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第46話 森の探索行 6 ある意味お約束?

 俺が目を覚ますと、太陽は既に高く昇っていた。


 周りを見回すと、何故か木の上で、あれ? どこ?


 なんてお約束をやった後、自分の状況を思い出し、慌てて「地図」で周りを確認したが、辺りに人の反応はなかった。


 まさか寝坊するとは・・・


 作戦ブッチしちゃったよ。どうしよう?!


 と混乱し焦っていたのも最初の内だけで、よくよく考えてみると、別にあの作戦に参加しなくてもゴブリンとオークの塒見付ければ良いんだから、単独行動でOKじゃない?


 それに最初から作戦会議すら参加してなかったし、扱いもおざなりって言うか・・・ねぇ? 俺は基本単独扱いだったから、今更だよね?


 と自分に言い訳しつつ心を落ち着けると、取り敢えず日課の柔軟体操をする為、木から飛び降りる。


 地面に足を付けると、ストンッ と言う音と共に、ズボンが脱げた。 ・・・え?!


 慌てて周りを見回しつつ素早くズボンを上げる。 何これ?って思ったけど、そう言えば寝る時ベルトを緩めた気がする。


 そう考えつつ「地図」も使って念入りに辺りを探るが、人どころかゴブリンすら近くに居なさそうだ。 はぁ、良かった良かった。誰にも見られていない様だ。


 そのあと柔軟体操をしたんだが、木の上で寝たせいか、体が少し強張っていたので、更に念入りに柔軟をしておいた。


 そんな感じで朝の日課を済ませると、お腹が食べ物を要求してきたので「無限収納」から取り出す。


 今日の朝食はラディッツ氏作のサンドイッチだ。硬めのパンに厚みのある肉と野菜が挟んであり、良い塩加減で中々美味しい。 ちょっと顎に来るけど・・・


 中々の大ボリュームをやっつけると、そろそろ俺も動き出す。


 確か昨日は北に向けて歩いていた。と言う事はもっと北に塒があるのかもしれない。森がどれ位深いのかわからないが、取り敢えず北に向かって歩こう。


 そして俺の森の探索行が始まった。
























 あれから3日・・・


 身体洗いたい・・・切実に・・・


 そんな思いが頭から離れなくなっていた。


 タオルで体を拭いているが、油髪がすっごい気になる。


 えーと、ゴブリンの塒だっけ?


 塒はまだ見つかっていない。と言うか、現在進行形で分隊長ゴブリンをスネーク中。


 途中何度かスネークするゴブリンを乗り換え、大分奥地まで進んでいる。


 乗り換えた理由は簡単で、出会ったゴブリンの小隊の小隊長と取り巻きをサクッと始末して、分隊長一匹だけ残す。


 これを繰り返して、分隊長をスネークし続けているんだけど、何度か別の小隊に合流するんで、その度に分隊長一匹残して残りを始末し続けていたんだ。


 なんでかって? 下っ端だと野に帰ってしまいそうだったし、小隊長はちょっと強いんで複数にならないよう間引き。分隊長なら手頃な手駒だろうと考えて実行している最中なんだが、意外と上手く行っている。


 問題があるとすれば、思った以上に敵の分布が広かったと言う事だろう。お蔭で中々塒に辿り着かない。


 まったくもって困ったものだ。 食料はそれなりに持っているが、確か探索期間は1週間だったはず。今日を含めて後4日で見付からない場合は「地図」に追跡した最終位置をマーキングして王都に帰るとしよう。


 ああ、そうだ。また新しいゴブリンが出て来たんだ。職業は中隊長だったよ。


 ステータスはこんな感じ。





----------------------------------------

名前 :-

性別 :雄

年齢 :12

種族 :ゴブリン

職業 :中隊長

称号 :-

レベル:25


ステータス

 HP : 560 (+100 +75)

 MP : 63

 STR : 435 (+100 +75)

 VIT : 360 (+100)

 INT : 100 (+75)

 AGI : 435 (+100 +75)

 DEX : 360 (+100)

