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第190話 王都への道 ②

 ムドーの街のキュルケ教の教会にて、旅の司祭が静かに祈りを捧げていた。


 その堂に入った所作の美しさにムドーの街の司祭達は感嘆の吐息を漏らしていた。


「お若いのに素晴らしい」「我らも見習わねば」


 そんな称賛を浴びているとは知らず、ジャネットはキュルケへと懺悔する。


 楽太郎様に今日も様付けを窘められてしまいました。


 付けてはいけないと頭ではわかっているつもりですが、どうしても咄嗟に付けてしまいます。


 楽太郎様の命であり、その理屈も理解しているつもりではあるのです。


 ですが、それでも、敬うべき方に敬称を付けられないと言う事の何と心苦しいことなのでしょう。


 キュルケ様、神に連なる方の指示とは言え、中々守る事の出来ない不出来な私をお許しください。


 そして恐れ多くも同行を許されたこの不甲斐ない私をどうかお導き下さい。


 一心に祈りを捧げるジャネットは決して言葉に表しはしない思いを祈りに乗せ続ける。


 こうして本日の懺悔と祈りを終えると、ジャネットはゆっくりと体を起こして集合場所である酒場へと向かった。











「おーう!こっちだ!」


 ボコポの大声にジャネットはビックリしながらも直ぐに同じテーブルへ向かう。


「お待たせしてしまいましたか?」


「いんや、大して待ってねぇぜ、それで(やっこ)さんは問題なさそうか?」


 ボコポは店員に新たに注文するとジャネットにそう言って様子を伺う。


「えぇ、それよりも、やはり私だけではなくボコポさん達も一緒に移動した方がよろしいかと思うのですが・・・」


 ジャネットの言葉にボコポは呆れたような表情をしつつも声を潜めて反論する。


「そりゃ街出る前に結論が出ただろ?

 大人数になればなるほど怪しまれやすくなるってよぉ?

 ラクのところだけでも連れが9人なんだぜ?

 俺達職人ギルドの集団だけでも28人いて2つに分けてんだ。

 自分で言うのもなんだがよぉ、むさいおっさんの中にラク達んとこの若ぇのが居たら違和感しかねぇだろうが。

 それに商人達は大店なんかは自前で商隊もってるし、中小の商人だって普段から依頼してる冒険者や護衛が居る。

 ウェイガン教の奴等も其々固まって移動してんだから、ラク達が俺等に付いて行ったって違和感しかねぇってよぉ」


「そ、それは、確かにそうなんですが・・・」


「それに王都で開催する祈祷祭にウェルズの街からキュルケ教の関係者が誰も出席しないなんて状況はあんただって不自然だって思うんじゃねぇか?」


 ウェルズのキュルケ教支部の内情としてはトップ層がやらかしまくって機能不全に陥っている為、出席者として相応しい人物を選出できず組織としても動けていない。


 その内情を知っているジャネットとしても黙るしかない。


「んなもんだからウェルズのキュルケ教は街の治安維持で動けないって建前で不参加としたんじゃねぇか。

 それでも単に不参加だと王都開催への抗議だと捉えられかねねぇから、不参加の代わりに祭具の貸し出しって形で『私達には異論や蟠りはありません』って意思表明するんじゃねぇの?

 まぁ、その尻拭いとしてウェイガン教は予定以上の人員を出す羽目になったし、あんただって祭具の運搬って役割でウェルズ経由で移動しているって態で話を合わせてんじゃねぇか。

 だからこそ祭具の調整が出来る細工師とその護衛を引き連れるってのは誰からも違和感なく納得させることが出来るんじゃねぇか。

 実際、奴さんの腕は確かだろう?」


 そう言われ、ジャネットは反論できなくなった。


 それでもこの心労はなんとも厳しいものがある。


「まぁ、他にもっといい案でもあるってことなら話は変わるが、あるか?」


「いえ、ありません。

 ありませんが、私の胃が持たないんですよ。

 最近キリキリ痛む様になってきていてですね、食欲も落ちてきている気が・・・」


 ジャネットは素直に弱音を吐くとボコポは笑った。


「そりゃ大変だな。

 ラクに教えてやらねぇとな」


「そ、それだけはお止めください!」


 慌てて制止するジャネットにボコポは笑いかける。


「はっはっは、大丈夫だぜ?

