41.眠れない夜もあります③
◇◇◇side喜藤◇◇◇
夜中にふっと目覚めてしまった。
中途覚醒の原因として、高齢となったことか、ストレスが半端ないか、あるいは酒によって眠りが浅くなったかなどが挙げられる。
いずれにしても、魁斗にはあまり縁がないわけなんだが。
此度、目が覚めたのだって何の理由もない。たまたまとしか言いようがなかった。
ふと目覚めて、目が冴えてしまって。そこから何となく眠れなくて。
ごくごくたまにあるそれが、今この時魁斗には起きていただけの事。
なんとなく、魁斗は部屋を出た。そんな矢先のことだった。
ふと外を見れば、最近時間を共にすることが多くなった少女がいた。いや、共にするというか、そばにいまくっているというか。
少女というには大人びているし、かといって大人にはなりきれておらず、時折突拍子もない事をやってのける。そんな少女。
ひそかに、いや、潜んではいないか。堂々と、それはそれは大っぴらに、分かりやすいくらいに懸想している相手。にも関わらず、あまりにも思いが伝わっていない。そんな少女。
ふと見た先。夜遅くに月明かりしかない薄暗い中庭にその少女はいた。綺麗な少女。薄暗い中にいても存在感を誇る少女。幼い女神が立っているかのように思えた。
いや、まぁ、少女っていうのは桜花なわけなんだが。見慣れた桜花なわけだが。
桜花はなぜだか、真夜中に中庭にいて、そばにはいつも通りチビが控えていた。
大きさを器用に変えては普段から桜花のそばにひかえている獣の姿を形取った桜花の武器。今は大型犬くらいのサイズとなって桜花のそばにいた。
それはいつも通り。いつもの話だ。逆にチビが桜花のそばにいないことの方が少ない。
大抵の場合は使用しない間は武器はしまっておくが、チビはしまわれることを拒否する。その上、普通ならばあり得ないが、チビは喚ばずとも、勝手に召喚され、そばに控えるという。
名を呼び、姿を現し手を貸してくれと示し喚ばねば来ない。普通ならば自らは来ない。あらわれないように働きかけない限りは召喚されようとする武器など聞いたことがない。
実際、桜花の他の武器も、ワクワク学園にいる者達の武器も、喚ばない限りはあらわれていない。
ある意味、厄介な、扱いにくいというか、面倒な武器ではある。有能だが、面倒だ。可能な限り、そばにいようとする。強い意志を持っている。一応優秀な武器ではあるが。
そんな武器がそばに控えているのは気にならない。いつも通りの事だ。いないほうが違和感があるくらいだ。
だが、もう1人そばにいる人物は気に入らない。
なぜ、夜遅くにアイツと一緒にいるのか。チビもチビだ。即座に威嚇して追い払えよ。そう思わざるを得なかった。ついついそう思ってしまった。
気に食わないが、桜花がアイツに攻撃を仕掛ける事はあっても、チビはそうしない。アイツに攻撃も威嚇もせず、桜花に近づくのを許す。実に気に食わない。
魔物であれば迷わず威嚇し攻撃態勢となるのにあいつにはそれをしない。まるで、仲間だと、攻撃対象ではないと認識しているように。いや、認識しているからこそ桜花からの合図がない限りは攻撃をしないのだろう。
本当に気に入らない。
魁斗はすぐに中庭に向かった。
◇◇◇
魁斗が中庭についたころには桜花のそばには例のアイツはおらず、桜花とチビだけだった。
キョロキョロ見渡すが桜花とチビしか見当たらない。2人以外誰もいない。
月明かり以外の光のない中、桜花は立っていた。チビは近くで寝転がり、桜花を見ていた。心なしか心配そうに見つめているように見え、魁斗は何かあったのかと桜花に視線を向けた。
桜花は扇子を開いて舞っていた。扇子を使用し、優雅に舞いを舞っていた。
桜花が持つのは立派な親骨が目立つ扇子だ。紙も生地も使わず、細かい細工が施された扇骨のみで形成された扇子。
親骨は銀色で、それぞれ龍が彫られていた。今にも動き出しそうなほどに細かくリアルな造りで存在感があった。
親骨以外は水色がかったというか、白がかったというか。雪を思い浮かばせるような銀色である。
全体的にシンプルな作りだが、一つ一つに細かく氷をイメージした透かし彫りが施されており、派手さは無くとも上品なものであり、芸術的な美しさがあった。
扇子の先は爪のような形をしており、扇子を広げると龍の手を想像させる迫力がある。中々の殺傷力を持ちそうだ。扇子であるというのに。だが、そんな迫力でさえもその扇子の魅力であるように感じられる不思議な扇子であった。
