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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
222/305

竜斬りを夢見た侍の頂

 蹴り飛ばされた妖鎧武者は腕の力だけで跳ね上がって着地し、即座に『隼』を使って間合いを詰めてくる。

 対するヨミはエネルギーを使って脚力を強化し、制御度外視で加速してそれに『ヴォーパルブラスト』の加速も上乗せする。

 姿がその場から掻き消えるほどの速度で、妖鎧武者が攻撃を繰り出すよりも先に剣が届きそうになるが、その卓越した技術で受け流されつつ刀身にエフェクトが発生する。


霞千鳥(カスミチドリ)!」

「ちょ、ま───」


 淡い青色のエフェクトがかかると、大きく受け流されてバランスを崩し、自ら首を差し出すように前につんのめり、そこに合わせて振るわれた長刀で首を刎ねられる。

 問答無用の死亡宣告がシステムから告知されてHPが消し飛ぶが、ストックを一つ消費して即座に復活する。

 影に潜って離れ太い木の枝にある影から飛び出て十秒チャージ血液パックで自然回復速度と量をあげて、筋力にバフを受ける。


「カウンターまであるんかい。あっちの狩猟ゲームだとカウンターが主体になってるけど、こっちまでそれがあるとは思わないじゃん」


 カウンター系の戦技というのはないわけではないが、タイミングが結構シビアで使いづらいため好んで使う人はまずいない。

 ほんの一瞬の差が勝敗を付けるフルダイブVRゲームであるため、戦う相手が全てAI操作による某狩猟ゲームとかであれば、カウンターの受付時間はFDOより長く、カウンター主体の戦闘もできる。


 だがここはキモいくらいリアルに作り込まれているので、カウンターを決められるタイミングもシビアになってしまっている。そのため、カウンター主体のプレイヤーは滅多にいない。

 一応タンク職は他と比べるとやりやすい傾向にあるそうだが、カウンターを楽しむためだけにタンクになるつもりはない。


 HPが回復しきったので『ブラッドイグナイト』と『フィジカルエンハンス』を再起動して隠れている木から飛び降り、着地と同時に地を這うような低い姿勢で疾走する。

 妖鎧武者はヨミが姿を見せた瞬間『火杭鳥』で高速突進を仕掛けてきたが、大分集中力が乗って来たのか刃が頬を軽く掠める程度に、先に回避することができた。

 ここからどんどん見切りの精度を上げて、紙一重で回避しまくってやると意気込み、全ての攻撃をパリィするつもりで刃を交える。


 連続した金属音だけが森の中に響き続け、それが響く分だけ地面や木に切り傷が付けられていく。

 ヨミが逆手に持ったナイフで首を狙えば柄頭で受け止められ、霞に構えるように引いてから左から長刀が薙ぎ払われる。

 体を仰け反らせて鼻先を刃が掠めていき、逆八相に構えられてから逆袈裟に振り下ろされてきたので影に落ちて回避。

 背後に回り込むのではなく全く同じ場所から姿を見せて、同時に大きく振り上げた右手の片手剣で『ノヴァストライク』を繰り出し、妖鎧武者はそれを頭上に水平に構えた長刀の根元で受け止める。


 ギリギリと押し込むが、力任せの鍔迫り合いはこちらが不利になるのであえて力を抜いて上に弾き上げられて、もう一度初動検知位置まで持って行って『ノヴァストライク』を繰り出す。


「うえぇ!?」


 また水平に長刀が構えられるが、今度は受け止めるのではなく触れると同時に長刀を傾けて側面を受け流される。

 一回目の戦いの時にやった、カナタにされたことのある変則受け流しの再現、を妖鎧武者に再現される。

 どれだけ上等なAI積んでんだよこの化け物は! と心の中でツッコミを入れつつ、辛うじて切り上げの戦技『デイブレイク』の初動位置まで持ってこれたので上から振り下ろされてきた長刀目がけてエフェクトをたたえた片手剣を振り上げる。