 MND : 260

 LUK : 8


特記事項

 ゴブリンキングの加護

 ※ 効果 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにゴブリンキングのレベルに応じた補正が付く。




 これ、もうE級冒険者じゃ倒せないよね・・・ どうすんだろ。まさかおれg・・・・ 考えるのはよそう。 俺が面倒になる方向に行きそうだ。


 とまぁ、そんな感じで、中隊長もサクッと間引いて塒を探索中・・・と言うか、逃げてる分隊長を追跡中・・・ってまた違う部隊に遭遇。


 既に作業感が半端なく。辟易しつつも次の群れに襲いかかった。

















 あれから更に2日。周囲にゴブリンの数が急に増えてきた。


 と言うか、塒? と言うか、アジト? と言うか、集落? の様なものに到着した。


 見た目は朽ちた村のようにも見えるんだが、住人がゴブリンだった。


 俺としては、どっかの洞窟にでも塒があって、攫った雌型生物を○×△ってイメージが強かったんだが・・・


 イメージと違いすぎる。


 呆然としていると、俺が追っていたゴブリンが村の中に入って行った。


 おっと、追いかけないと。 そう思い直し、「隠密」スキルを発動したまま村の中に入って行く。


 村の入り口の辺りに来ても、やっぱり朽ちた村のようにしか見えない。 使われなくなってだいぶ経っているように見えるんだが・・・あ、家の中から木が生えてるし、あっちの家は半分崩れてる・・・


 そんな村の中をゴブリンが歩き回ったり、(たむろ)っている。


 うーむ、どうやら廃村に入り込んで再利用してるっぽいな? こんなところに廃村があるなんて聞いてないんだがな。


 そんな感想を抱きつつ、追跡中のゴブリンを追って行くと、周りの家々よりも明らかに大きい建物に入って行った。


 ここに大物でもいるのかな? そう思い地図にマーカーを付けると、慎重に建物に近付く。


 辺りを警戒しつつ、建物に近付くと、中から複数のか細い悲鳴とゴブリンの耳障りな嗤い声が断続的に聞こえてきた。


 ・・・なんか、場所のイメージは違ったけど、内容的には予想通りの展開になってそうだ。


 「地球」じゃ2次元の創作だったのに、こっちじゃ現実にそうなってるかもしれないって・・・ 地球(むこう)でオカズにしたこともあったんだけど、現実(リアル)だと思うとオカズにできそうにない。というか、オカズにしてたことも申し訳なくなりそうだ。 ・・・俺のオカズリストからこのネタは削除されるだろう。というか、こういうのは妄想だから興奮するのに、現場を見る事になるかもしれないと思うと、ちょっと引くは・・・


 ちょっとした鬱状態になってしまったが、「地図」で建物の中の人数を確認すると、敵性生物が7、それ以外が5だった。 恐らく5が女性なのだろう。


 正直、俺は今、迷っている。 中の女性達を助けるか助けないかでだ。


 自分の中の冷静な部分は言っている。 この場所をマーキングしてジェラルド氏に報告すれば今回の依頼は達成できるだろう。


 仕事を確実に達成させるという意味では、ここは危険を冒さず情報を持ち帰るのが一番だ。


 彼女達は改めて救助隊を派遣して貰えばいい。


 所詮は他人だ。 自分の命が一番大事。 これは見捨てるんじゃない。救助隊を出して貰った方が救出の成功率は確実に上がるだろうし、俺単独で救出した場合に比べても彼女達の危険はかなり減るだろう。 ただ、時間が掛かるのでそれまで彼女達が生きていられるかは不明・・・ だが、最初に言った通り他人だ。救われなくても俺には関係ない。


 そう思う一方で、助けられるだけの力はあるはずだ。それなのに見捨てるのか? それに俺が今救わずに救助隊を出して貰ったとして、それで彼女達が助からなかったとしたら、そのことを後悔しないか? 救えたかもしれない者を見殺しにしたと、本当に後悔しないか?


 そう自問すると、嫌な気分になり、腹に重いものが圧し掛かる圧迫感を感じる。


 そうなった場合、俺は確実に後悔するだろう。自分を責めるだろう。 一旦は忘れられるかも知れないが、ふとした時に思い出し、嫌な思いに苛まれるだろう。


 はぁ、そんな後悔はしたくない。


 ネガティブな発想ではあるが、最終的に俺は彼女達を救出する事を決めた。




 俺は覚悟を決め、建物の中に入り彼女達を探す。 「地図」と「気配察知」のお蔭で大体の場所は分かっている。ただ、敵性反応も5つ同じ場所に存在する。


 見付かれば即交戦と考えていいだろう。敵の数は分かっているし、配置もわかる。彼女達の居る場所へ近付くにつれ、ゴブリンの耳障りな声と、か細い悲鳴が次第に大きくなってくる。


