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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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大災害、そして一つの希望

 竜神に消し飛ばされたヨミは、魔導王国でセーブポイントを更新していなかったこともあり、ロードポリスに飛ばされていた。

 急いで部屋の外に出るとノエルも同じくロードポリスに飛ばされており、廊下で合流。

 そのまま二人で駆け足でワープポイントまで走り、そこから魔導王国に転移する。


「なに……これ……」


 転移してすぐに映ったのは人一人いない王都マギアと、ガラスが粉々に砕け散りいくつかの建物が崩壊している光景だった。

 あの丘から王都まではかなり離れていたはず。それなのにここまでの被害を出しているということは、竜神のあの攻撃の余波がここまで届いているということ。


 まだあの場にはプレイヤー以外にも、かつて銀月の王座とともに戦った第十五魔導大隊の隊員たちと、王都守護魔導大隊のNPCたちもいた。

 ただでさえ王の攻撃でも壊滅的な打撃を受けるというのに、それ以上の神の一撃。

 どうなってしまったのかを想像したヨミは、ぎりっと歯ぎしりをして両の拳を強く握り、ノエルは体を震わせて両手で口を覆う。


「……ひとまず、城に行こう。きっと……きっとマーリンなら、どうにかしてくれているはずだ」


 動けないでいるノエルの手を取り、ヨミは王城へ急ぎ足でかけていく。

 王都の状態は悲惨の一言だった。人が常に行きかい栄えているあの光景はどこにもなく、かつてギルド対抗戦で戦ったパラディース王国のステージを彷彿とさせた。


 城に近づくにつれて、王都に残っていた兵士たちが見え始め怒号を上げながらがれきの撤去などを始めている。

 道中で話を聞くと、市民は避難シェルターに避難しており無事であるとのこと。そのことにひとまずはホッとするが、それでもノエルの表情は暗かった。


 城に着くと、城も所々が壊れておりガラスも同じく割れてしまっている。

 瓦礫の撤去や砕けたガラスの掃除、その他もろもろの作業を急ぎで行っている。

 ヨミとノエルは彼らの間を縫うように走っていき、城の中に入る。中ももちろん、使用人たちがてんてこ舞いとなっている。


「マーリン!」


 執務室のドアをノックせずに開けて入る。そこにはマーリンはいない。

 どこに行ったのだろうと、考えながら次は謁見の間に移動する。

 そこにもいなかったので、ノエルと二手に分かれてマーリンの捜索を開始する。

 途中でシエルたちやアーネスト、美琴を除いた夢想の雷霆やフレイヤとリタもやってきて、全員で手分けして捜索する。


 そうして探すこと十分弱。マーリンが王城の大きな訓練場にいるということをヘカテーが突き止めてくれた。

 急いでそこに行くと確かにマーリンがそこに立っており、正面には美琴とガウェイン、そしてわずか20名ほどの第十五魔導大隊の隊員と、100名弱の王都守護大隊が地面に倒れていたり座り込んでいた。


「やあヨミ。……美琴から聞いているよ。白と黒の竜神が現れたんだってね」

「うん。……ところで、他の隊員は? ここにいる20人は、あの時戦場にいた。この人たちがいるならさ、他の隊員たちも、」


 マーリンは縋るようなヨミの言葉を遮るように、悲しい表情で顔を左右に振る。


「竜王と戦い勝利して帰還した英雄たち。でもまた無茶はされたくないから、あの日以降全ての兵士たちの鎧に帰還の魔術をかけておいた。命が危なくなったら、周りの人を巻き込んで一人でも多く帰ってこられるように。それでも、帰ってこれたのはたったのこれだけだ」


 その言葉に、ヨミは頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じる。

 かつてはともに黄竜王に挑み、そして勝利した戦友たち。そんな彼らが、今はもう20人程度しか残っていない。

 彼らはプレイヤーと違い、この世界で生きている人間だ。ほかのゲームのように、一定時間が過ぎたら復活するということもない。


「今回の件、あれは誰にも予測はできないものだ。赫竜王の出現だけでもかなりイレギュラーだというのに、そこにその上位存在だ。君の前でこう言いたくはないが、むしろ普通なら逃げることもかなわない相手からこれだけ帰還できたことは、奇跡のようなものだ」


