医師については目星を付けていたらしい。
彼は桂華グループのお抱え医師だが分家一族に連なる家で、その家は事業の失敗でかなりの借金を抱えていたのである。
護衛の方はハニトラに引っかかっており、更に桂華院家内部にも動いていた家がある事が暴露される事になった。
で、私を攫う場合、必ず付いて回る護衛が一番怪しく、負傷した護衛が休む医務室を船の設計図で確認したら床下収納を見付けて確信したそうだ。
私の居た床下収納の上にベッドが置かれ、そこに負傷した護衛が休んでいたのだ。
「分かったけど、何で三人が医務室に入ってきたのよ。
危なくない?」
「危なくなかったさ」
私の疑問に栄一くんが、自信満々に言い切る。
その仕草が未来の彼と被る。
「ロマノフ家の財宝なんて大金を狙うならば、ここで俺たちを狙うリスクは避けるだろう?
こっちにとって、お前を人質に籠城される方が厄介だったんだ」
続いて裕次郎くんが笑みを浮かべて私を安心させるように言う。
その口調が未来の彼と被る。
「で、僕たちの方から協力を申し出たんです。
証拠となる彼らの会話を確認する盗聴器と突入時に有利になる為の小型発煙器を部屋に残すためにね」
最後は光也くんが〆る。
その口調は未来の彼が良く使っていた断言口調。
「三人で会話をコントロールして視線をそらせながら、盗聴器はゴミ箱に、小型発煙機はコップのあった棚の奥に。
ベッドで護衛が寝ている際にカーテンで仕切られていてこっちが見えない時点で勝負有り」
楽しそうに戦果を誇る三人と彼らが危険を承知で囮を買って出てくれた事に、どくんと、私の心臓が跳ねた音がした。




