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312.怖がりは大変です


「おけー。」


廃墟のそばって、なぜだか都市伝説的なノリの魔物がいたりするんだよね。


廃墟の不気味な雰囲気が良いのかなんなのか。


学校みたいな建物とかの中には学校の怪談を思わすような魔物がいたりする。


魔物のくせして空気を読んで発生したのか、あるいは人の空想が生み出したのか。定かではないんだけどね。


何でだか、怪談的な魔物がいるわけだよ。ふっしぎー。


別に特別強くない。対応の仕方はこれまた、意外なことに怪談と同じな奴が多い。


例えば、返事をしたら連れて行かれるとか、目を合わせたら連れて行かれるとか。返事をしない、目を合わせないっていう対応さえしたら襲われない。


無視し続けるのが1番楽な魔物だったりして。


はたして、マリやカナちゃんは知っているかなぁ。知らないかなぁ。


「どこから来たの?」


ふと、声が響いた。


弱々しい声。消え入りそうなほどに小さな女性のものと思われる声。


小さすぎて、マリやカナちゃんの耳には届かない。2人の話し声や木々が風に揺られる音、小動物がガサゴソ動く音なんかにかき消される。


気配も弱々しく、気づいてはもらえていないよう。哀れ哀れ。


あ、いや。気づかなくても問題ないものだから良いけど、マリとカナちゃんの2人は全く気づかないと言うのはちょい問題あるか。


「ねぇ。」


弱々しい声はなおも響く。気づいてもらえずとも、へこたれず、再度のアタックだ。そういう魔物だからね。


声をかける相手はマリやカナちゃん。


声かけが有効そうな相手の見極めがなぜだかうまく、私や筋肉だるま、にゃんこなんかは相手にせず、マリやカナちゃんの2人をロックオンしている。


「こっちは見向きもしないとか。桜花さんとしては寂しい。」


相手されてもうざいけども。


全く相手にされないのは、それはそれで寂しいのよね。むなしい。


「声かけられても相手しねぇだろ。……相手すんなよ?」


ふんっと鼻で笑ったかと思うと、じとーっとこちらをいぶかしげに見てくる筋肉だるま。


私がわざと相手をして危ないことをするんじゃないかと疑っているらしい。


「はは。今日はしないよ。」


前に訓練だ、声かけてこいって師匠にやらされたけど、返事をした後の魔物はマジで強敵でした。


打撃も斬撃も術式も、全然効果がなくて。のわりに、向こうの攻撃力が半端なくて。


師匠ら、鬼だと嘆いたんだよなぁ。


さすがに今日は声かけに応じ時は無い。気が乗った時にまたやろうと思わなくもないけどね。


「今日"は"?」


ギロリと睨んでくるにゃんこ。危ないことをするなと目が強く訴えかけてきている。変なところで勘が良いんだから。


個人でここまで来て、誰にも迷惑かけずに相手する分にはいいじゃんかぁ。それは私の勝手だし。


そばに師匠とかがいたならばやらされる可能性はあるし。


「あんまり騒ぐとマリ達の邪魔になっちゃうよん。」


とりあえず、話はそらしとこ。


「…全く。」


にゃんこはぷんすか怒りながらも視線をマリやカナちゃんにもどした。


よし。話は流れたね!


「ねぇ。」


お。


やっとカナちゃんが気づいた。


すぐそば、距離2メートルくらいまで近づいて、何度目かの声掛けでやっとだ。


声の主を見て、カナちゃんが一瞬、固まった。とはいえ、固まったのは一瞬で、カナちゃんは何とか平静を装いつつ、目を逸らすことに成功。


「ねぇ、どこから来たの?」


不気味に響く声にカナちゃんは顔色を悪くする。


それに気づいたマリが不思議そうに頭を傾げた。まだ気づかないらしい。鈍感なんだからぁっ!


鈍感なマリにカナちゃんは目配せして、魔物の存在を知らせる。……知らせたらうるさくなりそうだけど、知らせていいんかな。


いや、まぁ。


近くに魔物がいたら、知らせるのが普通か。


気づかないなら気づかないで気付かないままで良い魔物ではあるんだけどね。あれは返事さえしなければ害とならないそこにいるだけのものだから。


「どこに行くの?」


問いかけが響く。目を合わせず、聞こえる声に何のリアクションもしていないというのに、ソレはそばから離れていく様子はない。


ずり。ずり。


何かを引きずる音が響く。いや、引きずる音ではなく、まとわりつくようにして歩く音。より目の合わせやすい場所に移動した音だ。


「どこからきたの?」


問いかけは続く。


背筋が凍りつきそうになる恨めしそうな声。長い黒髪からのぞく目はじぃーっと問いかける相手を見ているけど、その視線は絡みつくようなねっとり感がある。


全身を覆うマントのような重々しい服は不気味さを増すのに十分な仕事をしている。


「ねぇ、どこに行くの?」


ターゲットとしてロックオンされたマリは腕に手を置かれ、覗き込むように顔を見られている。


完全無視して、目も合わせないように努めてはいるけど、中々辛そう。今にも泣きだしますって顔してる。


チビが大騒ぎして、あたりの魔物はそっちに行ったというのに、この魔物は騒ぎの方向には行かなかったんだねぇ。


それはマリにとって、災難だね。間違いなく。


気付かなきゃ良かったって顔だ。涙目になりながら、こちらを見られても困る。無視して進むのがいちばん楽よ。


返事さえしなければ雑魚だから倒すのは容易いけど、死ぬと周りの似たような魔物を引き寄せるからウザイことこの上ない。


無視が1番。


が、それが難しいマリ。ほんと、災難としか言えない。


おびえやら何やらを読み取った魔物はさらにマリにまとわりつくように動いて話しかけ続けているし。あわれあわれ。


怖いもの好きな子ってたまにいるけど、マリは残念ながら、怖いものが苦手なんだよね。


好きだったら、多少何とか我慢できたかもしれないけれど、本当ドンマイすぎるよね。


「かかかかかかかなちゃ…!」


「マリさん!マリさん、おち、つい…てくだッ!地図の通りなら近いです!前を向いて行きましょう!」


カナちゃんももうちょい落ち着いた方がいい。声が裏返ってるし、声量も半端ない。


心霊的な何かではなく、ただの魔物なんだから無視でいいのわけなんだから。ま、そう割り切れないのが現実だけど。


「そそそうね!!!」


マリ、カナちゃん以上にパニック。


まぁ返事したり相手にしてないから対処法は分かってるだろうし、良いか。


うっかり返事しそうなのがやばいけど。


お化け屋敷とかで、冷静になる方法の1つとして、自分よりパニックになる人間をそばに置くなんて言う方法があるって聞くけれど。


それって間違いではないんだなぁと、マリやカナちゃんを見てて思う。


マリのパニック状態を見て、カナちゃんがやや冷静になったように見える。いや、むしろ自分がしっかりしなきゃいけないと気合が入ったように見える。


マリの手をしっかり握り、カナちゃんは歩を進める。大丈夫ですよっと無理矢理笑顔を作って、マリを安心させようとする姿が何ともいじらしい。


「あ、チビが帰ってくる。……筋肉だるまぁ〜。ちょい、離れて良い?」


このまま2人を見ていたい気もするけど、チビは私の武器だからね。


私が対応しなきゃだ。


「どうした?」


「チビが汚い。」


「…………早く戻れよ。」


呆れてますって言うのがすごく伝わってくる。うんうん、呆れちゃう気持ちは大いに分かるよ。


はしゃぎすぎちゃったチビが魔物の血で汚れたのは……想定内と言えば想定内だけども。


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