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88.ウサギはビビリで弱虫のようですよ?④

不測の事態に対しても自らの手でなんとかできるようにしていく必要がある。なんとか出来ねば死んでしまうのだから。


それだけの実力を付けるためには多少の危険は経験させるほか無い。彼らのためなんだ。ぶっつけ本番になるよりよほどマシだ。


「私、武器の名前も分からないような状態だった事ないんだけど?具象化できない武器なんか持ってない。比べる対象がおかしい。」


桜花ちゃんを引き合いに出したことは彼女を納得させるには至らなかった。


それは確かにそうだ。


桜花ちゃんと彼らでは実力が違いすぎる。俺が出会った当初の桜花ちゃんですら、彼ら10人がかりでも敵わないだろう。


ゆえに彼らには俺たちがついている。この場で彼らは経験を積むんだ。それも彼らが対処できるだろう魔物しかいない場で。


桜花ちゃんたちはぶっつけ本番で現場に降り立ったが、彼らは俺たちつきで、しかも、その場にいる魔物すら管理されている中で経験を積むんだ。


随分と甘い対処になっていると考えられよう。桜花ちゃん達みたいに実際の現場には連れて行っていないのだから。


「えぇ。実力の差はございましょう。ゆえに彼らの課題はあれほどまでに簡単なものにしているのですから。少なくとも、志貴様のように1人で放置などはしておりません。我々がこうしてーーー」《ザシュッ!!ガシッ!!》


桜花ちゃんと話している最中に音が響いた。俺の言葉を遮る音。


とても嫌な音だ。


肉を乱暴にも傷つける音。


それを出したのはーーー桜花ちゃんだった。いや、そんな音をいきなり出せる者なんて、この場には桜花ちゃんくらいしかいない。


響いたのは肉を叩き切る音。乱雑に掴む音。


響いた音に頭が真っ白になった。


心底、ゾッとする。冷や汗がブワァッと出て、身体の芯が冷たくなる。手足も冷たく、身体がうまく動かない感覚が恐ろしさを助長させる。


目の前にいたはずの桜花ちゃんの姿はなくなっていた。え?なんで?なんでなんだ?




ーーーもしや。




冷や汗がブワァっと吹き出るのを感じつつ、音のした方へ視線を向ければそこには案の定、桜花ちゃんがいた。


桜花ちゃんを捉えた視界の中には真っ赤な血もあって。


怖くてたまらない。


桜花ちゃんのすぐ目の前にはわんこ先生がいて、血が吹き出てーーーいや、あの血は…。


「こんな魔物にも気付けず対処できない奴らが見張ってて、何の価値があるのやら。」


わんこ先生の腕横あたりをナイフで突き刺していた桜花ちゃん。蜥蜴がいたらしい。


ナイフを引き抜くと、虫の息な魔物を手荒に持ち上げていた。


広がっていた血は魔物のものらしい。そりゃあそうだ。さすがに怒りだけで人を傷つけるほど短絡的ではない。


「いやいや?志貴さん?僕は暴力沙汰には向いていないと言うか?僕には僕にしか出来ないことがあると言うか?」


目の前にいきなり現れ、自身を襲おうとしていた魔物を刺して見せた桜花ちゃんに、わんこ先生は言った。


動揺してもおかしくないような場面でなんでこの人はこうも落ち着いているんだ?


桜花ちゃんの動きやら魔物がすぐそばにいたことやらは動揺するに値するだろうに。なぜ、一切の動揺がないんだ。


魔物に恐れたり、刺されるんじゃと桜花ちゃんに恐れたりするもんだろう、普通は。


「………戦闘員が暴力沙汰に向いてない、ね。何に向いてんだか。」


ジトーッと不審物を見るかのように桜花ちゃんはわんこ先生を見た。


何の役に立つんだこの役立たずが。


だなんては言っていないんだが。視線が明らかにそのようなことを言っている。暗にそのようにして意思を伝えられるとは桜花ちゃんは優秀だ。


「さぁね?」


「にゃんこは治癒のスペシャリストでしょ、あんなんでも。そういう武器も持ってる上に薬草やら術式やらも使いこなすって聞いた。あんなんでも、そういう知識・技術はすごいって。あんなんでも。」


チラッとにゃんこ先生に視線を向けた桜花ちゃんは明らかにバカにしている口調で話す。


あんなんでもと繰り返しすぎだ。


「何なんだべ、おめぇは?!あんなんでもってぇ、どういう意味だっぺ!?」


当然、にゃんこ先生は憤慨するが。


その様子すら面倒そうに見ている。何がしたいんだ、桜花ちゃんは。自分で怒らせておいて対応せずはやめてくれ。


「ちんちくりんなのに、ギャップ萌え〜。」


投げやりにめんどくさそうに、桜花ちゃんは言う。


フォローになってないぞ?


ちんちくりんは悪口だろう?


