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97.飛ばされた先はどこでしょう?②

じぃっとマリを見つめてくる樹里は一切、動揺しているようには見えなかった。


こんな状況下にありながらも、いつも通りの樹里がマリの目の前にいた。


なぜ、この状況で落ち着いていられるのか。何を考えているのか全くもって理解できない。


何かこの状況を打破するための素晴らしい秘策でもあるというのか。あるのだったら、この状況を一刻も早くどうにかしてほしい。


冷静に考えれば過多な期待を樹里にしていると分かりそうなものだが、その冷静さがマリにはなかった。


それに気付けるほど、マリに余裕はなかった。今のマリの中に余裕の文字はない。


マリが戸惑いやら期待やら何やらを含んだ視線を樹里に向ければ、樹里は真剣な顔でマリを見つめ返していた。


中々に過多な期待を向けられている樹里。それを理解しているのかしていないのかーーー緊張感などは樹里からは感じられない。


樹里はふざけた様子など一切ない真面目そのものの雰囲気のままに口を開く。


 




「素数を数えましょう。」






樹里の言葉にマリは一瞬、世界から音が消えたような感覚に陥った。時が止まったかのような錯覚に陥った。


いや、違う。


止まったのはマリの思考だ。


それくらいに意味がわからない言葉をかけられた。いや、言葉の意味は分かりはする。意味が理解できないわけではない。


予想の斜め上をいく言葉であり、かつ、なぜそのような事を言ったのかが全く理解する事ができずに固まってしまったのだ。


思いがけないことが起きると何が起きたのか理解できず、思考停止するよね。それがマリに起きた。


「は?」


何とも間抜けな表情で間抜けな声を出してしまった。


樹里がなんて言ったのかを理解すべく、マリは頭を働かせようとするが、うまく働かない。


素数と言っただろうか。


素数とは何だっただろうか。昔、数学の授業で習ったような気もする。1より大きい自分と1以外では割れない数字だったか。


なぜ今、数えなきゃいけないのだろうか。今はそんなものを呑気に話している状況ではないはず。


樹里はなぜ、真剣な顔でそんなことを言っている?いや、なんて言ったかうまく聞き取れなかっただけだろうか?


そうだ、そうに決まっている。素数だなんて、今考える話ではないのだから。


「混乱してパニックになった時は素数を数えるんです。落ち着くはずですよ?」


すがるような視線を自身に向けていた人物にこれが言えるのだから、樹里は大物である。


自身の耳が不出来であったのではないかと聞き間違えの線に思考を逃がそうとしていたマリに、樹里はなおも言ったのであった。


簡単にマリの思考の逃げ道を塞いでしまった。その表情は真剣そのものだ。


冗談を言っているような様子はない。本気で言っているようだ。本気と書いてマジ。そんな様子だ。


いやいやいやいや。


おかしいだろ。なぜ、そんな事をマジになって言えるというのか。


この際、本気ではなく冗談で言っててくれた方が、幾分かマシだったような気がする。


いや、本気でも冗談でも困るんだが。せめて、場を和ませるための冗談であって欲しかった。


「そんな場合かぁああっ!!」


マリはこの場がどこであるのか分からないということも、近くには魔物がいるかもしれないということも忘れ、ついつい反射的に突っ込んでしまった。


声がやや大きくなったのは自身のせいではないと、声高々に主張したい。自分は悪くない。


「しー…ほら、騙されたと思って。はい、ツバサさんから。」


静かにするようにジェスチャーしつつ、樹里は言った。


なぜだか、順番に素数を数えていくことにしたらしく、近くにいたツバサに声をかけている。いや、何でだよと再び突っ込みたくなる。なんなんだ。


一体、何を考えているのか。いや、何も考えていないのかもしれない。樹里ならば何も考えていないような気がする。


マリはもはや、呆気にとられた様子で樹里やツバサを眺めてしまう。


「……1。」


ツバサは素直に答えた。ポツリと。しかし、何とか聞き取れる程度の発音、音量で。


ツバサはなぜ、素直に答えるのか。


しかも、真面目に言っているのかーーいや、ツバサはここで気を遣って場を和ませるためにボケるような子ではないか。


おそらく、真面目に言っているのであろう。


「いや、1は素数じゃないから。」


マリはツバサにツッコミを入れていた。呆れやら疲れやら何やらが含まれた力のないツッコミとなっていた。


ツッコミ要員としてあるまじき姿であった。


この場では騒ぐのが不正解である故、ある意味小声となるのは正解ではある卦だが.


