72.警戒心がありません
マリはじっくりと蜘蛛を眺め、徐々に近づこうとしていた。しかし、少し近づいたところで、桜花にしっかりガッシリ掴まれ、腕を引かれ止められた。
「蜘蛛にしか見えないかもだけど、あの子達は魔物だよー。」
止められたマリが桜花を何事かと見れば、桜花は言う。口調は穏やかであり、慌てた様子はない。
今、桜花が魔物だと言ったのだから、マリだって魔物だってことくらいは知っている。桜花だって不用意に近づいたのだから、あまり警戒せずに近づいたわけだが。それがいけなかったのか。
そんなことを思いつつ、怪訝そうにマリは桜花を見てしまう。
「その子が作った蜘蛛の巣にかかると中々逃れられない上に蜘蛛の巣からは魔力を吸い取られるの。蜘蛛自体も神経毒を持っているから触っちゃダメよー。身体は動けないのに頭は働いているフグ的毒にやられて笑っちゃう〜。」
雑魚と言いつつも、危険はあるんだよーと、桜花は魔物について詳しく説明した。
のんびりした口調であり、危険であると語っているようには見えない。
今言った情報はやばくないかしら?触ったら最後の魔物じゃない。全然笑えない情報よ?笑っちゃうじゃないわ。なぁんて思いつつ、マリは、目を丸くして桜花を見つめた。
注意の必要がないと言えるような魔物にはとても思えない。
それを雑魚とし、たいして注意を向けないと言う様子は、いかがなものなのか。とても褒められたものではないはずだ。
「"術式1炎"」
マリが桜花の説明に目を丸くする中、悠真は冷静に術式を駆使して蜘蛛達だけを焼いていった。
木々を傷つけることなく、器用に魔物だけが焼かれていく。繊細なコントロールが可能でなければ難しい事だ。
「そんな強くないんでござるな?」
ほぼ無抵抗に焼かれていく魔物達。中々危険な魔物に聞こえたが倒すのは容易にできている。
容易に倒せる様に司は頭を傾げ、悠真に視線を向けていた。
マリも容易に倒されていく魔物を眺め、桜花が脅しただけなのかと、にわかに思い始めていた。
「捕まると厄介ってだけで倒すぶんには簡単に出来る魔物だったはず。不用心に巣に突っ込まなければ討伐は難しくないよ。……前も見たことあるのに気付けなかった。」
司に返答しつつ、悠真は魔物を焼く。
気付けなかったことが悔しいのか、次は見つけると言わんばかりに、じぃっと蜘蛛達を観察していた。
「自分は知ってすらいなかったでござるよ。」
司は悠真の様子に苦笑しつつ、蜘蛛へと視線を向ける。
知らなかったら危ない魔物。知らないでは済まされない。今、記憶しようとしっかり観察していた。
マリも皆に従い、必死に蜘蛛に視線を向け、覚えるために集中する。
「初めて見たけど、普通の蜘蛛との違いは巣が銀がかっていることと脚に赤いラインがあることだったかしら。よくよく見なければ分からないわね。」
「気を抜けば蜘蛛の巣にかかってしまうな!」
はじめて蜘蛛を見た結弦やユキも、蜘蛛をマジマジと見ていた。
ある日、森の中、蜘蛛さんに、出会った。花咲く森の中、蜘蛛さんに出会ったーーーと、まぁ。
森のくまさん風に言ったところで、出会ったのは所詮は蜘蛛。
しかも相手はただの蜘蛛ではなく、魔物なのである。遺伝子レベルで人を見れば襲えと刻まれているかのように人を無条件に攻撃してくる生物達。
そんなものに出会って、ワクワクするようなことも、ほのぼのすることも起こり得ない。ましてや、一緒に踊りましょうだなんてことは起こるはずがない。
熊さんのように食べられる前に逃げろだなんて言うことなく、敵意を剥き出しにして殺しに来る魔物なのだから。
そんな魔物達をみんなでマジマジと観察つつ、術式の得意な子達が火炙りにしていく。
中々にシュールな画が出来ていた。
相手が魔物でなければ危ない若い子達の集団にしか見えない。若気の至りかなって思っちゃいそうになる光景だ。
「みんな、慣れない実地なのは分かるけど、あちこちに魔物がいるのが当たり前なのー。強くなくてもこうしてワナを張って待ち構えているからねぇ〜。気をつけていこっかぁ。蜘蛛と比べて、少しの違いしかない魔物に見えるけど、その少しの違いで足突っ込めば、死ぬよぉ〜。」
のんびーり。
蜘蛛を見ていた面々に桜花はのんびーりと言った。
