86.ウサギはビビリで弱虫のようですよ?②
志貴が死期をつれて目の前に立っている。
大柄ではない彼女は大体160cmくらいだろうか。痩せ過ぎず、太り過ぎず。堂々と立つその姿は凛々しくカッコいい。
が。
今は存在が大きく見える。実際より大きく見えているのは目の錯覚なのだろう。これは恐怖からくるものなのか。
だなんてつまらない事を思いつつ、冷や汗をびっしりかいてしまう。いや、変な方に思考が逃げていってしまっているな。
ツツーッと嫌な汗が背を伝っているのを感じる。
「はじめちゃん?わざと私をあの子達から離したね?ひっどいなぁ、私を仲間外れにするなんて…傷ついちゃうよぉ〜。」
いつの間にか俺の背後に立っていた桜花ちゃんはあくまでもいつも通りの話し方で言う。
怖い怖い怖い怖い怖いーーー…
今すぐ泣き叫びたくなるくらいに桜花ちゃんが怖い。半端なく怖いんだ。怖くて怖くてたまらない。
あくまで目の前にいる桜花ちゃんの口調はいつも通りだ。いつもののんびりとした口調。一切の敵意はそこからは感じられない。目を閉じていたならば、いつもと違いはないようにも思える。耳だけの情報を信じるならばだが。
しかしながら。
その纏うオーラはいつもとは全く違っていた。目を開けているからわかってしまう。いや、肌にもひしひしと感じる何かがあるから、目を閉じても現実逃避はできないか。
いつもならば浮かべている笑みはなく、表情は消し去られていた。
怒りに満ちていたならば、まだマシだったかもしれないが、今の彼女の顔にはどんな表情も浮かんでいなかった。
まるで能面のようにあくまでも無表情だ。般若ならばネタになるんだが、能面って恐ろしいんだな。恐怖が倍増される。
整った顔から表情を奪い取ると真夜中に見る人形のようで、とてもじゃないが恐ろしくてたまらない。
あぁ…日本人形がにやりと笑うシーンとか怖いんだが、無表情もやはり怖いよな。あの状態で見つめられたら、たまったもんじゃない。
まだ、チャッキー人形のように凶悪な表情を浮かべていてくれた方が怖くないはずだ。あれなら逆にこちらが正義として刃を振り下ろすことも躊躇わずに出来る。
が。
目の前にいる桜花ちゃんにはそれができる気がしない。
俺は桜花ちゃんが、本気で殺気立ち、戦闘モードとして武器を構える姿をともに任務をこなす中で何度も見てきた。
堂々と魔物の前に立ち、戦う姿はいつだって心強かった。かっこよかった。憧れすらしている。そんなに強くありながらも、誰よりも仲間を大切に思い、仲間に甘えているギャップにも好感を持っていた。
だが。
それは味方としてだ。仲間だからこそ、心強く感じていたのだ。
今まさに自分に対して武器を構えている桜花ちゃんを目の前にすると、そこに心強さなどない。
敵対していて心強さなど感じるわけがないんだが、いやいや、逆の立場だとこんな光景となるものなのか。ここまで見えるものや見え方が変わるというのか。
ーーーあぁ、桜花ちゃんを目の前にした魔物達はこんな気分だったんだな。動きを止めずに桜花ちゃんに突っ込めるだなんて、魔物達はなんと無謀な事をしているのだろう。やはり、魔物など理解できない。
敵わぬ相手を目の前にし、殺気を浴びながらそんな事を思っていた。現実逃避に思考が逃げていた。
桜花ちゃんを見失った次の瞬間、後ろから死を連想させられるほどの威圧感を感じたのだからは仕方ないかもしれない。まだ頭がうまく働かず、状況が読み取れ切れていない。
状況把握をしようと、視線を巡らせればチビと目があった。俺の横にチビが控え、俺を見上げている。こちらからは一切の殺気が感じられない。
暇そうにあくびをしてさえいる。俺のそばにはいるが、俺に対する興味はゼロのようだ。
この場には俺の他に、俺と共に働くワクワク学園の教員が2人いた。猫の仮面を被った小柄な黒髪の女性に、犬の仮面を被った長身の男性。
その2人のそばにも桜花ちゃんの武器がいた。
あれは確か童子と双帝だったか。
桜花ちゃんは全ての武器が最終段階まで使いこなせる。武器が具象化ができるわけだ。
つまりは武器が擬人化して姿を示す。擬人化する際には武器本体から分裂するようにして姿を現す。
その分、使用者への負担は大きくはなるが、攻撃力は増す。武器が独立して戦闘が可能になるわけなのだから、単純に強い。
護獣と武器2つ、そして桜花ちゃん。戦闘が可能な者が1チームの戦闘員並みに存在するが、全てが桜花ちゃんの力とみなされる。1チーム分の戦闘を1人で可能とできるだけの力があるんだ。
