7.怖かったぁぁぁ
「とりあえず片付いたな。これでひとまずは生活できると思う」
「めっちゃ綺麗になったね! 後は壊れた家具を直すくらいかな?」
「そうだな。それさえすれば家に関しては終わり……だけど」
俺は眉をひそめて、窓の方を見る。
「近場を探索してくるって言ってたわりには遅すぎないか」
俺たちが活動し始めて、軽く一時間は超えている。
近場の探索なんて、三十分と少しあれば十分だろう。
「確かにそうかも……でも大丈夫だと思うよ?」
「心配だ。ちょっと俺行ってくるよ」
「あ! ちょっと!」
やっぱり勝手に行動させるのは間違っていた。
クソ……はっきりと言っておけばよかった。
俺は唇を噛み締めながらドアノブに手をかけようとする。
瞬間――
「ただいまー。ごめん、ちょっと遅くなったわ」
「ただいまです……って、スレイさんどうしました?」
そこには平然とした二人が佇んでいた。
「おかえり! 遅いよー!」
ミーアも当たり前かのように挨拶をしている。
いや、待て待て待て。
イヴとレイレイの後ろに倒れているの、あれって魔物だよな?
「二人共、その後ろに倒れているの魔物だよね?」
「ああ。あれはイノシシが魔物化したやつね。実質ただのイノシシよ」
「いやいや。にしては大きすぎない? 牙もものすごく成長している気がするんだけど」
「ちょっと大きいイノシシよ。ね、レイレイ」
「そうです。これで今日は食べ物に困りませんね!」
「そ、そうなのか?」
よく分からないが、彼女たちが言っているならそうなのだろう。
この様子だと、彼女たちの方が魔物とかの知識がありそうだし。
めちゃくちゃ大きいけど、ただのイノシシなんだなぁ。
呆然と眺めていると、レイレイがこちらに近づいてきた。
上目遣いで俺の方をじっと見てきている。
「普段のお礼に……と思って。嬉しいですか?」
それはダメだって。反則だよ。
我ながらあまりにも可愛くて頭を撫でてしまう。
「ありがとう。でもあんま無理はすんなよ?」
「ふふふ……嬉しいです」
なんだこの生命体……こんなに可愛い子が存在していいのか。
「…………」
「イブもな」
むすっとしているイヴの頭に手を乗せると、赤く輝く目が俺を睨めつけてきた。
「ふんっ!」
もちろん、こいつがめちゃくちゃ喜んでいるのは知っている。
もう少しオープンになってもいいと思うんだけどなぁ。
なんて思っていると、ふとイヴが眉をひそめる。
赤く輝く瞳が線を描き、背後に振り返る。
「どうしたイヴ?」
「人間が近づいてきてる」
「人間……って嘘だろ!?」
普通の土地なら別に驚くことではない。
なんなら、嬉しいくらいだ。
しかしここ、アリビア男爵領は違う。
荒くれ者たちで形成されている領地では決して喜べることではない。
「武器も持ってるわ。一人はマチェット、もう一人は斧」
言いながら、唇に指を当てて唸る。
「敵意も感じる……もしかして見られたかしら」
探索中に遭遇しちまったってことか。
それにイヴとレイレイ、ミーアもそうだが身なりは綺麗にしてあげている。
ぱっと見では、どこかのお嬢様に見えなくもない。
そんな彼女たちがぶらついてたら、狙わないわけがない。
「隠れるのは……今からじゃ無理ね。接敵は不可避ってところかしら」
接敵は避けられない。
なるほど、かなりのピンチってわけか。
「ここはあたしたちで対処しましょ。ミーア、レイレイ。準備」
「もっちろん!」
「ま、任せてください!」
彼女たちに任せればもしかしたら――いや、ダメだ。
彼女たちは、これまでたまたま弱い相手と戦ってきたから大丈夫だっただけ。
ずる賢い人間相手だと、万が一のことがありえる。
「俺がやる」
そう言うと、三人が驚いた表情を見せる。
「危ないよ!」
「危険だわ」
「う、うん!」
心配してくれるのはありがたい。
でもだ。
「俺にも少しはやらせてくれ。お前らばっかに迷惑はかけられない」
こっちは訳ありで奴隷商を無理やりやらされてきたんだ。
そこにたどり着くまでに、どれほどの事件に巻き込まれたことか。
「イヴ。敵の距離は?」
