94.ウサギはビビリで弱虫のようですよ?⑩
空様には長い間、弟子がいなかった。
弟子にして欲しいという者は数多いたはずだが空様たちは弟子はとろうとしなかった。だから、長年、空様達には弟子がいなかった。
桜花ちゃん達は珍しいんだ。本来なら弟子を取らない方々の弟子となれたのだから希少であり、運がいい。
弟子がいることも公にしていないため、桜花ちゃん達が弟子であることを知る者は少ない。
空様は自分の弟子を我が子のように大切にしている。目に入れても痛くないくらいに激愛している。
何かあればーーー…いやいやいや。恐ろしい。何をされるかわかったもんじゃない。
「んん…やっぱり、はじめちゃんの性癖を知ろうと思う。やばめな性癖を教えてくれるかな?駿河問いをされる趣味があるとか。あ、普通に駿河問いをはじめちゃんにやられたって師匠に言えばいっか。SM趣味に付き合わされたって泣けば良いかな。」
どんな掌返しだ。
この世にも珍しい弟子は何を言っている。空様達から激愛され、大切にされている弟子はそれを自覚した上でこの結論を出すからたちが悪い。
やばめな性癖ってなんだ。あるわけがない。あったとしても誰が話すか。
桜花ちゃんは目を輝かせて俺を見ていた。空様達の唯一の弟子とも言える貴重な存在が、幼子のように目を輝かせこちらを見ている。
そんなに楽しそうに、ある事を前提に話をするんじゃーーというか、何で高校生がそんな単語を知っている?される趣味があるって何で迷わずされる側に俺がいるんだ?
突っ込みどころしか無いようなことを桜花ちゃんは言う。
途中から真実はどうでもいいと言わんばかりの態度も捨て置けないぞ?
俺の身がピンチになるじゃないか。それを見て笑う桜花ちゃんの姿まで目に浮かぶ。絶対に嫌だ。そんな目にあいたがるやつなんているわけがない。
「ん〜?そんな話聞いたら、僕だったらはじめちゃんに軽く地獄見せちゃうなぁ〜。桜花が泣いた時点で痛い目には合わせるけどぉ。」
軽くって何ですか、軽くって。
全く、何なんだ。この師弟コンビは。二人の思考が理解できる気がしない。発言が恐ろしすぎる。
空様は自分の弟子の世話を月姫様達も巻き込んでやっている。月姫様達にとっても弟子のようなものだ。
みんなで見るって言うのは良い。だが、月姫様に師をやらせるのはどうだろうか。
軽く地獄をとか言っているが生きてることを後悔したくなるレベルの事を月姫様ならやられるはずだ。痛い目というのも忘れられない経験をさせられるだろう。
闘魔隊に属する中で何人たりとも彼には敵わない。誰よりも残忍であるという。そんな評価は普通じゃありえない。どれだけの人物にやばいほどの地獄を見せてきたことか。
彼に流れる血は赤ではないはずだ。おぞましい色をしているに違いない。人と同じ血が流れているはずがない。
そんなことがまことしやかに囁かれているのを俺は知っている。
軽いノリで可愛らしい見た目で軽い地獄と言っているものの、言葉とは異なることをするに決まっている。生きていること、生まれてきたことを後悔させられるだろう。
そんな方が人の師となるのは恐ろしい。
「ほー…よし。」
月姫様の言葉に桜花ちゃんはにぃーっと笑みを浮かべる。年相応のあどけない笑みに見えるがーーー月姫様の恐ろしい部分をしっかり継承しているように見える。
恐ろしいものを継承できる子に月姫様を師としてつけるのは空様の判断ミスに違いない。絶対そうだ。誰も月姫様の危ない面を継承するだなんて予想していなかったのだろう。
なぜ、そんなとこばかり似るんだ。
まったくもって理解出来ない。
整った顔立ちの顔が不機嫌さを捨て去り、やっと笑みを浮かべた。
やはり桜花ちゃんは笑みの方が似合うーーーなんて、言っている場合じゃない!!悪魔のような笑みすら似合うって何なんだ!
