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81.受け入れ困難です


食後の散策でも再びパニックになるマリ。


涙を目にたっぷり浮かべ、漫画のパニック状態のキャラのように瞳をグルグル混乱させ、視点は定まらない。


誰の停止も聞きそうにない。


馬鹿力であるが故に下手に手出しすることも出来ない。


「ありゃー……ちょい、服に手ぇ入れるよ?」


パニックの沼にずぶずぶと沈んでいき、冷静になれないマリに桜花は苦笑を浮かべつつ、マリに声をかけた。


そして、宣言通り、服に手を突っ込む。その行動にへっ?!と、これまた色気のかけらもない声をマリはあげた。


そんなマリを気にすることなく、ユキのように弄ることもせず、マリの服の中で蠢くそれを捕まえようとした。


「う〜…桜花ぁ〜……。」


「ほらほら、泣かないの。………ん、取れたから。はい、これで拭いて。」


泣きついてきたマリに苦笑を浮かべつつあやし、早々にマリのパニックの元凶を桜花は掴むとマリの服から手を引き抜いた。


桜花はマリの服から手を引き抜いた時、何やら手に持っていた。


それがマリを困らせた元凶である。


また、マリが騒いでいるとあまり興味を示さなかった者達が桜花の持つそれには興味を示していた。


「何でぇ、それ?」


「小さい、おっさん?きも…。」


両脇に立つと、それぞれが桜花の掴むそれを覗き込んでいた。


ウネウネウネと忙しなく足を動かすそれは嫌悪感を感じずにはいられなかった。


肌色のそれは大体手のひらサイズ。


ムカデのように無数の足があり、それは人の手のような形をしている。手がたくさんある裸の人。そんな印象を受ける見目であり、かつ、顔はおっさん。中年のふくよかな小汚いおっさん。


それが頬を赤らめさせ、気持ち悪い視線を向けつつ、ハァハァと息を荒くして必死に無数の足を動かし、桜花に寄ろうとしていた。


「木の上にいて、落ちてくるんだよねぇ。害はないけど、服の中に入り込んでくる習性がある。肌に纏わりついてきて、すりすりと顔やら体やらを擦り付けてくるの。女の子を狙ってくるとこが何ともねぇ〜。」


両脇にいる2人に見せつつ、桜花は言う。


害はない魔物だと。


だが、説明を聞く限り、納得できない。


見た目が十分に害であると言えるだろう。


「害がないって、十分害虫じゃない!!!」


マリはついつい桜花に言ってしまう。助けてくれたのは桜花ではあるが、言っていることには同意できない。


害虫である事に違いはない。なぜ、害がないと言えようか。


「良い薬になるんだよ?一応、食べれる。身体に良いとも言われている。ねー?カナちゃん?これ、いる?」


桜花はマリのリアクションを予想していたのだろう。あまり取り合う事なく、手に掴んだままの魔物をあろうことか、佳那子に差し出した。


みんなが顔をしかめ、良いリアクションを取っていないと言うのに。


ザ・女の子とさえ言っても過言ではないような印象の佳那子。誰より弱々しい印象がある。庇護欲そそられる妹のような存在だ。


そんな佳那子に差し出すなんてどんな悪い冗談だとマリは桜花に言おうとした。佳那子は大丈夫かと顔を青くしているんじゃないかと視線を向けた。


「それ、小雲豹ですよね??この袋の中にお願いします!!!」


え?


つい、何が起きたのか理解できず、マリはぽかーんとしてしまう。


気持ちが悪い見目の魔物に佳那子が嫌な反応をとるかと思ったのだが。


予想に反し、佳那子は表情を輝かせていた。キラキラと目を輝かせ、嬉しそうに気持ちが悪い魔物を見、欲しいと言って持っていた袋を広げている。


「食べるの?!」


確か、桜花は食べられると言っていた。佳那子もまた、料理が上手く、時々桜花と共に料理を作ってくれる。


まさか。


マリは顔を青ざめ、佳那子に聞いた。


お願い。


お願いよ。決して。決して言わないで。


美味しくいただきますだなんて、言わないで欲しい。


同い年ではあるんだけど、虫も殺せそうにないくらいに無害そうな女の子という印象がある。まるで妹のようで可愛らしい子だ。


そんな子がこのような気持ち悪いもので喜ぶのも衝撃だが、食べる姿なんて思い浮かべたくもない。そんなものはトラウマにしかなり得ない。


「いえ、お薬を調合するのに使います。」


嬉しそうに桜花から受け取っている佳那子はマリが引き気味であるのに気付いていないのか、ウキウキとした様子で蠢く袋を見ていた。


食べない。


その返答には少し安心するーーーが。こんなものが薬の材料になるっていう事実も受け入れ難い。


「こんなのが薬になるの?」


「はい。小雲豹はとても身体に良いんですよ?高タンパクなんですけど、脂質、炭水化物は少なく、必須アミノ酸をたくさん含んでいるんです。血の巡りをよくしてくれます!!」