「三百とちょっとかしら……本当に行くの?」
「ありがとう。大丈夫、心配すんなって」
腰に下げているナイフをぽんと叩き、笑顔を返す。
三人は、俺が守る。
覚悟はもう決めている。
◆
「ここいらで見たんだぜ。上物の女がよぉ!」
「本当かよ? でも本当なら大儲けだぜ」
「マジだって。こっちに向かってたんだ」
二人の男は、ヘラヘラと笑いながら武器を構えていた。
瞳には殺意がこもってる。
少しでも反抗したら、無理やりにでも――と考えている様子だった。
「そろそろ――」
瞬間、男に冷や汗が流れた
◆
「武器を下ろせ」
「い、いつの間に……!? てめえ誰だよ! あいつらの仲間か!?」
「指示に従ってくれると嬉しいんだけど」
俺は背後からマチェットの男に近づき、右手でナイフを首元に当てる。
「おい! お前何やってんだ! お前みてえなクソガキが調子乗ってると、速攻地獄行きだ――」
もう一人の男が斧を振り上げた瞬間、ナイフを近づけていた男を突き飛ばす。
そして、地面を蹴り飛ばして斧の男に急接近。
「なっ……」
胸に当たる寸前でナイフを止めて、相手を牽制した。
「お前らの目的は、たまたま見かけた女の子から金の匂いがした――んで、武器を持っているってことは傷つけようとしていたってことだよな」
尋ねると、二人の男は黙る。
震えながら、静かに頷いた。
「俺はお前たちと敵対したいわけじゃない。今日のところは退いてもらえるか」
「命だけは……!」
「す、すみませんでした!」
男たちは武器を投げ捨て、必死で頭を下げてくる。
「だから別に殺そうとなんてしてないよ。とりあえず退いてくれるだけでいいんだ」
「は、はいぃ!」
「すみませんでしたぁぁ!」
そう行って、逃げようとする男の一人の首根っこを掴む。
「ひ、ひえ!?」
「ごめん。お前たちってここ近辺の村から来たのか?」
一度、尋ねておこうと思った。
荒くれ者の集団しかいない領地ではあるが、共存せずに生活するなんて不可能だろう。
向こうから来てくれたんだ。
せっかくならばコミュニケーションを図ってもいいかもしれないと思ったのだ。
「そ、そうです! アリビア第三村から来ましたぁ!」
「第三村……名前はないのか?」
「名前は『第三』です! 昔からそう呼ばれてます!」
「へぇ。ちなみに、提案。今回の件は見過ごす代わりに、村長と話をさせてもらえないか?」
「ボスとですか……! そ、それは」
「お願いできるかな?」
「も、もちろんですぅぅ! あの! 地図をご用意しますね!」
そういって、男はポケットから取り出した紙に地図を描く。
申し訳無さそうにしながら、俺に手渡してきた。
「もしボスから許可が下りれば空砲でお知らせしますので! そ、それでは!」
「すみませんでしたぁぁぁ!!」
悲鳴を上げながら、男二人は逃走していった。
ま、多少は役に立てたかな。
それに。
「どうなるかと思ったが、オマケもついてきたしな」
俺は手渡された地図を見ながらニヤリと笑った。
にしても。
「めっちゃ怖かったぁぁぁぁ……」
俺、よく戦えたなぁ。
正直、ボコボコにされながらどうにか相手を退かせることができるかな程度に考えていたんだけど。
これが火事場の馬鹿力ってやつか……? 人間やればできるもんだなぁ。
同じことやれって言われても絶対にできる自信ないけど。
「す、すごい! スレイってあんなに戦えたの!?」
「ちょっと驚いちゃったわ」
「かっこよかったです!」
「うお!? びっくりした……お前ら、着いてきてたのか」
木の陰から飛び出してきた三人に囲まれ、キラキラとした瞳を向けられる。
「すごすぎるよ! やばい!」
ミーアが抱きついてきて、騒ぎ始めた。
「落ち着け落ち着け。いや、俺も正直ビビったわ。とりあえず帰ろうか。これから考えないといけないこともあるし、色々と共有しておきたい」
その場の勢いでだが……ボスと話したいってお願いしてしまったし。
あーー……怖いわ。
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