 上から押し込まれるような形で鍔迫り合いにまた持ち込まれ、吸血バフと自前の魔術によるバフによる高いSTRのごり押しで少しずつ押し上げていく。


 徐々に押し返していったが、また淡い青色のエフェクトがかかったのを見てすぐに力を抜きつつ、左手の影ナイフを放棄しながら鎖を後ろの木に伸ばして巻きつけ、巻き取りながら引きずられるように後ろに移動する。


「霞千鳥!」


 先刻まで頭があった場所を刀身が通過していき、若干回避しきれていなかったのか喉を少しだけ斬られる。

 刀が空ぶったところで手を鎖から離して立ち上がり、『スラストストライク』で間合いを一気に詰めつつ袈裟懸けに振り下ろす。


鳳皇(オオトリノスメラギ)!」


 一回目の戦いでヨミを殺した刀戦技が放たれる。

 ともに袈裟懸けに振り下ろしがぶつかるが、ヨミは弾き落とされてしまったのに対し妖鎧武者の一刀はそのまま胴体に向かってきた。

 相手の攻撃を攻撃で切り払いながら、長い間合いを利用して斬りかかってくる。しかも威力が高いし、ヨミの装備は防御力を低くして筋力と魔力値をあげているため、レア度のわりに紙装甲だ。

 斬られたら大ダメージは必至だし、下手したら即死だ。


「『ジェットファランクス』!」


 なので刃が肩口に減り込んだところで漆黒の槍衾を展開し、即座に射出。

 ジェットブラックの槍たちがジェットの如き速さで射出されて、至近距離でそれを受けた妖鎧武者が鎧を砕かれ一部貫通されながら吹っ飛ばされる。


「あ、あっぶなー!? 一歩遅れてたらバッサリ行ってた!?」


”まさかこんなやべー奴との戦いが見れるとは思わなかった”

”ただでさえレアな妖鎧武者の、更にレアな特殊個体なんかねこれ”

”可愛いからって見始めて、グランド戦と対抗戦で心を鷲掴みにされて、可愛いしメスガキなのに根は清楚な戦闘狂で一生推していこうと決めてよかった”

”Earnest:ヨミ、明日私をそこに案内しろ”

”ん?”

”今なんかすごいのが見えた気が……”

”おいwwwwwwwwww 剣聖が来たぞwwwwwwwwwwww”

”最強格の剣聖も見に来るメスガキ魔王な吸血鬼の配信”


 何やらやけにコメント欄が盛り上がりを見せており、ヨミもちらっと何か見えた気がしたが見なかったことにして、鎧がぼろぼろとなった妖鎧武者を見る。

 鎧のあちこちが砕けて中の骨が見えており、HPバーもイエローゾーン後半まで割り込んでおり、あともう少しで倒せそうだ。

 鎧が見た目めちゃくちゃ硬そうなのに、ジェットファランクスとブリッツグライフェンブーツ形態のエネルギー消費技一発で随分と減っており、案外脆いんだなと安心する。


 もしこの強さで鎧までガッチガチだったら、一部の上位陣しかこれを倒すことができないということになってしまう。

 もとより妖鎧武者というレアエネミーそのものが、トップを走るプレイヤーが相手にするようなエネミーなので、更にそのレアな特殊個体となれば運営の意図通りごく一部しかまともに戦えない化け物になるのだが。


