84.ピンチはさらにヒートアップします
いきなりの襲撃を受けた。それは桜花にしか反応できないものだった。対応の全てを桜花が行い、他は桜花の背後で待機していた。
もしかしたら。
もしかしたら、ウサ達以外のイレギュラーがあったのかもしれない。ウサ達でないならば、なぜ、襲撃を受けているのか。
さっぱり分からない。わからないことだらけだ。
ただ、ウサ達でないならば襲撃者を排除せねば状況の鎮静化には繋がらないだろう。
いや、ウサ達だとしてもこの攻撃は訳がわからない。攻撃を防ぎきればとりあえず大丈夫なんだろうが、いきなり襲われる意味がわからないし、怖くてたまらない。
考えても考えても何を成すべきか分からないから、マリはただただ、桜花が攻撃を防ぐ姿を見ていた。
「チビ!」
ふと武器を弾きつつ、桜花がチビを呼ぶ声がした。来いという合図だろうか。
桜花がついに襲撃者達を撃退に踏み出るのか。
「にゅっ!」
桜花の声に反応し、チビが動いた。
マリの予想に反し、唸り声を上げつつ、構えの姿勢を取っている。桜花のそばに行くわけではないようだ。
桜花とは逆側、つまりはマリ達の背後側に向かって警戒している。
「ーーーこの気配、魔物?」
チビが構えた先から魔物の気配がした。新たな問題発生だ。
皆が、桜花に背を向け、背後を振り返る。
そこには確かに魔物がいた。
熊のような見目をしている魔物だ。白黒の毛皮を身につけたそれは二本の後ろ足で立ち、マリ達を見ていた。
かたく、パサパサな毛に覆われた獣。身体は大きく、成人男性2人分程度はあるだろうか。
黒の四つの足もまた、身体同様にゴツくがっしりとしていた。身体はゴツいが、まんまるい顔は愛らしい顔立ちをしていた。丸い頭に丸い黒色の耳がついている。
何とも笹をもってのんびりと過ごす姿を眺めていたいような魔物がそこにいた。
「パンダですね。」
のほほーんと樹里がつぶやいた。近づいてきていた魔物を見て、ほわぁんとした笑みを浮かべていた。
近づいてきたのは"パンダ"だった。そう、パンダ。あのパンダだった。
なんでここにパンダがいるというのだろう。マリはついつい、毒気を抜かれた顔をしてパンダを見つめてしまった。
パンダが二足歩行している。パンダだ、パンダ。動物園とかで見るあれ。
前脚は手のように使い、岩を両手で掴んでいた。あんな大きな岩を持てるなんて、凄いねぇと和んでしまいそうになる。
が、そうも言ってはいられない。
何だか動きが俊敏であり、徐々にマリ達に近づいてくるのだが、パンダにしてはやけに大きい。肉食獣のように牙を剥き出しにし、小さな鋭い目は血のように赤い目をしていた。可愛い見た目をしているというのに、それを台無しにするギラッギラの目に、愛らしさなど感じられない。
それを見て、ハッとなる。可愛らしいパンダらしさがなくて良かった。可愛らしいパンダそのものであれば、もっと接近を許していたかもしれない。
「馬鹿!魔物よ!!」
パンダだとほっこりした樹里にマリは叫ぶ。
あれは可愛らしさを持つパンダではない。無情に人を殺戮する魔物だ。それが獲物を見るような目で自分達を見ているではないか。
犬歯が発達した歯。鋭い数々の歯は獲物を狩り、肉を喰らうためのものだろう。
草食系であるはずなのに、肉食獣のような口腔内を披露するパンダが自分達へと向かってくる。岩を持っているというのに、中々に早い。
その距離、50メートルくらいだろうか。
ヤバイヤバイヤバイーーー…慌てるマリ達を他所にチビはゆらりと一歩を踏み出し、そして消えた。
いや、消えてはいない。
単純にパンダの元まで移動しただけだ。タンッとひとっ飛び。瞬間移動したように見えただけで、単に早く動いただけ。
パンダの元まで寄っていき、パンダの顔面に右前脚の爪を情け容赦なく食い込ませ、近づいた勢いのままにパンダを仰向きに地面に叩きつける。
巨体がいとも簡単に地面に叩きつけられ、地面がその衝撃に耐えられず、バアアンッ!と大きな音を立てつつ沈んだ。
「なんて馬鹿力なのよ…ッ!!」
パンダの倒れた場所を中心として、地面に円形の穴が開く姿はまるで漫画でもみている気分だ。
パンダが敵であるにもかかわらず、味方であるマリが顔を引きつらせるほどにチビの力は半端なかった。