 奴さんなら優しく治してくれる」


「こんな事であの方のお手を煩わせるなんてとんでもない!」


 その答えにボコポは更に笑うとジャネットは憮然とした顔になる。


「あぁ、すまねぇな。

 ただ俺ぁよ、秘密の共有ができる奴等が出来て嬉しかったもんだから、ついな」


「秘密の共有?」


「あぁ、ラクタロー(奴さん)についての秘密の共有だよ。

 今までは俺一人だったからな。

 かなりきつかったぜ」


 その台詞にジャネットも納得の表情を浮かべる。


「なもんでな、お前さんの苦労してる姿見ると、『やっぱそうなるよな』って気持ちと『仲間が出来た』って気持ちが合わさって笑っちまうのよ」


 ジャネットは押し黙り遣る瀬無い気持ちになる。


「まぁ、お前さんもお仲間を見付けたらわかるぜ」


 そう言ってボコポは一頻り笑うと真面目な顔になる。


「それで、道中どうだった?」


 鋭くなった眼光にジャネットも気持ちを切り替える。


「はい、やはりこの街でもラクタローさんの事を嗅ぎまわる連中はいますね。

 ウェルズの街程じゃないですけど」


「ふむ、手当たり次第って事か・・・

 例の称号も付いてんのか?」


「えぇ、先程話し掛けて来た方を怪しまれない様に離れてから確認しましたが、バッチリ付いてましたね」


 ブフォッ?!とボコポは酒に咽た。


「さ、さっき?!」


「えぇ、宿の食堂で聞かれましたよ」


 ジャネットの答えにボコポはさらに声を潜めて驚く。


「ヤッバイじゃねぇか。

 本当に大丈夫なのか?」


「正直、あのお方であれば本名で行動した方が手っ取り早く賊共を捕らえて黒幕へと辿り着けると思うのですが、何故かあのお方は直接的な行動を避けられています」


「そりゃお前ぇ、確実に辿り着けて他に何のリスクも無けりゃそうだろうがよ。

 俺達ゃぁ、今回でっけぇ目的が在んだろうが?

 最優先はその目的の成就で、その黒幕とやらの始末は二の次だからだろう?

 だからウェルズの街に囮まで残して来たんじゃねぇか」


「・・・」


「目的を見失うんじゃねぇよ?

 黒幕なんてぇのは大体わかってるし、動いてるのが例の称号持ちなら対処も簡単だ。

 なら一々相手するんじゃなくて目的を果たした後に堂々と一掃するのが楽なんじゃねぇか?」


 そう言われてジャネットは心の痞えがスッと取れた気がした。


「なるほど、そうなると私の考えの方が迂遠だったんですね。

 やはりあの方が仰ったことは正しかったんだ。

 あのお方はやはり・・・(神の代弁者)


「いや、ラ・・奴さんもちょくちょく間違えっからな?」


 ジャネットの狂信的な雰囲気を察してかボコポが慌てて突っ込む。


「それよりもそいつ等について、奴さんどうするって?」


「適当に(あしら)って放置だそうです。

 問題ありそうなら狩る(対処する)そうですよ」


 その返答に物騒なモノを感じはするがボコポも既に覚悟は決まっている。


「そうか、予定に狂いが出ないんならそれでいいぜ。

 それより奴さんは今どうしてんだ?」


 そう聞かれたジャネットは苦笑と共に説明する。


「職人としちゃぁ手を抜かなかったことを褒めるべきなんだろうが、その所為で今回の件に支障が出るのも困りもんだ」


 そう言ってボコポは複雑な表情を浮かべていると、新たな人物達が加わる。


「お待たせしましたかな?」


「遅れてしまったようですな、すみません」


「おう、お疲れ。

 予定時間前だから遅れてねぇぜ」


 そう言ってボコポはバージェスとマルコムを労う。


 「それは良かった」とバージェスが言うとマルコムもそれに倣い安堵して席に着く。


 その様子を目敏く見ていた店員が追加注文を促し、全員分の飲み物が揃うとボコポが口を開く。


「それじゃ取り敢えず再会を祝してって事で、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 釣られて完敗した面々は不思議そうな顔をするが「周りに怪しまれねぇようにだよ」と小声で言われると納得する。


 そうしてお互いの状況を雑談混じりに話し合い計画とのズレを修正して行く。






「まぁ、今んとこ概ね問題ねぇって事だな」


「えぇ、そうですね」


「あのぉ、出来ればですね、何方か一緒に行動して頂けると嬉しいのですが・・・」


「「「無理『だ』『です』)!」」」


「目的地は同じじゃないですか!」


「「「それでも無理『だ』『です』!」」」




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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