76.解体は大変です
みんなが凍り付き、言葉を飲み込み、ただただ見つめる先にチビはいた。そこにはいつも通りのチビがいて、桜花を見つめていた。
皆が凍りついているが、チビはあまりにもいつも通りな様子。
だが。
すべてがいつも通りとは言えない。見慣れないものがある。ゆえに皆が凍りついたわけだが。
チビの口にはメタルアントが咥えられていた。
先程、見たそれであった。今まさに話題にしていた魔物。それをなんて事もなく、咥えて持って帰ってきた。
場が凍りついているなど一切気にすることなく、チビは桜花の元まで行くと、咥えていたものを桜花の足元に置く。
五体のメタルアントを器用に咥えて持ってきたらしい。どうやったのか。傷一つないが、メタルアントは全て意識を失っている様子で動き出す事はないように見える。
「ありがとう。ユキが欲しいって言ってたから、獲って来てくれたみたいだねぇ。」
みんながメタルアントに動揺する中、桜花はあくまで笑っていた。
桜花が何の警戒もなく拾い上げる姿をみて、秋明や魁斗が動き出すが、マリは動けずにいた。近づくなんて怖くてできない。
遠巻きに様子を伺う。
「さっき言ってた、柔らかいとこってーのは?」
すぐに動けて質問できるなんて、どんだけ鈍感なのか。図太すぎるとしか、まりには思えない。桜花が持つメタルアントに顔を近づける魁斗や秋明の行動にマリはドン引きしていた。
先程の集団に襲われたらひとたまりもないのに、なぜ平気なのかと。
「この辺。触ってみたら分かるよー?」
マリがメタルアントにビビっているのに気づかず、桜花は触った方が早いと、落ちているメタルアント達を指差した。
触って大丈夫だよ、とみんなに言う。
「………なるほどな。」
桜花に言われ、魁斗や秋明はメタルアントを拾うとそれぞれ触り出す。
ツバサや佳那子は桜花が持っていたメタルアントをおそるおそると言う感じに触っている。
その様子に問題ないことを確認し、マリはおそるおそると桜花に近づき、手元を覗き込む。が、触ることは出来る気がしない。
「解体して持ってくでも良いし、なんなら、動けないように縛って生きたまま武器師に持ってくでも良い。解体しといたほうが高く売れる場合が多いけど、武器師によっては解体から自分でやりたがる人もいるからねぇ。」
「へぇ。」
「しっきー、解体してみたい!!」
ピシッと手をあげてユキが言った。
目を輝かせ、桜花を見つめる様は、教えてくれとおねだりをしていた。
「おけおけー。とりあえず、私が持っとくから帰ってからやろっかぁ。」
ユキの申し出に桜花は軽く返事をしつつ、持っていた一体の首筋をナイフで裂き、メタルアントを絶命させてみせた。
そして、空中にポイと放り投げ、術式の中に絶命させたメタルアントを収納する。
生き物の収納はできない。
が。
生きてさえいなければ収納できる。
しかも、収納中は時が止まる。つまりは熱々の鍋を収納すれば、時間が経とうが取り出した際、熱々のままなわけだ。腐らせずに食物を保管できる。
ゆえに空間魔法は重宝される。量もてる上にそのままの形で保管できるのだから当たり前だ。
だが、使える者は少ない。難しい術式であるが故に使える者が多くはないのだ。
そんなスムーズな術の使い方ある?空間魔法はレベルが高すぎて使えるだけで重宝されるのに。魔物にしても血抜きとか、しなくて大丈夫なのかしら?マリは誰も指摘しないことに目を丸くしていた。
が。
他の面々はメタルアント達に夢中だ。誰も桜花に突っ込んで聞いたりしない。
「桜花、それ、私もやって良い?」
「俺も!」
「良いよー。首のとこを軽くシュッてやったら、死ぬから血抜きやら何やらは帰ってからやろ。」
「こうかぃ?」
桜花がいいと言うや否やなタイミングで、魁斗は持っていたメタルアントの首筋を取り出したナイフで裂いていた。
すぐにやりたいと主張するあたり、皆の順応力の高さに驚かされる。
「んー、上手上手。」
絶命したメタルアントを受け取り切り口を確認しつつ、桜花は言う。
それに続いて、秋明やツバサもそれぞれがメタルアントを手にすると、ナイフで切り裂いていく。
「しっきー、上手く切れない!」
「んん?こう持って、こう!」
ナイフの持ち方すら危ういユキに対しては桜花は後ろから抱きつくようにユキの手を持つと、ユキの手を動かし、指導する。
手取り足取りな指導だ。
「ユキはナイフの使い方から覚えなきゃだねー。」
「頼む!教えてくれ!解体もしたことがない!!」
「その…志貴さん。私もお願いしたいわ。」
「おっけー。」
「にゅ。」
いつの間にやらチビは再び狩りに行って来ていたらしく今度は6つのメタルアントを持ち帰ってきた。
