序章 導くのはどちら?
おはようございます。お久しぶりです。
更新が途絶えていた間も、応援ありがとうございました!
大変励みになっております。
ひさびさの更新は、第二部の序章。
お楽しみいただけると幸いです。
楠木邸を去った三体の霊獣はいま、それぞれ別の場所にいる。
まずは、応龍。
東の守護神たる青龍のもとに身を寄せていた。
青龍がいい加減、戻るようにといったからだ。
応龍が神域に入るやいなや、とりあえず酒盛りをとなったのだが、並べられた酒の前に、応龍はぽつりといった。
『青龍よ、なぜワインがないのだ』
『あるはずなかろう、我はそのような物は呑まん』
たいそう不満な応龍だが、ヒゲを波打たせるだけにとどめた。
楠木邸では飲み放題かつ好きな時に呑めていたが、これからはそうはいかないようだ。
悟った応龍はため息をつく。仕方なく、白酒に舌を伸ばした。
次に、鳳凰。日本より、はるか南の空を飛んでいた。
どこまでも続く青い海を眼下にしながらも不機嫌であった。上空を流れるジェット気流に乗って、他の地にもいきたい。
が、できない。
『朱雀め、いらん制限をかけよって』
鳳凰自身にかけられており、どうあがいても、朱雀の領域から出られないようにされていた。
ひさびさに相対した朱雀は、極楽とんぼのあだ名に恥じないだらけっぷりであった。
が、しばらくここにこれなかった経緯を話すと、南方が干上がってしまうのではないかというほど、憤った。
そんなわけで、かの神獣の領域に閉じ込められている。
『――神域の外に出られるだけマシか』
朱雀もそこまで鬼ではない。鳳凰が職人を好むのを知っているからだ。
鳳凰は気持ちを切り替え、集落を目指して飛んでいった。
最後は、麒麟である。
縁の深い西の白虎の所、ではなく北の大地にいた。
ゆうゆうと氷床の上を散歩中である。
白虎のもとにいこうものなら、他の二体のように、西の地にとどめ置かれることになっただろう。
それを想像した麒麟は、ぶるりと身を震わせた。
『考えただけで寒気が……』
風来坊が行動を制限されるのは、耐え難いものだ。
気の向くまま、好きな所にいきたい。さすれば、愉快な対象と出会えるのだから。
『おやおや、こんな所にも人間がいるとは』
雪煙をあげながらソリで疾走する人間がいた。
元の体型が想像できないほど着膨れ、その顎下にもつららができている。
『あんなに厚着しなければ生きていけないというのに、よくこのような地で生活しようと思うものです』
呆れながらも、眼が離せない。
軽快な足取りで、ソリを追いかけていった。
そんな三体の近況を知る由もない湊といえば、方丈町の商店街にいた。
買い物である。大通りを歩いていると、ふっと金木犀の香りがかすめた。
見れば、脇道に張り出すその木がある。オレンジ色の花々と独特の香りを嗅ぐとつくづく思う。
「秋だな」
その昔、よそからやってきた外来種の金木犀だが、いまではすっかりこの国に馴染み、秋の到来を知らせてくれる味わい深い存在となっている。
金木犀の横を親子らしき二人が通り過ぎた。
「香りが強いねぇ。厠の匂いだねぇ」
「やだ、おばあちゃんったら!」
金木犀の香りで、トイレを連想する年配者は少なくない。
汲み取り式が当たり前だった時代、匂いを誤魔化すべく、トイレの窓付近に金木犀を植える家が多かったからだろう。
さておき、夏も終わる。
風鈴もしまった。
そして山神の眷属たちが面倒を見ていた、魂が離れかけた男も無事家へ戻った。
憂いなく秋を迎えることができる。
秋らしい和菓子でも買って帰ろうかと湊が思った時、カアとカラスの鳴き声が聞こえた。
店の屋根の上に、一羽のカラスが羽を休めている。
「やあ」
声をかけると、じっと見下ろしてくる。
太陽を背にするカラスは、太陽神の使いとされるのも納得がいく姿である。
ふと思った。
アマテラスは、お元気だろうかと。
「まだ寝ているのかな」
何しろ、神の時間感覚は人間とは異なる。
まだお休みなのかもしれない。しかし、気になる。
様子を見にいく程度はいいだろう。起きているようなら、与えられた力のお礼もいいたかった。
さして活用できていないとしても。
「よし、いってみよう」
つぶやいた途端、タイミングよくカラスが飛び立った。
とはいえ、アマテラスの神域へとつながる場所まではそこそこ距離があるため、カラスの後を追うわけにもいかない。
バスの世話になったあと、しばらく道なりに進むと、雑木林があった。
「たしか、このあたりだったはずだけど……」
かつて使い古された大型電化製品などが不法投棄されていたのだが、それらがまったく見当たらない。
嫌な予感がして、湊は早足になった。幹が曲がりくねった高木を越えた所で、立ち尽くす。
「――ない。お社がなくなってる」
更地が広がるばかりであった。
「撤去されたんだ」
いったいどこへ。
思った時、影がかかった。
顔を上げるのと、それが高木の先端にとまったのは同時であった。
開翼長三メートルをゆうに超える、巨大な鳥である。
静かに畳まれる翼のみならず、全身が真っ黒。陽光を照り返すその身は神々しさに満ちていた。
何より、放射状に放たれる神気に覚えがあった。
「アマテラス様……」
間違いない。己の中にある力と同じだ。
ならば、この鳥は――。
「我が名は、ヤタガラス」
ろうろうと歌うように名乗られた。
「どうも、はじめまして」
ヤタガラスはこくりと頷いた。じっとしばらくこちらを見下ろしたあと、くちばしをひらく。
「そなたに折り入って頼みがある」
「――俺にできることなら、なんなりと」
ヤタガラスは、憐れみを誘うような声を発した。
「どうか、私をアマテラスのもとへ導いてくれ」
それを聞いて、言わずにおれなかった。
「それは、あなたの得意分野では?」
カア~。笑い声めいたカラスの鳴き声が遠くから聞こえた。
明日、書籍11巻が発売されます。
全書下ろし。
書籍版はこの巻をもって、第一部完結となります。
詳細は活動報告にて。
なにとぞよろしくお願いします!
アニメのPV第一弾も公開されました。
ぜひご視聴くださいませ。
https://m.youtube.com/watch?v=gFf9aK4DK0Y
ちびっこ山神がギザっ歯で可愛さ倍増ですよw
12月27日にコミック5巻も発売予定ですので、そちらもどうぞよろしく。
第二部第一章の連載開始の目処はまだ立っていません。
いましばらくお待ちを……。