そして、パンダが起きるより先にチビはパンダを尻尾で叩いた。叩き飛ばした。
パンダはいとも簡単に飛ばされていく。遠くに飛び去っていく。それを追うようにチビはかけていった。
チビが動き出してからパンダが退場するまでわずか、数秒。
あっという間の出来事に皆が呆気にとられていた。
あれほどまでにチビは強かったのか。
その強さに開いた口が閉じない。
だが、ここは戦場。
呆気にとられて呆然としていられる余裕などあるはずがない。
「ーーーッ!?全員、下がれ!!!」
すごい勢いで振り返った桜花は叫ぶ。今までにない剣幕に、皆がただ事じゃないことだけは瞬時に理解した。
呆気にとられていた皆だが、すぐに我に帰り、桜花のただならぬ声に弾かれたように動こうとした。
なのだけど。
「え?足が動かない!?」
足が地面に縫い付けられたように動かせなかった。
足が石となってしまい、地にくっついてしまっているかのようだった。
どんなに動かそうとふんばってま踏ん張っても動きそうにはない。
「何で?何で?何で足が動かないの?!」
マリは瞬時にパニック状態にいたり、慌てたような声を出す。
パニックになっているのはマリだけではなかった。
皆が、なぜ動かないのかと困惑状態にあった。
「何で?!」
「……術式も使えないッ!」
誰かが術式を展開して状況を打破しようとしたが、無駄に終わった。
なぜだか、術式が使えないらしい。
「これは転移装置か?!」
「足止めトラップまで発動してるわッ!!」
「解除はっ!!」
「解除用の武器なんてないわっ!!破壊するにも届かないわよ!!」
「ざっきー!!アレらを射れるか?!」
「…武器が使えない!!」
術式を使えない。すなわち、魔力が上手く使えず。
魔力を込めることにて使う武器は無効であった。上手く使えず混乱してしまっていた。ツバサが何度も試すが、どうにもならない。
「チィッ!」
場は騒然としていた。
マリ達の足元に何かがあった。木の葉で隠れていたよう。あちこちに何かが置かれているのが見える。
が。
解決策は出てきそうにない。混乱が増すのみである。
マリはユキや結弦が指し示すものへと視線を巡らせる。確かにあちこちに何かがあるのが見える。あれが転移装置と足止めトラップってことなのだろうか。
なぜ、そんなものがあり、発動しているのか。
あれのせいで足が動かないってことなのか。
それってつまり、まり達はは今、どこかに飛ばされようとしているってことなのだろうか。
何で?どこに?どうして?
疑問は止めどなく湧いて出てくるが、回答は一向に出てこない。出てくる余裕など、その場にはなかった。
マリは訳が分からず、ただただ、困惑した様子で皆に視線を送ることしかできない。
この場を打破することもかなわない。何も出来そうにない。
「クソッ!!」
桜花が辺りを見渡した後、こちらを見た。
そうだ、桜花がいる。桜花がどうにかしてくれーーー
《ドッカーーンッッッ!!!》
期待して桜花に視線を送ったのと同時の事だった。
無情にも爆発音がした。
衝撃がその場にいる者たちを襲った。
桜花が一歩踏み出した瞬間。桜花がいた場所がはじけた。弾け飛んだ。派手派手しく爆発した。それはもうドラマのワンシーンのように。
視覚的にも聴覚的にも多大なる衝撃を得た。
が。
それ以上に。
「桜花ちゃんッ!!!」
「桜花ッ!!」
爆破以上に桜花がいた場所が弾け飛んだという現実に衝撃を受ける。
名を呼ぶけど返事はない。煙が立ち込め、姿が確認できやしない。
無事を確認したいのに足はやっぱり動かない。
どうしたら良いというのか。
何が起こっているっていうのか。
何が何だか理解できず、マリは呆然と桜花がいた方を見ていた。
そして。
何が何だかわからないうちに、視界が真っ暗になった。視界が暗転した。
転移装置が作動したみたいだ。これから、転移装置により、マリ達はどこかに飛ばされる。
桜花が無事かどうかも分からないのに。
なのに、どうすることもできず、抗うこともできず、飛ばされていくのであった。
読んでいただき、ありがとうございます^_^
楽しんでいただけましたら、幸いです!
5月ですね
五月病を発症する時期ですね
にしても、パンダって強いですよね
一瞬退場しましたが、弱いわけではありません。




