4話
「2人とも、戻ってきたよ」
ついさっき聞いた声に、2人の騎士は露骨に嫌な顔をした。
「戻ってくんの早すぎだろ……」
「何故貴方がたが、団長の娘さんとご一緒されてるんです?」
「成り行きでね」
続けてフレイが、これまでの経緯を2人にかいつまんで説明する。
「ってことでさ、こいつらも捜査に参加するから。よろしくな!」
「そういう訳なんで、どうも」
げんなりした2人を横目に、レリア達は屋敷の中に入っていった。
やはりと言うべきか、屋敷の中では多くの騎士が慌ただしく動いていた。それだけでなく、騎士らしからぬ格好の人物もぽつぽつ見当たる。
外部からの協力者まで呼ぶというのは、騎士団が如何にこの事件を重視しているかの表れであった。
レリア達は行き交う人々を避けて、屋敷の奥へ進んでいく。
「どこへ向かってるんスかこれ?」
「なに、まずは実際に脅迫状が置かれていたという団長の私室から行こうとな」
「だったらあたしが案内してやるよ。あたしが先導した方がスムーズに進めそうだしな」
フレイがそう言って前に出ると、大声で叫んだ。
「お前らー! あたし達が通るから道を開けろー!」
効果は覿面だった。先程まで立ち塞がっていた人の海が、モーセの海割りの如く真っ二つになる。
「本来は団長の娘だとしても一般人な訳で、その指示に皆従うのは不味いんだけどなあ……」
「まあまあ、そのお陰ですいすい進めるんだから良いじゃねえか」
釈然としないレリアをなだめつつ、フレイは一直線に目的地に向かう。是非はともかくフレイのお陰で、レリア達はあっさり私室に着いたのだった。
中に入ると、何人かの騎士が部屋の隅々まで調べている。その内の1人、どこか冴えない風貌の男がレリア達の方に近寄ってきた。
「フレイお嬢、どうも。そっちの方々は捜査に飛び入り参加したレリア殿御一行かな?」
「話が早いね。その通り、私達はローゼライ区担当隊から来たんだ」
そう返すと、男は軽く笑みを浮かべた。
「助かるよ。俺は三等騎士のアベル・シュヴェンツエン。一応ここの指揮をしてる」
「……意外だね。もっと邪険にされると思ってたんだけど」
レリアがそう言うと、アベルは苦笑しつつ首を横に振る。
「こういうデカそうな事件には人手がいくらあっても足りないからね。宜しく頼むよ」
騎士団に所属する人間は、大概融通が利かない。おまけにプライドも高いので、こういう横入りは歓迎されない事が多いのである。
その点アベルのような男が現場のトップだったのは、レリア達には幸運であった。
「それで、捜査はどの程度進んでいるの?」
「何にも。まあ、犯人というか背後に居る連中のあてはついてるけどね」
「あて、ですか?」
オルレアがそう問いかけると、アベルは不思議そうな表情を浮かべる。
「あれ、第六騎士団所属なのに知らないの? あんたらのとこの団長が襲撃されたんだってさ」
「……初耳だな。そうか、あいつが襲われたのか」
レリアの脳裏に、剣狂いと言って差し支えない親友の姿が浮かんだ。
「あれ、あいつ呼びってことは仲良いのかな? 凄いよね、1人で十数人を返り討ちにしたんだって」
「ああ、そう……」
レリアには、襲ってきた男達を一斉に切り伏せる親友が容易に想像出来てしまった。むしろ、彼女がやられる方が想像出来ないくらいである。
そしてそれを、大した事ではないとレリアに何も言わなかったのも想像出来る。
「はぁ……」
溜め息をつくレリアを面白そうに見つめながら、アベルは話を続ける。
「そいつらを差し向けたのが魔道教団らしくてさ。大方こっちも連中の仕業だろうね」
「成程?」
有り得そうな話だ。ただ、レリアには何となく引っかかる部分もあった。
その後も2人が捜査について話していると、手持ち無沙汰だったフリージアが我慢し切れず、口を挟む。
「アベル、そんなことより早く脅迫状を見せて欲しいっス!」
「フリージア、階級が上の人に呼び捨てはまずいでしょう……」
堪らずオルレアが突っ込むが、アベルは全く気にしていない様子で爆笑している。
「あはは、お嬢さんの言う通り! 実際に脅迫状を見るのが先だね!」
あはははは、と少々不気味なくらい笑いながら、アベルは机の上から封筒を持ってくる。
その中から、一枚の紙を取り出して広げた。
━━あんたは人殺しだ。罪を償え。
脅迫状にはやたら綺麗な字で、堂々とそう書かれていた。




