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第72話 できた。というか出来上がった・・・

少々長いです

 そして、待ちに待った日がやってきた。


 俺は宿で朝食を終えると、メルとインディを置いて1人ネイサンの店へと急いだ。


 そしてとんがり帽子に箒の看板を目の前にすると、一呼吸おいてから扉を開ける。


 前回同様涼やかなベルが鳴ると、「いらっしゃーい!」と言う女の子の元気な声が聞こえた。


「お邪魔します。カチヤちゃんだったかな? 今お店開いてます?」


「うん!開いてるよ! じいちゃーん!お客さん来たよー!」


 これもほぼ前回と同じだ。相変わらず元気一杯で心が和まされる。


「おーう。今行くで、少し待ってておくれ」


「うん!わかったー!」


 そう言うとカチヤは俺に向かって一言言ってぺこりと頭を下げる。


「すぐ来ますからちょっと待っててください」


「了解」


 そう一言返して少しするとネイサンが現れた。


「お待たせして申し訳なかったのぉ、えーと、ラクタロー君じゃったかな?」


 お?名前覚えられてる。

 その事に少し驚いていると、ネイサンが笑いながら言葉を重ねる。


「商いもずいぶん長い事やっておるからの、人の名前と顔は間違えんようにしておるんじゃよ」


「すいません。失礼しました」


「気にせんでええよ。それよりインクの方は出来ておるでのぉ。確認してくれんか?」


 そう言ってカウンターの下から樽を取り出すと栓を抜いてこちらに見せてくる。


 俺は中を覗き込み、「鑑定」を使って俺が欲していたものと一致していることを確認する。


「えぇ、間違いないです。これで合ってます」


 俺はそう言うと前回貰った木札をネイサンに渡す。


「ほっほっ。せっかちじゃのぉ」


 樽を持ってそのまま走り出しそうな俺の姿を見てネイサンが笑う。


「・・・すいません。少し気が急いてしまったみたいです」


 俺は一言謝り、先を急いている事を伝えて店を足早に出た。


「あのお兄ちゃん。忙しそうだね」


「そうじゃな、余程大事な用があるんじゃろうなぁ」


 残った祖父と孫はのんびり店番を続けていた。

















 さて、これで念願の炭酸を作れる。


 宿に戻った俺は机の上にボコポに作って貰った銅板の1枚を置く。


 銅板の図形は正三角形の各頂点に直径10㎝程の円が描かれている。その正三角形を囲むように幾何学模様が走っていたり呪文が書き込まれている。


 その銅板の溝に今買ってきたばかりの特殊インクを流し込む。


 零さないようにゆっくりと流し、幾何学模様や呪文がインクの色に染まり切ると、俺は次の作業へと移った。


 「無限収納」からトローナ石を取り出し、銅板の円に収まるサイズ、拳程度の大きさに切り分けると、それを三角形の頂点にある円の中に置く。


 そして残った二つの円の中に皿をそれぞれ乗っける。


 そして右手を銅板に当てて呪文詠唱。と言ってもシンプルなものなんだけどね。これでホントに分離すると思うと、なんか間抜けな感じがしないでもない。


「我、混ざりし物より抽出せんと欲す。その名は『炭酸水素ナトリウム』。我が意に沿って分たれ給え」


 そう呪文を唱えると、俺の右手から魔力が吸い上げられ銅板に満たされていたインクが輝き出す。


 俺は呆然とその光景を眺めていると、次第に三角形の頂点にある円の発光が強くなり、眩しくて目を閉じ、左手で目を庇った瞬間。光が弾けたように部屋中に閃光が走った。


「うお?! 眩しッ! 何だこれ?」


 そんな声を漏らし、光が収まった後の銅板を確認すると右の皿に白い粉が山になっていた。


 左の皿には土?の山が出来ていた。


 俺は期待を込めて右の皿を「鑑定」すると、思った通り『炭酸水素ナトリウム』が出来ていた。通称で言うと『重曹』だ。


「よっしゃ! 出来たどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 年甲斐もなく大声を上げてはしゃいでしまった。