いや、フォローする気など、彼女にはさらさらないのか。


「わんこ先生、探知系はお手の物だろうに、何でこれに気づかないわけ?たるんでない?」


魔物を見せながら桜花ちゃんは聞く。


俺以外の教員は生徒の前では戦闘を行ったりはしていない。


にゃんこ先生も治療を行ったりはしていない。


なぜ、先生方が何ができるか、何に特化しているかを桜花ちゃんは当たり前のように知っているんだ。知っているかもしれないとは思ったが、もしや本当に知っていようとは。


ここ、ワクワク学園に来てからまだ1か月しか経っていないんだが。


「ハハハ?それは君たちがいるから?信頼しているから警戒モードじゃないというか?あれ、疲れるんだよね?」


探知系はお手の物。自身の能力の一部とはいえ、桜花ちゃんが自身の教えていない情報について、さらっと言ってみても、わんこ先生は動揺することなく笑っていた。


朗らかに会話を続けていく。


この場に疲れるからと言う理由だけで警戒せずに立たないで欲しい。桜花ちゃんが対処したから良いが、万が一もあるだろうに。魔物がいる場所だと分かっているのだろうか。


「戦闘だってやろうと思えばできるだろうに。」


だから、桜花ちゃんは何で知っているんだ。どこまで知っているんだ。


まさか、お2人の正体まで把握しているのか?


俺は桜花ちゃんと面識があるから知っているだろうが、わんこ先生やにゃんこ先生とは面識がないと聞いたはずなんだが。


「僕も負けず劣らず運動オンチだから?他に戦闘員がいなきゃ、役に立たないんだよね?」


誰に負けず劣らずなんだか。自然な流れでディスっているな。いや、それは言われた本人が気付いてないから言わないほうがいいのか。


ちんちくりん呼ばわりされて憤慨していたが、話がわんこ先生のほうに移ったため、文句を言い切れないまま、わんこ先生と桜花ちゃんを交互に見ていた。


交互に2人を見る様子は幼子のそれだ。優秀ではあるんだが、幼く見える方なんだよな。


「ふーん?ま、噂に違えずってとこか。で?戦闘に特化しているにも関わらず、はじめちゃんがこれの存在に気付かず、コイツらを守れなかった事に対する弁明は?」


桜花ちゃんはふと、俺に視線を向けた。氷のように冷たく、刃のように鋭い視線だ。


視線だけで殺傷が可能であるならばすでに俺は死んでいるだろう。


「………申し訳、ありませんでした。」


たしかに戦闘は俺の役割だ。お二人とも基本はサポート要員。その身に襲いかかる魔物を除去するのは俺がやるべきこと。


頭を下げた俺に対し、桜花ちゃんはすぅーっと目を細め、俺にザッザッザッと大股で近づいてくると、まだ手に持っていたナイフを振り上げた。


振り上げたタイミングでナイフについていた血が飛ぶのが見えた。


そして、桜花ちゃんは乱雑にナイフを振り下ろした。俺目掛けて。


肩が震える。恐怖からか。


桜花ちゃんが怖くて怖くてたまらない。情けなくも、尻餅をついてしまった。


目を瞬時に閉じ、咄嗟に防御の構えをとるーーーが、衝撃はいつまで経っても俺を襲うことはなかった。


おそるおそる目を開ければ先ほどまで俺の顔があったあたりに魔物がいた。それを桜花ちゃんが刺し殺したようだった。


「自分に近づく魔物にすら気づけないくらいに私にビビるって笑えるね。化け物を怖がる人間が無理にこんな場にいて何になる?化け物相手に戦えねぇなら安全な場でピーピー泣いてろや。それで、あの子達を誰が守るって?」


「桜花、良い加減にしねぇが!!」


俺を見下ろすようにして睨みつける桜花ちゃんが吐き出すようにしていえば、にゃんこ先生が怒鳴った。


なぜ、ここまで迷いなく桜花ちゃんに怒鳴れるんだろうか。


今、悪いのは俺だ。


いくら怒っているとはいえ、仲間にここまで震え上がり怯え不快にさせてしまった。


2人の教員は俺が守るべきだというのに桜花ちゃんに動かせてしまった。


不快感を与え、その上で俺の役割を負わせてしまった。


傷つけて、しまった。


「何が〜?」


怒鳴られた桜花ちゃんは眉間にシワを寄せ、鬱陶しいとでも言わんばかりの視線をにゃんこ先生に向けていた。


何が悪いのか理解できないという態度。


実際、桜花ちゃんが悪いんじゃないから至極当然といえよう。


「ウサ先生に対する態度がさっきから悪いって言ってるんだ!」


いや。


にゃんこ先生、桜花ちゃんはあなたに対する態度も悪いです。


普段ならば敬語で話す桜花ちゃんが敬語で話すのを辞め、おざなりな態度を取っているのだから。


俺に限らず、2人に対する態度も悪い。


が。


今、言うべきことでもないか。


言う余裕も俺にはなかった。情けない事に。



読んでいただき、ありがとうございます。

楽しんでいただけると嬉しいです^_^


お腹いっぱい食べたのちの午後からの仕事。

眠いですよね

なんだったら座ったら寝ますよね。


ゆえに、動く系の仕事をしていたりする…


昼ごはん少なめにしろよとか思わなくもないけどクッキーとかフィナンシェとかを持参してギリギリまで食べちゃうわけです

食欲には勝てません

勝つわけには参りません

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