もうちょい力を入れて注意を促して欲しいと思う内容であるが、あくまでのんびりというのであった。下手したら死ぬ内容なのだから、多少なりとも大げさに強めに注意すべきではないだろうか。
「気付いてたなら先に教えてくれたって良いじゃない。」
マリが魔物の罠に引っかかりそうになった、その刹那。桜花は手を出した。しかし、それまでなにも言わなかった桜花にマリは頬を膨らます。
桜花ならば、気付いていそうだ。いや、確実に魔物の存在に気付いていたはず。
それを言わなかったのは意地が悪い。
「ん〜?私は武器からも明らかだけど、感知能力がこの中で1番高いんだよー。どやぁ。ただねぇ〜、私に頼ってたら自分で魔物に気付けないよ。私がいなきゃ、蜘蛛みたいな雑魚に対応できずに死ぬ。なぁんて事になりたいの?自分で魔物だって、知識なくても感知する第6感を鍛えなきゃだぁめ。」
意地悪と頬を膨らませたマリは言葉につまった。
桜花が意地が悪くて黙っていたわけではないと知り、黙らざるを得なかったわけである。
感知スキルが1番高いのだと言い切った桜花は、おそらくその言葉の通り、誰よりも優れた感知スキルがあるだろう。
皆の感知スキルを向上させるためにあえて言わないのは中々に厳しい対応だと頬を膨らませそうになるが自分達を思ってのことならば仕方ないのか。
「にゅっ。」
桜花と話している間に何かをチビが尻尾を使って叩き落とした。
マリは地面に叩き落とされたそれを目で確認するまで、何を叩き落としたかはわからなかった。どっかからか、何かが飛んできたのは分かったが、突然でありそれが何だったかは分からない。
何かがチビが尻尾で叩き落としたのを見て、床に叩き落とされたそれを見て初めて、それが何であったかを知る。
桜花以外が音にギョッとした。そう、桜花以外。
桜花はやはり、気付いた上で一切の反応を示さず、皆を観察していた。
「え?!と、蜥蜴?!」
音がした方を見れば蜥蜴のようなものが落ちていた。
ピクッピクッと動くそれはまだ絶命していないよう。
30センチくらいはあるだろうか?緑色の蜥蜴のようなものが転がっている。
「にしては大きいよ〜?あれは魔物だねぇ。よく見れば牙もあれば尻尾が悪魔の尻尾みたいに尖っているねぇ?どちらにも神経毒があるんだよね。 6本、足があるけど、前脚は人の手のように発達しているでしょ?痺れさせて、その間に内蔵を引き摺り出して食うの。生きたまま腹を裂かれて内蔵を食われる。ひゃあ、悪食〜。」
ピクッピクッとなっている魔物の尻尾や前脚を指さしつつ、桜花は説明していく。魔物は何とかピクピクなりつつも、桜花に一撃でも喰らわそうと足掻いている。
それを桜花が気にする様子はない。
そんな桜花の肩から降りたチビが魔物にとどめを指した。先ほど、蜘蛛で笑われていたが、やはり倒すのはチビらしい。
チビは桜花に攻撃をしようとする魔物に対し、嫌悪感あらわにし、攻撃をしかける。大小問わずに桜花に牙を剥くものには容赦をしないのであった。
「…は?」
桜花の説明にマリはぽかーんとする。
説明通りならば、こちらもまた、中々に危険な魔物らしい。
なのにも関わらず、桜花の警戒心は一切ないのはなぜだろうか。
「身体を保護色に変化させれて、森の中に潜んでたりする上、獲物に飛びかかる時には身体を透明にするのね。弱いし気配も感じられるけど、経験が浅い子達はたまにやられるんだよね。コイツら内蔵だけを食うの。食い散らすの。意地汚いんだよねぇ。」
ぽかーんとしてしまっているマリに構わず、桜花は説明を続ける。
気配は感じられる。
つまり、桜花はやはり気付いた上でチビが跳ね飛ばす瞬間まで無視していた様子。
「ひぃッ!!」
桜花の説明に食い散らした様子を想像してしまい、マリは悲鳴をもらす。
想像力豊かなこと。
グロい光景を思い浮かべたのだろう。顔を真っ青にして、蜥蜴に視線を向けている。
「たまに遺体も見つけるから…ご覚悟ぉ〜。」
悲鳴をもらしたマリを見て、ニヤァっと笑いつつ言う桜花に言った。
「何の覚悟よ?まだ、死にたくないわ!!」
嫌な笑みを浮かべた桜花にマリは噛み付くように言った。
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日向ぼっこが気持ちいい季節となってきましたね
猫になりたい