 お蔭で宿の主人からお叱りを受けてしまったが仕方ない。


 そしてもう一つ、今度はレイモンの実を魔法陣に載せ、右手を銅板に置いて呪文を唱える。


「我、混ざりし物より抽出せんと欲す。その名は『クエン酸』。我が意に沿って分たれ給え」


 重曹の時と同じように魔力が吸い上げられ、魔法陣が発光する。


 光が収まり、右の皿を確認すると白い粉が少量載っていた。


 「鑑定」を行うと『クエン酸』が出来ていた。


「キタァァァァァァァ!! これで勝つる!」


 さっきよりも大きな言葉が出てしまった。


 宿の親父が怒り面で怒鳴って来た。


「すんません。申し訳ないです。ちょっと感情が不安定でして・・・」


 等々お詫びの言葉を羅列してなんとか許して貰う。


 ふぅ、興奮のあまり感情の制御が難しいくなっている。


 俺は何度も深呼吸をして心を落ち着けようとしたが、なかなか収まらない。



「ふぅ、落ち着け、落ちつくんだ。こういう時は素数・・・は数えないでおこう。数えたら碌でもない事が起こりそうだ」


 暫らく興奮を抑えようと奮闘し、ようやく落ち着けた頃。


 重曹に対してクエン酸が少ない事に気付き、レイモンの実から何度かクエン酸を抜いて量をほぼ合わせた。


「よし、次の段階に入るぞ」


 胸の奥から込み上げる期待感を抑えつつ、コップを2つ用意する。


 そして両方のコップに半分弱だけ水を入れる。


 片方には重曹を小さじ位のスプーンで3杯入れ()き混ぜる。


 そしてもう片方にはクエン酸を同じくスプーン3杯入れて掻き混ぜる。


 そして2つを混ぜ・・・っと、その前に砂糖も混ぜないとな。って、砂糖がねぇじゃねぇか?!


 うーん。メープルシロップで良いか?


 いや、初めての炭酸水だ。メープルシロップ味ってのはちょっと避けたいな・・・


 だが、今から煮詰めるのには時間が掛かり過ぎる。


 どうしたものかと少し考えてから、ふと思いつく。錬金術使ってメープルシロップから砂糖を抽出すればいいんじゃないか?


 そう思うが早いか俺は「無限収納」からメープルシロップを取り出し、魔法陣を使って慌てて砂糖を抽出した。


 結果として錬金術で砂糖の抽出に成功する。一瞬ガッツポーズをとるが、よく考えるとレイモンの実からクエン酸なんてものを抽出できたんだから砂糖も抽出できて当たり前か。


 少し落ち着きを取り戻し、出来たての砂糖を・・・ どれだけ入れよう?


 少し迷ったが山盛りでスプーン5杯入れる事にする。


 俺は砂糖を入れると手早く掻き混ぜ、砂糖が溶け切ったのを確認すると、慎重に片方のコップを持ってもう片方のコップに中身を注ぎ込む。


 徐々にシュワァ~っと言う音がし、コップの中身を注ぎ終えるとゆっくりと中身を掻き混ぜる。


 炭酸の弾ける音が耳に心地よく、気分を高揚させてくれる。


 これだ。


 これを聞きたかった。


 これを待ち望んでいた。


 そして・・・・味わいたい。





 はやる心を抑え、ゆっくりと撹拌する。


 ゆっくり撹拌をしていくと、何故か視界が徐々に歪んでいく。


 おかしい。こんなんじゃ、せっかくの炭酸水が零れちまうかもしれない。


 そう思い目を拭うと、水の雫が指に付いて来た。


 汗か? 汗が目に入ったんだろう。


 視界が一旦戻ったのでコップを手に取り、いざ試飲と行こう。


 炭酸の弾ける音と共に一口。


 口の中で炭酸が弾け、口内に心地よい刺激を(もたら)す。


 あぁ、これだ。


 この刺激。久しぶりだ。


 味も悪いもんじゃない。


 甘みの中に少し塩味が利いていて、ちょっとした塩サイダーを飲んでいるようだ。



・・・


・・・


・・・



 なんとも言い知れない感動を味わう。



「炭酸・・・できたぞ」


 自分の口から零れた言葉に、実感が伴うにつれて感動と共に達成感が込み上げてくる。


 万感の思いを込めて叫び、部屋中意味もなく飛び跳ね、狂喜乱舞する。


「俺は炭酸を作ったんだぁぁぁぁぁ!

 ひゃぁっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 糞女神共(さんばか)がなんぼのもんじゃぁぁぁぁぁぁぁい!」





 その後、勿論(もちろん)鬼の形相となった宿の親父に怒られたが直ぐには止められなくて宿を追い出された・・・


 心の狭い親父め!