「え?!い、いや、お、桜花ちゃん?!!」
桜花ちゃんを止めるために声を出すが、ついつい声がひっくり返ってしまう。桜花ちゃんは慌てる俺に笑みを深めた。
綺麗な笑み。
今の会話がなければ、天使の笑みと称されるほどに綺麗だ。
ついつい見惚れてーーーしまうなんて出来るはずもない。
それは天使の微笑みなんかではなく、悪魔が悪巧みを企てている時の笑みなのだから。
こういう笑顔ほど、キラキラした目をしているからタチがわるい。目の輝きが強くなるのが悪巧みのときってなんなんだ。
「大丈夫。泣ける。師匠くらいなら騙せる。師匠だし。」
自信満々に桜花ちゃんは笑って見せた。これが何かのクエスト中の笑顔だっていうならば頼もしいとも思えるだろう。
だが、今この状況では頼もしいなんて思えるはずもない。
空様を騙せるかどうか。そんなことは聞いていない。
心配しているのはそこじゃない。なんだったら、騙せないでほしい。
そんなこと、わかり切っているだろうに、桜花ちゃんはそこは気にした様子もない。気にするつもりは毛頭ない。
「まぁ、騙せるだろうねぇ。」
月姫様まで恐ろしいことを言い出す。
決して笑い事じゃないんだが、桜花ちゃんも月姫様も笑いながら話している。それは会話の中身さえ知らなかったならば微笑ましいような光景に見えなくともない。
だかしかし。だがしかし!!
会話の中身を聞いている身としては、決して、笑い事にできる光景ではない。地獄をこれから見るかもしれないと宣告されているのだ。それを誰が笑えるというのか。
なぜ貴方方は笑っているのか。
俺には理解できない。貴方達の思考、言動がよく分からない。
おそらく、来世でさえ理解できない難問だろう。何度転生しようといくら実力を伸ばそうと彼らの思考を理解できるときは俺には来ない。
「師匠、馬鹿だから。」
「桜花馬鹿だからねぇ。」
2人はなぜだか、空様を貶し始める。
悪口を言うようなノリではなく、空が綺麗だねぇとでも話すかのようなノリだ。
だが、言っていることは直接的に馬鹿にしている。
ハハハッと朗らかに笑い声を響かせつつ、和やかに話す内容ではない。
ここに空様がいたら。
いやいや、恐ろしすぎる。いや、あの2人なら空様がいても同じことを言ったのだろう。それに怒る空様を見て2人は笑うんだろうな。面白そうに。周りが硬直していようがお構いなしに。
何しに来たんだ、この2人は。何がしたいのかも分からない。
「あ、あった。」
キョロキョロするでもなく、真っ直ぐ迷いなく進んだ先で、桜花ちゃんは何かを拾い上げた。
それは袋。掌サイズの小さな袋だ。
確か、桜花ちゃんが腰袋に括り付けていた物だな。任務を受けるときには大抵、あんなような袋を腰にくくりつけている。
そして、その中身は大切なものだったりもする。何度か俺も世話になった。
先ほど、落としていってしまっていたのか。
あれを探すために戻って来たのか?
「まったく。それ、薬が入ってるんじゃないのぉー?」
月姫様がため息混じりに言った。やはり、大切なものじゃないか。落としたものは予想通りだった。何を落としていっているんだ。
もしもの時に困るだろう。
大切にしろ。
何度も何度も言っているはずだ。もしもがあるんだから、備えはしっかりしておけと口をすっぱくして行ってきているはずだぞ。
「んー。薬草が入ってるけど、落とした時に後でいいやって思って?」
良いやと思う内容じゃないのに、コテンと頭をかしげつつ言う桜花ちゃんは悪びれた様子が一切ない。
一切、悪いことをしたなどとは思っていなさそうだ。これはまた繰り返すだろうな。
いつもそうだ。だから、この子の悪癖は治らない。治して欲しいんだが。
「で、忘れたのぉ〜?空からもらった薬草も入っているのにぃ?」
若干、声のトーンを落として月姫様は桜花ちゃんを見る。じとーっとした目だ。
師匠からいただいたものを落として忘れてたのか。
それを悪びれもせず、後で良いやと思って放置して、挙げ句の果てに忘れていってしまうのか。
反省してほしいが、する気は当人にはなさそうだな。
「使わないもん。」
ぷいとそっぽを向く姿は可愛らしい。が、ぷいじゃないだろう、ぷいじゃ。
使うことがあるかもしれないだろう。
滅多に自身に使おうとしないとはいえ、もしものときのために大切にしておくべきだ。
「僕があげた薬草まで地面にほかって行った、と?」
反省の色を見せない桜花ちゃんに対し、月姫様は言う。何とも冷たい声。背筋の中からひんやりと体が冷たくなっていくような感覚に陥る。
何度ここらへんの温度が下がっただろうか。
冷たい月姫様の声色に皆が凍りつく。動いてはいけない。そんな空気がそこにはあった。
読んでいただき、ありがとうございます^_^
楽しんでいただけていると嬉しいです!
ジメジメ雨が多いですね…
仕事が暑くてたまらんですわ
主に座ってたいけど座ると寝るから動く仕事が良いって動く系を選択したのは月姫です
はい、頑張りますよー




