表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/203

第109話 試食会

大変遅くなり申し訳ありません。


読んで頂けたら幸いです。


 ジュ、ジュワ、ジュワワワ~


 肉を揚げる良い音が鍋から聞こえてくる。


 俺は鼻歌を歌いながら良い気分で鍋の中のお肉を引っ繰り返す。


 鍋からは油の良い音と肉の上がる香ばしい香りが漂い俺の気分も高揚する。


 頃合になった唐揚げを油から引き揚げ、網の上に乗せて油きりをする。


 そうして大蒜(にんにく)抜きの唐揚げを次々と揚げて行く。

 そして油きりの終わった唐揚げを皿に移す。


 肉を揚げ、油をきり、皿に移す。

 その工程を只管(ひたすら)繰り返してボールの中の肉が無くなる頃、唐揚げは皿の上で山になっていた。


 俺はそれを見て満足し、大蒜(にんにく)抜きの唐揚げの山から1つ摘まむと口に放り込んだ。


 1噛みするとカリッとした触感の後に肉汁が溢れる。

 熱々の肉汁にハフハフと息を荒げてしまうが、少しして落ち着くと肉汁の旨さに頬が緩む。

 そして更に噛みしめると今度はカリッとした食感にプリプリとした淡白な鳥肉の食感が混じり、程よい弾力と肉の旨さが口中に広がった。


「くぅぅぅ、美味い!」


 久しぶりに食べた唐揚げの美味さに自然と頬が緩み満面の笑顔を浮かべてしまったが、これは仕方がない。


 俺の満面の笑顔に目の前にいるゾンビ4人は物欲しそうにこちらを眺めている。


 俺は唐揚げを1つ摘まみ、それをナイフで4等分にするとゾンビ共の口に放り込む。

 するとゾンビたちは咀嚼を始め、味を堪能するとその表情がだらしなく蕩ける。

 ふは、人はこれ程だらしない表情が出来るのかとゾンビ4人を眺め、満足すると次の大蒜入りの唐揚げを揚げる作業に移る。


 肉を鍋に放り込むと、「ジュワァ~」と言う心地良い音と共に大蒜の良い香りが漂い始め、食欲をそそられる。

 後ろから何人かの喉が鳴る音が聞こえたが、敢えて無視した。

 そうして次々と肉を揚げ、油きりをして皿に盛ると唐揚げを1つ摘まんで試食する。


 揚げている最中もそうだったが1口噛むと油と肉と大蒜の香りが絶妙に混ざり合い何とも言えない美味しい香りが広がる。

 そして肉汁も大蒜のお蔭で一段旨味が増したように感じた。


「やっぱ、大蒜が入ってるのは良いねぇ、食欲を刺激される」


 やはりこれは至福だ。


 美味さの余韻に暫らく浸った後、俺はチラッとゾンビ4人を見ると涎を垂らさんばかりにこっちを凝視している。

 うおっ、更なるゾンビ化が進んでいる?!


 だが、それを敢えて無視して次のピリ辛の唐揚げを揚げ始め、揚げ終わる頃にはゾンビ4人組は進化して餓鬼へと転生しそうになっていた。


 俺はマスターを呼び、襲われない様に餓鬼4人を縛り上げて貰い、奴等の目の前で試食する。


 唐揚げの絶妙な旨味にピリッとした唐辛子のアクセントが効いていて非常に美味しい。

 炭酸ジュースとの相性もばっちりだろう。


 あぁ、しかし炭酸ジュースも今の所、塩サイダーのみ。

 他に何か作れないだろうか。


 そう思い辺りを見ると生姜が目に入った。

 そう言えばジンジャーエールって生姜あれば作れるんじゃないか?