 だが宿を追い出されたとは言え夜になるまでだ。一応客だから夜寝る分には問題ないらしいが、どういう線引きなんだ。まったくわからん親父だ。


 そんな逆恨みをブツブツ言いつつ街の中をふらつくが結局やる事が無い。と言うより取り上げられたので暇になってしまった。


 俺の中では既にこの街で素材集めをすることは確定事項なので宿に泊まるより家を借りる。もしくは買ってしまった方が安上がりかもしれない。


 今度ボコポに相談しよう。


 てか、この街来てからボコポに頼りっぱなしの様な気がするので少々気が引けるが他に知り合いもいないし仕方ない。


「それになんだかんだで結構面倒見の良いオッサンだしな。この街で家を借りるか?・・・いや、買おう。そして炭酸作成に必要な重曹とクエン酸。それに砂糖を作る工場でも作れたら一気に色々捗りそうなんだが・・・」


 そんな事を考え、家を買うにはどこ行けば良いんだ? 不動産屋とかあるのかな?


 等々色々と考え事をしながら街中を歩いていると既に日は傾き始めていた。


 もうこんな時間か、そろそろ帰っても大丈夫かな?


 そう思った時、つい先日ドワーフ達と飲んだ酒場が視界に入る。


 ふむ、あそこで夕食を食べてからでもいいか、インディとメルは宿屋の親父が飯を出してくれるしな。


 一先ず炭酸を完成させたお祝いに少し豪勢な夕食ってのもありだな。あそこ結構美味かったし・・・


 いいアイデアだ。そうしよう。


 そう決めると俺は足早に店の中へと入って行った。











 店のドアを開けるとまだ夕方なのに席の半分くらいが埋まっていた。


 客層の半分以上はドワーフのようだが、それに混じって武器や防具を身に纏った冒険者風の男女がチラホラと見受けられる。


 ダンジョン帰りの冒険者かな?


 そんな益体も無い事を考えながら冒険者達の方を眺めていると声を掛けられた。


「いらっしゃいませー! ッて?! この前乱闘場で大活躍してたお兄さんじゃないですかー!」


 いきなり店員さんに声を上げられてしまった。


 うーん? 誰だっけ? 前も居たよねこの店員さん。


「えーっと、すみません。名前を忘れてしまいました」


「いえ、前回私名乗ってませんから大丈夫ですよ。因みに私の名前はレーネって言います」


「これはご丁寧に。私は楽太郎と言います。以後よろしくお願いしますね」


「はい。それで今日はお1人ですか?」


「はい、そうです」


「カウンター席でも構いませんか?」


「できればテーブル席をお願いします。

 今日は久しぶりに良い事があったのでお祝いしたい気分なので」


 飲みに来た訳ではないので狭苦しいカウンターでちまちま食べるのは勘弁願う。


「わかりましたー。それではテーブル席にご案内しますね」


 そう言ってレーネは席まで案内してくれた。


「ご注文は何になさいます?」


「そうですね。この前食べた時にあったステーキと煮込み料理って言えばわかりますかね?」


「えぇ、わかりますよ」


「じゃぁ、それをお願いします。あぁ、それとサラダもお願いします」


「わかりましたー。後は、お飲み物はどうします?」


 そう聞かれて思案する。


 せっかく炭酸ジュースが出来たんだ。それを飲まない手はない。が、飲食店で持ち込みで飲むのはマナー違反かな?


「すみません。飲み物なんですが、手持ちの品を飲んでも問題ないですかね?」


(うち)はそんなに細かい事は気にしないんで大丈夫ですよー。お客さんの中には食材持ち込みで『調理してくれー』って言ってくる方もいらっしゃいますから」


 そう言って笑いかけてくる。


 俺はその言葉を聞き安心したので水をピッチャーで頼み、空のジョッキを2つ持ってきてくれるようにお願いした。


 暫らくすると料理の前に水とジョッキを持ってきてくれたので礼を言い、両方のジョッキに半分弱の水を入れ、宿屋で行った炭酸作りと同じ手順で重曹・クエン酸・砂糖を混ぜ合わせる。


 そして実験中は忘れていたが、今度は忘れない。


 この時の為に練習した魔法を使う。


製氷(アイスロック)


 そう言って呪文を唱えると、ジョッキに氷が注ぎ込まれる。


 水魔法を応用して氷を魔法で作り出したのだ。


 やっぱり炭酸ジュースは冷たくないとね。


 そうして2つのジョッキの中身を1つにしてゆっくり掻き混ぜると、炭酸が弾けるシュワシュワと言う何とも心地よい響きが聞こえてくる。


 これだ。あぁ、本当に良い響きだ。


 かき混ぜながら炭酸が弾ける音にうっとりしているとレーネが料理を運んできた。


「ラクタローさん。なんか水が沸騰したみたいになってますよ?」


「うん? あぁ、違いますよ。

 これは炭酸と言って・・・ うーん。どう説明すればいいんだろう?