 俺は1枚の扉の前で立ち止まった。


 彼女達は恐らくこの先に囚われているだろう。 そしてゴブリン共と○×△の真っ最中だろう。


 俺は最初にそう言う事になっているであろう事を覚悟して扉を握る。 予測しておけば、動揺しなくても済むかもしれないからな。 そう考え、数回深呼吸をしてから扉を開けた。





 扉を開けると、中からは饐えた匂いと共に、ほぼ思った通りの光景が広がっていたが、予想外の物も含まれていた。


 ・・・敵性反応以外の反応は5つだ。中に入って確認したが・・・ うん。やっぱりゴブリン以外は5つ居た。


 その内の3つは人型の女性だった。予想通り裸にされ、手足を縛られ、ゴブリンに無理矢理○×△されていたが、残り2つは・・・えーと、雌鹿かな?で、そちらもゴブリンが、えー・・・所謂、獣〇してた。


 なんか、○×△されてる人の横でゴブリンが獣〇してる光景って・・・シュールだ。


 あまりの光景に暫らく呆然としていた俺の背筋に悪寒が走る。「危機察知」スキルが反応したようだ。


 俺は冷や水を浴びせられたかのような反応で慌ててその場を飛び退くと、今まで居た場所に棍棒が叩き付けられる。


 あまりの光景に固まっていたのが仇になったようだ。ってか、あんなの想像できるか!?


 飛び退いた勢いのまま部屋の中に入ると、情事に励んでいたゴブリンが突然乱入した俺を見て驚く。


 その表情(かお)を見た瞬間、反射的に槍を連続で突き込み情事に励んでいた内の3匹を瞬く間に始末するが、4匹目に突き込もうとした瞬間、背後からの殺気を感じ、再び飛び退くと襲撃者の棍棒が空を切る。


 チッ、始末できたのは3匹だけか。そう思い背後から一撃を放ってきたゴブリンに向き直る。


 襲ってきたゴブリンを改めて見ると、他のゴブリンよりも大分大きく、その上貫禄の様なものを感じる。


 こいつはヤバいかもしれん。そう思い警戒していると、情事に励んでいたゴブリンの生き残りと、大隊長と一緒に来たのだろう。俺が追っていたゴブリンも臨戦態勢に入ったようだ。


 うーむ、恐らく、目の前のゴブリン。俺よりレベルが高いな・・・


 そう思い鑑定を使用し、職業とレベルのみを素早く目にすると、職業は大隊長、レベルは35だった。


 やっぱりか、それで俺の「隠密」が解除されたんだろう。


 囲まれた状況じゃ詳しく見ている暇はない。


 俺は大隊長を視界に納めつつ、少しでも死角を減らそうと壁際に移動する。


 俺は壁際に移動するが、助ける予定の女性3人からも離れる様に動き、戦闘に巻き込む可能性を減らす。


 極力戦闘に巻き込まない様に配慮するが、巻き込んでしまうかもしれない。ま、そん時は申し訳ないね。と心の中で謝っておく。


 ゴブリン達は間合いを徐々に詰めながら俺を囲む輪を縮めるが、俺はなんとか囲まれる前に壁際に移動できた。それにゴブリン達は彼女達には目もくれていない様だ。 これなら大丈夫だろう。


