93.ウサギはビビリで弱虫のようですよ?⑨
わんこ先生の歯に衣を着せぬ物言いは俺の古傷すら暴かれそうで恐ろしい。
桜花ちゃんは俺たちにとって敵ではない。
わんこ先生は簡単に言ってのける。敵ではないからというのはあれだけ恐ろしく強い子を恐れない理由にはならないだろう。
睨まれたら、鬼に1人で対立してしまったような恐怖があるぞ。いや、そんな生ぬるくはないか。
「俺にとって彼女は大切な仲間ですよ。桜花ちゃんは優しい。仲間のために動ける子です。ゆえに大切な仲間のために動くでしょう。」
そう。
大切な仲間のために俺を傷つけても仲間を守るだろう。
仲間のために動く、優しい子なんだから。
「あん?何を言ってるんだっぺ?」
心底理解できないというようににゃんこ先生が声を上げた。
表情は見えないが、不可解な顔でもしているのだろう。わんこ先生に対して、こちらは分かりやすい。
仮面があっても、感情が一切隠されていない。
対極的なお2人のようだな。
仮面していてもどんな顔をしているかが想像できるとは逆にすごい。仮面の意味がないな。
にゃんこ先生にどう言ったら通じるかと思案していたところにわんこ先生が口を開いた。
「ん〜?ウサ先生もまた、彼女にとっては仲間だよ?それを忘れてないかな?」
「………なかま…」
「そうだよ?君にいくら怒ったところで志貴さんは君の敵になりえないよ?君だってあの子達を思って動く仲間だっていうのは事実だからね?だから意見が違えた君のことすら守ってくれるっていうか?あの子は優しくて甘い子っていうか?僕らを傷つけるはずがないかな?僕らは志貴さんの仲間だから?」
断言しない話し方というのに、やはり彼の言葉は鋭い。確信を持っているようだ。迷いはない。
桜花ちゃんを信頼している。わんこ先生には信頼することができる強さがあった。
桜花ちゃんは優しく甘い。その表現に確かにと納得できる。
桜花ちゃんにとって、俺もまた仲間。彼女が俺を害するはずがない。怒りをぶつけても、本気で攻撃などしない。彼女は獣じゃないのだから。
冷静に考えればわかることだ。
俺は……何をしてるんだ。彼女を傷つけて…情けない。
「わんこ先生、桜花を甘やかしちゃいけねぇべ。いくら仲間だって言っても、桜花のあれはねぇ。親しき仲にも礼儀ありだっぺ。」
「確かに態度は悪かったね?怒っていたから仕方ないと思うけどね?感情をあらわにしてくれてるのはあの子がウサ先生を信用してるからだから?」
ぐさっと刺さることをわんこ先生は言ってくる。
信頼し、感情を見せてくれた子に俺は情け無い態度しか見せれていなかったな。
「信用しようが甘えまくるのはあっちゃいけねぇっぺ!!!だからって八つ当たりしていいわけじゃあねぇ!」
「まぁねぇ?自分を隠さずに出せるって凄いけどね?何より、志貴さんは手を取らなかったときじゃなくて、その事実に動揺したウサ先生に心を揺らしていたよね?君が傷付いたのを気にしてたよね?態度が悪いのは子供だし、仕方ないと言うか?ビビりまくったウサ先生も大概と言うか?」
………意外とわんこ先生はしっかり見ているみたいだ。
桜花ちゃんが何を気にしていたか。
俺の態度に傷付いたって思っていたが、あの子は俺が傷付いたことをーーーどこまでも優しい子だ。
それに気付けるわんこ先生はさすがだな。
ただ、グサグサ言葉を刺してくるのはやめてくれないだろうか。
立ち直れなくなってしまう。
「子供だからこそ!叱らなきゃいけねぇんだっぺ!」
「………本当に彼女は優しいですよね。俺を気遣ってくれる…それを……情けない限りだ。」
呟くように言えば、ぷんすか怒っていたにゃんこ先生がこちらを見た。
心配そうにこちらを見て、何かを言いたげにしている。
仮面があるのに表情がヒシヒシと伝わってくるあたりがすごい。
「んー?彼女はどうでも良いって切り捨てたなら、仲間であろうと向かい合わずに無視すると思うけど?態度悪くとも向かい合って意見を言うのは大切だからこそじゃないかな?あれくらいで君を見限ったりすることはないでしょう?多分?きっと?」
断言しないのがわんこ先生らしいが。
らしいんだが。
慰めるならばしっかり慰めてほしい。
まぁだが、それ以上にわんこ先生の言い分に頭を殴られたような感覚に襲われる。
確かに意見を違えた阿部君を前にした時、桜花ちゃんは怒った。その上で意見を言うでなく、黙らす方向で動いた。切り捨てた。
まぁ、それでも彼らが危険にさらされれば守っただろうし、頭を下げれば許し、その後の時間を彼らのために使った。
本当に優しい子なんだ。
今回、俺たちの行動に怒り、意見してきた。強制的に黙らすではなく、会話をした。
そんな彼女にそれだけ心を開いてもらえていたのに、傷つけるなんて本当に情けない。
「……確かに志貴さんは怖いけど?だからって所詮は子供なんだよ?君がビビリにびびりまくった事もすぐ忘れるんじゃないかな?」
いや。
わんこ先生、それは無理だろう。
彼女は根に持つ子だ。
ゴブリンに単独で突っ込もうとしたのに対し、俺が怒鳴りつけたことを今でも根に持っているくらいだ。悪いのは桜花ちゃんだっていうのに。
あの子は記憶力もしっかりしている。
「所詮ガキでもあんたらくらい殺せるけど。」
!?
