第25話 寸止め。
蹴るというと語弊があるかもしれませんが、あくまで寸止めです。これはただの練習なのですから。
桃百合さんの顔面にギリギリ当たらないところで止める。もしかしてちょっと当たってるかな?ぐらいのところで止める。これを繰り返します。桃百合さんはやめてー!とか叫んでいますが、何でもしてくれるといったので、私の気分を盛り上げるために全力で演技をしてくださっています。まるで私が本当に襲っているようです。
こうして現在に至るわけですが、私が桃百合さんに対して変なことをしているわけではないということがご理解頂けたでしょうか。
◇
「もう……!ほんとっやだ!……ぃ!」
「後3時間ぐらいは続けますよ」
「うそでしょ!?もうやめて!お願ぃ……」
「当日ミスしてはいけませんから練習は念入りにしないと」
「本当に蹴りである必要性あるのかなぁ……!」
「そんなの知りません!えいっ!えいっ!たーっ!」
「ひぃ……ぃぃ!!!!!」
桃百合さんの演技も本格的になってきて泣き顔になっています。この演技力なら女優になれるかもしれません。いや、顔がそんなに可愛くないので女優にはなれないかもしれません。現実は厳しいです。
「なんだか盛り上がってきましたね」
「なってないょ……誰か助けて……」
「次からは本当に蹴ってみようと思うのでよろしくお願いします」
「ぅ……誰か………助けて……」
「助けなんて誰も来ません。私の家なのですから」
「たすけ……て……」
その時です。私の部屋の扉がバタンと勢いよく開きました。
「何をしてるんだい!はっちゃん!!」
「……ゆーくん?」
目の前には何故かゆーくんがいました。