 背後の憂いを無くし、ゴブリン達を視界に納めると、俺は手早く終わらせようと、先に仕掛ける。


 下手に時間をかけて援軍を呼ばれると厄介だ。そう思い、一番手前に居るゴブリンに急接近すると槍を突き込む。


 ゴブリンも反応し、防ごうと棍棒を前に掲げるが、棍棒をあっさり貫き、そのままの勢いで喉に槍が突き刺さる。


 それを見た情事に励んでいたゴブリン2匹目は逃げ出そうとするが、大隊長に首根っこを掴まれ、こっちに投げ飛ばされる。


 俺は槍で飛んできたゴブリンを突き殺すが、それを見越していたかのように大隊長が1撃を加えようと棍棒を横薙ぎにしてきた。中々に素早い。


 俺は慌てて槍を手放し、上体を逸らすと、スウェーバックの要領で躱し、上体のバネを使って体を起こし、その勢いのままお返しに掌底を大隊長の腹に打ち込む。


 吹き飛びはしなかったが、前のめりになったので、大隊長の後頭部を掴み、顔面に膝蹴りを入れると、大隊長は仰け反り、倒れる。


 もう1匹のゴブリンも1拍遅れて攻撃して来ていたが、その攻撃を軽く受け流し、首に手刀を突き込むと、結構あっさりと喉笛を突き破ってしまった。


 右手が緑色に染まり、生暖かく不快な感触が右手から伝わってくる。 嫌な感触だ。


 そう思いつつ、大隊長に目を向けると、起き上がろうとしている所だったので、手放した槍を素早く拾うと、そのまま首を刎ねた。


 やっぱり大隊長ともなるとそれなりにタフなんだな。


 取り敢えず「地図」と「気配察知」で辺りを索敵し、建物内に敵がいない事を確認すると、俺は一息つき、戦闘に巻き込まれなかった女性3人に目を向けると、呆然とした表情でこちらを見ていた。


 意識はありそうで良かった。人数も想定していた5人から3人に減って、移動や護衛の際の負担も減る。これで当初の予定よりハードルはやや下がっただろう。


 そう考えていると、彼女達が何やら騒ぎ出した。


 大声を出されると他のゴブリンに見付かっちまう。そう思い小さい声で声を掛ける。


「静かにしてください。ここは敵地です。大きな声を出すと敵が寄って来て困ったことになってしまいますよ?」


 そう声を掛けると、彼女達の表情が固まり、一斉に口を閉ざした。聞き分けが良くて何よりだ。と、そうそう、先に回復魔法を掛けるか・・・


 一気に回復させる為、範囲回復魔法を掛けよう。


「エリアハイヒール」


 回復魔法をかけると、彼女たちの目が驚きに変わる。


「さて、これから拘束を解きますけど、騒がないで下さい。良いですか?」


 そう言うと、彼女達は頷き返してきた。 よしよし。


「それと今後の行動については、私の指示に従って貰いますが、よろしいですか?」


 このお願いにも彼女達は頷き返してきた。


「よし。それじゃ拘束を解きますね」


 そう言って槍の穂先で彼女達を拘束している縄を切り、彼女達を解放した。あぁ、序でに雌鹿の縄も解いておいた。 可哀想だからね。


 彼女達は自由になった手足を確かめる様に動かしていたが、少しすると、俺の方に向き直って頭を下げてきたが、俺はそれを止めさせる。


「まだ助かったわけじゃありません。むしろこれからが重要です。あなた方が助かるかは、これからに掛かっています」


 そう言うと、少し青褪めた様な表情で彼女達は頷きを返した。 我慢強い女性達で良かった。


 これなら何とか助けられそうだな。


 俺はホッとして彼女達の方に視線を向けると・・・ うん。今更ながらだが、素っ裸なのを再認識する。それも白い粘液とかでべとべとっぽい。


 彼女達もこちらの視線に気付いたようだが、今更なのか、前を隠そうともしていない。 ・・・というか、そんな事よりここから逃げ出す事に必死なのだろう。意識しそうになった俺は2重の意味で反省した。


 流石に裸じゃ可哀想だし、俺の目にも毒だ。そう思い「無限収納」から布を取り出すと、彼女達に渡して体に巻き付けて貰う。これで多少マシになっただろう。あと、水の入った皮袋を渡して喉の渇きを癒して貰った。 食事はこれからの事を考えると、吐く可能性が高く、余計体力を消耗しそうなのでやめておいた。


「さて、それじゃ、先程回復魔法で体の方を癒しましたが、痛い所や違和感などはありませんか?」


 そう言うと、3人共頷いてくれた。体は大丈夫なようだ。これで次の行動に移れるな。


「それじゃ、ここから出ますが、ゴブリン達が周りに相当数います。なので(はぐ)れずに私の後を付いて来てください。遅れても待ちませんので、そのつもりで付いて来てください」


 俺の言葉を聞くと、彼女達は血の気の無い顔を更に青くして頷く。


 彼女達のステータスは分からないので一般人程度でも付いて来れる位の速さで進むつもりだ。


 「鑑定」を使わないのは、極力他人でいて欲しいからだ。名前を知ったり、余計な情報が増えれば、情も湧き易くなる。「鑑定」を使わないことで俺自身の心の負担も減らす。 ヘタレと言われても構わない。


