78.理解が追いつきません
あん?と秋明がユキ達の言葉に足を止めつつ、目の前にいる魔物に視線を向けたその時だった。
ヤギドリ3体全てが秋明を向いた。そして、息を思いっきり吸い込む音がその場に響く。
ーーーあ、やばい。
誰もが思った。体感的には長い時間に感じられるが、身体がうまく動かない。どうしたら良いか分からず、だからこそ、動けない。
そんな中、マリは咄嗟に秋明を横に突き飛ばした。そして、ヤギドリを見た。
が。
無計画で出てきた故になんの手立てもマリにはなかった。何も考えずに動いていた。
マリがヤギドリを見たときにはヤギドリから真っ赤な真っ赤な炎が吐き出された。それはまるでスローモーションで近づいてきているように見えた。
周りがいろいろ叫んだり、救おうと動こうとしていたり、術式を展開しようとしていたりするが。
間に合いそうにない。
3体分の炎がマリへと迫るーーーマリはどうすることもできず、衝撃にそなえて目を閉じたーーーのだが。
だがしかし。
だがしかし、だ。
衝撃はいつまでもなかった。
「にゅ?」
代わりに緊張感のない鳴き声がした。聞き覚えのある鳴き声。
マリは恐る恐る目を開けた。
いつの間にやらマリとヤギドリとの間にチビがいて、ヤギドリ達は地に伏せていた。
目を閉じていたマリには何がなんだかさっぱりだ。チビと目が合うが、状況は説明してくれそうにない。
目を開けていた他の面々にも、いきなり火が消え、ヤギドリ達が何故か、ポトッと倒れ出し、マリのそばにチビがあらわれたようにしか見えなかった。
何が起きたか分からず、呆然としてしまう。
チビはマリが無事であることを確認すると、ヤギドリ達の方へと歩いていく。迅速な動きでヤギドリ達を拾い集めていくと、何事もなかったかのように桜花の元まで戻った。
呆然とする面々を置いてけぼりにし、マイペースに動くのであった。
拾い集めたヤギドリを桜花の足元に置いている。
「ありがと。みんな、気ぃ抜いちゃダメだよ?ここ、戦地。」
ヤギドリを拾いつつ、桜花は呆然としている面々に声をかけた。
緊張感のあまりない声だ。
だが、呆然としている状況を打破するには十分ではあった。
「3時の方角からも魔物が来ますっ!数3!こちらはゴブリンのようです!!」
ハッとなった佳那子が横に顔を向け言った。
それに反応し、皆が身構える。
「にゅにゅ、にゅにゅぅ〜。」
「いや、食えないじゃなくて。倒さなきゃなんだよ?」
「にゅ?にゅぅにゃにゅにゅ?」
「だめ。」
「にゅっ!にゅにゅーっ!」
桜花やチビは気の抜けるような会話を繰り広げていた。
それにマリはついつい、魔物を前にしているにもかかわらず脱力してしまった。
緊張がどっかに吹き飛んだのだった。やったね。
いつも通り過ぎる様子に脱力するものの、魁斗は2人を見て、ニヤリと笑った。
「チビ、アイツらは俺にやらせてくんな。お前さんは桜花ちゃんの護衛でぇ。」
「にゅぅ〜?」
チビに一言かけると魁斗は走り出す。
それにギョッとしてツバサが弓を構え、倒れた姿のままだった秋明が立ち上がった。
「待てっ俺もいく!!」
叫びつつ、秋明は魁斗の後を走っていく。
魁斗が一体目を倒したすぐ後に、ツバサが弓を使い他の一体を攻撃をし、遅れながらに秋明が残った一体を殴り倒した。
そんなこんなで、途中、トラブルはあったものの、やって来た魔物を倒せた一同なわけだ。
ただそこには勝利を噛み締める喜びが場を支配するとかそういうことはなかった。最後に現れたゴブリンを倒したもの達の荒い息の音すら響くほど、その場には静寂があった。静寂やら緊張やらが場を占めていた。
緊張感に包まれたまま、皆が辺りへと注意を向けている。
自分の感覚としては大丈夫でも安心できず、恐怖もあり言葉が出ず。
結果として、静寂が支配していた。
「ん〜。これで終わり、かな。阿部ったら魔物の特性、忘れちゃメッだよ?」
全てを倒し終え、まだ近づいてくる魔物がいないかあたりに注意を向けている中、桜花がのんびりと秋明に声をかけた。
桜花だけが通常と変わらない様子だった。
「……し、きさん!!メッ!じゃないわよ!!言い方が甘いわッ!もう少しで死ぬとこだったのよ?無闇に突っ込むんじゃないわよっ!!」
桜花が終わりと言ったため、魔物はそばにいないと判断した結弦。
いつもの調子を取り戻すのは早く、桜花にも阿部にも、もの凄い剣幕で叱りつけた。
秋明の元まで鬼の形相で寄っていく。つまり、おかんの説教タイムが開始したわけだ。