 うーん。少々刺激的ではありますが、とても美味しい飲み物ですよ」


 正直どう説明すればいいかわからなかった。


 簡単に言うと炭酸水とは水に二酸化炭素が溶け込んだものであるのだが、二酸化炭素自体の説明が出来ない。


 地球の常識的な化学用語が通用しない世界じゃどう説明していいのかわからない。


 レーネーも俺の曖昧な説明によくわからないような顔をしているが、興味はあるようだ。うーん。試しに飲んでもらうか。


「試しに少し飲んでみます?」


「え?良いんですか?」


 中々に好奇心旺盛なようだ。普通は泡の出る怪しげな飲み物なんて早々飲む気になれないんじゃなかろうか?


「えぇ、良いですよ」


「じゃぁ、ちょっとだけ試させてください」


「わかりました」


 俺はそう言うと空になっていたジョッキに少しだけ炭酸ジュースを入れると製氷(アイスロック)で氷を入れてレーネに差し出す。


「どうぞ」


 そう言うとレーネーは神妙な顔で受け取り一口だけ口の中に入れる。


「ん?! んんんん! んんんん?!」


 声にならない声を出し、手足を少しバタつかせるレーネ。 炭酸の刺激に驚いている様だ。


「面白い食感でしょ?」


 尚もバタバタしているレーネに笑い掛け、一息に飲み込むように伝えると、意を決した様に呑み込む。


「ぷはぁー! すごい、なんて言うか、すごい! 口の中で水が爆発したみたいにパチパチ弾けて、なんか痛いような気持ちいいような、そんな感じだったけど、呑み込んだ時、その弾けてる感触がとても心地良くて、なんて言うのかな? 何かスッキリしたような感じでした。それに甘くて、とってもおいしかったです」


 そう言ってジョッキに残った炭酸ジュースも残さず飲み切った。


「気に入って貰えたようで良かったです」


 俺は笑顔でそう言うと自分も一口飲み込み、レーネの方をふと見てみると名残惜しそうにジョッキを見ていた。


 ・・・


「もう少し飲みます?」


「良いんですか?」


 そう言うが早いかジョッキを突き出してきた。


 言葉とは裏腹に飲む気満々だな。


「一応、これで最後ですからね。これ以上は私の飲む分が無くなってしまいますから」


 そう一言釘を刺し、炭酸ジュースを継ぎ足す。


「ありがとうございます!」


 そう言ってジョッキを受け取ると今度は味わうようにゆっくり飲み、俺にお礼を言って仕事に戻って行った。


 ふふふ、やはり炭酸の魅力は素晴らしい!


 しかし、これを広めると俺の飲む分が確保できなくなる可能性が高くなってしまう。


 世間に広めたいけど自分が損してまで広めたいとは思わない。


 なんとも利己的な人間だと自分自身に呆れるが、まぁ、人間なんて所詮そんなもんだ。


 今日はもう変なこと考えるのはやめて炭酸ができた事を心から祝おう。


 そう思い1人で炭酸を心行くまで味わっているとレーネが料理を運んできた。


「お待たせしましたー!」


「おぉ、ありがとうございます」


「ごゆっくりー」


 そう言って彼女は忙しそうに立ち去って行った。


 そして俺はと言うとテーブルに所狭しと並べられた料理に目を向けると、一心不乱に食べ始める。


 うむ、やっぱりうまい。


 熱々の煮込み料理のベースはジャガイモベースのトロッとしたスープで塩味が効いていて他の野菜も美味しいし、何より肉が良い味してる。


 それにステーキも何の肉かわからないけど噛み応えがあり、噛む度に肉汁が溢れて旨味が口いっぱいに広がる。


 こうなるとご飯。お米が食べたい。


 悔しいがお米がないので仕方なく付け合せのパンを齧るがやっぱりお米で食べたい。


 炭酸ジュースが出来た所為か、更なる食への飢えが忍び寄ってくる。


 いや、米よりコーラだろう?!