 そう思ってスマホで検索すると作り方が載っていた。

 ジンジャーシロップってのを作って炭酸と混ぜるだけみたいだ。


 材料は手持ちの物で足りるし、簡単そうだったので作る事にした。


 まずは唐揚げで使った鍋を餓鬼たちに見られない様、厨房から出た後すぐに『無限収納』に放り込む。

 唐揚げも冷めないように放り込んだ。


 そして汚れたボール等を洗い終わったら、生姜の皮をむいてスライスする。

 小さめの鍋を出してそこにメープルシロップを適当に入れてスライスしたショウガを放り込む。

 そして鍋を火にかけてコトコト煮込み生姜が柔らかくなってきた頃合を見計らいレモンを絞って汁を入れると火を切って鍋が自然に冷めるのを待つ。


 俺はその間にマスターとレーネさんを呼び唐揚げの試食をさせる事にした。


 もちろん餓鬼へと進化した4人組の目の前でだ。


 何故そんな仕打ちをしているかと言うと、ゾンビ4人が盗み食いをして床をのた打ち回った後、騒ぎを聞き付けたマスターが俺に謝って来たのだ。


「ウチの従業員が大変な事をしてしまい申し訳ありません」


 そう言うマスターに俺は彼女達への罰を冗談交じりに告げた。


「なら、そうですね。反省の意味も込めて『今日はご飯抜きってのと、俺が料理している所と、マスターとレーネさんが試食している所をじっと見ているだけ』って言う罰を与えて貰えますか?」


「そ、それだけでいいのか?それならせめて材料費くらいは弁償させてくれ」


 その言葉に少し俺は詰まる。

 コカトリスの肉は結構なお値段だ。


「えーっと、材料はコカトリスのお肉なんですけど、大丈夫です?」


「な?!」


 やっぱりマスターは驚いたようだ。


「まぁ、弁償は良いですよ。今回は私もわかってて罠に嵌めた部分があるので。

 その代わりにそこそこのお値段で手に入る鳥肉が欲しいんですけど、何処か良い精肉店を紹介して貰えませんか?」


 改めて弁償はしなくていいと伝えるとマスターはホッとした様に胸を撫で下ろし、お姉ぇ店主の肉屋を紹介された。


 あれ?あそこって鳥肉出してたっけ?

 その疑問をマスターにすると鳥肉は大体お店をやってる人達が殆んど買い取ってしまうから一般客向けにはあまり売っていないらしい。


 あのお姉ぇ店主(おかま)めぇ。鳥肉隠してやがったのか!


 少しムカついたのでマスターに大金貨1枚渡してムネ肉とモモ肉あとあればセセリも買い占める様に頼んで使いっ走りになってもらった。


 そんな感じで俺とマスターの会話を聞いていたゾンビ4人組はホッと胸を撫で下ろしていたが甘い。

 空腹の状態で他人が美味しそうなものを目の前で食べている姿を見せられるのは一種の拷問に近い行為なのだ。

 ゾンビ4人組には身を以て知って貰おう。

 くっくっくっく。



 と言う感じで今に至る。


 罰の効果は抜群でゾンビ4人組は餓鬼4人組へと進化を遂げて今にも暴れ出しそうだ。


 俺は6枚の小皿に小分けした唐揚げを3個ずつ置くとマスターとレーネさんを大声で呼ぶ。


「で、出来たんですか?」


 そう言ってマスターは確認して来たので頷くと一応説明する。


「こちらが塩味の唐揚げで、こっちが大蒜入りの唐揚げです。あとこちらは少し辛い唐揚げです」


「おぉ、なんだかすごく良い匂いだ」


 厨房に入って説明を受けたマスターがそう言って相好(そうごう)を崩すと、レーネさんも厨房へ入って来た。


「お待たせしました~って、なんかすごく良い匂いがしますね」


 そう言って既に笑顔になっているレーネさん。

 俺はレーネさんにも説明して試食を勧める事にした。


 もちろん餓鬼4人組に食べる所がしっかり見えるように椅子と机の配置は整えてある。


「それではまず塩味の唐揚げから試食してください」


 そう言うとマスターは「では遠慮なく」と言って唐揚げを1つ頬張る。


 マスターが咀嚼する姿を餓鬼4人組と一緒になって見守る。

 何度かモグモグと口を動かしていたが、次第に表情が蕩けるようにだらしなくなり、恍惚の表情を浮かべる。

 そして一言「うまい」とポツリと呟く。

 そして味の余韻に十分に浸った後、眼をカッと見開く。


「チャンピオン!これは途轍もなく美味いですよ!