行動が早い。
人数分のメタルアントを揃えたらしい。
自分も出来るのは嬉しいやらなにやら分からないとこなのがマリである。
「あ、今度、私やってみて良いですか?」
今度はみんなも動揺すること無く、チビが地に置いた魔物を拾い上げる。
大人しい系代表、佳那子までもが、メタルアントを持っていた。
「どぞー。」
「思ったより、柔らかい。」
各々、まだメタルアントを手にしていなかったもの達がそれを拾い上げ、ナイフを使い、捌く中。悠真は術式を駆使して、小さな水の刃を作り出し、メタルアントを絶命させた。
ーーー凄い。術式の基本、水をあんな繊細に使いこなすなんて。
マリには到底、出来る気がしない。悠真が器用に術式を使用する様に皆が感心する。
「谷上氏、器用でござるなぁ。」
「ナイフより切りやすくて。」
ナイフより容易いから。
そう言って術式を展開するが簡単なことではない。繊細な魔力のコントロールがそこには必要になる。
「なるほどな!ボクもその方が得意かも知れん。がみがみ、賢いな!」
「やれるか試してみましょうか。」
「だな!」
武器師達がはしゃぎ出した。あれならばナイフを使うよりも容易いと、二人も言う。
到底、出来そうにない難易度の高いものを容易いとはしゃぐ姿に目を見張ってしまう。
実際に小さなナイフくらいの水を出しているのだから凄い。すぐに試してみせるなんて。
自分には出来る気もしない。
マリは手に持つメタルアントを見つめ、ナイフを握りしめた。
自分は術式のコントロールが出来ないとマリがガクブルする中。
「なぁ、桜花ちゃん。チビはあれをどうやって獲ってきたんでぇ…?」
魁斗は周りなど気にせず、気になっていることを桜花に聞いた。
先ほどから桜花に貢ぐように魔物を持ってくるこの武器。
罠を張る時間などなかったはず。
では、どうやって捕まえたと言うのか。何か方法があるのかしらとマリは桜花を見た。
「ん〜?狩りをして来たんだねぇ。」
桜花はなんて事もなく言う。
狩り。
簡単な一言だ。
「狩り?」
「んー、狩り。」
聞きたかった内容がないとマリは唇を突き出したが、魁斗は顔を引きつらせ、チビを見た。
短い単語の中に含まれた意味を察知したのだろう。
「………お前さん、あの集団に突っ込んだのかぃ?」
まさか。
あんな大群に突っ込み、何匹かを傷つけずに気絶させ、回収してきた。
そんな事をしてきたと言うのか。
見るからにチビに怪我はない。怪我一つなく、それを可能にしたとは。
魁斗の言ったことにマリを含め、メタルアントを見、動きを止めたメンバーを気にすること無く、チビは頭を傾げた。
「にゅー。」
それがなんなのか。
そう聞きたげな態度である。
チビにとっては何らおかしいことはなく、いつもやっていることだ。
「はぁ?!さっきのに??」
「にゅー。」
「狩人だからねーって、マリさんや、それは危ない。自分を切るから、それ。ナイフをこう持って、ここをスパッと。……んん。勢いよく自分切りそうだね!マリ、勢い最高〜。」
「ゔ…。」
術式は無理だからせめてナイフでと思ってやってみたが、ままならない。
うまくいかず、唸り声を上げてしまう。
「樹里は力が足りねーな。」
「難しいですね……。」
樹里もうまく出来ず、苦戦していた。
「あ、こうして、下に置いて切ったら、切れませんか?」
野菜を切るかのような手順で地にメタルアントを置き、ナイフで切る動作をする。
さすが、だとマリは感心する。よく思いつくな、と。これならば自身でもやれそうだ。
「なるほどー…。」
「志貴さん、昔から解体とか、してたんだよね?小さいときとかどうしてたの?」
「ん〜?普通にスパッとやってた。出来るようになるまでひたすら練習させられたからねぇ。」
「て、いつから解体とかしてたの?!」
今の言い方ならば、小さい時からナイフでやっていそうだ。
幼いときから解体を大人と同じ手順でやっていたのだろうか。
マリは驚いたように桜花に聞く。
「さぁ〜…物心ついた時には訓練受けてたしなぁ。チビ、初解体、何歳?」
「にゅ??」
桜花は記憶にないらしく、チビに聞くが、チビもチビでコテンと頭を傾げていた。
チビは武器だ。何より獣だ。記憶しているはずもない。至極当然のことだろう。
緊張感のカケラもなけれは凄い話をしている感じは一切ない。
読んでいただき、ありがとうございます!
楽しんでいただけましたでしょうか?
さてさて、4月。
師匠が走るほど忙しい月。ではありませんが、4月もドタバタしますよね。
周囲も私もドタバタです。
きゃあ、大変。
ま、ほどほどに乗り越えていきましょう。
では、また次回お会いしたいです。
よろしくです。