凄いんですよ!と、テンション高く佳那子は言う。ぶんぶん両手を振り、力説する姿は可愛らしい。レアなんですよ!という声だって可愛らしい。


必死に話す姿も頭を撫でたくなる光景だ。


が。


しかし。


しかしながら。


この場でテンションが高いのは佳那子のみ。


佳那子が気持ち悪い見た目も気にせず、テンションを高め嬉しそうにする姿は意外な一面を見てしまって気まずいような気しかできない。


「非常食として使えて、かつ、それなりにあったかくて皮膚にすりついてくる習性を持つから、もしもの時にすっごく助かるんだよ。これのおかげで生き延びれる。救いの神とさえ呼ばれるんだよ?」


佳那子の言葉に援護射撃をすべく、桜花が苦笑をしながら言った。


見た目は見た目だが、これでも重宝すべきものなのだ。


ほぼほぼ滅多にそれを使うことがない桜花の言葉はどうしても説得力に欠ける。救いの神として使わないものが救いの神と言っても、信じるものはいないだろう。


「救いの神、ねぇ。」


「肌にすりついてくるとか、変態じゃない。」


「ただの、変態。気持ち悪い。」


みんなの反応は良いものにはならない。


そうなると予想できていたからこそ、桜花は驚くでもなく、まぁそうなるよなぁと佳那子の持つ袋の中で蠢いているそれに視線を向けた。


「あらー…まぁこんな見た目だから不人気なのは仕方ないのかぁ。もしもの時じゃなきゃ使いたくないよね。」


「もしもの時は服の中にこれを入れるのか?」


みんなの印象は最悪だが、救いの神とも呼ばれているらしいもの。


何かあった時のために知っておいた方がいい。


そう考える者もいた。


ユキは質問しつつ、佳那子の持つそれを見せてもらっていた。


「そそ。1匹いれば何匹かはそばにいたりするから、捕まえて。2、3匹服の中に入れとくと温かい。ずっとスリスリ動き続けるから低体温症予防に使える。他に食料がなければ、食べることもできる。」


説明しつつ、桜花は木の上にいたソイツらをいくつか捕まえて見せた。


桜花は気持ち悪いのは気にしていない様子で、次々と捕まえていくと、佳那子の持つ袋に捕まえたそれを次々に入れていく。


「にゅー?」


桜花が捕まえ始めたあたりで、桜花同様に木に上ったチビもまた、そいつらを捕まえてやってくる。


口に咥えて持ってきたそれを、チビは普段、桜花に渡している。しかし今は、直接、佳那子に渡していた。


何なら、桜花が捕まえようと手を伸ばしたやつまで途中から奪い取り、佳那子に吐き捨てるように渡していた。


桜花が触るのが気に入らないらしい。それを察したのか、途中から桜花は捕まえるのをやめ、チビを見ていた。


「小雲豹って呼ばれるだけあって木に登るのが上手くて、木の上にいるんだけど、自ら落ちてきてくれるし、捕まえるのも、たやすいのね。いろいろ役立つからもしもの時のために見つけたら保持してる子もいるくらいなんだよ。」


小雲豹を捕まえるのは諦め、桜花は説明を続ける。もしもの時にみんなが捕まえられるようにと。


印象はよくなくとも知っておくべきだからだ。


「袋詰めして携帯しても、爪とか髪とか入れておくだけで死なないんですよね?」


佳那子は自身の髪を袋に入れつつ確認する。


それを喜んでいるようで袋詰めされた魔物の蠢きがつよくなった。


ますます、気持ち悪い。


「そそ。女の子の物の方が喜ぶのー。」


つまり。


食糧は人の爪や髪であると。


それがあれば死なない。


携帯しやすい限りだ。


そして、その爪や髪は女の子のものであると喜ぶらしい。


ここで一言。


「やっぱり変態じゃない!!」


マリは叫ぶ。はっきりしっかり叫ばねば気が済まない。


中々、有用らしいが、変態ちっくな情報がさらに出てきたのは捨て置けない。


「ハハッ、人に不快感を与えるだけの魔物だと思う子も多いけど。みんなとはぐれてひとりぼっちになった時のためにも、知っておいた方が良いよ。」


もしものときはある。


そんな時に有用だと。


頭では分かっても納得できない。


「……桜花もそれ服に入れるの?」


納得できないからこそ、抵抗の意も込めて質問する。


結局は使わないんじゃないか、と。


「にゅ゛あ゛?」


マリが聞けば、チビが思いっきり顔をしかめた。


可愛らしさのかけらもない声をして、こっちを睨みつけてくる。殺気さえ滲み出ていた。本気で怒っている。


マリが雷に打たれたかのようにピシッと固まる。


「こら、凄まないの。何かあったら、チビで寝るから私にはいらない。あれ、見た目とか習性が変態にしか見えないからねぇ。チビが嫌うから使わせてもらえないかな。」


「にゅっ。」


ケッとでも言うかのような態度をチビはとる。


自分がいながら、あれを使うと言うのはチビにとっては不服なのかもしれないけど、何もここまで反応しなくても良いじゃない。


マリは口にはできないものの、涙目になりつつ思うのだった。



読んでいただき、ありがとうございます!

楽しんでいただけたら嬉しいです!!



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