90.ウサギはビビリで弱虫のようですよ?⑥
桜花ちゃんは不注意にも掴んでいた瀕死状態の魔物に噛まれた。魔物が噛みつき、桜花ちゃんの手からは赤黒い血が滴り落ちている。深く噛まれたようだ。
何でいつまでもトドメを刺さずに持っていたんだってことや、噛まれないようにしっかり警戒しておけとか言いたいことは数多くある。
言ったところで直らないような気もするがな。
今までだって似たような事で注意してきているのに無用心すぎる。
毒に強くてもダメだ。
「はっ?!こんの、おたんこなすッ!それ、毒ある魔物だべ!?不注意にも程があるっぺよ!!」
桜花ちゃんの噛まれたという言葉にすぐに桜花ちゃんの手を掴むにゃんこ先生。
桜花ちゃんはさすがというか何というか。
にゃんこ先生に手を掴まれる前に持っていた魔物をチビに向かって投げていた。
にゃんこ先生が無防備に桜花ちゃんの手に顔を近づけてくるのを察したからだろう。にゃんこ先生が怪我しないように動くなんてさすがだ。
投げつけられたチビは難なく、それをキャッチしたーーー爪でグサっと。エグい。
桜花ちゃんを傷つけた魔物にチビは容赦などしないのは分かっているがエグい。シュッと華麗に魔物を真っ二つにして絶命させたうえで踏みつけている。
そうなると分かっていたわけでもないだろうに、無防備に顔を近づけられるのはある意味すごい。あとでにゃんこ先生は指導しておかねばならないな。
「うっさいなぁ。」
鬱陶しい。
桜花ちゃんはチビに視線を向けることなく、にゃんこ先生に対して、鬱陶しいという態度にありありと出ていた。
物凄い剣幕で怒る相手にその態度はなくないか?
「何でそんな平然としてるんだべ!?早く対処しねぇと!」
下から見上げるようにしてキッと桜花ちゃんを見たにゃんこ先生は怒鳴るように言う。
あんなに無碍にされているというのに、あそこまで心配できるとは懐が深いな、にゃんこ先生。
だが、甘い。
無理にでも治療してしまわなければ、桜花ちゃんは聞きやしない。
「いらない。こんくらいヘーキ。解毒剤がもったいない。」
言うと思った。
桜花ちゃんは毒に強いからこそ、あまり解毒剤などは使用しない。なんなら、怪我も多少ならば放置すると言う問題行動に出る。
怪我をしたまま前進して、帰ってきてからも自然に治るとガーゼやら何やらを張っておいたりせずに放置する。
それを諫めていた者がいないとなるとーーーにゃんこ先生のように叱りにかかれる人物はいてくれて助かるな。
彼女にはこうして叱ってくれる人が必要なんだ。
このままの調子でしっかり叱って治療してくれるとありがたい。
「良いわけあっか!!」
「同僚がビビった化け物にかまって楽しいわ「コラァァアアッッ!!」
なおも不機嫌な様子で言葉を吐き捨てる桜花ちゃんににゃんこ先生は噛みつく。
そんな様子に桜花ちゃんは面倒だというのを一切隠すつもりもないようで、うざったいとでも言わんばかりの視線をにゃんこ先生に向けていた。
にゃんこ先生を見る桜花ちゃんは虫けらでも見ているような顔をしている。これ、俺なら傷つく。立ち直れそうにない。何週間かは引きずるレベルだ。
それを気にせず向かい合えるにゃんこ先生の鋼の精神はすごい。丈夫な心臓を持つに違いない。
「………だから、にゃんこ先生、うるさい。」
不機嫌な桜花ちゃんに憤慨するにゃんこ先生。そんな2人の間で片膝をつき、桜花ちゃんに応急処置を施すわんこ先生。
そう、意外にも彼は黙々と作業をしていた。
黙って押し通す。桜花ちゃんには有効な手だ。無理にやめさせたりはしないだろう。
怪我を水を使ってゆすぎ、止血のために布を当てる。
止血が出来たのを確認したら、毒消の効果もある塗り薬を取り出し、丁寧に塗っていくと、大きめのバンソーコーをペタリ。
慣れた手順で簡単に処置をしている。
わんこ先生は桜花ちゃんに飲み薬を差し出していたが、それは桜花ちゃんに拒否されていた。桜花ちゃんに拒否され、わんこ先生は飲ませるのを諦めた様子だ。
「おめぇは人間だべよ!オレの大切な仲間だべ!それを貶すんじゃねぇ!!それに、あんだけ凄んだら誰だって怖いに決まってるっぺ!オレだってちびってまうかと思ったくれぇだ!」
わんこ先生が傷に対する処置をしている横でにゃんこ先生は桜花ちゃんに言う。
傷の手当てはにゃんこ先生の十八番のはずだが、いまの彼女はそれよりも話に夢中のようだ。
わんこ先生はそれが分かっているからなのか。簡単な処置ならば彼でもできるからなのか。文句を言う事なく黙って処置をしていた。
「そう。ちびっちゃったの。予備のパンツあげようか?」
にゃんこ先生の言葉にそっかぁ、かわいそうにねぇと馬鹿にしたように言いつつ、頭を撫でたのちに、桜花ちゃんは術式を展開して見せる。
術式によって収納していたものを取り出してみせたのだ。カバンから物を取り出すくらいに自然な動作で。