 炭酸ジュース(砂糖味)はあくまで一時凌ぎの代用品だ。


 ここで妥協は許されない!


 あとはコーラの味をどれだけ再現できるかがこれからの目標なんだ。


 ・・・でも、コーラに使う材料集めのついでにお米を探すのもありだよな?


 そんな事を考えつつ、料理に舌鼓を打っていると野太い男の声が掛けられた。


「ラクの兄ちゃんじゃねぇか?」


「はい?」


 少し間の抜けた返事を返し、振り返るとスコティとギラン・・・だっけ? が居た。


「よう! 飲み屋に来て飯食ってんのか?」


「私からすれば飯屋で飲んでるんですか? と言いたいんですけどね」


 一瞬意味が解らない。と言った顔をされるが理解が追い付くと笑い声が聞こえてくる。


「ちげぇねぇ! 俺達にゃ飲み屋だがあんたにゃ飯屋か! なるほど、ちげぇねぇぜ! はっはっはっ」


「そうだな、言われてみりゃその通りだぜ! ひゃっはっはっは!」


 うーむ、大分出来上がっているようだ。


 そう言えば他のドワーフもなんとなく見た事あるような顔ぶれが幾つかあるな。


 ひょっとしてボコポもいるのか?


「すみません。ひょっとしてボコポさんもいます?」


「おやっさんか?」


「えぇ」


「おやっさんならあそこで冒険者に絡まれてんぜ! ひゃはははは」


「えぇ?!」


 慌ててそちらを向くとボコポが怒り顔で冒険者達に怒鳴っていた。





「だぁら、何度も言ってんだろぉが! 作って欲しきゃ素材集めて来いや!

 まったく、手前ぇらの所為でせっかくの祝い酒が台無しじゃねぇか!」


 ボコポは5人の冒険者に絡まれていたが、大分呂律(ろれつ)が怪しくなっている。


 一応前回の飲み会のときはボコポは水代わりにエールをガバガバ飲んでいたが全く酔っていなかった。そんな奴がこれだけベロベロになるなんて、それこそどれだけ飲んだのか想像もできない。


「ボコポさん大丈夫なんですか?」


「あぁ、おやっさんなら大丈夫だ。後でどうせ俺達も係わるからな」


 そう言ってニヤッと笑うスコティ。 どういう意味だ?


 まぁ、それよりもボコポは祝い酒って言ったよな? 俺と同じで何か良い事あったのか?


 今日はオッサン達のハッピーデイなのか?


 そんな事を考えていると、怒鳴られた冒険者達も黙ってはいなかった。


「俺達には強い武器が必要なんだよ!

 素材ならあんたが持ってんだろ? それ使って作ってくれりゃいいじゃねぇか?」


「そうだそうだ!

 それに知ってんだぞ! あんたが新しい武器作ろうとしてんのをよ!」


 その台詞にボコポの眉が一瞬ピクッと動くが更に怒鳴り付ける。


「俺は鍛冶屋だ!武器くれぇ作るだろうが!

 それよりも俺ぁ今新しい仕事道具作るのに忙しいんでぇ!

 素材も満足に集めらんねぇ手前ぇらのちんけな武器なんて作ってる暇なんかねぇンだ!

 べらぼうめぇ!」


「ならこんな所で飲んでんじゃねぇよ!」


 ブハッ! そりゃ正論だ。思わず噴いちまったじゃねぇか!


「うるせぇ! 俺が飲まなきゃ誰が飲むんだ!

 それに大した実力もねぇ癖に強い武器だけ欲しがるなんざ、まだまだ餓鬼じゃねぇか!」


 そんなボコポ達のやり取りを聞きつつ、スコティに気になった事を問う。


「スコティさん。ちょっと聞きたいんですが、ボコポさんはなんであんなに素材集めにこだわるんです?」


「あぁ、それな。 おやっさんには『強力な武器はそれに見合った者が持つべき』って言う持論があってだな、その実力の見極めの1つとして強力な武器の作成を依頼された場合、依頼者の実力を見る為に必要な素材の中で入手難度が高い素材を集めさせるんだ。

 見事素材を集められた場合はその武器の持ち主として認められ、武器を作って貰える。

 だが、素材集めに失敗した場合は実力不足を理由に武器作成を断られるんだ。

 そして今回の冒険者は素材集めに失敗した奴等だな」


 なるほど、そう言う事か。 職人ってのは拘りがある人多いからな。

 その職人を見込んでオーダーするなら相手の条件を飲む事も必要なのに、冒険者の癖に依頼を失敗しておいて報酬だけ貰おうとはけしからんな。


「助けなくて大丈夫なんですか?」


「おやっさんにとっちゃいつもの事だぜ」


 そう話し込んでいるとボコポの方からまた怒声が飛んできた。


「なんだと!!