「それじゃ、行きますかね」


 俺は態と軽い口調で声を掛けると、右手を「無限収納」に入れ、目的の小石を取り出し、呪文を唱える。


小型爆弾(リルボム)


 呪文を込めた小石を持ったまま建物から出ると、一番近くにいたゴブリンに向かって投げつける。


 小石が当たった瞬間、ゴブリンが爆音と共に弾けるが、俺は次の小石に小型爆弾(リルボム)を込め、次々とゴブリンに投げ付けて行く。


 その光景に吃驚している様なので、俺は彼女達に声を掛ける。


「ぼーっとしてないで付いて来てください! 今後は声を掛ける余裕もなくなるので、逸れたらそれまでですよ?」


 そう声を掛けると、慌てて彼女達が付いて来る。冷たいようだが、俺自身の命もかかっている。彼女達を助けられるのも、俺に多少の余裕があるからだ。余裕が無くなれば、もしくは自分の命の危機に瀕すれば、俺は彼女達を見捨てるかも知れない。いや、多分見捨てるだろう。


 俺は弱い。誰かを命を掛けて守ろうなんて思ったこともないし、俺が誰かを助けられるのは自分に余裕があるからだ。


 なので、彼女達にも厳しい事を言い、俺に頼ろうとする心が芽生えない様に叱咤する。


 その後もあちこちに小石を投げ込み、その結果として爆発音が響くが、俺は「地図」で索敵しつつ、敵が少ない方に向かって突き進む。 時々後を付いて来る彼女達を振り返るが、必死について来ている様だ。


 後を追ってきたゴブリン達も近付く前に小型爆弾(リルボム)で吹き飛ばし、排除する。そうして、派手ではあるが、なんとか廃村から抜け出すことに成功した。


 その後も暫らくは黙って彼女達と森の中を王都方向に歩き続け、敵性反応が無くなるまでそのまま暫らく歩き続け、漸く一息ついた。


「ここまで来ればまず大丈夫でしょう。休憩しますよ」


 そう声を掛けると、彼女達は頽れる様に地面に転がって荒い息を吐いた。


 どうやら相当無理をして歩いていた様だ。 俺は彼女達が少しでも楽になる様に回復魔法を掛け、言葉を掛ける。


「良く頑張りましたね。ここまで離れればもう大丈夫でしょう。あとは街に戻るだけです」


 そう声を掛けると、彼女達は顔をクシャクシャにして涙を流し始めた。


 酷い目に遭ったと悲しんでいるのか、助かったことを喜んでいるのか、俺には窺い知ることもできない表情だったので、取り敢えず見守る事にして、周囲の警戒に専念した。


「あの、ありがとうございます」


 彼女達が一頻り泣き終わった頃、その一人にお礼を言われた。


「?」


「助けて頂いて、ありがとうございます」


 お礼を言われて嬉しい気持ちもあるが、俺はそのお礼を断る。


「お礼は必要ありません。私はあなた達の危機に間に合っていません。それと名前は名乗らないで下さい。私も名乗りません。その方がお互いの為です。今回の件については、とんだ災難に遭ったとでも思って、街に着いたら忘れてください。きっとその方があなた方の為です」


 俺はちっぽけな自分の心を守るために、そう伝えるが、彼女は更に言葉を紡ぐ。


「それでも、あんな地獄から私を・・・ 私達を・・助けてくれたのはあなたです。私はあなたに感謝しています。どうか、どうかお礼だけでも言わせてください」


 静かにそう返事を返すと、彼女は下を向いてしまった。 少々胸が痛むが、お互い知らない方が良いだろう。俺は「無限収納」から水の入った皮袋を取り出すと、彼女に渡す。


「水です。ゆっくり飲んでください」


「あ、ありがとうございます」


 そう言うと、彼女は恐る恐る受け取り、最初はちびちび、次第にごくごくと飲み始めた。


 俺はそれを確認すると、残りの2人にも水を渡し、少し休憩してから食事も渡した。


 さて、今日はこのまま野営して、明日からは王都目指して出発ってところかな。


 ほんとに助けられて良かったよ。 俺の心にも変な心的外傷(トラウマ)が刻まれなくてホッとした。


 あとはこのまま何事も無く無事王都へ帰れることを祈りつつ、俺も体を休める事にした。




 そう言えば、あの雌鹿達はあの後どうなったんだろう?



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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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