「見、事……也。貴様ハ、我ガ……窮、極ヲ、試スノニ……相応シイ」


 次は何を仕掛けてくるのかと構えていると、長刀を下段に構えて話し出す。


「我ガ師、ヨリ……授カッタ、剣。長キ……修行ヲ経テ、私ガ至ッタ……頂点。羽バタク鳥ハ、ヤガテ……竜トナリ、私、ハ……ソレヲ、断チ切ロウ」


 全身に赤っぽい色のエフェクトをまといだし、見るからに第二形態だと分かる状態に移行する。

 色々と気になることはあるが、ここからはもっと大変なことになるぞと気を引き締める。


「というか、あの鳳皇を一回凌いだらこの状態に移行してたんだ。……ますます悔しい」


 一回目でこれを披露する直前、あるいは倒せる直前まで行ったのに油断で即死したことが今でも悔やまれる。

 過ぎたことをいつまでも悔やんでいても仕方ないと頭を振り、どう考えてもさらなる強化が入っているのですぐに動けるように腰を落として構える。


竜道(リンドウ)!」


 下段に構えられたままの長刀を超速で振り上げると、エフェクトがそのまま攻撃となって地面を斬り裂きながら飛んでくる。


「なんじゃそりゃああああああああ!?」


 ここにきて唐突の間合い無視。転ぶように横に跳び、斬撃が通過した個所を見ると、後ろにあった大きな木が綺麗に真っ二つになっている。


竜禍(リュウカ)!」

「だらっしゃあああああああああああい!」


 下手に間合いを開けてはいけないとすぐにダッシュしていくと、妖鎧武者もまるで龍が地面を張っているようにエフェクトの尾を引きながら超速で詰め寄ってきて、袈裟懸け、薙ぎ払い、袈裟懸け、突き、逆袈裟掛け、薙ぎ払いと連続で斬撃を繰り出してくる。

 ヨミはそれを反撃することを一切放棄して回避だけに集中して、右耳と右腕を落とされつつも、最後の唐竹割をすれすれで避けたところで左手のナイフで戦技を発動させる。


「『スウィフトエッジ』!」


 左手に逆手に持ったナイフで、左から右上への切り上げ、その勢いのまま回転して左から右への薙ぎ払い、最後に心臓部目がけて突きを放つ。

 全ての攻撃を柄で受け止められてしまい、戦技が終了すると同時にヤバそうなエフェクトを刀にたたえ始めたので突進攻撃戦技の『スターレイド』を使い、あえて外すことでその場から離脱する。


竜劫(リュウゴウ)


 真後ろで放たれたシンプルな振り下ろし一回。ちょっと前まで刃が空を切る綺麗な音だったのが、何をどうしたのか竜の咆哮にも聞こえなくもないゴォウ! という音を立てる。

 直撃しなくても分かる。喰らったらマジの即死だ。


「急に変化しすぎだろお前ぇ!?」

「竜道」

「んなあぁ!?」


 もはや当たり前のように戦技を繋げて来た。

 竜劫からの竜道の一連はまさに燕返しだ。どっちもまともに食らえば即死だし、うち片方は間合いの外にいても安心できないというクソ仕様だが。


「間合い無視。超高威力。仮に即死せずとも出血武器だからダメージがどんどん蓄積していく。それでいて剣術が死ぬほどうまくて超強い。いやぁ、中々のクソだね」


 口では不満を漏らしつつも、表情はごまかせない。

 相手が強ければ強いだけ、ヨミだってやる気が漲る。何しろ戦闘狂だから。


「お前が使う戦技、隅から隅までじっくりと見させてもらうよ!」


 霞に構えた長刀からまたヤバそうなエフェクトを撒き散らし、それで龍の形を作り出した妖鎧武者に向かって牙を剥いた笑みを浮かべながら言う。


「『ウェポンアウェイク・全放出(フルバースト)』───『雷禍(レビン)大鎌撃(グリムサイズ)』!」

竜顎(リンガク)!」


 大鎌形態に切り替えて雷の超大型大鎌を作り上げて斬りかかり、龍の形をしたエフェクトをたたえた妖鎧武者が、地面を抉り飛ばしながら突進してくる。

 両者の大火力が衝突し、地面に亀裂が入り、捲れ上がり、近くにある木が根元から倒される。

 ギリギリと互いに力を全力で込めて押し込み合い、両方同時に弾かれる。


 体の軽いヨミは一回体をバウンドさせてから立ち上がり、妖鎧武者は両足で地面に線を引きながら滑って止まる。

 相も変わらず全身に燃えるようにエフェクトをまとわせており、鎧を着た骸骨の癖にやけにカッコいいじゃないかとちょっと悔しくなり、大鎌から片手剣に戻してから地面を蹴って再度接近していった。

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