82.何かが起こるのはやっぱり突然です
桜花はチビやマリを見て、いつも通りに笑っていた。その姿を見て、やっとマリは緊張を和らげることが出来た。
マリの全身の穴という穴から嫌な汗が吹き出してきていた。身体の芯が冷たくなったような気持ち悪い嫌な緊張感がある。
それが解消され、先ほどは震えることすらできなかったが、震えが後からやってきた。
あの武器、怒らせたらヤバイ。
武器であるというのに感情を持つとヤバイ。有心武器を手にすれば飛躍的に戦闘力が上がるのは確かだ。しかし、それ以上に無視できない恐ろしさがあると言われている。
よく分からなかったそれはこの恐怖を意味していたのかとマリは恐る恐るチビを見る。
人に比べ、理性などを用いて気持ちを抑制せず、ダイレクトに感情を示してくるのだからおそろしい。社交辞令なんてあったもんじゃない。
とにかく、ヤバイ。
そうマリにすりこまれた瞬間だった。怒らせたら怖いってだけの話ではあるんだが。たったそれだけではあるがマリにとっては大切な話だ。
だって怖いもの。
ビビリには重要なの。
顔が地獄からの回し者のように凶悪であり、親の仇かのようにみられた。質問しただけで。
だからこそ、桜花の許可がない限り、攻撃はできないため、よほど危険はない。その事実にはマリは気付けずにいた。
いや、気付けたとしても、怖いものは怖いか。軽い気持ちで質問しただけなのに、殺気にさらされるなんて、たまったもんじゃない。
持ち主はビビるマリをそこまで気にせず笑っているが、マリにとっては笑い事じゃない。
「……私も。センシを出して寝れるようになる。」
マリがチビにビビる姿など気にならないらしい。
ツバサはビビるマリなどお構いなしにマイペースに呟いていた。
それによって、多少マリは回復を見せた。
「アッ!ずるっ!!!」
マリはツバサのつぶやきにリアクションを取りつつ、何気なくチビから離れた。
まだ少しびびっている様子。
「あれは、や。」
小雲豹に対する明確な拒否を見せつつ、ツバサは自身の武器をギュッと抱いた。
ツバサのギュッと抱きしめる武器はピクリとも動かない置き物だ。あれが動き出し戦うのだと言う。
上手く扱えないらしく、まだ日に一定の時間しか使えないと言っていた。
武器であることを最近知ったのだということを加味すれば上々ではあるが、ツバサは満足していない。チビのように24時間使えるようにすると息巻いていた。
チビのように自在に動くようにすれば、もしもの時には共に寝れるようにできる。小雲豹を見た現在、それをしてみせるとさらに気合いが入っていた。
よほど、小雲豹を使うのが嫌らしい。
マリだって嫌だ。
布団として使える武器がいるなんてずるいと感じてしまう。
自分もこんな武器ではなく、ツバサのような武器が良かったとついつい見てしまう。隣の芝生は青いものだ。
というか、武器は寝る時に使用するものではないから、布団として使えるのが普通ではない。そういう点には気づかないマリである。
チビにビビりすぎて、未だにうまく頭が働いていないのかもしれない。
「腰に蠢く袋を下げるというのは中々シュールだな!」
嬉しそうに袋を持つ佳那子を見て、ユキは素直に感想を述べる。他に比べ、嫌悪感などは少なそうだ。
袋の中を興味深そうに覗いていた。
クネクネクネクネーー…
蠢く袋は中身を除けば良い気分になれない絵面があった。中を覗かなくとも何が中にいるかを知ると、顔をしかめざるを得ない。
「中身を知っていると、ね…。」
「緊急時には心強くとも、あれは複雑でござるな。心なしか、稲盛氏に擦り付いてはござらんか?」
悠真や司は電車でヤンキーに取り囲まれ、そのまま次の駅まで耐えなきゃいけないかのような微妙な顔をしている。
苦々しいというような微妙な顔。
2人も2人で良い印象は持てない様子。見た目は中々に強烈なのだ。
「……不味くはないよ?男の肌にもすりついてはくるし。最悪、生で食える。まさに緊急時には救いの神となる。そうそう見つからないんだよ〜?」
みんなのリアクションに苦笑を浮かべつつ、桜花は言う。
レアアイテムであり、救いの神とさえ言われている。今まで、いくつもの人の命を救ってきただろうか。
もしものとき、皆の助けにもなり得ると桜花は確信しているのだが、皆にはその考えが届かない。
桜花自身が使わないものであり、あまり言葉に説得力がないのもある。
「食べたことあるの?!」
「んん?昆虫とかさ?食べれるもの、念のために知っとくと、死なずに済むよ?」
生でもいけるに対し、マリが反応すれば、桜花はうえーっとあからさまに嫌な反応をするマリに困ったように言った。
死なずに済む。
そのためのものだと。