「ゔッ!…わ、わりぃ。」
「前に火を吐くから気をつけなさいねって言ったわよね?」
素直に謝る秋明を半眼で睨みつけると結弦は言葉を重ねる。
疑問形だが、質問をしているわけではない。
言ったのに何で突っ込んでいったの?と叱っている。怒っている。ただそれは秋明を心配してのことだ。おかんなんだ。それはしっかり秋明も理解していた。
「………忘れてたんだよ…。前ん時、全然火ぃ、吐かなかったしよ。」
確かに。
前に見たときのヤギドリは火を吹かなかった。
とにかく鋭い歯で噛もうとしてきたのをマリも覚えている。
だからこそ。
ヤギドリが火を拭くと忘れていた。
ユキが叫んだからこそ、ふと思い出したのだ。あ、火を吹くんだった、ヤバイ、と。
じゃなければ、秋明が火に包まれるまで思い出さなかっただろう。
「忘れてたじゃ済まされないな。今回は助かったが、次も同じとは限らない。」
言い訳にもならない事を弱々しく言う秋明にため息混じりにユキは言った。こちらは鬼の形相ではないが、無表情で視線を向けられるのは居心地が悪い。
感情をあらわに怒られるのもいやだが、無表情で落ち着いた口調で言われるのも、冷や汗が背をつたうものがあった。
「ッ!あぁ、分かってる。次はねぇ。……マリも桜花も、悪かった。助かった。」
2人からの注意にしっかりと次はないように気をつけると言い切った後、秋明はマリや桜花を向くとガバッと頭を下げた。
「私は結局、チビに助けられたし、あんたと変わらないわよ。桜花、ありがとね。」
礼を言われてもマリの表情は浮かなかった。桜花に礼を言いつつも、ギュッと胸の前で手を握りしめ、すぐに視線を自身の靴へと落とした。
結局は助けられてしまった。
考えなしに動き、迷惑をかけてしまった。
それに対する後悔が胸をキリキリ痛めつけていた。
「いえいえー。気ぃ抜いちゃあだめだよー。あの子ら前は操られてたから単純な攻撃しかしてこなかったけど、ランクはF。一般人が太刀打ちできないランクを付けられてるのは、伊達じゃあないんだから。」
「……わりぃ。」
のんびりと話しつつも再度、桜花が釘を刺す。
秋明は油断していた自分にギリッと拳を握りしめている。
即座に特攻できる度胸と行動力は凄かったけどなとマリは思った。自分はビビって行動が遅れた上に考えなしに動いて周りに迷惑をかけてしまった。
やはり、後悔は後を絶たない。
「ところで、しっきー。チビはどうやったんだ?」
「ん?どう?」
「気がついたらチビがマリリンの前にいてヤギドリ達が倒れていただろう?あれはチビの能力か??」
注意が終わればユキは自分の気になる事を質問する。
武器に関する事だからか、ユキの目はギラギラしており、結弦もまた、強い視線を桜花に向けていた。
自分も気になると足もとを見つめていたマリもまた、パッと顔を上げ桜花を見た。
「能力、ねぇ。まぁ違うとは言い切れないけど…チビは火がマリに届く前にマリの前まで出て、火をコントロールして消して、ヤギドリ達に一撃ずつ喰らわして意識を奪ったんだよー。特に特殊な力を使ったチビすげぇとかはないよ?」
ん〜?そんな特別な事はしてないよ〜?
と桜花は言う。
特別なことではない。そう桜花が思うだけで十分すごい。そうマリは思う。
「は?動き、早すぎない?しかも、火をコントロールって…!」
マリはこれでもかというほどに目を見開き、桜花とチビを交互に見てしまう。
動きは驚くほどに早いし、火をコントロールできるのは十分すごい。敵の扱う火を我がモノにできると言うのだからすごい事だろう。
チビすげぇって言えるだろう。いや、言うべきだろう。なのに、桜花の説明はなんなのか。
「火のコントロールはみんなできるでしょう?」
驚きについつい声を裏返らせてしまったマリに桜花はキョトンとした様子で聞き返した。何を言っているのと常識を問うかのようなトーンで。
凄いことを軽いトーンで言ったようにしかマリには感じられない。思考がついていかないのだった。
「にゅにゅ、にゅにゅぅ〜。」
"アイツらじゃ、食えないじゃん〜。"
「いや、食えないじゃなくて。倒さなきゃなんだよ?」
「にゅ?にゅぅにゃにゅにゅ?」
"え?倒して良いの?"
「だめ。」
「にゅっ!にゅにゅーっ!」
"ケッ!つまらないーっ!"
なぁんていう会話をしたわけです
読んでいただき、ありがとうございました^_^
楽しんでいただけましたでしょうか?
また、次回お会いしたいです!




