5.魔物を倒して出会ったのは変態でした
ふー危ない危ない。
自然にかっこいい言動をとるお兄さん相手にうっかり私もお兄さんに惚れた女の子達の仲間入りするとこだった。
惚れた男の取り合い。女同士のバトルロワイアルに参加するとこだったよ。おそろしやー。負け戦とか参加したくないわー。
《ピンポンパンポン》
《皆様、お疲れ様でございます。皆様の歓迎セレモニー「50の魔物」、最後の一体をただ今喜藤様が倒されました。これにて、セレモニーを終了致します。》
ん。
お兄さんが現れた魔物の最後のを倒すのと同時に放送が聞こえた。これ、何処かから放送が流されているようだけど…どこからだろう?
それに…歓迎セレモニー、ね。皆様ってのも気になる。他にも人がいるのかな?いるんだろうなぁ。
「皆さま、はじめまして。」
ん?これは放送の声だ。じゃあ、この人は何かを知っている。私達をここに連れてきた犯人のはず。
姿は見えないけど、私達のすぐ近くにいるはずだね?
何を考え、何をしようとしているか。何者なのかも一切分からない。そんな相手。魔物以上に厄介かもしれない。
気は抜けない。お兄さんは若干楽観なとこがあって自由人みたいだし、村くんやカナちゃんは守ってあげたくなる感じ。
うん、このメンバーなら私がしっかりしなきゃ!
放送の声の主はどこだと辺りを見渡していると、近くの木の陰からスッと声の主は姿を現した。
現れたのはウサギのお面を付け燕尾服を纏った変質者だった。
燕尾服にウサギて。何でお面なんか付けているのかな。どっからどうみても変態と言うことしか分かりません。分かるわけがない。
筋肉質な身体に燕尾服を纏い、スッと背筋を伸ばして立つ姿はキリッとしている。強い。それは立ち振る舞いから分かる。
だけど?
ウサギのお面を付けてるんだよね。ウサギさん。やっぱり変態だよね、あれ。
「私、第6期生担当ウサと申します。」
変態野郎は恭しく頭を下げると言う。まるで執事のような動き。動き自体は洗練されたもの。なんだけどねぇ…ウサギのお面が不気味。不気味すぎる。
あのお面は声を変える機能もあるみたい。不快で不自然な声にイラッとくる。顔面をお面ごと殴りたくなるから不思議。
変態野郎の登場にカナちゃんがおびえ、私にしがみついてきた。ムラくんは何を考えているのか、ジッと変態をみつめている。
やばいかも。足手まといであろうムラくんやカナちゃんがいる中で、こんな変態に出会うなんて。
お兄さんは睨みつけるように変態を見ると番傘を構えている。
絶賛、戦闘体制継続中。
ちなみにお兄さんが1番前にいて、その斜め後ろに私。ムラくんやカナちゃんがその後ろにいる。それに対面する形で変態がいる。
ん〜…いろんな場に行って、いろんな敵を見たから分かるんだけど。この変態にこのメンバーは勝てない。ムラくんやカナちゃんがいるんだ。より一層、状況が悪い。
本当、厄介なことに。
あの変態はお兄さん達に比べると、馬鹿みたいに強い。
あんな見た目なのに戦闘能力が高い。
このメンバーでアイツを倒して、かつ、みんなが無事でいるっていうのは難しいな。私1人なら良いけど、ムラ君やカナちゃんがいるからなぁ。
「"チビ"」
「ゔーーーーッ!!!」
とりあえず、武器を召喚した。私の武器であるチビ。ま、一言で言えば獣。出よう出ようと待機していた武器――いや、出ようとしていたのを止めていた武器、か。
私は武器はいくつか持っている。戦えないこともない。とはいえ、みんなを守りながらってのはキツイよね。守りきれるか分からない。
戦うのは得意だけど護衛とかはしたことないし。
「お前さん、桜花ちゃんの武器かィ?」
変態に向かって唸り声を上げるチビを見てお兄さんはチビに声をかけている。
変態がいるっていうのに、お兄さんは呑気だね。チビはチビでお兄さんなど無視しているけど。
変態からは一切の殺気がなく、私達を傷つける気配がないからこそなんだろうけど。
「うん、そう。ムラくん、カナちゃん?合図したら走って。」
お兄さんに短く答えるとムラくんやカナちゃんを振り返ることなく私は言った。
変態とお兄さん、私に私の武器が対峙し、その背後には村くんやカナちゃんがいる状況、継続中。逃げるしかない状況ですよー。
声をかけた村くんもカナちゃんも運動オンチだ。足があまり速くないからしっかり、足止めしないといけない。
「え。」
「これはこれは、志貴様。中々、気が短いようで。私、皆さまに危害を加えますつもりはございませんので、ご安心くださいませ。」
私の言葉にムラくんやカナちゃんは戸惑いを見せたのに対し、変態は動揺一つ見せず、胡散臭い言葉を口にする。
いやいや、安心なんてできないよね?安心しろってどこに安心する要素があるのか。