 ぜひ作り方を教えてください!」


 興奮したマスターの様子はフライドポテトを教えた時以上の熱意を感じたが俺は断った。

 1つの店に肩入れしすぎると他の店に恨まれそうだしね。


 それにマスターが作れるようになったら餓鬼4人組のお仕置きにならない。

 素直にその事をマスターに伝えると餓鬼4人組がクビにされそうだったので秘伝の製法なので教えられないと言って誤魔化しておいた。

 流石に俺もつまみ食いで職を奪うような真似はしたくない。

 お仕置きはするけどな。


 そしてレーネさんも試食をしたのだが、最初は餓鬼4人組に遠慮して中々手が進まなかったので俺がバッサリと餓鬼4人組を切り捨てた。


「レーネさん、遠慮はいりませんよ。あなたは正しい判断をしたんです。

 そしてそこの4人は己の欲に負けたんです。正しい行いをしたものが後ろめたく感じる必要はありません」


 そう言うとレーネさんと餓鬼4人組はビクッと肩を跳ねさせた。


「し、知ってたんですか?」


「『ラクタローさんって優しいから後で謝れば許してくれるわよ』でしたっけ?」


 そう言って餓鬼4人組に笑顔を向けると、餓鬼たちは固まった。


「さぁ、レーネさん。遠慮せずに食べてください」


 俺がそう言うと更に手を出し辛そうにしていたがレーネさんは意を決すると一口齧る。

 すると「ひゅ、ひゅごーい、もぐもぐ。こんなにおいしいお肉食べた事ないですー!」と言って飛び上がって全身で美味しさを表現していた。


 それを見て餓鬼4人組が羨ましそうにしている。その姿に俺は満足する。


 ふふふ、最初に唐揚げを少しだけ食べさせたのは味を教える為だ。

 激辛仕様のお仕置き唐揚げの味しか知らないと美味しくないと勘違いされかねない。

 それでは罰にならないから、敢えて本来の味を教え、それを他人が美味しそうに食べる所を見せ付ける。

 食い意地の張った者にとってはさぞ辛いだろう。


 そしてマスターとレーネさんが1つ目を食べ終え、2つ目に手を付けようとした時に俺は待ったを掛ける。


「「え?」」


 そう言って驚く2人に俺は「これも試して貰いたいんですよ」と言って懐から出す感じで「無限収納」からレモンを取り出す。


「レイモンの実ですか?」


 マスターが訝しそうに聞いて来るので肯定しナイフで切り分け、塩味の唐揚げにレモン汁を絞って振りかける。


「さぁ、どうぞ」


 そう言って試食を勧めると2人共レモンの掛かった唐揚げを口に入れる。

 じっくり味わうように噛みしめると、マスターが「なるほど、サッパリした酸味が唐揚げの旨味を更に引き立ててくれ、後味も爽やかです。これなら幾らでも食べられそうだ」と言って残った最後の1つにもレモン汁を掛けて食べる。

 その表情はとてもいい笑顔だった。


 もう一人のレーネさんも「レイモンの実って酸っぱくて食べにくかったんですが、こういう使い方もあったんですねぇ。すごくおいしいですよ~」と言って満面の笑みを浮かべている。


 うし、唐揚げは成功だな。

 後は好みの問題だが、どうだろうか。


 そう思い大蒜入りの唐揚げの試食もして貰うが、こちらも高評価のようで何よりだ。

 そして餓鬼4人組はもう涎を垂らさんばかりになっている。


 そして最後の少し辛い唐揚げはレーネさんは「美味しいけど辛いからあんまり食べられそうにない」と残念そうに答え、マスターは「これ、酒の肴にぴったりですよ!」と美味しそうに食べていた。


 結果からすると概ね唐揚げは成功のようだ。


 そして俺は最後に激辛仕様の唐揚げを自分だけ試食してみた。

 赤味の増した唐揚げを見て餓鬼4人組は一瞬震えたが、俺が自分の口に入れるとホッとした表情になっていた。


 そして俺の方だが、確かに辛いが俺は美味いと感じられた。

 辛さを表現するなら何だろう・・・カラ〇ーチョ位の辛さだろうか?


 あまり数は食べられないが2、3個までなら美味しく食べられそうだ。

 俺が満足そうに食べているとマスターが「それはなんです?」と聞いて来たので、「そっちの4人が最初に食べた激辛仕様の唐揚げですよ。食べてみます?」と返すと試してみると言ってマスターが試食した。


 マスターは口に入れると「うおぉぉ!辛い!確かに辛いが・・・美味いぞ?!」と言ってどっかの人みたいに味に目覚めていた。


 俺はこの店で激辛メニューが増えない事を祈った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