桜花ちゃんは言葉の通り、下着を術式を展開して取り出すーーーわんこ先生や俺がいる前でやることではない。これも嫌がらせ、か。
いや、だが…何で持ってーーー遠足のため、か?着替えを準備していた?いや、だからって、おかしいだろう。
「なっ!?ちびってねぇっ!!」
パンツを見せられ、にゃんこ先生は驚く。怒りも忘れて驚いているようだ。
それはそうなるよな。至極真っ当だ。
桜花ちゃんはそれも予定通りなんだろう。
「大丈夫。未使用のだから。」
そんなことを聞いていないってわかっているだろうに的外れな返答をしている。
「だから、ちびってねぇって言ってるべ?!話をすり替えるでねぇ!!桜花、自分で自分を貶めたらダメだっぺ!!おめぇは自分の思い通りにならなくて拗ねてオレらに八つ当たりしてる子供でしかねぇ!!!」
「はい、にゃんこパンツ。先生にお似合い。」
叫ぶようにして怒るにゃんこ先生に対し、話の一切を無視して桜花ちゃんはにゃんこ先生に見せるようにしてパンツを広げる。
何をしてるんだ、君は。
桜花ちゃんが取り出したのは言葉の通り、ニャンコの絵柄がかかれた子供用の下着だ。幼児が使うようなもの。小学生の低学年用だろうかと推測されるくらいに幼いデザインだ。
桜花ちゃん。何で持っているんだ、そんなもの。
君は術式でどれだけのものを所有しているんだ。大半がいらないものなんじゃないだろうか。整理して捨てろと何度言ったことか。
「話をきけぇえええ!!!」
にゃんこ先生は声を張り上げる。辺りにはその声が響き渡った。
が。
にゃんこ先生が怒るのを気にしない様子の桜花ちゃんは声を張り上げるにゃんこ先生に下着を握らせた。本気で渡す気だったのか。
嫌がらせのためにはじめから準備をーーーいや、イラつく今じゃなきゃ、さすがにこんな嫌がらせはしないはず。
しない、よな…?
イタズラはしても、たちの悪い嫌がらせなんかはする子じゃないはずだ。
「ハハハ?何でそんなのがあるのかな?」
わんこ先生、貴方は何で動揺するも困惑するもせず笑っていられるのか。
俺には同僚が理解できない。
穏やかに話しかけられる図太さはどこから来るんだろう。心臓は間違いなく毛だらけのはずだ。コンクリートで出来ているかもしれない。それほどまでに丈夫な心臓があるはずだ。
「師匠にもらった。」
迷わず嘘を言うな。いや…嘘、だよな?
さすがに空様が…いや、弟子のならば準備するのか?
桜花ちゃん達の必要なものは空様達が準備していると聞いた事がある。
とはいえ、あんなものは準備しないはず。
いや、しない…よな?
「んん?今度は空様のイメージを下げにかかっているのかな??それとも事実かな?判別が出来ないね?」
「どっちかなー?不信感が募る〜!」
楽しそうに言うな、楽しそうに。
本当だったら怖いようなことを話すな。
何で楽しそうに言えるんだ。理解できない。
「まぁそれはそれとして?あの子達は大丈夫だよ?なんとかしてくるんじゃないかな?それに?罠は空様が準備したから?志貴さんが罠にかかっても仕方ないって言うか?しょうがなかったんだよ?」
それはそれとして。
何とも都合な良い言葉だ。
聞き流すには難しい事を桜花ちゃんは言ったのに、流した。
この同僚は何なんだ。
「チッ。師匠の罠だってくらい見れば分かる。だから、ムカつくんじゃん。まんまとあの師匠の罠にかかるとか!」
見れば分かる。吐き捨てるように言って気に入らないと顔を歪めている桜花ちゃん。
やはり、優秀だ。動揺もしただろうに瞬時に状況を理解して、俺たちのもとに来たんだから。
考えなしに彼らのとこに行くことをしても幼いがゆえに仕方ないだろうに。彼らのためと理解してるからこそ、我慢してるのか。
だが、気に入らないものは気に入らない。だから、こうして俺達に当たっている、と。
「うん?つまり、やっぱり、拗ねていたわけだね?」
ズバッと。
同僚はズバッと言った。確認する必要などないだろうにつまりそういうことだよね?と聞いている。
何であおれるのか。
やはり、同僚が理解できない。したいとも思えないが。
「うっさい!!!隔離された理由くらい分かる!つか、だったらハナから私をここに入れなきゃ良かったじゃん!また、目の前で仲間を失うとか!!!」
ーーー桜花ちゃんの叫びに心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。
読んでいただき、ありがとうございます^_^
楽しんでいただけますと幸いです
ウサです
ウサの話で90回を迎えました
賑やかに迎えちゃいましたね
そして、梅雨です
梅雨といえば紫陽花
根元に死体を埋めるとまた違う色の花を咲かせるというあの花の季節
梅雨といえばそんなイメージですが
まだまだ紫陽花の季節は先ですね
結構好きなんです
早く見に行きたいですね