気がついたら知らない場所にいて、そこは立ち入り禁止地域で。魔物に襲われたと思ったら現れたのは変態のウサギ野郎でしたって警戒する情報しかない。
しかも、あの野朗、私の名前を呼びやがったよね、今。
「面ァ見えねぇ野郎の言い分なんざ、聞けねェなァ?面ァ見せるべきじゃあないのかィ?」
お兄さんは番傘を変態野郎へ向けている。
無表情の男が番傘を向けてきたならば、普通ならおびえるはず。番傘が有心武器だって見れば分かるわけだし。
私だってチビを出しているんだ。有心武器を持った2人に睨まれて平気でいられるはずがない。
そう、普通なら。
「嫌です。はずかちぃ。」
変態って普通には含まれないみたい。お面に両手を添えると体をクネクネとさせながら、その人は言う。よほど腕に自信があるのかね。
明らかに馬鹿にしているだろう雰囲気にお兄さんもだが、私だってイラっとくる。今すぐ殴りたいって思っちゃうよね。
ウサギのお面なんだけど、何かむかつくデザインだって言うのも苛立ちを強める要因になっている。
全体的にピンクでちょこんと2つ小さめの耳がついている。何かムカつくようなウサギのデザインなんだよね。片目を閉じ、ウインクした状態で舌を出しているような表情のもの。おちょくっているのかというような仮面だ。
人を馬鹿にしたようにウインクしてるウサギってそれだけでなんか…ウザイ。
仮面の背後に見える短く切られた黒髪を掴んで、仮面を剥ぎ取りたい。
「あん?」
「…援護する。」
殺気立つお兄さんに声をかけ、術式を発動せんがため、準備を整えた。
チビもすぐに奴を襲えるように構えている。牙を剥き出しにし、射るように奴を睨みつけている。爪はすでに地面を抉っている。
「やや…私、ピンチのようですね。6期生の方々は短気の様子。」
構える私達を見ても変態は落ち着いた様子で私達を見ている。そこがまた、腹立たしい。
本気で襲われてもどうにでもなるってことかな?調子こきやがって。チビや私に敵うと思っているならば、とんだ馬鹿だ。
6期生、ね。方々って他にも誰やらいそうな言い方だ。私達だけじゃないのかもしれない。
他に人に会えなかったけど、もしかしたら、同じような人が辺りにいるのかも。
「6期生って何ですか?先程もウサさん、言ってましたよね?」
シュッと手を上げて声をあげる者がいた。
私たち2人が殺気立つ中、一切の殺気を感じられない、というより、悪意の一切ない純粋な声。
声の主はムラくん。君は空気が読めないのかも?よく、この状況で発言ができるよね。ある意味、大物かもしれない。
まぁ気になるとこではあるから聞いてくれてありがたいかな。素直に変態が答えるかは分からないけど。
「村山様、良い質問ですね!6期生というのはあなた方のことです。ここはワクワク学園、あなた方はその6期生に選ばれたのでございます!ご入園、おめでとうございまーす!!」
変態はどこからか、クラッカーを取り出し、ハイテンションで騒ぐ。クルクル回転する横腹を蹴り上げたくてたまらないってくらいムカつくけど。
ワクワク学園?聞いたことがない。なんだ、そのふざけた名前は。
つか、ワクワク学園っていう聞いたこともない学園の6期生に選ばれた?一体、どういうこと?
「単刀直入に申し上げましょう。あなた方にはここ、ワクワク学園にて生活していただきます。こちらは高校でございますゆえ、普通に授業もございます。――ただし。普通の学園と違います点もございます。」
ただし。その変態の言葉にピキッと空気が凍った。変態の雰囲気が一変した。背筋がゾッとするような雰囲気を変態は醸し出す。
馬鹿みたいなお面をつけた見た目だっていうのに妙な威圧感がある。ふざけたことに、あの格好で威圧感を出している。
「戦闘という科目が我が校には存在しまして。あなた方の戦闘能力を鍛えます。また、特別授業が不定期にございます。こちらでも、魔物と戦うための実践能力を鍛えさせていただきます。特別授業と申しましても、このたびのようなイベントのようなもの。ゆるりとお楽しみいただければ、と。」
大した内容はない。
だというのに、存在する威圧感。
戦闘力を鍛える、特別授業がある…何を企んでいるのか変態の意図が全く読み取れない。
嫌な予感しかしないのは、この変態さんのせいだよなぁ。
「ではでは、皆さま。これからよろしくお願いいたします。能力向上を目指して死ぬ気で日々をお過ごしくださいませ。」
今一度、恭しく頭を下げる変態。
――ぁあ、やはり殴りたくてたまらない。
だが、殴って変態を倒すだけでは無意味かな。ここには他にも何かがいる。あちこちに気配がある。
この変態を倒すだけでも簡単ではない。ここがどこかもわからない。付き纏っていた気配はおそらく、変態野郎の仲間なんだろうし。
奴に危害を加える気がないなら今は従ったほうがいいのかな。本当、不本意でしかないけど。