て、え?
桜花ちゃん?
当たり前のようにわんこ先生の横にいるが、なんでそこにいる?いつのまに?
何で武器を持っているんだ?
ナイフをゆらゆら揺らして、武器を見せる事で脅しにかかっている、のか?
武器など持ってなくても脅威なのだから、持つ必要などないだろうに。
「それは僕にだってできるよ?武器だってあるんだから?方法が方法ならば君より残忍にできるというか?できるか否かじゃなくてやるか否かだね?君はやらない子だよ?」
だから何で貴方はビビらないんだ。普通に会話できるって凄い。何色の血をしているのだろう。心臓には毛がはえているんだろうな。
「お、うか…ちゃ…」
名を呼ぶ。
頭を撫でるわんこ先生の手を荒々しく跳ね除けている桜花ちゃんの名を。
うまく声が出ず、情けない声が響く。自分ですら、なんて言ったか分からない。
いきなり戻ってきた桜花ちゃん。
そんな彼女と平然と会話ができる同僚が理解できない現状。そんな現状を打破できないまま時間は過ぎていく。打破できる時は来る気もしない。
「ん〜?下らないキャラが剥がされてるね、はじめちゃん。あれが素なんじゃないの?頭いかれてるって常々思ってたわけだけど。はじめちゃんはいかれた趣味を持ってる上に、深いふかーいとこに闇を抱えたかわいそうな子だって思ってたけど。」
桜花ちゃんは俺を見下ろすと、んー?と頭をかしげつつ、俺に言った。
機嫌はまだまだ治らないらしい。辛辣な事をつらつらと言っていく。
「仲間に辛辣すぎないかなぁ??桜花ぁ?はじめちゃんは確かに優しい子だけど、甘え過ぎちゃあダメだよぉ??」
桜花ちゃんの横には当たり前のように月姫様も立っていた。この方もいつあらわれたかわからない。
会話がどこまで聞かれていたのか。
冷や冷やしてしまう瞬間だ。
聞くか?いや、聞いてどうなる?
「いやいやいや、月にぃ?あんなキャラになるって演じるとかじゃなく、変態だから。ヤバイから。」
桜花ちゃんは月姫様の注意に対して、すかさず言い返した。素直に謝る気はないらしい。
確かにキャラは被っているが、変態とか結論つけるのは単純思考すぎるだろう。
全然違うキャラのほうがやりやすいとかあるはずだ。少なくともそういうつもりでのキャラ作りだ。
決して、変態だからとかそういう理由ではない。
「まぁ深層心理に触れちゃまずいものはあるかもねぇ?」
いやいやいや。
月姫様、そこで同意しないでください。ちゃっかりもっとひどい風に言わないでください。
もっとしっかり貴方の弟子を叱ってください。直らないとは思いますが、貴方の弟子でもあるでしょう、月姫様。
もっとしっかり注意をしてください。貴方の言葉ならば多少は効くはずです。
桜花ちゃんは面倒そうに俺に視線を向けつつ、口を開いた。
「はじめちゃんの変態ちっくな深層心理なんか知りたくなーい!」
あーぁ、面倒だ。そう言いたげな態度だ。
変態ちっくな深層心理があると言う前提で話すんじゃない。そんなもの、あるわけないだろう。
「そうだねぇ。あんまり桜花が変なこと知ったらはじめちゃんが'空'にいじめられちゃうねぇ〜?」
ゾッとするような事を月姫様は笑いながら言う。クスクスと楽しそうに笑う姿は可愛らしいんだが。言っていることはおそろしい。
笑えない。全然笑えない。絶対、笑い事ではない。
読んでいただき、ありがとうございます^_^
6月はじめての更新!
今月もまた、よろしくお願いします!




