第191話 王都への道 ③
前話の続きなんですが、1話にまとめるには内容が微妙なので2話連投となりました。
「キャシー様、侵入者を捉えました」
その言葉にキャシーはまたかと嘆息する。
「はぁ、それで何か情報は吐いたのかしら?」
「いえ、やはり我々では拷問する事は中々難しいようです」
エマの言葉にキャシーも思案するが、確かに拷問については皆が不得手であろうと思い至る。
「確かにねぇ、みんな今は奴隷だけど、元々は冒険者や一般人だったんだから拷問なんて出来る精神なんて持ってるわけないわよねぇ」
「えぇ、それに例の称号が付いているかも私達では判断できませんから隷属させてからの尋問と言う手段も難しいです」
「アキーム達にも聞いてみたの?」
「はい、ですが見覚えが無いそうで、恐らく街の外の者だろうと言う事でした」
「それじゃ今回も衛兵に突き出すしかないわね」
キャシーは自身の無力感に苦々しく溜息を吐く。
楽太郎達が王都へ向かう数日前、ウェルズの街では表向きには貴族街に溢れたミノタウロス達をなんとか元の貴族屋敷に押し込める事に成功し、一先ず街の治安がある程度回復したと言う事になっていた。
また、その上で貴族街を封鎖し、件の貴族屋敷はキュルケ教が警備を担っており、現在小康状態を保っていると流布する事で街の住民を安心させている状態になっている。
そんな最中、王都から来た(厄介事を齎した)騎士団も流石に何もしない訳にはいかない状況に追い込まれた為、通常の悪魔のダンジョン攻略をすることでお茶を濁しつつ街の住民のご機嫌を伺っている。
と言う事になっている。
これは事実を明らかにすることが出来ない為、ボコポやバージェス達が必死で考えた辻褄合わせの説明である。
最初キュルケ教の評判が上がる内容に楽太郎は難色を示したが、ウェイガン教がウェルズの街を離れる口実としてこれ以上の理由が思い浮かばなかった為、折れざるを得なかった。
また、騎士団全員を奴隷にした事も現状明るみに出すわけにはいかないので騎士団が街にいない理由付けとしても最適であった。
まぁ、そうなると「第3王女のミーネはどうなるのか?」と言う疑問が浮かび、結果、王女の護衛であったサムソンがボロボロになった元の屋敷を引き払い、貴族街にある別の邸宅を1つ接収する形でミーネを守っていると言う形にしていた。
実際はミノタウロス達は既に倒されており、ダンジョンに通じる穴も塞がっている為、ウェルズの街の危機は去っているし、キュルケ教はやらかししかしていない。
騎士団においては街を危険に晒す行為により明るみに出た時点で処刑待ったなしだろう。
それでもそうしなかったのは偏にミーネの王位簒奪を確実に成功させるためだ。
大事の前の小事と割り切って表向きは平穏であるように装う事になったのだ。
そんな状況の中、ウェルズの街で「ラクタロー」と言う名前の人物について聞き回る輩が現れる。
それだけで終われば良かったのだが、その後、直接的な行動に移す者が現れた。
勿論、楽太郎はそんなものは意に介さずに返り討ちどころかボコして捕らえ、称号「人類の敵」がある事を確認すると襲撃者が昏倒している間にマルコム邸へと足を運び奴隷化。
そこから楽太郎は流れるように次々と襲撃を請け負った裏組織の人間を制圧し奴隷化を続けた為、当の本人はその自覚もないのだが、ウェルズの裏社会の大半を牛耳る結果となった。
勿論、裏社会と言えど大きな組織もあり、ウェルズ支部と言う扱いの組織もあったが、そう言った組織については支部の掌握だけではなく他の支部の情報を軒並みすっぱ抜かれる羽目になり、旅の先々で楽太郎の襲撃を受ける羽目になった。
なお、その際、ジャネットの鑑定スキルが大きく役立ったことは言うまでもないだろう。
そんな感じで誰が楽太郎の事を狙っているのかを吐かせ続けたが、結局誰に狙われているかはわからなかった。
直接依頼した人物への情報は手に入るがウェルズの街の外にいる人物となるとすぐにどうこうする事も出来ない。
それにウェルズの街の中でさえ伝言ゲームよろしく数珠繋ぎのように続いていたのだ。
この先も続かないとは限らない。
どうにも埒が明かないと判断した楽太郎は黒幕探しを一旦放棄した。
元々はジャネットの護衛として王都へ向かう予定だったが、次々と刺客が放たれている状況を鑑みるに本名を使うのは不安要素が多すぎる。
ならば見付からない様に偽名を使えばいいじゃない。
容姿についても髪色や髪型を変えたり服装を変えるだけでも印象は大きく変わるもの。
と言う事で偽名を使う事にしたのだが、ここで問題が浮上する。
偽名で使う身分証がない。
ウェルズの街の冒険者ギルドは今、機能不全に陥っている。
原因はギルド長が留置場にいるのが原因だが、これはギルド長のサントゥスの自業自得である。
それに加えて楽太郎からしてもこの街の冒険者ギルドに立ち入ったことがない。
それどころか立ち寄る前から関係は険悪と言って良いだろう。
なにせギルド長に犯罪者としての引導を渡したのが楽太郎なのだから。
そうなると冒険者と言う身分は使えない。
商業ギルドも不正が次々と発覚しており、ギルド長は例の称号持ちで既に奴隷落ちでお察しレベル。
商人と言う身分も使えない。
となると最後に頼れるのは職人ギルドしかない。
幸いギルド長は知り合いだ。
と言う事でギルド長のボコポに無理を押し通すことで細工師ラーク=エンジョイが爆誕した。
他にも偽名を使う事に伴い、楽太郎が街から突然消えれば不自然に思われてしまうだろう。
そう考え影武者を用意した。
「申し訳ない、ラルスさん。
あなたにしか出来ないんだ」
「え?えぇ?
わ、私にゃぁ旦那様の代わりは無理ですよ?!」
元農民の従業員は急な用件に驚き否定する。
「大丈夫。
何も心配ない。
ただ暫く私の部屋を使って生活してくれればいいんだ。
そして『楽太郎』や『旦那』とか呼ばれたら返事するだけで良い」
そう言うと、ラルスも真剣に答える。
「そ、それだけなら、私にもできそうですが・・・
あ、土いじりはしても良いですか?」
「それは却下だ」
その言葉にラルスは絶望したような顔を浮かべるが楽太郎は華麗に無視を決め込んだ。
こうして命がけの囮役が決まった。
そんなこんなで楽太郎屋敷への襲撃は日に日に増えて行った。