 俺達はB級冒険者だぞ!」


 そう聞いてレベルがどんなもんかと気になったので確認すると、5人とも大体レベル35前後だった。

 なんか、レジー君の方が高かったような気がする。


「B級がどうした?

 てめぇの武器の素材すら集められねぇヘナチョコ共が! 一昨日来やがれってんだ!」


 そう言って持っていたジョッキの中身を冒険者達にぶちまける。


 そして冒険者一同の表情が一変し、殺気が放たれる。


「手前ぇぇぇ 下手(したて)に出てれば良い気になりやがって・・・ ぶっ殺してやる!」


 低く地の底から響く様な怨嗟の声が冒険者から放たれ、今にも襲い掛からんばかりの雰囲気だ。


 だがボコポはどこ吹く風で表情を変えない。


「悪いがヘナチョコ共、俺達ドワーフはちょっとした事情で酒場では暴れられねぇんだ。

 唯一暴れられるのはあそこだけなんだが、お前ぇらヘナチョコ共に乱闘場(あそこ)で戦う勇気はあるのか?」


「上等だ! やってやろうじゃねぇか!

 俺達冒険者の方が荒事には慣れてんだ!

 ぶっ殺してやるから覚悟しろ!」


「はっはっはっ、良いだろう。因みにルールもある。

 武器の使用は禁止。そして気絶、もしくは負けを宣言する。又は相手がまだ戦える状態なのに乱闘場外に出た場合は負けだぜ?

 まぁ、殺しはご法度だがお前ぇら程度にゃ寝てても負けねぇから問題ねぇぜ」


 相手を小馬鹿にするように乱闘場の説明をするボコポ。

 煽るの上手いな。 なんて感心してしまった。


「武器が使えないだと?!」


「だからお前ぇらはヘナチョコなんだよ。

 武器が無きゃ喧嘩の1つもできねぇのか?

 漢なら己の肉体のみで闘ってみやがれ!」


 そう言ってポージング(モストマスキュラー)を取ると、ボコポの身体が一回り大きくなったような錯覚を覚える程全身の筋肉が盛り上がった。

 うわ・・・ちょっと気持ち悪い。


 だが、冒険者達はその一言で黙ったようだ。


「ルールはわかった。糞親父、吠え面かかせてやるから覚悟しろよ」


 そう言って冒険者が乱闘場に向かおうとするが、その冒険者の動きに対応して他のドワーフ達が次々と乱闘場に入って行った。

 もちろんスコティとギランも乱闘場に入っている。

 ドワーフの癖に中々素早い奴等だ。


「なんだこいつ等?」


「この舞台は乱闘場ってんだよ。名前から察するくらいできねぇのか?

 つまりこの舞台の上では戦いたい奴は誰でも上がることが出来んだよ。

 つまり今乱闘場にいるこいつ等も一緒に戦うって事なんだよ」


 そう言ってボコポはドワーフの群れに混じり冒険者を挑発する。


「おら、早く来いや! どうした?怖じ気付いたか?

 ならママのオッパイでも飲みに帰りな!」


 その挑発に他のドワーフ達は大笑いする。どうでもいいがさっきまで回ってなかった呂律が戻っている。

 呂律が回らなかったのは演技だったのか? まぁ、そんな事はどうでもいいか。


 まぁ、そんなわけで笑いものにされた冒険者達の怒りは頂点に達する。


「誰がビビるか! 待ってろ!」


 そう言い乱闘場に飛び乗るが、乗った直後にドワーフ達が一斉に体当たりしてその冒険者を場外に叩き出す。


 一瞬の出来事に呆けている冒険者達にボコポが告げる。


「ほい、お前ぇらの負けだ」


「なんだと?!」


「乱闘場に入って、俺達が戦える状態なのにお前ぇらは場外に出た。

 ほれ、最初に説明した通りお前ぇらの負けだヘナチョコ共」


 そう言って大笑いするボコポ。汚い! 大人って汚い!