マリに対し、ツバサはあ…と声を漏らしたが、それは他の声にてかき消された。


「え?そうなんですかっ?!割り切れないですよね?」


そう、樹里の驚きの声によってかき消されたのである。先ほど静かにするようにマリに言った本人であるのにも関わらず、やや声がでかい。


本気で驚いているようである。


そんなリアクションにマリはさらに呆れと疲れを募らせていくのだった。


「1は違うのよ。何なの、この会話。」


樹里に答えつつ、何でこんな会話をしているのか理解できないとマリは疲れを露わにした。


緊張していたのが馬鹿馬鹿しく感じてしまう。


訳の分からぬ状況で自分達は何の話をしているのだろう。


「ハハハ。けど、落ち着けたでしょう?えーと…1が違うなら…2は素数ですか?偶数は違います?」


樹里は笑いつつ話を続ける。


どうやらまだ、素数の話は続ける気らしい。


言い出しっぺだというのに、なぜだか素数を把握していないようだ。これでは数えようがないではないか。偶数は違うとか、素数の定義を全く知らないのか。


そこを突っ込んだら話が終わりそうにないため、マリはふぅーっと深く息を吐いた。突っ込まないぞ。突っ込んでは負けだ。


「素数はもう良いわよ。」


「えー…じゃあ、とりあえず、状況を整理しましょう。」


素数はいいと言われ、何故か不満というような顔をした樹里。


もう少し素数について話したかった様子。


いや、だから、なんでだよ。


だなんて、突っ込まない。突っ込みそうになるが飲み込んだ。話が進まない。


「状況って…」


話を進めるべく、マリは頭を働かせようとする。


自分達の状況。どんな状況であったか。


「森の中で襲撃に遭いました。僕らの足元にはトラップや転移装置が仕掛けられていました。おそらく僕らを狙い、罠を張って襲撃したのだと思います。転移装置でどこかに飛ばされたみたいですが、バラバラに飛ばされたみたいです、ね。この場にいるのは僕とマリさん、ツバサさんだけです。………えと、どうしましょう?」


マリが話し出すより先に樹里が口を開いた。


状況を整理して、話した後に、何か解決案を出すかと思いきや、それはなく、どうしましょうと言うあたりが締まりがなく、実に樹里らしい。


だが、ここで樹里らしいとほのぼのする余裕はマリにはない。あるはずがない。


「どうしましょうってみんなを探さなきゃ!とりあえず、合流しましょう。」


現状を整理し、動かなきゃと言う気持ちばかりが湧き上がってくる。


みんなを探し、合流しないと。


マリは勢いよく立ち上がった。今すぐにでも走り出しそうな勢いだ。


「闇雲に動いちゃ、ダメ。」


立ち上がったマリの裾をツバサは軽く掴むとマリを止めた。


猪のように考えなしに突き進もうとするそれを止められてしまった。まりの持ち味だというのに。


「何でよ?すぐに合流しないと!!」


「サバイバル中に何かがあった時は、とりあえず、ストップ。」


ツバサはジッとマリを見て言った。


ストップって…訳がわからないとマリは顔をしかめる。今、この状態で何を言っているのかと。


ツバサもツバサで、樹里のように訳のわからぬ斜め上のことを言い出すのだろうか。


無意識のうちにマリは身構えてしまっていた。



読んでいただき、ありがとうございます^_^

楽しんでいただけると幸いです!


雨の中の紫陽花って乙ですよね

綺麗でした

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