そんな彼女に今、俺は2人の同僚と対峙している。
正直言ってかなう気がしない。かなうはずがない。
2つもの武器の具象化を全てをいっぺんにやってみせた上で、術式のコントロールまであの精度でやってのけるのは、桜花ちゃんが優れているからこそだ。
普通、無理だろう。俺には到底できない。ますます優秀になっている。さすがは桜花ちゃんだ。凄いの一言につきる。やはり、彼女は自慢の仲間だ。
単純に考えるなら桜花ちゃん1人に対し俺たち3人であるため、分はこちらにありそうだが、そんな事はない。
すでにそばに控えている桜花ちゃんの武器達は彼女の指示があれば、すぐにでも俺たちに牙をむくだろう。
そして、にゃんこ先生もわんこ先生も桜花ちゃんの武器には敵わない。そう、武器単体にすら敵わないんだ。
彼女らが罠にかかり、桜花ちゃんを除いた10人をこの島の中にある建物に強制転移させてから、わずか数秒。たったの数秒しか経っていない。
であるにも関わらず。
彼女は武器を具象化した状態で、俺達の後ろにいた。
俺達が仕掛けていた罠に引っかかり、彼らが姿を消すのを確認するために彼らを見張っていた。計画通り、桜花ちゃん以外を強制転移させることができた。
が。
級友達が強制転移されたのを確認した次の瞬間、桜花ちゃんは彼らが飛ばされた建物の方へと視線を向けた後にーーー俺達に視線を向けた。
確かに桜花ちゃんと目があった。
ただ、目があったのも1秒にも見たないだろう。
その次の瞬間には桜花ちゃんが姿を消したように見えたのだから。
どこに行ったのかーーー探す必要はなかった。背後からあふれんばかりの殺気を感じたから。
そして、気づかぬ間にすぐそばにチビがいた。
他の同僚のそばには見覚えのある武器達が控えていた。無表情で殺気立ち、俺たちを睥睨している桜花ちゃんの愛武器達。
持ち主は不機嫌そうだが、武器達は無表情でただ立っているだけだ。
ここワクワク学園に来てからはほぼほぼ使っていないそれらまで控えさせた状態で対峙する彼女は半端なく怖い。怖くて怖くてたまらない。
戦闘員として現場に立っていたあの頃に何度これほどまでの恐怖を味わっただろうか。
武器が構える事なくただ控えているだけだとしても、戦闘指示が出れば瞬時に戦闘態勢を取り、襲いかかってくる。
そして、それは一瞬の事になるだろう。
気にしないで捨て置くことはできない。
とはいえ。
不意打ちで襲うつもりならば簡単に出来たはずだ。奇襲は目的でないはず。
だからといって、俺達が安全であるとは決していえないわけではあるが。よほど、大丈夫だとは思うが…いや、でも……
「いやはや、志貴様。ご機嫌麗しゅう。さすがにございますね。よくぞ、私どもの元までたどり着かれました。このウサ、感服するばかりでございます。」
いつも通り、ウサとして口を開く。今、俺はウサなのだから。
動揺は決して表に出さないように気をつけて、ウサを演じる。仮面を付けていて良かった。顔が引きつっているのが隠せるのだから。
俺の様子を見て、彼女はますます冷たい空気を纏い、蔑むような視線を送ってきた。そうなるよな。睥睨する桜花ちゃんは絶対零度のオーラを身に纏っている。
これは明らかに怒っている。ますます怒りが膨らんでいくのが目に見えて分かる。見ただけで分かるように示せるとか、器用だよなって、そんな場合じゃない。
思考停止に逃げちゃダメだ。
「よくたどり着いた、ね?ずぅーっと私達のストーキングをしていた人達のとこに来るのが凄い事なの?あれ、隠す気がないとばっかり思ってたけど……まさか、隠れたつもりだったの?」
刺々しく桜花ちゃんは言い放つ。薔薇の花のように刺々しく触れば血を流す事になりそうだ。
普段ならば嫌味など言わず、気付いていることすら口にせず様子見をするだろうに、仲間を危険にさらされ、怒っているようだ。
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先日、天丼を食べました。
場所によって乗るものが変わりますよね。
1番手前に主役よろしく赤いものがありました。
この赤いのなんだろうと食べてみると…
カニカマでした。
カニカマの天ぷら、初めましてでしたよ。
エビを台座にカニカマを立てる。
新しいですね。
台座ってレンコンの仕事かと思ってーーーいや、レンコンも台座にいましたね。
エビが台座なのは新しい。




