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神の庭付き楠木邸・WEB版【アニメ化】  作者: えんじゅ
第10章

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24 万能な打ち出の小槌





 大黒天があごひげをひっぱりつつ、眉を寄せた。


「しっかしこれ、地味すぎんか? キンキラキンにせんの?」

「それは、求められなかったので……」

「なんやこの船、頼まれてつくったんか。誰に?」


 と、えびす神は山神に訊いた。

 山神に顧客情報をもらさないという常識などあるはずもなく、あっさり答えた。


「スクナヒコナぞ」


 あー……とえびす神と大黒天は納得顔になった。


「ええ、ええ、これでええ」

「そうそう、じゅうぶん、じゅうぶん」


 あっさりと前言が撤回され、胸をなでおろしていると、ちらりとえびす神に見られた。


「ほんなら、これで完成なん?」

「あ、はい。いちおう……」

「そうは思っとらんようだな」


 大黒天の顔から笑みが消えると、やけに怖く感じる。思いつつ、湊は素直に答えた。


「実は、自分で乗って確かめることもせずに、完成と言ってしまっていいのかと思っていまして」


 たしかに、と二神はやけに深く頷く。えびす神が怖い顔になった。


「いざ海に出られたとしても、底から水が入ってきて沈むかもしれんしな」

「あるな。舟の出来がよろしくない場合はありうる。そういえば、現にあったな? あん時は、寿老人が調達してきた舟だったか?」


 笑う大黒天にふられ、えびす神は遠い目をした。


「ちゃう、福禄寿や。――それもあるけど、あれよあれ。乗っとるもんが暴れて壊れることもあるわ」

「ああ、そういうこともあったなぁ。あん時は、毘沙門と布袋のせいだったな」


 懐かしいと大黒天は太っ腹をゆらして笑う。

 いまいちノリが違うらしい他の七福神に、えびす神は手を焼いているのかもしれない。

 やや煤けたえびす神の肩をバシバシ叩いていた大黒天が、湊を見た。


「あ、そうだった。あんさんにお礼すんのを忘れとったわ」


 突然である。自由極まりない神だ。

 しかし湊には心当たりがなかった。


「お礼ですか?」

「ああ、少し前に儂の眷属を助けてくれたろう」


 山神の眷属たちと海を見に行った時のことだろう。うっかり人間につかまり、進退窮まっていた白いネズミを助けたのだ。


「ああ、そうでしたね。あの時のコは元気ですか?」


 ち~っと活きのいい声が大黒天の布袋から聞こえた。少しだけ解かれた袋の口からひょこり子ネズミの顔がのぞいた。

 好奇心旺盛そうな眼の輝きは変わっていないようだ。


「ほれ、このように元気も元気。おかげで、まだ外には出されんわ」


 大黒天でさえ、困っているようだ。どこ吹く風といった様子の子ネズミに、大黒天が命ずる。


「ほれ、小槌を取ってこい」


 ちち! と返事した子ネズミの頭が引っ込むと、その代わりのように、金の塊が出てきた。

 あまりの眩しさに湊は目を細める。

 大黒天が手にしたそれは、小槌であろう。ほぼ金でできており、柄についた赤い紐が華を添えている。

 福の神がもつに相応しいド派手さであり、かの有名な打ち出の小槌に違いない。

 湊は焦って、手をかざす。


「あ、あの! 金銀財宝は結構です!」


 もらっても困るからだ。

 大黒天は笑顔で打ち出の小槌を左右へ振った。


「わかっとる、わかっとる。あんさんぐらいになったら、物欲なんぞほぼないのはな」


 湊は、胸部を押される感覚に身を固くした。

 大黒天が魂を注視している。

 神は軽率に魂をのぞく。

 何が視えているのかは知らないが、あまり気分がいいものではなく、湊は複雑な表情を浮かべた。

 むろん、やや無神経そうな大黒天が気にするはずもない。


「物をやっても喜ばんだろう。だから、己自身で舟の出来を確かめられるようにしてやろう。そ~れ!」


 こつんと頭を小槌で叩かれた。

 ありがたいことに衝撃はない。

 が、みるみる視界の位置が低くなっていく。