 ふらふらと前に出て、ガウェインのところに近寄る。

 美琴が直前まで抱えて移動してくれていたおかげか、大きな傷はないように見える。だが、たった一撃で多くの部下や寝食を共にした仲間を失ったことで、心に傷を負った様子だ。


「……ヨミ殿」


 力のない声でガウェインが零す。


「我々人類は、本当に竜の時代を終わらせられるのだろうか。竜神はその名の通り、神のような存在。そんな怪物に、我々が挑んではいけないのではないだろうか」


 震える声で言葉を紡ぐ。

 あまりの理不尽的な強さに心が折れかけているのか、あるいはもう既に折れているか。


 その時、まったく空気を読まずにウィンドウが正面に表示される。

 こんな時くらい空気を読んで出てくるんじゃねぇ! と叫びそうになるが、書かれているものを見て言葉を飲み込む。


『グランドストーリークエスト:【始まりの白、終わりの黒。座を追われし碧き水晶の女神】が発生しました』

『グランドクエスト:【反逆の旗印:赫の章】が進行しました』


 グランドクエストの進行というメッセージと、ここに来て初めて見るグランドストーリークエストという文字。

 タイトルに白と黒が入っているので当然竜神関連だが、問題はそこではない。

 座を追われし碧き水晶の女神。ここが非常に重要だと勘が訴えている。


 この世界は元々、一柱の女神によって作り出された。

 その女神は強い力を持っており、慈愛に満ちた心を持っている。

 ただ時を同じくして、悪の心を持つ別の神が介入してきて女神が作ったこの世に、人類に害をなす存在を作り出した。それがエネミー、この世界でいうところの魔物と呼ばれる存在だ。


 この話はアーカーシャから聞いたものであり、シンカーも各国の文献や石碑、その地域の口伝や伝承等から読み取ったものなので間違いないと言っていた。

 魔族は悪神ではなく女神に作られた存在で、強い力を有しているのは人類とともに魔物を倒すためではないか、と考えられている。


 だがその話は今はどうでもいい。問題は、シンカーが言っていたこの世界の女神は、水晶のような瞳を持ち水晶のように澄んだ心を持っていたとされている。

 そのためこの世界の正式名称はいまだ不明だが、女神の別の名前というのはどうにか突き止めてくれている。

 その名前が「水晶の女神」。


 ここにきてその名前が出てきたというのは偶然ではないだろう。

 座を追われた、と書かれているがそれはきっと竜神と戦い敗北したか、あるいは別の理由があるのか。

 神の座に坐する竜神。その座から追われた女神。

 竜神がこの世界に降り立ったというのなら、女神もこの世界に降り立っているのではないだろうか。

 それとも、直接この世界には存在していないが、何かしらの手段で接触することが可能なのではないか。


 もし、女神と接触することが可能だというのであれば、きっとそれは竜神に挑むまでの最後の最後の強化イベントとかだろう。

 竜神と接触し敗北することで発生した、グランドストーリークエスト。ただ竜王を倒すだけでは絶対に倒すことができないなら、絶対に何かギミックがある。

 その絶対必須のギミックこそ、女神との接触なのではないだろうか。


 この世界における法律は、魔術は魔術で対抗できるが、魔法は魔法でしか対抗できない。

 竜神が真に神の力を有している存在なのだとすれば、それに対抗できるのは同じ神の力。

 数多くの仲間が殺されてしまい絶望的な状況の中、そこに一つの救いの手が差し伸べられたかもしれない。


 多くの仲間を失いヨミも心が痛い。より長く時間を過ごしたガウェインは、ヨミ以上に心を痛めている。

 だからこそ、強く決心する。


「ガウェインさん」

「なんだ、ヨミ殿」

「ボクは、今すごく悔しいし悲しいです」

「……私もだ」

「竜神を許せない」

「私もだ」


 強いガウェインが、涙を流すのが見えた。


「だから、約束します。ボクは、絶対にあの竜神の首を落とす。ボクが何回死んでも、何百回死んででも、奴の首を落とします」


 そう、ヨミは強くガウェインの前で宣誓した。

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