 汚いが、話からすると武器作成を断られ、それでも粘着して絡んでいたのだろう。


 周りで飲んでいる奴等も冒険者達を笑い、爆笑していた。


 俺も見てる分にはかなり面白かった。


 冒険者達には申し訳ないが、予定外の楽しい余興だったと笑わせてもらった。


 そう思い食事に専念しようとテーブルに視線を戻すと、また食事に摂りかかる。


 そうして暫らくした頃、ドワーフ達の叫び声が乱闘場の方から聞こえてきた。


 俺はそちらを向くと冒険者達がドワーフ達と闘っていた。


 ふむ、真面(まとも)にやるとレベル差が影響して冒険者に軍配が上がるのは仕方ないが、連携も冒険者の方が息が合っている。


 次々とドワーフがノックアウトされていく中、ボコポには冒険者2人が常に張り付いている所為で中々他のドワーフの加勢に行くことが出来ない。


 そして時間が経つにつれてドワーフ達が劣勢へと追いやられていく。


 ふむ、こりゃボコポ、ヤバいんじゃないか?


 そんな事を思っていると声を掛けられた。


「ラクの兄ちゃん。ちと加勢して貰えねぇか?」


 見るとボロボロになったスコティがそこにいた。


「また酷くやられましたね」


「俺は慣れてるから問題ない。それよりもおやっさんがちょっとヤバい。

 今回ちと煽り過ぎたかもしれん。あのアホ共頭に血が上り過ぎだ。

 マジで助けてもらえねぇか?」


 ふむ、楽しい余興じゃなくなって来たようだな。

 流石にエターナルプレイス(この世界)初の炭酸水が誕生した記念すべき日を凄惨な死闘で台無しにされたくないし、あの冒険者(あほ)共にお灸を据えてやるか。

 あ、ついでに家を買うのを手伝って貰うか。


「手助けするのは良いですが、今度家を買うのを手伝って貰えます?」


「家を買うのか? まぁそれ位なら手伝うぜ」


「わかりました。それじゃ行ってきます」


 そう言って俺は乱闘場へと足を向けた。










 乱闘場では冒険者も1人脱落したようで、1人だけ場外で伸びていたが、他の4人は健在なようで数の減ったドワーフを相手に好き放題している様だ。


 乱闘場の上にはドワーフがボコポを含めて3人、冒険者も4人残っていたがボコポ以外は一方的に冒険者達に嬲られている様だ。


「おら! 俺達が本気出せばこんなもんなんだよ!」


 そう言って1人のドワーフの髭を(むし)る冒険者がいる。


「お前等、散々馬鹿にしてくれたよな? タップリ甚振(いたぶ)ってやるからな」


 そう言って別のドワーフをサンドバックよろしく殴り続けている冒険者が一人。


「おいおい、お仲間がやられてるぜ? 助けねぇのか? 糞親父!」


「何言ってやがる! 手前ぇらはチョロチョロと逃げてばっかりじゃねぇか!

 そんなに俺が怖いのか? ヘナチョコ共が!」


 そう言って強がってはいるが、冒険者2人に前後で挟まれている状態でかなり分が悪いようだ。


「糞親父!お前だけは許さねぇぜ! ボコボコにした後は両手を念入りに潰して職人として二度と仕事できねぇ様にしてやるからな!」


「そりゃやり過ぎだ!」


 そう言って発言した冒険者の背中に蹴りを入れると、ロープ際まで吹っ飛んだ。


「誰だ!」


「人間だ」


 一応顔バレしないように仮面(鬼武者装備の面頬)と頭にタオルを巻いたんだが、お蔭でちょっと怪しい風体になってしまった。


 まぁ、今回は普通の一般的な服装だから個人は特定されないだろう。(体型も少し太目ってだけだからね)


「だから誰だ!」


「通りすがりの一般人です」


「お前ぇ、ら「ダメだ!言うんじゃない!」・・・わかった」


 ボコポが俺の名前を言おうとしたが寸前で止めた。


「だから誰だ! 名乗れ!」


「人に名を訪ねるならまず己から名乗れ!」


「お前が勝手に乱入して来たんだろうが!」


 そう言われ、確かに・・・と思ってしまった。


「・・・ドワーフの助っ人としてやってきたラーク・エンジョイだ。

 たかが喧嘩で職人の命とも言える両手を奪おうとは、少しやり過ぎだぞ?」


 今日は炭酸が出来た日だ。俺は寛容にも説得を試みる事にした。

 果して返答は・・・


「うるせぇ!こいつ等は俺達を馬鹿にしたんだ!」


「それは馬鹿にされるような振る舞いをしたからでは?」


「俺達は強い武器を作ってくれと言ったのにこいつは断りやがったんだ!

