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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
カサンドラの慟哭

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雪合戦と雪だるま

 雪が降っていた。

 授業を受けている間も雪が降り続いていた。

 その雪は放課後になってもやまなかった。

 ならばする事は決まっている。


「雪合戦をしましょう!」


 乗ってくれる人はいつもの三人しか居なかった。

 えー……


 雪合戦でも危ないのを避けるために、準備は結構する。

 というか、その準備が無かったらできなかったとも言う。

 まずは体操服に着替え、手袋、ヘルメットと肘・膝サポーターを着用。

 更に目を守る為にゴーグルまで付けるという念の入れ様。


「そのあたりの道具は体育委員会から借りました♪」


「お前、そういう時だけ無駄に行動力あるよな」


 栄一くんが私を見て突っ込むが、私はブイっと手で∨マークを作る。

 むしろそのあたりの道具がこの学校にあるのがびっくりである。

 運動会で使ったのを知っていたからとも言うが。

 ここまですると、所詮お子様。

 興味が出てくる連中がわらわらとやってくる。


「この手の勝ち負けってどうするの?」


 裕次郎くんが確認すると、光也くんがルールを確認する。

 あるのだ。

 雪合戦にもルールが。


「いくつかあるが、今回は一番簡単なやつにしよう。

 赤と白の旗を持ってきて、その旗を雪玉で倒したら負けというやつだ」


 集まったのは私のクラスで数人ずつ。

 周りで見ているのも十数人ほどで、他のクラスの人間も居る。


「けど、この旗に当てるのは難しくない?」


 私の指摘に栄一くんが少し考えて近くにあった板を持ってきて刺した旗に立てかける。

 そしてその板めがけて雪玉を当てたら、旗はあっさりと倒れた。


「なるほど。

 面白くなってきた」


「何がだ?瑠奈?」


 私の言葉に栄一くんが反応する。

 旗と板という2つの要素が出たことで、遊びに戦略性が広がったのだ。


「板は、敵に対峙する方向の反対側に置きましょうよ。

 そうすると、板に当てて旗を倒すには回り込まないといけない」


「いいなそれ。

 じゃあ、分かれて始めるか!」


 そして二チームに分かれる。

 じゃんけんの勝ち負けによる組分けで私と組んだのは光也くんだった。


「桂華院。

 お前が指揮を執れ」


「私?」


 私の確認に光也くんが説明する。

 周りの人間もその声を聞いている。


「あいにく俺は指揮する器じゃない。

 指揮官ってのは、周りを納得させるなにかが無いとできんよ」


 光也くんの視線の先には、当たり前のように相手チームのリーダーとなった栄一くんがいた。

 裕次郎くんが後ろにいると、本当に大将と参謀のように見えるから困る。


「まぁ、あれに勝つにはそれ相応の人間が出ないと駄目よね」

「そのそれ相応の人間に当たるのがお前だ。桂華院」


 改めて相手チームを見ると、やる気満々である。特に栄一くん。


「策は俺が考える。

 お前はみんなを鼓舞し続けろ」

「了解」



 

 雪合戦が始まった。


「行け!

 突っ込め!!」


「負けないわよ!

 押し返しなさい!!」


 小学生だからこそ、策も戦術もない雪玉のぶつけ合い。

 派手に動き、目立ち、みんなを鼓舞する。

 策といってもそんな派手なものはできない。

 私が目立って、光也くんが背後から板を狙うという奴だ。

 みんな体操服でかつゴーグルをつけているから誰か分からないこその作戦。

 私の場合、金髪が雪に映えるらしい。


「っ!」


 ぱぁんと音がして、私が出した手に雪玉が当たって砕ける。

 手の後ろには私達の旗。

 投げたのはもちろん栄一くんだった。


「旗を狙えるなんてすごいコントロールね。

 将来はプロ野球選手なんてどう?」


「いいな。それは。

 だが今は、お前を倒せれば十分だ!」


 一撃。二撃。三撃。

 栄一くんから放たれた雪玉を手と足で砕く。

 こういう事ができるのもありがとうチートボディという事で。


「はぁはぁ。

 敵に回った時の瑠奈が鬱陶し過ぎる……っ!」


「ほんっとうにうざいわね!

 敵に回った栄一くんは!!」


 四発目は互いに投げた雪玉が相殺しあって真ん中で雪が舞う。

 均衡は意外な所から崩れた。


「光也のやつが後ろから狙うのを待っているんだろう?

 既に対処済みだ!」


「ふん!

 裕次郎くんが光也くんの相手をしても光也くんなら抜けるわよ!!」


「え?

 僕の事呼んだ?」


 栄一くんの背後から現れた裕次郎くんが私に向かって雪玉を投げる。

 それを手で弾いた瞬間雪玉が崩れてゴーグル越しの私の視界を奪った。


「しまった!」


 声に出した私の顔の横を雪玉が抜け、振り向いたときには当たった雪玉で旗が倒れるところだった。

 こうして、私のこの人生初の雪合戦は、敗北に終わった。




「お前が大将で光也が背後から狙うのは分かっていた」


 雪合戦をした後、定番のもう一つをという事で雪だるまを作る。

 これだと見ていた人たちも参加しだして校庭のあちこちに小さな雪だるまが乱立することに。


「光也が背後から来るのが分かれば、瑠奈さえ抑えてしまえば旗は倒せると踏んだ。

 で、瑠奈に一騎打ちを仕掛けて、背後から裕次郎の助太刀でとどめと」


「卑怯よ!

 武士らしく一対一で勝負しなさいよ!!」


 ごろごろと大きくなった雪だるまを私と栄一くんの二人で押す。

 私達が胴体で、前から頭の雪だるまを作っていた裕次郎くんと光也くんがやって来る。


「『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候』だっけ?」


「朝倉宗滴だな。

 諦めろ。桂華院。

 何を言っても負けは負けだ。

 すまん。

 背後の警戒の排除に時間を取られた」


 まぁ、本気で怒っているわけではない。

 とはいえ拗ねるのも女の子の仕事である。

 そして女の子の機嫌を治すのは男の子の特権だ。


「ふんだ。

 次は負けないんだから!」


「また機会があったらやろうぜ!!」


 特権である。義務ではない。

 そして気付かないのならば、それはそれでよし。

 最後は四人で頭を持ち上げて雪だるまの完成である。

 できあがった瞬間にみんなで拍手をすると、周りの人達も拍手の輪に加わる。


「みんなお疲れ様!

 着替えたら学食によって頂戴。

 体を温めるホットココアを用意させたわ♪」 


 栄一くんが近づいてきて耳元でささやく。

 特権を見逃す男ではなかったらしい。


「瑠奈。

 よかったら、学食の後『アヴァンティー』によらないか?

 奢るよ」


「……生チョコのチョコレートケーキ」


 こういう事ができるのが子供の時だけ。

 きっと人生で片手の回数ぐらいしかしなかった雪合戦と雪だるまは、こんな形で私の記憶に刻まれた。 

 翌日。

 雪だるまは溶けてなくなっていた。

雪合戦の公式ルール

 雪玉に当たるとアウトで、旗は引き抜く形になる。

 イメージとすれば、玉が無数にあるドッチボールに近いのかな?

 もちろん野良ルールや派生ルールが無数にあるのが子供のお遊び。


朝倉宗滴

 戦国時代、越前国の戦国大名朝倉家の武将。

 彼が長生きしていたら織田信長に朝倉家は滅ぼされなかったかもと考えさせられる名将の一人。

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― 新着の感想 ―
[一言] 朝倉宗滴は十分長生きでしょうw
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