それは桜花が持つからかなのか、扇子そのものの魅力か。それは定かではない。
そんな扇子を広げ、桜花は舞っていた。
戦うでは無く舞う。
「………………すげぇ。」
ついつい、つぶやいてしまうほどに美しく感じ、圧倒され、見惚れてしまっていた。
だから。
いや、それを理由にするまでもなく、奴は気づかずに横にいただろう。
それまでに実力差はある。
奴と張り合えるとしたら、それこそ、桜花や桜花の武器達だけ。
そんなことはわかっている。同じ舞台に乗ることすら出来ないくらいには実力は不足している。そんなことは痛いくらいに痛感している。
とはいえ。
実力は至っていなくともプライドはある。
素直には認めたくはない。認めてしまっては次の一歩が踏み出せなくなる。そんな気がするからこそ、気づかないふりをして今は桜花に見惚れた事を理由としてみる。
まぁ、つまり何があったかというと。
横に気に食わない奴がいた。知らぬ間に。すぐそばに気がついたらいた。気づかないうちに奴はいた。
奴は魁斗のすぐ横まで来ており、魁斗にとって何より気に食わないのは声をかけられるまで存在に気付けなかったことだ。
あぁ、気に入らない。電車で降りる者たちより先に入ろうとするジジイのように気に入らない。地味にイラッと来る。マジ気に食わない。周り見ろってんだ。
「綺麗にございましょう?」
共に鑑賞していた。
そう思わすほどに自然に奴は魁斗に声をかけてきた。
魁斗は全身をびくつかせ、目を大きく見開き、身構え、飛び退き、奴の姿を確認した。
例のやつはそんな魁斗の様子など一切気にする様子もなく、桜花を見ていた。そんな姿がますますどうして憎たらしくてならない。
「志貴様の戦う姿はご覧になられたことはありますか?」
静かに変態野郎ことウサは魁斗に問うてきた。
なんとも憎々しいのは、ありますかと問いかけつつも"ないだろ?"と暗に告げてきていることだ。
自分の方が志貴桜花を知っている。理解している。
そう言っているような態度が殴りたくてたまらない。出来るならばボッコボコに殴ってしまいたい。それだけの実力を得てやる。
「ちひろってやつと一緒に戦ってる姿くらいは見たことがあらぁ。」
答える義理はない。一々リアクションをした方が奴を喜ばすため、リアクションなどしない方が得策だ。
だというのに。
意地があったからか。ついつい魁斗は答えてしまっていた。
答えたのちに答えた事を後悔してしまうわけだが。すぐに後悔してしまうわけだが。それでも答えてしまった。
「………ちひろくんを…なるほど、そうにございましたか。命の危機を彼らに助けられ、懸想しているのにございますか?」
魁斗の回答にびっくりした様子であるが、すぐに調子を取り戻したウサ。
ずけずけと無遠慮に問いかけを重ねてくる。
今度は魁斗も返答はせず、不快感を一切隠すことなく、ウサを睨みつけていた。
いや、不快感を前面に押し出し、親の仇を見るように鋭い眼光をウサに向けるのが魁斗のウサに対するデフォルメであるため、いつもと変わらないわけだが。
つまりは今度は反応を示さず、返事をせず、いつも通りに無言でウサを見たって事だ。
「それはそれは物語のような話にございますね。志貴様の優しさは悲劇のヒロインにとってはまるでヒーローのようでございましょう。惚れるのも分かります。」
不快そうに見られても、ウサは一切気にすることなく、語り続ける。魁斗のデフォルメに慣れてしまっているというのもあるかもしれないが、一切気にしない様子がいつもながらに不快で不快で。
魁斗からは舌打ちが漏れるが、ウサは当然のようにそれも無視する。そこもまた、いつも通りだったりする。
よく舌打ちされるというのは結構心に来そうな現象であるが、いつも通りであり、気にもしないというのはウサの変態性だろうか。図太さは計り知れない。
「志貴様はかつて行動を共にしていた仲間たちから見ても、抜きん出てすぐれていらっしゃる。まさに天賦の才能を持った方でございます。私から見ましても、優れており、頼りになり、憧れるほどの戦闘力をお持ちです。」
大袈裟に手を動かしながらウサは語り続けていた。
気に食わないながらも気になるような話をする。やはり、気に入らない。
さてさて。
魁斗のsideとなりました。
読んでいただき、ありがとうございます^_^