経験しなければ分からぬ話のような気もしなくはない。実際、マリはそんなものは嫌だとぶんぶんと首を振っている。
「そういう経験があるのか?」
意外だと言わんばかりにユキは桜花を見た。
メンバーの中ではトップの実力者。
にもかかわらず、そんな事態に陥るならば、やはりそれ以下な自分たちも知るべきかとマリは思う。思うのだが。
いやいやいやいや。
だとしても、あの変態にしか見えない魔物を使って生き延びるのは嫌だ。気持ち悪すぎる。
他の方法を選択したい。
「まぁ不測の事態は絶対あるからねぇ。はぐれたりすることはあるし、荷物を失うこともあるよー。武器と自分だけでこの場に取り残されるとかー?」
かるぅ〜いノリで桜花は言った。
が。
中々に怖い状況である。軽いノリで言ってみても恐ろしい状況でしかない。
武器以外何もないだなんてすぐに死んでしまうではないか。
魔物だらけの地で武器しか持たずに無期限で過ごす。とてもじゃないが出来る気はしない。
「それは怖いわね…。」
マリは顔をしかめてしまう。
自分自身が武器以外何もなく取り残されたならば。
十中八九、死ぬ。
そのリスクは高い。食事の心配なんかをしている余裕などあるはずがない。
「桜花ちゃんはチビがいるんでぇ。んなものを食わすなんて、まともに狩りもできなかったのかぃ?」
能無しでぇと、魁斗はチビの額を弾いた。
チビならば。
チビであれば、森の中で自然の食料を持ってこれるはずだ。
現にこれまでだって桜花に見つけるたびに持ってきていた。
そんなチビさえもどうにもならない状況があるというのか。それはどれだけ恐ろしい状況なのだろうか。
「にゅぁん?」
魁斗に弾かれたチビの目がすわった。ここまで低い唸り声が出るのか。そう思ってしまうような声をチビは出す。
マスコットのような可愛い見た目なのに。あれか、あれなのか。虎の威を借る狐の逆バージョンか。狐の皮を剥いでかぶっている虎か。普段の姿は弱々しく見せるための姿なのか。
それならば滲み出るオーラやら怒気やらが全てを台無しにしている。ちゃんと弱々しい小動物を演じてほしい。
マリは空気が何度か冷たくなったかのような感覚に陥った。
バサァアアアとあたりにいた鳥たちが逃げるかのように飛び立つ音さえした。いや、実際、逃げていった。飛んでいく鳥が見えた。
あれは確実にチビから逃げている。
桜花が経験した時の話よりも今を終結しなければ身の危険がありそう。話を続ける余裕などない。そうマリは思い、身体を固くしていた。
「まともに食料がなかったんだろ?」
なのに、そんな中でいつも通り、にぃっと笑みを浮かべて喧嘩を売れる魁斗には絶対に心臓に毛が生えているとマリは確信していた。
あからさまな殺気を向けられ、笑えるなんて豪胆無比なんてもんじゃない。変態だ。マゾか何かだ。
命知らず。怖いもの知らず。
それらの言葉は魁斗のためにあるに違いない。
「にゅーっ!にゅにゅぅ〜…ッ!」
チビは当然、物凄く凶暴に顔を歪めつつ、さらに魁斗を睨みつけた。
可愛い小動物であるはずの、マスコット的な地位にいるはずの子がする態度ではない。まったくもって可愛くない。
だが、魁斗は一切気にする様子はない。
「喧嘩しないの。初めて見た時に食べれるって聞いてみんなで食べてみたんだよ。白身魚みたいにさっぱりしてて食べやすくはあった。」
魁斗とチビを窘めつつ、桜花は言った。昔食べた味を語る。
本当に食べていたんだとマリが顔をしかめるが、それ以上に、ゔぅ゛…と気に入らないと言うようにチビがうめく。
食べれるものを次々と持ってくるチビからしたら、桜花がわざわざあんな変なものを食べるのは気に入らないのかもしれない。
自分が狩りをしてまともな物を獲ってこれるのに、桜花にあんなものを食べられるのは嫌だろう。桜花が好きすぎるからこそ。
チビくらい感情を表に出してくれて動いてくれたら対話もしやすくて関係性の構築がしやすそうだなと感情を露わにしているチビを見てマリは思う。
分かりやすく感情が示されていた。
「へぇ〜。食べやすいんだな。だが、他のものがない限りは食べたいとは思えんな!」
「ハハハッ!まぁ仕方なーーー」
桜花は言葉を不自然に途切れさせた。
そして、雰囲気を一変させた。
皆に脊髄反射ばりに武器を構えさせるには十分すぎる雰囲気へと変わったのだ。
読んでいただき、ありがとうございます^_^
楽しんでいただけましたでしょうか?
ご飯に卵、醤油に味噌汁。
そして軽い小鉢でもあれば幸せ。
はい、朝のひと時ですね。
基本、ご飯派です。
納豆と卵、ご飯があれば幸せ。
どんぶりで一混ぜにして食べるのが好き!
お味噌は合わせか白が好きです。
若者らしくないだと?
そんなコメントは聞きません。
米と卵、納豆。そして、おしんこに汁物。
これ、最強。