「うわっ」


 座卓より低くなり、不安定で転げた。そこは、今まで座っていた座布団であろうと、感触が綿の海のようだ。

 立つのもままならず、四つんばいにしかなれない。

 慌てて見上げると、巨人が二体。突き出た腹で顔は見えないが、大黒天とえびす神なのは間違いない。

 バッと振り返れば、ただでさえデカい山神の全貌は、視界に入りきれないほどになっていた。


「まさか俺、小人になったの!?」

「左様。スクナヒコナと同じ大きさになっておる」


 厳かに山神がいうや、その息吹で身体が飛ばされそうになった。とっさに座布団をつかんだ。


「ぬ、すまぬ」


 ふいっと顔を背けられると、今度は横風がきた。湊は耐えきれず、転んだ。


「なぬっ」


 少し焦っているから、わざとではないのだろう。それだけ小人の身は非力だということだ。


「身体が小さいと、こんなに大変なのか……!」


 湊が戦慄するも、大黒天は楽しげに笑う。


「なかなか、得難い経験だろう」

「せや、やっぱり金銭より、経験やろ。ワシらが言うのもなんやけど」


 えびす神も笑っている。

 とはいえ意外にも、二神は距離を開け、湊に風や神気が向かないよう気をつけてくれているようだ。


「あの、なんだか慣れてらっしゃいませんか? こういうことを人間によくされるんですか?」


 二神は悪童めいた表情を浮かべた。


「せや、たまにやっとる」

「ああ、ほぼ仕置きでな」

「お仕置きですと……」


 複雑でしかない。

 とはいえ、この身体のサイズなら、心置きなく舟の性能を確認することができるだろう。


「舟が見えないけど」


 首を伸ばして見上げても、座卓に阻まれているせいで、舟の片鱗さえ見えない。


「ほいよ」


 大黒天がそっと舟を座布団に置いてくれた。

 礼を述べて外周を確認する。


「すごい、視点が変わると全然違う物みたいに見える」


 感動でもある。まるで自らが大きな舟をこしらえたようだ。

 ただの錯覚だけれども。

 ただしよく見えるため、アラも目立った。


「あ、ここ毛羽立ってる。カンナ掛けが甘かったか……!」


 あちこち触ったあと、乗り込む。


「幅は申し分ない。ただ座面が硬い」


 何か敷くべきかと思案していると、頭上でえびす神と大黒天が好き勝手に語っていた。


「舟なんやから、やっぱり海に出すべきやろ」

「まあな。しかしこれは、舟底が平たいから川の方がいいだろう。どのみち、魚にでも食われそうだが」

「なに、これだけ霊獣の加護がついとるなら、華麗に回避できるやろ」

「それもそうだな。嵐にあっても無傷で生き残れそうだ」


 そんな相談事を山神は黙して聞いている。

 ポンとえびす神が手を叩いた。


「せや! 神界にいったらええやん」

「おお、たしかに。それがいい!」


 なぜそうなる、と湊は思ったがもちろんいえるはずもなく。

 笑顔の大黒天の横から、えびす神が顔を出し、山神に問うた。


「山の神さん、この池、神界とつなげとらんの?」

「いまはつなげておらぬ。つい最近まで川であった時は、つなげておったが」


 舟に座ったままの湊は知った。

 そのため隣町の神の眷属――鯉が迷い込んできたり、桃の神オオカムヅミが流れてきたりしていたのだということを。


「なら、ワシがつなげてもええ?」

「うむ、よかろう」


 えびす神に言われ、山神はひょうひょうと答えた。

 湊の許可なく勝手に話が進んでいく。

 が、これはもう諦めるしかあるまい。何しろ相手は神々で、身勝手極まりないからだ。

 しかし何はともあれ、舟が進まなければ、話になるまい。

 オールの手漕ぎボートやパドルのカヤックなら経験はあるが、櫓は勝手が違うだろう。

 湊は櫓を動かしてみた。


「こうかな? いや、ひねるようにするとか?」


 中空にある状態なら軽々と操れるが、これが水の中、しかも流れがある中ではどう操ればいいのか、見当もつかない。

 せっせと予行練習に励んでいると、いつの間にかえびす神が竹竿を握っていた。

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