 それのどこが馬鹿にされるような振る舞いなんだ?!」


「それでその素材をもって来いって言われたんだろう?

 何故持って行かない?」


「・・・俺達じゃ手に入れられないからだ」


 バツが悪そうに冒険者が言う。


「因みにどういう武器を依頼したんだ?

 分かり易く具体的に説明してくれ。頼む」


「ドラゴンでも倒せるような強い武器を作ってくれって言ったんだ」


 ・・・こいつ馬鹿か? 伝説級の武器要求して素材持って来ない・・・って言うより無茶振りしてるだけだろ?


「お前は馬鹿か?」


「なんだと?!」


「そんな伝説級の武器を作れって言われたらそれに見合う素材を出すのは当たり前だろうが!

 武器作るのだってタダじゃねぇんだぞ? それ以前にお前金持ってるのか?大金貨数百枚どころか数千枚でも足りねぇんじゃねぇか?」


 そう言ってやると冒険者の顔が驚きに変わる。

 全く分かっていなかったのか?


 どんな馬鹿だ? 普通レベル35位ならそれなりに世間に揉まれてるものじゃないのか?


 そう思って奴を鑑定してみる。




----------------------------------------

名前 :ジャスティン

性別 :男性

年齢 :22

職業 :冒険者(ランクB), 神官戦士

称号 :-

レベル:36


ステータス

 HP : 766/766

 MP : 228/228

 STR : 550

 VIT : 442

 INT : 345

 AGI : 370

 DEX : 329

 MND : 365

 LUK : 10


特記事項

 サスティナの信奉者







「・・・ ジャスティン君。 知識って言葉知ってる?」


「なんだぁ?急に、そんなの知ってるに決まってるだろうが! 俺は知識の女神サスティナの信徒だぞ?!」


「なら相場位調べろや! いや、それ以前に常識って言葉の意味くらい理解しろやぁぁぁぁ!!」


 そう言ってドロップキックを容赦なくジャスティン君に叩き込むと、彼は華麗に宙を舞う。




 過去が俺を追いかけて来る・・・


 あの糞女神めぇぇぇぇぇぇぇぇ!


 せっかくの祝いの日を台無しにしやがって!


「ボコポさん。残りの奴らやりますんで暫らく休んでてください」


「お、おう・・・ そのぉ、大丈夫か?」


 ボコポさんにしては控えめな声掛けをしてきたので返しておく。


「えぇ、大丈夫です。今日しでかした事を奴等に後悔させてやりますよ」


「そう言う意味じゃねぇんだがな・・・」



 そして一方的な蹂躙が始まった。



 俺に最初に蹴られた男がようやく立ち上がろうと膝立ちになっていたので勢いよくシャイニングウィザードで蹴り飛ばす。


 その音に反応したのか他のドワーフを凹ってた男がこっちを振り返ろうとするが遅い。


 しっかりとバックを取って投げっぱなしジャーマンを決める。


 最後にドワーフの髭を毟っていた男は既に立ち上がり臨戦態勢になっていたので打撃をいなして顔面に掌底を入れ、そのままベアクローで持ち上げる。


「お前等は少々運が無い。

 今日、ここで俺に係わったんだ。只で済ます気は更々ないから覚悟してくれ」


 そう言ってニッコリ笑ってやると、ベアクローで苦しんでいた男の表情が更に絶望に染まる。


 俺は男を持ち上げたままコーナーまで歩き、トップロープに男を乗っけると奴の頭を肩に載せ、身体を逆さにして持ち上げ、両足を掴み固定すると俺自身がコーナーポストに登り、そこから勢いよくジャンプし、乱闘場へとダイブする。


 首折り、背骨折り、股割きの3つの効果がある超人レスラーの技が完成した。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 と言う男の断末魔が聞こえたが気にしない。


 この技、少しお尻が痛い。


 そんな俺の思いとは裏腹に観客達の歓声はヒートアップしていった。


 その後は自分が痛くなさそうなパワーボム。パイルドライバー等で少々相手に危険がある技を幾つか使うが、その度に歓声が湧いた。







 そして後にはドワーフと冒険者の屍が晒される事となった・・・・




 どうしてこうなった?!


ほんとにどうしてこうなった・・・Orz


 勢いで書いたらこうなりました。

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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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